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「腕に自信あり!」のビジネスパーソンが、独立して
「ドクターX」大門未知子ばりに勝ち続ける秘密とは (座談会)

政府の働き方改革で、企業のあり方にも個人の働き方にも変革がもとめられている。その中で、注目したい働き方がある。それは、「私、失敗しないので」の決め台詞が大ヒットした人気ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の大門医師的働き方だ。

こう書くと、少々荒唐無稽な感じもするが、どこの病院にも所属せず、自らの高いスキルをひっさげ、各病院を渡り歩く大門医師のような働き方が、実はビジネス界にもある。

日本ではまだなじみが薄いが、アメリカでは「インディペンデント・コントラクター(IC=独立業務請負人)と呼ばれている。高度な専門知識やスキルを生かし、複数の企業と業務単位の請負契約を結んで仕事を行う、いわば専門性の高いフリーランスのビジネスパーソンだ。会社形態を採用していても、基本的には人を雇わず、自らも雇われない。

企業にとっては、必要なスキルを必要なときに活用でき、大手のコンサルティング会社よりコストを抑えられるなどのメリットがある。個人にとっては、得意で好きな仕事で会社員時代より高額の報酬を得られる可能性があり、またワークライフバランスをとりやすい。しかし一方で、高いクオリティを保ち、顧客に飽きられない仕事を提供し続けることは簡単なことではない。

本稿では、NPO法人「インディペンデント・コントラクター協会(IC協会)」の創始者の秋山進氏、インディペンデント・コントラクターとして成功し、同協会の歴代理事長をつとめる田代英治氏と齊藤孝浩氏の三名に、どのように独立し、いかにビジネスの柱を打ち立ててきたか、また陳腐化しないためにどんなことを心掛けているかなどについて、語っていただいた。

すでに独立している人はもちろん、独立を考えている人、スキルを活かした新しい働き方を模索している人には、ぜひ参考にしていただきたい。

(司会進行:小林利恵子 (株)オプンラボ代表取締役・IC協会常務理事)

左:田代英治氏、右:秋山進氏
撮影:「麹町アカデミア・遊学堂」 会場:ビジネスエアポート東京

リクルートで事業企画からリスクマネジメントのプロへ

―― まず、独立するまでの経緯と、独立後の仕事についてご紹介ください。

秋山進(以下、秋山) 私は大学を卒業後、リクルートに入社し、1987年から1998年までの11年間、事業企画にたずさわりました。独立後も企業の社長の補佐をしたり、経営企画や事業企画をつくるなど、リクルート時代と同じような仕事を続けてやらせていただいています。

このほかにもう一つ事業の柱があり、それが、コンプライアンスやリスクマネジメントの仕事です。こちらについては、もともとこんな仕事をやろうと思っていたわけではなく、まったくの偶然でした。

経営企画の仕事をしていたとき、知り合いの編集者から対談本の話がありまして、弁護士で企業経営法務の専門家である中島茂先生に、私が質問をし、世の中の人がコンプライアンスや企業法務のことをわかるような本をつくりたいという話でした。

二つ返事で引き受けたものの、考えてみたら、的を射ながら、誰もが知りたい内容をわかりやすく質問するというのは、えらい大変です。法律のことを猛勉強して、『社長! それは「法律」問題です―知らないではすまないビジネスのルール』という対談本を2002年に上梓しました。

この本がベストセラーになりまして、企業のコンプライアンスやリスクマネジメントの仕事のご依頼をいただくようになり、カネボウ化粧品の再建の際には、チーフ・コンプライアンス・オフィサーおよびチーフ・リスク・オフィサーとして、同社のコンプライアンスとリスクマネジメントの体制づくりと運用を行いました。

リスクマネジメントの仕事は大変難しく、いまだに「こうすれば正解」という答えがみつかっていません。おかげでずっと楽しんやっています。

大手海運会社で社労士取得し、人事労務顧問に

田代英治(以下、田代) 私のキャリアストーリーは、いたってシンプルです。もとは、大手海運会社におりました。入社したのは1985年です。当時は、ゆくゆくは海外駐在になり、海運の仕事をやりとげたいと夢を描いていました。

でも、日本の会社ではいろいろな部署に異動しなければいけません。最初、営業に入り、1993年には人事部に異動になって、キャリアが大きくかわりました。はじめのうちは嫌でしかたなかったのですが、やっているうちに楽しくなってきて、社会保険労務士の資格もとりました。

