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タイトルはちょっと衝撃的かもですが、内容としてはむしろ大人しめのハーレクインロマンスだと思います。
主人公のベリンダは誠実ではあるが、面白みのない夫と5年間の文字通り、つまらない結婚生活を送った後、夫は呆気なく病死。未亡人となりました。
そんな彼女は夫の喪が明けた今こそ、「愛人」を作り人生をひそかに謳歌したいと考えていました。
そんなところに現れた戦争帰りの若き子爵アッシュ。二人はすぐに惹かれ合うのですが、アッシュは密会の夜、怯えるベリンダに優しく添い寝しただけで帰るような、優しい男でした。
ますます彼に惹かれてゆくベリンダと同様、アッシュも元人妻ながら、楚々として思慮のある彼女に恋をします。
しかし、「愛人関係」という約束の下に始まった二人の関係が彼等がそれ以上の関係になることを皮肉にも阻止して―。
この小説の見所はたくさんあると思いますが、何といっても私がオススメしたいのは二点です。
一つは当時の時代背景や風俗が巧みに作品内に描写されていること。
アッシュが参加した戦争、更にはベリンダが道端で救済した負傷兵士など、戦争が当時のイギリスにもたらした深い爪痕、兵士たちが傷を負ったのは体だけでなく心にもであったことがよく判りました。また、当時のイギリスの上流階級の人の海水浴の描写も興味深かったです。海まで「移動更衣車」という馬車で引いて貰い、そこで着替えて馬車の周囲に巡らせた幕(幌)の中で泳ぐ、、、今からでは到底、考えられないような海水浴の仕方に驚きました。ちなみに、帰るときは馬車のうえに小さな旗を立てて目印とし、また迎えにきて貰うそうです。そういうことをする専門の業者がいたみたいで、業者は馬に車を引かせて客を連れていき去り、また馬を連れて迎えにくるというようなことが書かれていました。
二つ目は、最後の方でアッシュがベリンダへの愛にきづいてプロポーズするところです。
どうしても承諾しない彼女に焦れたアッシュがたくさんの人のいる場所で
―君が話に応じてくれないなら、僕は服を脱いで裸になる。
と、宣言。
流石に、今までたくさんの小説を読みましたが、この決めぜりふはなかったですね―笑
跪いてプロポーズにも憧れるけど、こういう情熱的すぎるのも良いかもと少し笑えたり、そこまで想われるベリンダが羨ましかったりです。
この後は描かれていません。ベリンダが二人きりになって承諾したところで終わりますが、きっと、この後、結婚して幸せな家庭を築いたことでしょう。
始まりは何とも歪んだ関係でしたが、ちゃんと二人にふさわしい結末になって良かったです。
ヒストリカルの名前どおり、時代背景などもたくさん織り込まれており、読み応えのある小説でした。