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FinTechによって金融サービスはどう変わるのか?
(FinTech研究所長・瀧 俊雄氏 インタビュー前編)

金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた「FinTech(フィンテック)」が話題になっています。たびたび耳にしたことがあっても、実はよくわからないという人も多いかもしれません。そこで『FinTech入門』(辻庸介、瀧俊雄著、日経BP社)を上梓した、(株)マネーフォワード取締役兼Fintech研究所長の瀧俊雄氏に、FinTechとは何なのか、どうして最近、注目されるようになったのかを伺いました。加えて、FinTechに合わせて読みたい、ITを知らない金融業界の人にオススメの本もご紹介いただきました。

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今、なぜFinTechが注目されているのか?

―― そもそもですが、「FinTech(フィンテック)」とはいったい何なのでしょうか?

瀧俊雄(以下、瀧) まず、FinTechという言葉が大きく取り上げられ始めたのは、2015年からです。最初に、導火線に火が付いたのは2月ころ、金融庁におけるFinTechの議論がきっかけでした。続く9月、同庁が発表した「平成27事務年度 金融行政方針」で、「FinTechへの対応」が、重要施策の1つに掲げられました。

つまり昨年、国を挙げてFinTechを盛り上げていこうという流れがあったことが、重要なポイントです。

FinTechという言葉は、人によって異なる意味で使っているので、ここを整理することは大切です。たとえば、今、FinTechというとベンチャーのイメージがあります。しかし本来、金融と技術を掛け合わせるのが一番得意であったのは、大手のシステムインテグレーターです。実は彼らベンダーも、FinTechをずっと手がけてきているのです。

『FinTech入門』の第2章「FinTechを取り巻く環境の変化」でも触れたように、2015年以降の「FinTech」を「FinTech2.0」という人々がいます。彼らにとっての「FinTech1.0」とは、1990年代に進んだ金融機関のオンライン化、すなわちインターネット証券会社の誕生やインターネットバンキングでした。

しかし、当時、サービスの開発と普及には多くのコストがかかり、これらのFinTechサービスを使いこなせる利用者も限られていました。また、日本が低成長のデフレ時代にあり、ユーザーも従来のサービスでも大きな不満がなかったことから、新しい金融サービスを求める声は大きくなりませんでした。

ところが昨年からの「FinTech2.0」で、大きな変化が生じます。背景には技術開発コストの低下、スマートフォンユーザーの増加にともなう普及コストの低下、さらにサービスを使うユーザーの目が肥え、サービスに対する期待が高まったことがあります。

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スマートフォンの普及がFinTech業界の追い風に

 金融において、これまでインフラ寄りだった消費者の付加価値は、スマートフォンユーザーの増加とともに、サービスの面へと目が向けられるようになりました。この一連の動向が、面白い視点から技術を取り入れ、新しいサービスを生み出すことが得意とするベンチャーのプレイヤーたちに注目されるようになったのが、2015年のことです。

大手の金融ベンダーであれば、大きな失敗は許容されません。しかし、ベンチャーであれば、とにかく一つ、当たり筋のビジネスモデルを見つけることができれば、大きくなることができます。そして、大手の金融ベンダーや金融機関は、優れたビジネスモデルを持つベンチャーに投資なりM&Aなりを行えばよい。このような背景から、大きな投資マネーがベンチャーを中心とするFinTechに入ってきているのです。FinTech業界のユニコーン企業(評価額10億ドル以上の非上場ベンチャー企業)が、なぜ、近年あれほど大きくなれたかといえば、背後に日の目を見なかったベンチャーがあるからです。

これはマネーフォワードも同じです。当然、我々は最初からうまくいくと信じて事業を展開してきていますが、成功の保証は何もありません。だからこそ、お客様のニーズを読みながら、少しでも使っていただけるものを提供していこうと考えます。

このようにFinTechでは、サービス開発はよりユーザーに近い集合体となってゆきます。そこに、FinTechの本質があると思うのです。

健全な競争が生まれて、良質なアプリが増えればいい

――『FinTech入門』を上梓されたのは、なぜでしょうか。

 もともと金融は、少し難しいものだと思われています。そのうえ、「テック(技術)」が加わると、なおさら敷居が高い。金融と技術といわれた瞬間に、ものすごくハードルが上がります。

