紙の本
小さな時間の小さな読書の幸せ
2012/01/19 17:49
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mieko - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本は1998年6月から2001年3月の間に読売新聞の日曜版に連載されていたエッセイ142編のうち80編に加筆訂正して2003年に単行本として出版され、2005年に文庫化されたものです。
著者の米原万里さんは東京生まれながら子供時代の数年をプラハのソビエト学校で過ごしたそうで、のちにロシア語通訳・翻訳者になりました。彼女のことを私はよく知らなくて、コメンテーターとして時折テレビ番組に出ていたときの印象しかありません。ですからこのエッセイ集もつい最近になるまで知らなかったのですが、bk1の書評コーナーでこの本を知り、エッセイ好きの私はタイトルに惹かれて読んでみました。
一番初めの話「昼行灯の面目」は、この本のタイトルになっている「真昼の星空」についてのエピソードです。昼間も空に星はあるのだけれど目には見えない。現実には存在するのに人々の目には見えないものがあり、逆に圧倒的な現実と思っているものが実はそうではなかったりする。つまり目に見える現実の裏に控える、まぎれもないもう一つの現実。「昼の星」はそういったもの全ての比喩なのだ、と書いています。そして彼女は、ものを書くときはこうありたいと念じてしまう、と書いています。このエピソードが私は特に気に入って、まだ一話しか読んでいないうちから、この本に出会えてよかったと思ったのでした。
少しでも海外で生活したことのある人なら誰でも経験があると思うのですが、自分たちが至極当然と思っていることが、世界的基準からして全く当然のことではないのだということに、しばしば気付かされます。このエッセイは、そういった日本人が当たり前だと思っている生活の癖とでもいうようなものをあぶり出して、軽妙な語り口の文章にしています。それがまた小気味良いんですね。彼女が子供のころに生活したのが西側の国ではなく、東側の国であったことで、それぞれのエピソードも、すっかりアメリカナイズされている私にとってはエキゾチックなものとして新鮮に感じました。
ひとつのエッセイが3ページ程度と短いし、どこから読んでも話が前後することが無いので、いつもこの本を持ち歩いて、たとえば病院の診察の待ち時間に、買い物の途中のコーヒーショップで、そしてぐつぐつと煮物をしている台所で、といった小さな時間に少しずつ少しずつ3ヶ月以上もかけて読みました。さっさと読んでしまうのがもったいないくらいで、箱の中の色とりどりの小さな一口サイズのチョコレートを一つずつ食べるように、一話一話味わいました。特に気に入っているのは、「日本人の暖房」「グルジアの居酒屋」「美術館の老婦人」「夏休みの宿題」などです。
紙の本
日本式ロシア風の小咄。こんな作品が書ける人は何人もいないんだろうな。
2017/05/15 08:16
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たけぞう - この投稿者のレビュー一覧を見る
作家、通訳、翻訳家。どうやら通訳の仕事がベースらしい。
テレビの同時通訳や要人の通訳などもこなされ、ロシア語通訳
としては第一線級だった方のようだ。
すでにお亡くなりになっており残念だ。
真昼の星空とは、林間学校でのマリヤ先生との思い出に
よるものである。米原さんは、子供のころチェコスロバキアに
住んでいてロシア語を体で学んだ。
林間学校の夜は世界中の小中学生にとって同じようで、
米原さんも消灯時間が過ぎても同級生たちとの
おしゃべりに夢中。
そんな時、突然マリヤ先生が部屋の明かりをつけ、
しんと静まりかえる。
ところがおしゃべりをたしなめるでもなく、先生はおもむろに
小説の朗読を始めるのである。
> 星は、いついかなるときにも空から消えないというような
> ことを、その男は言った。昼の星は夜の星よりも明るく、
> 美しいほどなのに、空にその姿を認めることは、
> 太陽の光にさえぎられて永遠にかなわない
三十年以上たっても、米原さんの心をつかんで離さない。
> 普通の目には見えないものよ、それゆえにあたかも
> 存在しないものよ!
