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紙の本

再戦のための心と体の準備となった≪方舟≫編

2010/11/25 21:35

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:DSK - この投稿者のレビュー一覧を見る

エノクとの戦いで瀕死を彷徨い、突然≪方舟≫に飛ばされた啓介から始まる本巻。アリッサは囚われ、右腕を失い、街を、みんなを助ける機会も役割も失った「ただの人」という敗北感と虚無感と寂寥感に覆われる重い序盤から始まる。アリッサの叔母【スーラ】の客観的な指摘はもとより、同じく≪方舟≫に転移された友月の優しい言動までもが心に突き刺さっていく。周りから取り残される疎外感や、ちょっとしたすれ違いもあって、何とも言えない憂いを湛えていくのだが、「そういえばここにいたねぇ」という意外な人物の登場が、啓介の諦め切れない想いの後ろ盾になっていく妙味が中盤から見られた。≪方舟≫周辺から≪箱庭≫へ、そして、さらに奥深くまで巡っては啓介の想いが確固たるものとなっていく。全てを失った啓介に出来る唯一の事として、その確かで強い想い、諦めない気持ちがクローズUPされていく、その心境の変化が巧みに描かれていた。≪方舟≫特有の事情による幸運も味方したり、周りの面々が次々とヘルプ役になっていくような、若干都合の良い展開にも見えるが、後ろ向きになりかけていた啓介の心のベクトルが変化していく流れは悪くない。≪方舟≫の秘密も相応に明かしながら、啓介の心の準備が改めて整っていく良さがあった。まぁ、実際のところは無力のままではあるが、ここからどう盛り返していくのかはお楽しみということである。何しろ精神だけでとんでもない力を発揮し、とんでもない逆転を招き、とんでもない希望すら見出せる強さを披露したのだから。さらには、何故か≪方舟≫にいた由衣の正体と、その後の“兄妹喧嘩”で物理的な力まで得るオマケ付きである。また、シリーズ全体としては未だ不明な点も残されていることや、アリッサの出番がほとんど無かったことが次巻以降のお楽しみをさらに増やすことになっており、代わりといっては何だか、ほぼ出ずっぱりな友月が、いろいろとおアツい部分を一手に引き受けて頑張っている。しかし、「英雄」というのは全知全能の存在だなぁ。

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