ただ、2000年を過ぎたころから、このまま、会社に言われて異動を続ける会社員人生でいいのだろうかと考えるようになりました。思い切って、上司に独立の相談をしたところ、「してもいいけど、うちの会社の面倒もみてくれよ」と言っていただいて、2005年に独立したあとも、業務委託契約という形でつながることができました。

当時はもとの会社以外にクライアントはありませんでしたから、非常にありがたかったです。あれから12年たち、この会社の仕事は、売り上げの1割くらいになっていますが、ずっと業務委託契約は続いています。

現在、事業の一番大きな柱は、人事労務顧問で、2番目は、人事制度や教育体系の見直しなどの人事コンサルティングです。その他に、研修講師として社員のトレーニングやセミナーをしたりしています。

また、2016年に少し大きな変化がありました。これまでずっと、社員を雇わず、一人でやってきたのですが、ひょんなことから、もとクライアント先の人事部長さんに、私の会社で働いていただくことになったんです。

この方がすごい方で、今は会社にかなり貢献していただいています。でも、もともと、人をたくさん雇って会社を大きくしようというつもりはありません。基本的には一人でやりながら、今後は多少、自分の助けになる人を雇ってもいいかなという風に考えています。

アパレル業界で武者修行からファッション流通の経営企画コンサルへ

齊藤孝浩(以下、齊藤) 私は、ファッション流通のコンサルタントをしています。お二人とは違って、独立するまでの16年間に、4つの会社で働いてきました。最初は総合商社に入社し、アパレル部門に配属されたことで、ファッション業界とのつきあいが始まりました。

この会社には10年間在籍しました。その間、2年ほどはヨーロッパのブランドの日本法人を立ちあげるプロジェクトがあり、そちらに出向して立ち上げの仕事をしたこともあります。その後、同じ部署に戻ったのですが、アメリカで働きたくて、退職しました。

それで、1年間ほど、カリフォルニア州サンディエゴで、ファッショングッズの仕入れにくる世界中のバイヤーをトレードショーでアテンドし、買い付けた商品をまとめて出荷するという仕事をしていました。アメリカ人オーナーの会社で、日本人は私一人という環境でした。

そのとき知り合った日本の中堅アパレルチェーンのオーナーさんから声をかけていただき、帰国後はそこで5年ほど小売りチェーンの仕事をやらせていただきました。ここでは、バイヤーから経営企画室長まで経験しました。

というように、同じアパレル業界なんですが、産業の川上から川下まで経験しています。仕事をする上で、原体験というのはすごく大事だと思っています。つまり、モチベーションとなるいろいろな経験を重ねるということです。僕の場合、事業の立ち上げの経験や、過剰在庫に非常に苦労し、怒られながら、乗り越えてきたという経験があります。

こうした原体験をもとに、2004年に会社を立ち上げました。主な業務は、新興のアパレル企業の経営企画支援、在庫コントロールのプラットフォーム制作のほか、人材育成をテーマにした仕事もしています。

独立して2年目に、営業活動の一環として、ブログを始めました。注目されるテーマは、だいたい3年ごとにかわっていくので、「次にこれが来るな」というテーマを見つけて研究するんです。そして、それに関連したキーワードに特化してブログ記事を書くということをずっと心掛けています。

そうすると、そのテーマが注目されるころには専門家になっていて、メディアから取材がきたり、講演や原稿依頼が入ります。それらを受けていくと、「あの人は××の専門家だ」と注目され、あとから仕事がついてくるということがよくありました。

例えば、ファストファッションを中心に、成功企業の事業モデルのベンチマークもしていました。これを『ユニクロ対ZARA』という本にまとめ、出版したところ、ありがたいことにベストセラーになり、大手企業からの案件がよく来るようになりました。この本は中国で翻訳本が出版され、中国からの研修案件も始まっています。

インディペンデント・コントラクターという働き方

―― みなさんは、インディペンデント・コントラクターとしてご活躍されてきました。いわゆる「フリーランス」とはどのように異なるのでしょうか。

秋山 フリーの働き方は、総称して「フリーランス」と言われていますが、いろいろな形態があります。わかりやすくするために、下図のように5つ分類しました。縦軸はお客様との接点の幅、横軸はクライアントとの力関係です。

