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ろくに三島由紀夫の著作を読まずに、本書をよんでしまったのは良くなかった。
ただ三島が右旋回していくさまに、友人である著者や周囲の人間は随分戸惑ったことだろう。書中には小林秀雄を引っ張り出して思いとどまらせようとしたことが紹介されている。
多分他にもそんな“忠告”めいたものを三島はたくさん受け取ったのかもしれない。そして思っただろうか、なぜ自分の本気を信じてくれないのか、焦燥を理解してくれないのだと。
軋轢はひどくなり、しまいには著者自身、絶縁状態というほど溝は深まった。最後に「頭の中の攘夷をする必要がある」と言われ、血走った目で見据えられた著者の心持ちを想像する。自分を否定する友人の姿に、取り返しのつかないほど遠くへ行ってしまったことを嫌というほど感じたことだろう。つらいことだ。
三島がその行く末に絶望した日本の、そのなれの果ての姿、三島言うところの「無機的で、からっぽで、ニュートラルで、中間色の、富裕な、抜目がない、ある経済的大国」に今の私は住んでいることになるだろうか。終わりの経済大国は怪しくなっているけども。
三島の絶望に唱和することは容易い。しかし、それでよいのだろうかという反対したい気もある。