でも、FinTechの本質は「サービス革命」です。つまり、思ったほどに難しい話ではなく、簡単な話なのです。まずはそのことを伝えたいと思って、「入門」という言葉をタイトルにつけました。

今では誰もがスマートフォンを通じて、インターネットを身近に利用できるようになりました。そして、従来であればプッシュマーケティングでしか伝わらなかったものやサービスが、比較サイトや口コミサイトなどの登場で、消費者が自らほしいものを探し選べるようになっています。

金融商品も同様です。いまの金融商品を想像して、どんな印象を持つでしょうか。もっとわかりやすく、シンプルにして、かつ、サービスを提供する業者間で、適切な競争が生まれるようにすればよいのです。単純に言えば、良質なアプリが増えればよい、それだけの話です。この動向こそがFinTechなのです。『FinTech入門』では、このシンプルなことを伝えたいと思いました。

FinTechは金融をよりよくするための導火線

―― 本の中では、FinTechという言葉だけが独り歩きしないよう、成功した事例を紹介しながら、具体的にわかりやすく解説していると感じました。たとえば、アメリカの資産管理・会計アプリ「mint」の事例では、ユーザーの使いやすさをひたすら追求して成功した、という話が書かれていますね

 本のあとがきにも書きましたが、FinTechそのものに、「いかにお客様に近づくか」というテーマがあると考えています。

たとえば、丸ビルのような実店舗の大型商業施設に行くと、必要でないものもたくさん買ってしまうことがあるかもしれません。しかし、アマゾンのネットショップでは、無駄な買い物をあまりしないのではないでしょうか。それは、インターネット上では、自分がほしいものを定義するという行為があるからなのです。

金融では、いろいろなサービスにおいて、自分が定義できないものがたくさん売られています。金融機関はそれを説明しようとしたり、説明しきれない場合はブランドで補おうとします。でも、本来あるべきサービス業の姿は、商品を本当に理解していただいた上で、それを活かし、いかに幸せになるかという話をすることです。この点を理解しているFinTech担当者は、いきいきとした仕事をしていると感じます。逆に、こうした思いをもって、現在の金融の仕事をできるチャンスが少ないことも事実です。

日本の金融システムはこの15年ほど、厳しい消費者の目に応えるため、よりミスを少なくすべく、守りの投資が多かったという側面がありました。システムを少しでも止めたらすごく怒られますし、消費者が求める高いサービスレベルに応えるだけで、精一杯なところがありました。

本来、技術やITの力が金融にもたらすものは、お客様を幸せにすることであるはずです。しかし金融機関におけるIT企画やIT戦略という部署では、そのモチベーションを簡単に見失いがちです。

だから本書では、「FinTechは金融をよりよくするための導火線ですよ」というメッセージも込めました。またそのために、成功事例やフロンティアを見出だしている例について、各章立ての中で、たくさん説明することを重視したのです。

カード決済のデータが金融サービスとして活かされる、新しい時代が来るかもしれない

――『FinTech入門』は、どんな読者に向けて書いたのでしょうか?

 コアセグメントは金融機関におられる方々全般です。特に、ITを知らないけれど、金融機関にいるという方々を想定して書きました。

なぜなら、我々が知らない本当のフロンティアというのは、金融機関の中の人たちが作っていくものだと思うからです。実際、金融の現場には、いろいろな技術を活かすことで改善されるポイントが、たくさんあります。

FinTechはベンチャーを筆頭に、競争相手を次々に作ってゆくでしょう。でもそれらは最終的に、金融システムの中に取り込まれてゆくべきものだと思います。同時に金融は今後、ますます非金融化してゆくものだとも考えています。

例えば、日本交通のタクシーアプリ「日本交通タクシー配車」です。事前にクレジットカード情報を登録しておくと、タクシーを降りるとき、サインなど不要で降りることができます。これが、非金融化してどんどん透明になっていく未来の金融の姿です。

それだけではなく、タクシーアプリにどこからどこまで移動していくらかかったなどの情報が蓄積してゆけば、もっと効率化の余地はないか、定額プランを出せないかといったアイデアも生まれます。