ダイヤモンドオンライン 組織の病気 秋山進 から引用

一番イメージしやすいのは左下の「フリーランス的」でしょう。「こんな記事を書いて欲しい」という依頼があり、それにライターさんが書いて提出するという「点」でつながる働き方です。

これに対し、もう少し多面的に、顧客との関係が生まれる働き方が左上の「派遣的」です。この際に、顧客から見て、その人でなければないという強い期待感があれば、表の右側に移動しますが、人手ニーズのようなものであれば左側にシフトし、単価も低いものになりがちです。

次に右側を見ると、例えば「コストダウンのプロで、クライアントのコストを3カ月で10%ダウンする」といった働き方を「コンサルタント的」と称しています。また、特定のテーマに限らず、経営者や人事部長などの相談役を務めるという働き方が、右上の「顧問的」です。

さらに、中央の「請負的」というのは、「人事部長の代行をする」「採用課長をやる」というように、社内のあるファンクションの一部を、社員に代わって請け負うという働き方です。

一般に「フリー」といった場合、だいたいこの5つのいずれかの働き方だけをしているか、顧問が何割、コンサルが何割というように、複合的な形で働いているのではないでしょうか。このうち、一般的には、インディペンデント・コントラクターというのは、社員を雇わず、「顧問的」「コンサル的」あるいは「請負的」な仕事をしている人という考えです。

時代遅れにならないための仕事の受け方

―― お三方はそれぞれ、どういう割合で仕事をしていますか

秋山 私は請負をたくさんしようと、すごく意識しています。社名には、「コンサルティング」とつけていますが、実はコンサルが嫌いなんです(笑)。人に言ってやってもらうより、自分が中に巻き込まれてやっていくほうが楽しいですから。

それに、顧問やコンサルのほうが時間あたりの単価はよいのですが、力は落ちがちです。なぜかというと、その領域ですでに実績があるので、頼まれることが多いからです。そればかりやっていると、脳みそに汗をかくような仕事をする機会が減って、気が付くと時代遅れになっています。

ですから私は、力のある会社の中に入り、業務の一部を代行するような請負の仕事の割合を、あえて高めるようにしています。

齊藤 僕はコンサルが主な業務です。いろいろ調べて、レポーティングしてアドバイスするというパターンと、定例ミーティングに入って一緒に数字を分析したり、プランをたてたりするというパターンがありますが、実行はしません。

でも、秋山さんもおっしゃっているように、ある程度、実務で手も動かさないと時代から取り残されてしまいます。それで、経営企画業務の代行を請負い、会社のデータを全て自分で精査し、予算を組むところまでやっています。そうすることで、業界で日々、何が起こっているかが非常によくわかります。ただ、仕事のボリュームが大きいので、そう何社もできません。

田代 私は顧問6割、コンサル4割なので、秋山さんの話を聞いて、やばいなと思いました(笑)。けれど、私のやっているコンサルというのは、お客様の中にかなり入りこんできめ細かく対応しています。ひょっとしたら請負じゃないかなと、今、思ったりもしました(笑)。

もともと顧問が一番多く、人事部長の右腕みたいな感じで、いろいろな相談を受ける仕事をしています。顧問は、定期的に顧問料を頂戴できるので、安心して仕事を続けられるという面があり、ありがたいです。でも、やはり私も、請負的なコンサルの仕事の比率を、意識的に4割くらいに上げています。

人脈も専門性も陳腐化する、その防止策とは

―― 新しいことを取り入れていくうえで、特に意識していることはありますか?

齊藤 秋山さんがよく言われていますが、人脈も専門性も陳腐化します。僕は、そのサイクルは3年だと思っています。ですから、自分の専門性の土台の上に、新しいものを積み上げていかなければ、自分も飽きるし、お客さんにも飽きられ、時代も変わるということを、肝に銘じています。

具体的には、さきほど申し上げたように、3年後に来そうなテーマを早めに見つけ、自分の専門性とからめて、ブログを書いていくということを続けています。メディアは新しいものをすぐに取り上げますから、面白いキーワードが出てきたなと思ったら、その記事をスクラップしたり、ネットで調べたり、海外の資料を読んだりして、ブログにまとめるのです。

