紙の本
怖さよりも、締め付けられるような哀しさ
2008/11/07 12:53
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:もみじ - この投稿者のレビュー一覧を見る
選考委員の林真理子氏が評しているように、エンターテイメント性の強いホラーというより、上質な純文学に近いものを感じました。著者のデビュー作「あちん」の雰囲気が好きだった私は、この作品を楽しむことができました。
食用豚の逃走劇を描いた受賞作「トンコ」、DV両親を想い続ける少女のメルヘン話「ぞんび団地」、自殺した妹と残された兄の残酷小説「黙契」の3作が収録されています。
文体も設定も全部違うのですが、いずれにも「家族愛」というテーマが流れています。同時に、そこはかとなく仏教観が漂っているように感じました(特に「トンコ」と「黙契」)。
どの話も、胸を締め付けられるような読後感が残ります。悲しいラストなのに、なんとなくハッピーエンドな感じもして……(特に「ぞんび団地」)。そもそも悲しみや幸せの定義って何なのだろうと、少し考えさせられたりもしました。
ただ正直、最初は「これのどこがホラーなんだろう」と疑問に感じていました。こうした様々な愛の形を、食肉やゾンビや腐乱死体というフィルターを通じて描き出そうとするあたりが、ホラーなのかも知れません。
紙の本
闇に浮かぶトンコ
2015/10/15 09:33
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投稿者:タヌ様 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この小説を書いた著者のセンスに脱帽する。なんとも妙なタイトルであり、いったい全体どういうホラーなんだという興味から読んだ本である。
カバー画のみるからにトンコらしい愛らしい生き物と、芝生の緑に続く背景の闇は、読後の感慨を見事に著わす秀逸さである。
主人公の置かれている小説世界構成が、まさに小説全体の通奏を成してしており、まず読まれることで驚き、そして闇の深さにたじろいでほしい。
紙の本
ある名作アニメによせて
2008/11/26 22:36
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:仙人掌きのこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
第15回日本ホラー小説大賞短編賞作「トンコ」、前年度の同賞最終候補作を全面改稿した「ぞんび団地」、そして「黙契」。
この三作を読みながら、私はしきりにあるアニメ作品を思い出していた。「アルプスの少女ハイジ」である。作品から受ける印象は人それぞれだと思うが、私にとって「ハイジ」は『孤独な魂の救済劇』だ。村人との交流を避け世捨人となった“おんじ”、家柄と足の障害のため同年代の友人を持たない少女“クララ”、旧弊な常識に縛られた執事“ロッテンマイヤー”。彼らは、ハイジというきわめて無垢な存在に触れて心を開いていく。そして、実はハイジ本人もその交わりの中で救われている。
トンコは孤独な豚である。「ぞんび団地」の“あっちゃん”も、おそろしい程に独りだ。「黙契」の主人公の苦悩には、アルムの山からフランクフルトに連れてこられてホームシックにかかったハイジの姿が重なる。彼らは皆、無垢である。限りなく無知に近い純心さをもって、救いを求めている。そして、それぞれに相応しい「救済」が訪れるが、それは血と汚穢(おわい)にまみれた破滅のようにも見える。本当にこれで幸せなのか、最後に残るのは優しさなのか残酷さなのか、それは読者自身が選びとるべきものなのだろう。
前作「あちん」も読みやすく安定した文体だったが、今作ではさらに磨きがかかっているように感じた。「トンコ」では兄弟豚の個性をあらわす鳴き声がくりかえし挿入されるのが効果的だし、児童文学調の「ぞんび団地」は一見ユーモラスな語り口が凄まじい現実を覆い隠しているものの、クライマックスに至るねじれ方は相当なものだ。(余談だが、いささか懐かしい「あっちゃんの頭の中で電球が光りました」という表現がかなり気に入っている)
二つの視点が交差する「黙契」は非常に面白かったものの、もう少し短い方が切れ味が増したのではないだろうか。冒頭の「一年ぶりに再会した絢子は、骨壷に入っていた」という一文が素晴らしかっただけに、少々饒舌だったのが惜しく感じられた。
ともあれ、「トンコ」で大きく世界をひろげた作者の次回作を、今から心待ちにしている。
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怖くないっす。どのお話にも、悲しさ・哀しさ・切なさ・愛情の希求、切望が感じられて…三つ目のお話のラスト、すごい印象的。
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短編集。『怖い』より『グロい』と思う。
すべて読み終えた後に解説を読んだら「食前食中を避けて楽しめ」とあった。まあ、そんな感じです。
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ダ・ヴィンチ2009年1月号
「今月のプラチナ本」
第15回(2008年)日本ホラー小説大賞短編賞受賞作品。
2008年12月29日(月)読了。
2008−122。
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3作とも、ホラーというイメージとは違っている気がした。
静かに流れる空気、哀しみ、苦しみ、切なさがうまく入り混じり、独特の雰囲気をかもし出している。
トンコの豚といい、ぞんび団地のあっちゃんといい、黙契の絢子といい、自分の中で、辛く、苦しみもがくしかすべがない弱さが共通点なのだ。
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【第15回日本ホラー小説大賞短篇賞】
表題作のトンコもせつないし、「ぞんび団地」はどうしようもない悲しみ。
「黙契」はあたたかい涙がこぼれた。
これがホラー? 私好きかも ホラー。
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食用豚の目線から描かれる人間世界は酷く奇妙で歪んでいて
美味しいものが欲しい!とブヒブヒ鼻を鳴らすトンコたちの世界はなんてシンプルで素敵なんだろう
なのに食物連鎖は常に人間を頂点にしている
皮肉なことだ
ところで
「しょうが焼き」からは兄のにおいがして
「ソーセージ」からは妹のにおいがする
じゃあ、トンコは何になるんだろう?
