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紙の本
ボクシング小説の傑作。いや、ボクシングに関係なく男の心を熱く揺さぶる傑作
2006/12/18 00:58
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:R_for_KOK - この投稿者のレビュー一覧を見る
とにかく、男たちの身の内に流れる血が沸き立っていく熱を描いている著者の“1人称時代”の大傑作。
表題作は、ボクシングという過酷な世界に生き、追い詰められた男の息吹が生々しく描いて文藝賞を受賞した作品。
リアリティに満ちた迫真描写がすばらしい。
ボクシングをドラマの舞台に選んだ、というより、ボクシングの中に生きている本物のドラマを、そのまま切り取ってきたような迫力がある。
この小説は、人生に、ボクシングに行き詰った男が見せるチャレンジの物語。
負けた男が這い上がり、再び立ち上がるそのドラマに、胸が熱くなります。
読み終わって、「俺も何かしなきゃ!」「俺はいったい何をしているのだろう」と、体内の血が沸き立つような焦燥感が残ります。
このほか、狩人の血の熱く滾る姿を描いた「プロミスト・ランド」(小説現代新人賞受賞)など、全3篇を収録。
読み応え十分。買って、損なしです。
だまされたと思って、ぜひどうぞ。
紙の本
切実なるものへ
2011/07/12 13:57
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ががんぼ - この投稿者のレビュー一覧を見る
中編の表題作は、江藤淳が選考委員を務めた文芸賞の受賞作。後はより若い頃に書かれた短編「スピリチュアルペイン」と、小説現代新人賞受賞の短編「プロミストランド」の二つである。
まず表題作。ボクサーがやる気をなくし、逃げ出してアル中になった挙句に、復活するまでを描いたもの。何しろボクシングだし、いかにも泥臭く、暑苦しい。劇画だとそれも苦にならないが、この濃い目の、言葉を費やした文章だといかにも重い。だが、読み進めるうちに、その暑苦しさこそが核心だとわかる。つまりそこにあるのは、ぎりぎりのところを描こうとする強い意思だ。切実なるものを描こうというのがこの作家の特質と見た。それと表裏一体の文体である。
短編二つでもそれは共通している。「スピリチュアルペイン」の設定はなかなか凝ったものだ。戦時中愛する馬を軍馬に取られた少年。その少年もやがて大人になり、やがて老いて、今は死病に侵されていている。死を前に蘇る少年時の無念さを、彼の息子の視点から描いたものである。
「プロミストランド」は、過疎化して侵害されつつある山の集落で、禁じられた熊撃ちに己を賭ける男と、それに付き添う若者を描く。
いずれも切実な思いを持った人物、あるいはその切実さに触れて己の閉塞した生き方を打ち破ろうとする人物である。
やはり印象深いのは『汝』だろう。ここではそうした人物たちの思いが錯綜して響き合っているし、かつボクシングという軸の一方に故郷というモチーフを対峙させて、これらを交錯させるやり方が見事だ。
奄美大島近くの「宝島」、というこの故郷の設定が実にいい。暑苦しさと同時に、風の吹き抜ける爽快さがある。また、プロットは常に困難から前進へと向かうものなので、解説に言うように、最後は励まされるような、元気をもらうような感じになる。型どおりのプロットともいえるが、そうだとしても好ましい、気持ちのいい作品だ。 後の二作は、比べてみればそうした感覚的な爽快感で見劣りがするし、まだテーマだけで書いているような未熟さを感じさせるが、とはいえこの作家の飛躍を予感させる萌芽は確かに見られると思う。今後への期待大である。
紙の本
ボクシング小説
2022/08/01 09:09
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
スポーツと言えるかどうかも疑問な命がけのスポーツの代表がボクシングである。このボクシングを題材とした小説は数々あるが、その中でも屈指の名作がこの作品である。「文章から殴ったときの手応えが伝わってくる」という評があったそうだが、まさにそのとおり。再生の苦しみと栄光というわかりやすい主題であるが、それだけに心を打つものがある。
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