このとき、「そのテーマが注目されるころには、グーグル検索でトップになる」というくらいの気持ちでやっています。実際、「ファストファッション」や「オムニチャネル・リテイリング」というキーワードが注目されたころ、グーグルで検索すると僕のブログがトップに表示されていました。

ドラッカーの言葉に、「何によって憶えられたいか」というものがあります。非常に大事な言葉だと思います。つまり3年後に、何の専門家になっていたいのか、どんな仕事をしていたのか、何によって自分はキーワード化されたいのかということを、意識して取り組むようにしています。

田代 私の分野は、今、政府の働き方改革によって、非常に追い風が吹いています。ですから、関連の勉強会やセミナーには参加して、情報収集をしたり、人脈を作るということは、日ごろからしています。

でもこれは受け身の話です。自分が学びたいことを、自分の塾でやりたいと考えて、去年、「田代英治の人事労務塾(田代塾)」を立ち上げました。そこでは、他の勉強会でやっていないようなテーマをとりあげようと考えています。

その一つとして、昨年12月に「LGBT」という性的マイノリティの方々に対する人事労務管理をテーマに、自身もLGBTである講師の方を招いて勉強会を開きました。すると新しい展開があり、自分自身が勉強になっただけでなく、講師と参加者の間や参加者同士のコラボレーションなども生まれました。思いがけない効果を実感できました。

今後は、介護離職防止の問題など、まだ水面下にあって、今後、話題になりそうなテーマを、取り上げていこうと考えています。

秋山 私の場合、リスクマネジメントには、地政学リスクや為替リスク、労務系のコンプライアンスリスクなど、あらゆる問題がかかわってきます。また、その知識や情報はどんどんかわっていきます。

そのうえ、規模も業種業態も異なる企業の仕事をたくさんやっていますから、それぞれの会社ごとに、今後5年間、10年間で起こりそうなことをピックアップし、優先順位をつけて、知識や情報のブラッシュアップを日々、やり続けています。

分野は多岐にわたっていて、テーマを絞るということがなかなかできません。最近は特に、技術革新と地政学について、もう少し知見のレベルをあげなくてはと、がんばっているところですが、いつも必死です。

顧客に飽きられない秘訣

―― 仕事の幅を広げるために、次に、こういうところを仕掛けていこうといったことはありますか?

田代 意識して仕掛けようということはなく、やはりお客様のニーズに応じて、サービスを提供しています。ただ、仕事をしていると、だんだん得意な業界とそうでもない業界がわかれてきます。

今、ホテル旅館業界の人事制度や労務管理をやっていて、この分野の依頼がどんどん来ています。得意な業界を一つつくり、専門家として認められると、そこから仕事が広がっていくと感じています。

また、一度、ご依頼いただくと、長く続くケースが多いのですが、それには、やはり、期待以上のものを出していくことが重要ではないでしょうか。

秋山 私も10年以上になるところがけっこうあります。それは、私がお客様に惚れられているから(笑)……ではなくて、請負の仕事をしているところが多いからでしょう。企業内の機能の一部を代行しているので、そう簡単に変えられないということがあると思います。

―― そうした会社と、最初はどのような形で接点を持ちましたか?

秋山 幸せなことに、友人がいろいろな業界にまたがっていて、そこからの紹介というのはあります。でもそれより多いのは、一度、お仕事を受けた会社の役員の方が、ヘッドハントされて別の会社に移り、またご依頼いただくというケースです。

さらにそこで一生懸命やっていると、仲間になった方からも呼んでいただくという感じで、好循環ができているかなという気はしています。

―― 齊藤さんはいかがでしょうか?

齊藤 私は業界特化型で、なおかつ成長ステージをしぼり、年商30億の企業を年商100億にするためのコンサルティングをするということをコンセプトにしています。ですから自力で30億くらいまであがってきた企業が、その先を突き抜けるために必要なプラットフォームや仕組みにフォーカスし、ここに一番強みがあるということをアピールしています。

これは、業界でオンリーワンなんです。ただ、そう宣言しているだけあって、3年くらいたつと卒業していかれます。つまり、ある程度、規模が大きくなってくると、大手企業から中途採用の人材が入ってきて、次のステージを目指します。僕はそれでいいと思っています。そうしたらまた、次の30億円規模の成長企業と組むということを繰り返しています。