他にも、たとえば米を食べたい人が米を買い、カード決済をします。このとき、金融は実需に対する受け渡し手段となりますよね。ここで、単純に米を売るだけでなく、米の売買にともなう金融情報をもっと活かせないかと考えます。すると、Aさんという人が「あきたこまち」をよく買っているという情報を使うことで、「あきたこまち」が安いという情報が入った時クーポンを発行するというサービスが可能になります。これも非金融化する金融の姿です。今はそういうことまで含めて、FinTechと称しているのです。

金融は究極の虚業などと言われますが、実際は、金融に乗じる形で、実業に派生したさまざまなデータが取引されています。こうしたデータを使いたいと考える実業の人にも、FinTechは関わっているのです。むしろ、FinTech1.0の頃よりもはるかに実業に関わってきていると言えるでしょう。

こうした考えから、ITをしらない、実業に関わるひとにこそ、本書は読む価値があると思っています。

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ITを知らない金融機関の人にオススメの本

―― 『FinTech入門』は巻末の参考文献がとても充実しており、また、幅広い分野の本が紹介されていました。たとえば、金融系の書籍のほかに、『仮想通貨』(岡田仁志他著、東洋経済新報社)や、『人工超知能が人類を超える』(台場時生著、日本実業出版社)なども挙げられていて、とても興味深いですね。

 仮想通貨は、ユースケースがまだ明確にはなっていませんし、非常に難しいテーマです。仮想通貨やブロックチェーンを取り入れる検討も、多くがまだ実証実験といえる段階のものです。しかし、中長期的には必ず差が出てきます。今後3~5年ほどしたら、圧倒的に違うはずです。

―― 先ほど『FinTech入門』のコアターゲットとして考えているとおっしゃっていた「ITを知らない、金融機関の人」に対して、他のオススメの本はありますか。

 エンジニア向けのよい本は多いのですが、そうでない人が対象ですと難しいですね。あえて挙げるとすると、10年ほど前に流行ったポール・グレアムの『ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち』(オーム社)でしょうか。

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 日本ではハッカーというと犯罪者を想像するでしょうが、悪意を持って行う行為はクラッキングといい、ハッキングにはもともと悪い意味はありません。そうしたハッカーの本来の世界に少し興味がある人が読むにはよい本ですが、やや応用かもしれません。ただ、基本的に、ポール・グレアムはすごくよいです。

あと、これも専門的すぎるかもしれませんが、『Founders at Work 33のスタートアップストーリー』(ジェシカ・リビングストン著、アスキー・メディアワークス)は、海外で起業している人たちが読むと、みんな、泣きそうになるような、立ち上げ期のよい感じの話がたくさん書いてあります。これも、ポール・グレアムの立ち上げたY Combinatorの人が監修しています。

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瀧 また、ベンチャー側にいる人向けには、『HARD THINGS 答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか』(ベン ホロウィッツ著、日経BP社)もよい本でしょう。

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 金融ということでいえば、ものすごく硬くて眠くなるような本ですが、野村総合研究所が出している『金融の本質―21世紀型金融革命の羅針盤』(デュワイト・B. クレイン他著)は名著です。これを金融好きの人がきちんと読みこむと、必ずシステムに興味が向くはずなんです。名著ですけど、これは、なかなか一般の人には勧められません。なぜなら、睡眠薬みたいな本なので(笑)。

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※後編へ続く

プロフィール

 

瀧 俊雄

FinTech研究所長 / マネーフォワード取締役

(株)マネーフォワード 取締役 FinTech研究所長 2004年、慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券株式会社入社。野村資本市場研究所にて、家計行動、年金制度、金融機関ビジネスモデル等の研究に従事。2011年、スタンフォード大学MBA修了。 2011年より野村ホールディングスCEOオフィスに所属。2012年10月より株式会社マネーフォワードに参加。2015年8月、マネーフォワードFintech研究所長に就任

ライタープロフィール

 

ホンシェルジュ編集部・芸術/芸能班

音楽、映画、アイドル、その他の芸術/芸能に詳しいライターによる班。もちろん皆が本好きだが、そのレベルや守備範囲はさまざま。日本のエンタテイメントのトップランナーを通じて、本/読書の楽しみへの入り口をつくりたい。あるいは本/読書という切り口を通じて、トップランナーの新たな一面を引きだしたい。

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