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表題作の『トンコ』はよかった。解説の人が書いていたように、トンコに感情移入した段階で不条理ホラーになるというのも納得。私なんて、いっぱつでトンコにまいっちゃいました。
ただその他の2作品が、読み進めるのがつらい暗さ。こないだ読んだ『粘膜人間』は凄惨な話なのに妙に明るいのとは対照的。怖さとかゾクゾク感を味わう前に、気持ちが萎え萎えになってしまう。その辺、なんとかして欲しいと思ってしまった。
結局、三作品の平均をとって☆3つにしました。
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第15回の日本ホラー小説大賞短編賞受賞作。
養豚場からの搬出中に交通事故に合い、
逃げ出した一匹の豚が兄弟を求めて彷徨い、
そして捕まるまでの物語。
あらすじだけ書くと、これでどこがホラーなのかと首をかしげてしまうが、読めば納得がいくことだろう。全体的にとても哀しい話ではあった。なんせ主人公は豚なので、そこに細かい心理描写などはない。ほとんど本能的な行動が書き連ねられているだけだ。兄弟たちとの心の交流が描かれているわけでもない。そこにあるのは「個性」以前の「個体差」と呼ばれる程度の違いでしかない。しかし、それでも、兄弟たちといた養豚場の描写の後に、ただ一匹で逃走する主人公の様子が描かれるのを読むのはなにか哀しい。あるいは心情描写がない分、哀しいということの根幹がそこには描かれているのかもしれない。
確かにホラーよりは純文学に近い。しかし、まぎれもなくホラー畑の人であることは収録された他2篇を読めば明らかとなる。特に『黙契』は、ラストシーンの事象としてのおぞましさと、そこでもたらされる精神世界の美しさの相克が凄まじい。人という存在の健気さ、儚さ、美しさ、尊さを描くために、これほど醜い素材を必要とする人間は、まさにホラーの民だと言える。
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すごく面白かった。
トンコは日本ホラー小説大賞短編賞受賞作だがホラーと聞いて思い描くような血みどろな場面は一切なくて、どこがホラーなの?と思うかんじだった。
ブタ視点で展開する話は、常にかわいい。
「ホラー部門」だよね・・と念頭において無理矢理暗い映像を思い浮かべて読んだ。
文章はかなりうまくできていて、一気に読ませる力があった。
他に収録されている2作もホラー作品で、この2つはちょっとグロイ表現もあったけど、文章がうまいので早く続きを読みたくなる。
読後はただ気持ち悪いとか後味が悪いというかんじがほとんどなく、グロイのに爽やかな、不思議な感じだった。
他の本も読んでみたい。
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「豚の死なない日」「僕とポーク」つながりで、読んでみる。
印象深かった部分>
ぶひ。
ぷぎぎぃ。
ぼととん、ぼひ。
生姜焼き弁当からは、「M02」の臭いがした。
場長は廃材の前でしゃがむと、トンコと向きあった。
そして作業着のポケットからハンカチを取り出すと、
生姜焼きを拾い、丁寧に包んでポケットに収めた。
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兄弟の臭いや声を追い求めてトンコが彷徨う物語。
どのへんがホラー括りなのか良く判らないが、
もしかしたら豚を殺して食べることに何の疑問も躊躇も無くなっている
人間のさまが、ホラーなのかも?
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切ない豚さんの長いたび。
表題作でない方のお話が現在一人暮らしの私には絵空事ではないように思えました。
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ホラー小説大賞短編賞。……これってホラーか? とは確かに思いました。ホラー的な要素はあるけれど、ジャンルとしてはどうなのかなあ。ユーモラスでシュールで哀愁に溢れた、少し不思議な物語。
収録作「ぞんび団地」「黙契」はどこからどう見てもホラー。「ぞんび団地」は、いったいどういう展開になるのか、まるで読めませんでした。うわあ、このネタかあ~。気づかなかったぞ。でもそれを踏まえて読み返せば納得。「黙契」はじわじわと来るホラー。どの作品にも共通する要素は、「家族の絆」が描かれているということですね。切なくしんみりとさせられます。