ただ、そのためには常にアンテナも張っています。業界紙などで、売り上げが徐々にあがってきた会社の情報を集め、リスト化しておきます。店舗も見にいってリサーチをし、実際にお会いするころには、「うちのこと、なんでそんなに知っているの?」と思われるくらいの状態にしておくことを心掛けているんです。

でも、雨後の筍のように、どんどん新しい企業が成長してくるというものではありません。今は、ファッション流通業界もなかなか厳しく、以前よりは数が少なくなっています。

そこで最近は、領域を広げて、大手からの比較的短期のプロジェクトや、研修の仕事なども受けています。それも、あまり固執するのではなく、いままでやってきた仕事の集大成として体系化し、パッケージ化したら、どんどん手を離れるようにしていきたいと考えています。

雇わない、雇われない働き方ならではの危機をどう乗り切るか

―― みなさん、順調でいらっしゃると思うのですが、これまで波はありましたか?

秋山 私は仕事を受けすぎちゃった、ということがありますね。あと、自分としては、時期をずらして仕事を入れたはずが、よくある話で3カ月ずれました、とか。それでスタートが重なって、仕事していない時間は寝ている時だけみたいなアブナイ日々が、3カ月くらい続いたこともありました。仕事の繁期をコントロールするのは難しいので、その部分が一番の悩みですね。

田代 私もまったく同じで、今がまさにその状態です。いつになったら、この暗闇から抜け出せるんだろうと思いながらやっています(笑)。

また、一度、売り上げが大きくダウンしたことがありました。3~4年前のことです。家族の病気が続き、仕事どころではなくなりました。最も大きな出来事は、5泊6日程度の長い研修の仕事が入っていたんですが、その前日ぐらいに娘が重い病気になり、手術をしなければならなくなったんです。

ここは娘の手術に立ちあうべきだろうと考え、仕事をキャンセルしました。いわゆるドタキャンだったので、かなり大きな額の損害賠償をお支払いすることになって、苦い経験です。

一人でやっていると、どうしても、自分ではコントロールできないところで、大きな影響を受けることがあります。なるべく事前にいろいろなことをシミュレーションして、お客様に迷惑をかけないようにしようと考えています。

齊藤 僕も、いつも冷や冷やしながらやっています。いろいろ手を打っていても、3年ごとにピークが来て、忙しい年の翌年はいつも売上が落ちます。それは、先ほどお話ししたようなリサーチの時間を十分にとれず、営業ができないからなのですが、わかってはいるものの、その周期からどうしても抜け出せません。

ただ、ヤバいと思ったときの行動は、だいたい心得てきました。新しいことを一つ始めるとか、忙しくてなかなか会えなかった人に会いにいくとか、そういうことをすると、次の展開につながっていきます。

―― みなさん、基本的にお一人でやられていますが、大きな仕事が入った場合、他の方とチームを組んで行うということはありますか。

齊藤 何度かやったことはあります。でも、僕は面倒くさがりなので、元締めにはならず、それぞれクライアントと直接、契約を結んでもらって、ミーティングは一緒にやるという形をとりました。でも、自分が元締めをして、誰かに任せておけるような仕事も取っていったほうが、安定につながるのではないかとも思っています。

秋山 私の場合は、専門分野の異なる人たちと普段からチームを組んで対応しています。というのも、リスクマネジメントの仕事では、メンタルヘルスや、非常時の事業継続計画BCP(ビジネス・コンティニュイティ・プラン)などの分野で、非常に高い専門性が必要となります。これは必ず必要な領域なので、最初から専門家にチームメンバーとして入ってもらっているんです。

独立したい人は何を意識すべきか

―― 今後、独立したい人は、仕事を継続していくうえでどんなことを意識したらよいでしょうか。

秋山 まずは、さきほど田代さんが話されたように、独立前の会社の仕事を一部継続して、最低限、食べていけるレベルの収入を得たうえで、新しいチャレンジをしていくことです。 多くの場合、独立しても、なかなかすぐには仕事が決まりません。だんだん自信を失って、安くて小さくて面倒な仕事を引き受けてしまうことになります。こうなると、忙しいわ、儲からないわで、大変つらい状況の悪循環が始まります。

もう一つ、一番注意すべきは陳腐化です。スキルの陳腐化、人脈の陳腐化、これは必ず起こります。いい会社にいて、自分は「できる」と思っていても、この「できる」というのは、あくまでも、ある特定の会社の、特定の考え方が、ある時点の世の中で、高く評価されているというだけです。時代が変われば、考え方ややり方も変わります。

