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紙の本
読み終わるときっと、暗がりにナニカの気配を感じてしまいます。
2004/11/05 14:00
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投稿者:カルバドス - この投稿者のレビュー一覧を見る
もしも死体の声が聞こえたら、と思うとゾッとする。姿形のハッキリしない“幽霊”ならともかく、生々しい死体に直に触れ、しかも恨み辛みの声を聞かされたら……果たして、正気でいられるだろうか? そんな能力を持っているがゆえに“死体宅配便”に関わることになった主人公は、今日も「運んでくれ」と依頼を受ける。もちろん死体から。
大塚英志の原作が凝っているのは、彼の既存の作品を知っている人には釈迦に説法だろう。一つの出来事には二つ三つの別の要素が絡み付き、一筋縄ではいかない奥深さを構築している。題材になるモノも、民俗学に根付くモノから都市伝説、流行の出来事と様々だ。神秘事象に新たな解釈がなされた場合、それらをいち早く取り入れることも多い。我々読者を飽きさせまいとする努力が感じられ、嬉しい。
ところで、親しい人間の葬儀等は別として、死体の断面や内臓をまじまじと見たり、両の手でもってその感触を確かめたことがあるだろうか? 本書に収録されている一つに、本物の死体を使って前述のようなことが体験できる展示会を題材にしているものがある。以前、友人の誘いでその展示会を見に行ったことがあり、私も友人も食い入るように見てきた。どの標本も色の派手さはないのだが、質感だけは妙に生々しかったのを覚えている。もしあの標本達が動き出し、しかも自分に襲いかかってきたら……読みながら、そのリアルな質感が甦ってきてしまった。学校の七不思議に、必ずと言っていいほど“動く人体標本”が含まれているのも頷ける。気味が悪いことこの上ない。
主人公を含め登場人物達が飄々としているので、命にかかわる場面であっても深刻さはあまり感じられない。ただその代わり、不気味な描写や生理的嫌悪感を抱くような描写はリアルだ。読んだ後はしばらく、その姿が頭から離れない。そうなるともう、明かりの点いていない隣室や庭の植え込みの陰ですら、まともに目を向けられない。ジッと落ち着くのを待つのみ、である。
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