紙の本
むなしくて、情けなくて、なんだか笑っちゃう
2006/01/27 22:29
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:木の葉燃朗 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「タンノイのエジンバラ」・「夜のあぐら」・「バルセロナの印象」・「三十歳」の四編からなる短編集。
四篇に共通していたのは、なんだか悲しくて情けなくて、むなしくて、でも笑っちゃうという雰囲気。小説全体としては、それほど特別でもない人たちの、なんとなく「とぼとぼ」といった感じの日々が描かれているのだが、細部になんともいえないユーモアがあふれている。
例えば「タンノイのエジンバラ」で、主人公が預かった女の子に「どうしてグーフィーは二足歩行でミッキーとも会話ができるのに、プルートは四つ足で歩いてミッキーに飼われているんだろう」(p.33)と質問したときの女の子の答え。そのあまりにも迷いのない断言には、女の子の自信に、正しいように思ってしまうが、「いやいやちょっと待て」と思い直し、そこで読みながらじっと考えてしまい、非常に印象に残る。
あるいは、「バルセロナの印象」での、ガウディの死後も作り続けられるサグラダ・ファミリア協会に対する「山田康雄の死後も物まね芸人をつかって放映を続けるルパン三世のようなものか」(p.139)という主人公の感想も、なんとなく説得力がありながら「これを納得していいものか」と思う。その、自分が感じるギャップが、面白い。
もう一度色々なところを読み返したくなるような、くせになる面白さを持った本。
紙の本
静かだけど弱くない
2017/05/31 22:13
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ポージー - この投稿者のレビュー一覧を見る
静かな文章なのに意味自体は弱いということではない。もしくは決して柔らかくはないものを静かに描けてしまっているということなのか。
投稿元:
レビューを見る
純文学という定義はよくわからなかった。小難しくて一般人には意味のない勉強のような気がしていたけども、長嶋有は好きだ。日常に起こりうるがめったに起こらない時間を、小さな驚きを感じながら読める。妙齢の女性、少女、おっさん。相反するような視点をもって描かれる短編集。
投稿元:
レビューを見る
4編とも方向性は結構バラバラだが
言葉の端々に重みや含みがあり
幸せな話とも限らないのだが、読後感は爽やか
酸っぱく、ほんのり甘く、苦く、香り高く、大人びている
例えるなら”すだちのジャム”
投稿元:
レビューを見る
大好き!!すごくしっとりしていて、美味しいケーキでも食べているかのような幸福感。文字と言葉の一つ一つに満たされていく感じ。「三十歳」が一番好き☆
投稿元:
レビューを見る
文庫版のシンプルな装丁に魅かれたので、長嶋有という作家のことも、彼が芥川賞を受賞していることも、もちろんこの短編集のことも、全く何も知らなかったのです。不勉強を恥じなくては。
個人的には、もう少しキリっとしている方が好きですが、なかなか読み易い文章ですね。固有名詞が上手に配置してあって、そこはかとなく現実感を感じさせてくれます。もっと悲惨になってもおかしくない話なんだけど、まあ、その辺は短編の妙とでも言いましょうか、さりげなく仕上げられていて、それはそれで良いのでしょう。
ただ、あまりにありがちな話をありがちに語られちゃうと、上手いとか下手とかよりも、小説としての存在理由みたいなのに疑問を感じてくる。長いのとか、(短くても)もっと寓意に溢れたものを読んでみたいですね、この人の。
期待してます。
投稿元:
レビューを見る
