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紙の本
機上の思想
2011/12/04 18:40
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
フランスがナチス・ドイツの侵攻を受けて大敗を喫した時、サン=テグジェペリは偵察飛行隊に属していた。戦線が後退していく中で出撃を命じられるのだが、味方の支援も無い中で圧倒的な敵の支配地上空を飛ぶことの無謀さは分かっている。偵察の成果を活かせるほどにフランス軍は統制も取れておらず、作戦能力も失われていることも分かっている。それでも出撃するのは愛国心の発露だと彼は考える。一方で実りの無いことが判然としている作戦を立て、部隊を動かし、犠牲を増やし国民を疲弊させるためだけに行動する軍の組織原理とは何かと考える。
彼は操縦士として、観測士官と射手とともに出撃する。フランスがこうまで蹂躙される弱き存在になってしまった理由を考える。飛行機や戦車の数の圧倒的な違いであり、組織力の弱さかもしれない。それは文明の弱体化であり、人間性を高める努力の弱さであったと考える。
操縦士は、操縦桿の氷結と戦い、無線機の故障を心配し、作戦遂行のための距離と燃料を計算する。自分を送り出した部隊の上官や同僚の友情を思い起こし、育った故郷の人々、転戦した地域で出会った人々、暮らしていた村から逃げ出す人々、それらすべての弱さに思いを馳せる。彼を育てた思想と生活があり、そこに退嬰の影が潜んでいたのではないか探し出そうとする。
敵軍からの砲撃を(おそらく)驚異的な飛行技術で回避する。生還はそれだけで希望だが、彼には新しい思考の実行の場になるのだろう。そして予定時刻をオーバーして帰り着き、基地の仲間達を驚かせる。
彼の特殊さ、独自性はなんだろう。上空から国土を俯瞰する視点を持っていたことか。人の営みも、戦車も、ヨーロッパでもアフリカでも南米でもみな米粒のようなもので、雲間の下にうっすら映るだけのものとして見ているからか。空を飛ぶ人間の命の儚さを知りながら飛び立つ、自らの愛国心、あるいは人類愛を信じていることか。
目の廻るようなたくさんのレバーと計器の並ぶコックピットを操る技能、それも人並みはずれた能力を発揮した、詩人でパイロットとしての経歴。
そう、パイロットという職業、鋼鉄の翼で空を駈けることはすべての男の子の憧れだ。それ自体が既に詩であり思想だ。そこに生まれるものは地表で生まれるものとはまったく異なり、そして同等以上の価値があるのに違いない。純粋であるに違いない。僕は信じる。自由と平等と愛を信じ、さらなる進化を求める彼を。それらを踏みにじった機械化軍団を作り出した人々にも、執念と苦闘があり、それもまた一つの思想であり、アンチテーゼであった可能性を心に浮かべながらも。
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