また、自分は人脈が広いと思っていても、人はどんどん移動し引退しますから、気づいたら誰もいなくなっていた、ということになりかねません。

ですから、自分のスキルをあげていくこと、人脈をキープしていくこと、この2つをやるためには、実務バリバリの仕事を何パーセントかでも残しておき、その中で、最先端の技術と人脈を取り込んでいく必要があると思います。

田代 陳腐化しないという点では、私も、全然やったことない分野や業界からの依頼を、あえて受けるようにしています。また、居心地の悪い「アウェー」の状態で仕事をするようにしています。あとはどんなに忙しくても、月に3~4回は交流会などに行って、人脈を増やすことを心掛けています。

齊藤 僕の場合は、ブログで新しい話題を発信しはじめると、新しい人脈がどんどん集まってきます。そういう人たちと意見交換をしたり、これから勉強したい分野については、無料で勉強会を開き、参加者とノウハウやスキルを共有させていただいたくこともしています。

今後、目指すもの

―― 最後に、今後、どういう方向を目指したいと考えていますか。

田代 私はこれといったものはないんですけれど、生涯、現役でいきたいと思っています。独立したときは65歳くらいでリタイアしようかなと思ったんですが、今は90歳くらいまでやりたいなと。そのために身体を鍛え、精神的にも若くありたいですね。

齊藤 僕は、田代さんがおっしゃっていた塾に興味があります。利益目的というよりは、次世代につないでいくような塾をやってみたいと思っています。あとは、やはり生涯現役でしょうか。

秋山 私もずっと働くつもりにはなるでしょう。でもそれは、「働きたいから働く」ではないんです。私の根本的な興味は、自分が日々対峙している世界を、どのような世界であると認識し、いかに記述するかということです。

仕事という行為を通じて社会と関わっていると、世界が実はどうなっているかについての認識が湧いてきます。それは、世の中で支配的な見方とは違うことが多い。「ほんとうはこうなっているのに……」ということがたくさんあります。

自分としては、その違和感をもとに、自分が正しいと思うことを記述していきたいのです。仕事は、そのための材料集めであって、目的と手段が転倒しているところがあります。

リスクマネジメントの仕事も、「ディフェンダー的な守備よりも、攻撃と守備の両方に関わるミッドフィルダー的な守備戦術が本当のリスクマネジメントだ」と、勝手に思ってやっています(笑)。次は、リスクマネジメントの体系を作り直すのが自分の仕事かなと、そんなことを考えています。

―― 本日はありがとうございました。

※本稿は「麹町アカデミア・遊学堂」主催の講演『腕に自信あり!の職人肌の人が独立して成功「し続けられる」秘密~飽きられない・陳腐化に陥らないための「次のビジネスの柱を考える」』をもとに、「hontoビジネス書分析チーム」が執筆しました。(構成・編集:田中奈美)

【インディペンデント・コントラクターについて知る本】

フリーエージェント社会の到来 組織に雇われない新しい働き方

組織をうまく活用しつつ、同時に個人としての自由や成功を謳歌するフリーエージェント。全米を旅し、大勢のフリーエージェントとじかに会った著者が、生活や仕事、悩みや希望など、彼らの生の証言の数々を紹介する。【「TRC MARC」の商品解説】

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できる奴はICになる! フリーランス・ビジネスマン23人の働き方

ビジネスマンとして蓄積したスキルを活用して、複数の企業と対等な関係の下に、専門的な仕事を遂行する独立業務請負人=ICという働き方がある。23人のICを紹介し、ICとして成功するためのポイントを説く。【「TRC MARC」の商品解説】

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【座談会登壇者の著書紹介】

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社長が将来役員にしたい人 ビジネスセンスを磨く25の習慣

企業の社長補佐を事業の柱の一つとする秋山氏。その中で、だいたいどこの企業でも行ってきたのが、「将来、会社の社長になれそうな人を発見して育てる」という仕事でした。その経験をもとに、同書を上梓。「バカまじめに仕事をやる人が、実際には偉い! 」と語る秋山氏は、社長が役員にしたい人に必要なプロフィールをまとめ、そのような人物になるための「カギとなる習慣」を解説します。

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社長!それは「法律」問題です―知らないではすまないビジネスのルール