2006/12購入。2007/1読了。隣の女児の面倒を見る羽目になる失業中の男の話「タンノイのエジンバラ」、三人姉弟の、それぞれの境遇を描きながら、なぜか実家の金庫を盗みに入る羽目になる「夜のあぐら」、姉を元気づけるために、妻と姉とでバルセロナへ旅をする「バルセロナの印象」、元ピアノ講師、現在パチ屋アルバイトの女性と、同僚の若者の恋と突然の幕切れを描いた「三十歳」の4作を収録。
いかにも現代の作者、という感じで読みやすい。流行なのかどうかはわからないけど、物語が進行していく上で、何かあからさまに思想がしめされているわけではない。けれど、すっとするわけではなくて、複雑なものがしっかり残る。バルセロナというおしゃれな舞台で、どこか面倒そうな主人公が常に印象に残る「バルセロナの印象」が好き。表題作はコミカルながら、やはりいろいろ思うところあり。
投稿元:
レビューを見る
巧い。よく考えると淡々と日々を綴っているだけのようなのに、何故こんなに面白いんだろう。表題作は長嶋作品で一番好き。
投稿元:
レビューを見る
長嶋さんの本を読むのはこれで4冊目。はじめて読んだ短編集。
どのお話も、日常のささやかな出来事を切り取り、静かに淡々と描いている。
今まで読んだ長嶋さんの小説はあまり好みじゃなかったのだけど、この短編はどれもわりと好み。
どこか浮世離れしているような登場人物たちの、力の抜け具合が心地いい。
投稿元:
レビューを見る
隣家の女の子を押しつけられたり、実家の金庫を盗みに行くはめになったり。人生には、そんな日がめぐってくるのだ。話題の芥川賞作家、待望の最新短篇集。
投稿元:
レビューを見る
最近、ちょっとブームな長嶋有の作品。飛行機のお供で購入。
・あらすじ
突然、隣家の娘を預かることになった失業中の男を描いた表題作や、実家の金庫を盗むハメになった三姉弟を描く『夜のあぐら』など、夜の気配を感じさせる三篇。
やっぱりいい感じの長嶋有。
この静かに淡々と流れていくストーリーと、それを単調にさせない文章力は素敵だなぁと思います。テーマというか、観点も好きなタイプの作家さんです。
個人的には『三十歳』が好きだったかもしれません。一人暮らしの家にグランドピアノを持ち、パチンコ屋でアルバイトをする女性と、自転車で通ってくる不思議な新人アルバイトの話。なんだか自転車をこいでいるイメージがほんわか楽しい。
やっぱり長嶋有、好きなタイプ、好みのタイプです。
投稿元:
レビューを見る
主人公が男であろうが女であろうが完全にその人になりきった描き方ができていることにオドロキ。
短編なのに、すぐ切り替えて次のハナシに入れるのはそのお陰。
投稿元:
レビューを見る
もうね、この人の本は、ベストジーニストのキムタクみたいに殿堂入りさせようかってくらいいちいち響いてくるんだよね。
別格です。
だからあえてもうこの人の本には5つ星はつけずに4つ星にしときます。
誰もが、本人すら気づかないような痛みをかかえて生きている。
本人が気づかないように強がっている痛みを抱えている。
でも、時にはそっとその無理を吐き出させて上げないといけない。
いつのまにか、その無理が心で抑える間もなくあふれ出てしまう瞬間がある。
ただ、それはそもそも抑えるべきものではなく、人間の心の自然の発散作用。
だからなすがままにするのがよいんだ。
投稿元:
レビューを見る
『三十歳』がいちばん好き。トランスワールドは実在するのかどうか気になってしまった。著者とは年代が近いので、様々な固有名詞がツボに入る。「今の若い人達はSMAPの森くんとか知らないだろうなぁ」などと考えては悦に入ってみたりする。
投稿元:
レビューを見る
これまだ2冊目の短編集なんだ、すでに、たとえば固有名詞の使い方が絶妙。「バルセロナの印象」の主人公は、ガウディの死後も建設の続いているサグラダ・ファミリア教会について「山田康夫の死後も物まね芸人を使って放映を続けるルパン三世のようなものかと思う」なんて言ったりする。主人公の興味やいい加減さなんてのがこれ一発で伝わってしまう。表題作、SPEEDとかアムロとか固有名詞先に振っておいて、みごとなラストにつながっていく。