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紙の本
思い出だけが美しい
2010/02/11 08:15
9人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
あれは兄が高校一年の、今からざっと40年以上前の、クリスマスの朝だった。起きると、一本のギターが兄の枕元に置かれていた。
両親がくれたクリスマスの贈り物。
兄のものではあったが、それはとてもまぶしく輝いていた。兄も弾き、私もつまびいたあのギターはどうしただろう。結局兄も私もお決まりの「禁じられた遊び」を弾いたぐらいだったと思うが、あのギターはどこへいってしまったのだろう。
せめて、拓郎の「結婚しようよ」ぐらいは弾きたかったが。
本書は音楽評論家富澤一誠氏が「およそ四十年にわたって間近に見つめてきたJポップの歴史」、1960年代のフォークからニューミュージック、そして最近の音楽事情までを、時代ごとにまとめあげた音楽史である。
自身の記憶をたどる読み物としても楽しめる一冊だ。
そのことを富澤は「それは青春私小説ならぬ、自分の人生を弾き語る「青春四小節」」と洒落てみせる。
もちろん平成生まれの若い人なら、昨年(2009年)亡くなった加藤和彦の伝説のグループだったザ・フォーク・クルセダーズのことは知らないし、高校や大学のキャンパスで高らかに歌われた「遠い世界に」のたぎるような思いは理解できないかもしれない。
それとは逆に、本書でいえば、後半の1990年代から2000年代にかけての音楽事情の、私の方がついていけない。
歌はいつだって、そこにありながらも、時に寄り添うこともし、時にそしらぬ顔をする。
本書の第二部は音楽シーンを変えた50曲の「名曲ガイド」で、誕生秘話や発売当時のジャケット写真などがおさめられている。これもまた貴重な資料である。同時に、あの頃の思い出が次々に蘇る、心の玉手箱みたいだ。
しかし、それはもう帰ってこないことも知っている。
そういえば、加藤和彦と北山修が唄った「あの素晴らしい愛をもう一度」にこんな歌詞があった。
「あの時 同じ花をみて 美しいと言った二人の 心と心が 今はもう通わない」。
ただ、思い出だけが、美しい。
◆この書評のこぼれ話は「本のブログ ほん☆たす」でお読みいただけます。
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