> わたしを通して、わたしの魂の奥底の、もっとも澄みきった
> 薄暗がりを背にして、あらん限りの輝きを放ちながら
> 万人の目に見えるものとなるがいい
米原さんは、ものを書くときはこうありたいと座右の銘のように
している。私も深く感じ入った。
この本は読売新聞の日曜版に連載されたエッセーを
まとめたものだ。前作のエッセーが真夜中の太陽だから、
いかにこの言葉に深い思い入れがあるのかよくわかる。
ロシア語とロシア圏文化に精通する米原さんの著は、
ひと味もふた味も違う。
ロシア語圏のジョークと言えば小咄(こばなし)。
寒い冬にみんなで暖炉を囲み、ウオッカをあおりながら披露
するのが流儀だ。一話終わると馬鹿笑いして一杯空け、
なみなみと注ぎ足して次の人がお話を始める。
これが延々と続くからウオッカのタンブラーは小さいのかも
しれない。
このエッセーはそんな雰囲気が垣間見えるようで、一話
四ページながらも、どの話も必ずうんと楽しませてもらえる。
日本人を一歩離れた所から描く内容は、幼少時代の
外国暮らしと通訳業のたまもの。
こんなエッセーもあるんだと驚いた。
投稿元:
レビューを見る
米原万里姐さん大好きです.
この洞察力と文章力,レトリック,ユーモア,すべてが凄いよほんと...
題名がすっごく良い感じ.
投稿元:
レビューを見る
久しぶりに米原万里をよんだら
すっかり読書の楽しさを満喫するのに引き戻されてしまった。
自分にはないタラントをもったこの人を羨ましく思いながらも
情報の多さ、洞察力などみると、
努力の人でもあったのがわかる。
読んでいて心がすっとした。
投稿元:
レビューを見る
【あらすじ】
「星の輝きよ、わたしを通して万人に届くがいい!」。外国人には吉永小百合はブスにみえる?日本人没個性説に異議あり!など、「現実」のもう一つの姿を見据えて綴ったエッセイ集。「コミュニケーションにおいて、量と質は反比例」「人間は決まり事を創って自分をがんじがらめにするのが好き」。軽妙洒脱な語りのなかに、生きた言葉が光る。
【感想】
投稿元:
レビューを見る
小学生そして中学生の頃、読売新聞日曜版で楽しみにしていた連載。
あの頃を思い出しながら、どうして「読まずにいられなかった」のか思い出しながら、読了。
社会が便利になるにつれ失ってしまったもの、そしておそらくこれから失われるであろうもの。
そういうものをここで教わったのだと思い出した。
「米原万里」がいまの私の人格形成に一役買っている、気がする。
あ、そうだ。
「ツルツルモジャモジャ理論」は米原万里亡き今も生きてますよ!
と伝えられるなら伝えたい!
投稿元:
レビューを見る
図書館の本
内容(「BOOK」データベースより)
「星の輝きよ、わたしを通して万人に届くがいい!」。外国人には吉永小百合はブスにみえる?日本人没個性説に異議あり!など、「現実」のもう一つの姿を見据えて綴ったエッセイ集。「コミュニケーションにおいて、量と質は反比例」「人間は決まり事を創って自分をがんじがらめにするのが好き」。軽妙洒脱な語りのなかに、生きた言葉が光る。
何がどう面白いかといわれると困るんですが、オリエント急行が動かなかったり、ホテルのトイレの便座がなかったりするほうが記憶に残るってそうだよね、きっと、って思ってしまう。
「親指姫」と「鳩は平和のシンボル?」の2編が特に心に残りました。
投稿元:
レビューを見る
作者の鋭い観察眼が生かされた時事エッセイ。読んだのが発行よりだいぶ後であったため、タイムリーでない内容であったものの、それを差し引いても興味深い。特に気に入ったのは、ロシア(旧ソ連)の大統領についてある学者がとなえたという「ツルツル・フサフサ理論」の引用。確かにいわれてみれば、ロシア(旧ソ連)ではツルツルとフサフサの頭髪の持ち主が交互に大統領になっている。作者の博識ぶりとともに持ち前のユーモアでも楽しませてくれる一冊。
投稿元:
レビューを見る
『真夜中の太陽』と対をなすエッセイ集。
だけど小噺や経験談がふんだんに盛り込まれており、『真夜中~』よりも読みやすかったです。
一番胸を突かれた言葉は「いつか、罰があたる。絶対に。」
真夜中の太陽も、真昼の星空も目でみることはできないけれど、存在するもの。
見えないものを示してくれる貴重なエッセイ集でした。
投稿元:
レビューを見る
批判だけなら誰でも出来るけど、じゃあ具体的にどうすれば世の中良くなるの?とちょっと思ってしまう文章が後半多くて残念。
投稿元:
レビューを見る
久々に読み終えるのが惜しいと感じたエッセイ。博識なのである。小泉首相が郵政民営化に対する信念を表明して、ガリレオの「それでも地球は回っている」を引用した発言を記者会見やメルマガでやっているけど、「ガリレイの望遠鏡」のなかで著者は「異端審問の裁判記録等を調べた人たちによって、そういう文言はガリレイの口からは放たれてはいないと確認された」と記す。間違えた引用は恥ずかしいが、僕もこの本を読むまではガリレオはそう言ったものだと信じていた。知らないことを知るのは楽しい。
「グルジアの居酒屋」のエッセイにある、ある居酒屋の掲示版に張り出されたポスターにはこう記されていたという。ちょっと長いけど引用・・
「飲酒が宗教を信仰するより優れている八つの理由
1. 未だ酒を飲まないというだけの理由で殺されたものはいない。
2. 飲む酒が違うというだけの理由で戦争が起こった試しはない。
3. 判断力のない未成年に飲酒を強要することは法で禁じられている。
4. 飲む酒の銘柄を変えたことで裏切り者呼ばわりされることはない。
5. しかるべき酒を飲まないというだけの理由で火炙りや石責めの刑に処せられたものはいない。
・・・・・」
この文章に出会うだけでもこの本を読んだ甲斐があった。
投稿元:
レビューを見る
東大の名医が見放した末期ガン患者が漢方でなおったという話。私自身も漢方には以前から興味がありました。今では漢方内科という診療科目もあります。米原さんのエッセイは辛口ですが、いずれも示唆に富んだものです。 by 千里のシーさん
投稿元:
レビューを見る
ロシア語通訳者の米原万里女史のエッセイです。外国人の目には吉永小百合はブスに映っていたり、「コミュニケーションにおいて、量と質は反比例」などの彼女の物の見方や考え方が洒脱で好感の持てるものでした。
米原万里さんのエッセイ集です。同じ中公文庫から出版されている「真昼の太陽」と違った切り口でつづられているエッセイでございました。外国人には吉永小百合はブスに見える!?という話には少なからず衝撃を受けましたが、筆者が長い海外生活から帰ってきて、日本にいる時間が長いと自然と吉永小百合が美人に見えてくる、というのは読んでいて面白うございました。
僕が好きだったものは「イカロス」と銘打たれた文章の中に、人類史上初めて月面に着陸したユーリ・ガガーリンがその7年後にジェット機訓練中の事故で身元が判明できないほどまる焦げになり、その身分証明書だけが唯一の証拠品だったという話にも衝撃を受けましたが、とある「お偉いさん」が彼があまりにも舞い上がりすぎて、当局ににらまれ、精神病院に幽閉されていたということを
「そのうわさには、真実が含まれている」
といい、最後のほうが肯定も否定もしなかったという話は、いろいろな意味で面白かったです。
「宇宙からは墜落しなかったけれど、やはりガガーリンはイカロスだったのですね」
という彼の発言は印象的でした。
そのほかにも「代理戦争」というエッセイでは、米ソ両国のハザマで数々の国が東西に分かれて悲惨な殺し合いをしたということはいうまでもありませんが、ある博士が離婚寸前の夫婦に人形を持たせ、相手に対する不満や鬱憤を思いっきり人形を通してぶちまけてもらうという実験をすると、いわく、
『当事者に自分の願望を代行させる非当事者のほうが、当事者よりも滑稽なほどに、残酷的なほど熱狂的になるということなのだ』
という考察があって、
「あぁ、なるほどねぇ」
と僕は思わず溜飲を下げてしまいました。
こういうエッセイは読む人それぞれにとって感じ入るところが違うかとは思いますが、どこをとっても彼女独特のユーモアと鋭い考察や教養の深さがにじみ出ていますので、全編にわたって退屈するところはありませんでした。
投稿元:
レビューを見る
米原真理さんっぽい本。ちょっと時代観が違うということもあるが、それ以上に小さいころに東ヨーロッパで育った目線で語ってくれる。
なかなか面白かった。
投稿元:
レビューを見る
「真夜中の太陽」がちょっと無理した辛口政治評論でいまひとつだったのが、こちらはいつもの米原さんらしく、ロシア小咄ありの楽しく読める内容。