秋山氏がリスクマネジメントの仕事を受けるきっかけとなった1冊。独禁法から危機管理、コンプライアンスまで、ビジネス関連の法をテーマとした対談集(現在は古本のみ入手可)。

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人事・総務・経理マンの年収を3倍にする独立術 事務系職種の独立

「人事、総務、経理などの事務方がスキルを活かして独立するというのは、あまりない」と語る田代氏。海運会社の人事部で、「普通のサラリーマン」だった田代氏がどのように独立したのか、また、独立後はいかにスキルをいかし安定した収入を得るか、事務方サラリーマンの独立処世術をまとめました。

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ユニクロ対ZARA

3年後に注目されるであろうキーワードを独自に研究し、ブログで発信することで時代を先取りしてきた齊藤氏。その中の一つとして、ファストファッションを中心に、ベンチマークしていた成功企業の事業モデルをまとめました。同書がベストセラーになったことで、大手企業からの依頼も入るようになりました。

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プロフィール

 

秋山 進

プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役

リクルート入社後、事業企画に携わる。独立後、経営・組織コンサルタントとして、各種業界のトップ企業などのCEO補佐、事業構造改革などの業務に従事。現在は、経営リスク診断をベースに、組織設計、事業継続計画、コンプライアンス、サーベイ開発、エグゼクティブコーチング、人材育成などを提供するプリンシプル・コンサルティング・グループの代表を務める。主な著書は『社長が将来役員にしたい人 ビジネスセンスを磨く25の習慣』 、『「会社の悪口」は8割正しい コンサルタントが教えるダメな会社の困った病(SB新書)』、『「一体感」が会社を潰す~異質と一流を排除する〈子ども病〉の正体 (PHPビジネス新書)』など多数。
http://www.principlegr.com/

プロフィール

 

田代 英治

株式会社田代コンサルティング 代表取締役

1985年川崎汽船株式会社入社。入社後営業部配属。1993年に人事部へ異動。同部人事課において人事制度改革・教育体系の抜本的改革を推進。2005年同社を退職し、2006年株式会社田代コンサルティングを設立。人事労務分野に強く、独立後も引き続き川崎汽船株式会社の人事部の業務を請け負いつつ、各社の人事制度の構築・運用をはじめとして人材教育にも積極的に取り組んでいる。豊富な実務経験に基づき、講演、執筆活動の依頼も多く、日々東奔西走の毎日を送っている。主な著者に『【経営者新書】人事・総務・経理マンの年収を3倍にする独立術(幻冬舎)』、『人事部ガイド~はじめてでも分かる人事の取説(労働開発研究会)』。
http://www.tashiro-sr.com/

プロフィール

 

齊藤 孝浩

ディマンドワークス 代表

ファッション専門店の店頭在庫最適化コンサルタント。総合商社、欧州ブランド輸入卸、アパレル専門店にてグローバルなアパレル商品調達からローカルのチェーンストア運営まで実務経験し、在職中に在庫過多で苦労した実体験をもとにファッション専門店の在庫最適化のための独自ノウハウを体系化。ワンブランドで年商100億円を突破するためのしくみづくりと人財育成支援をテーマにファッション専門店の店頭在庫最適化や人材育成の支援に携わる。また、国内外のファッション流通を取り巻く環境を研究する業界ウォッチャーとして日経ビジネス、週刊ダイヤモンド、週刊東洋経済、日経MJ、ファッション販売、繊研新聞、WWDジャパンなどに多数の執筆やコメントを寄せ、明治大学や青山学院大学のファッションビジネス論にも登壇する。主な著書に、『ユニクロ対ZARA(日本経済新聞出版社)』、『人気店はバーゲンセールに頼らない~勝ち組ファッション企業の新常識(中央公論新社)』。
http://www.dwks.jp/

ライタープロフィール

 

hontoビジネス書分析チーム

本と電子書籍のハイブリッド書店「honto」による、注目の書籍を見つけるための分析チーム。

ビジネスパーソン向けの注目書籍を見つける本チームは、ビジネス書にとどまらず、社会課題、自然科学、人文科学、教養、スポーツ・芸術などの分野から、注目の書籍をご紹介します。

丸善・ジュンク堂も同グループであるため、この2書店の売れ筋(ランキング)から注目の書籍を見つけることも。小説などフィクションよりもノンフィクションを好むメンバーが揃っています。

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