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紙の本
閉鎖的空間で満足に運動もできないのだから、歴代天皇は病気にもなるね
2006/09/05 20:41
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:7ひきのこぶた - この投稿者のレビュー一覧を見る
皇室関係の記述は、気をつけないと微妙なところがあるが、本書には思想的色合いはない。世界中で一番、万世一系のつながりがはっきりしている歴代天皇の、病歴・死因を分析しているだけである。もっとも、戦前ならば現人神に対してそのような分析は不敬罪だったかもしれない。でも、戦後、昭和天皇が人間宣言をして、いまの憲法下での位置づけは“象徴”。そういう意味では二重に“安心”して、発表できる。
三重(みえ)の県名の由来は、ヤマトタケル(第14代景行の皇子=日本武尊)がこの地で、膝が三重(さんじゅう)に屈曲する病に倒れ、逝去したことに因るのだという。ま、記紀の時代は伝説。第1代の神武天皇は古事記だと137、日本書紀でも127が崩年(一般人でいう享年)だというのだから、病歴を推測できるよすがもない。いきおい、資料のあるのは飛鳥時代以降になる。
免疫がないと、病気は大流行する。古代の朝廷でも急性伝染病が多くの宮廷人をなぎ倒した。「とりわけ猛威をふるったのは痘瘡(もがさ、天然痘、疱瘡)である。(中略)痘瘡の未流行地帯である古代倭国に蹂躙され、おびただしい犠牲者がでた」。宮廷も例外ではない。天皇も多くがそれで早世されている。
聖徳太子は第31代用命の第2皇子で、第33代推古(女性天皇)にとっては甥。それゆえ摂政になったわけなのに、どうして晩年が聞こえないまま舞台から消えてしまったのか、かねがね疑問に思っていた。答は単純明快だった。医者である著者の推測に拠れば「感染力の強い痘瘡に罹った可能性がもっとも高いと思う。(中略)おそらく多量の発汗で脱水症状におちいり呼吸促迫と頻脈から心不全をおこして」49歳で死去に至った。
痘瘡といえば、第121代孝明の死因がそれだったと著者は“検死”する。佐幕派の孝明天皇が邪魔で、倒幕派の岩倉具視が毒殺したのではといううわさがあるが、複数の侍医がちゃんと診断したのだから、誤診ではない。回復期にかかってからの、様態急変が“毒殺説”の根拠だが、「痘瘡が治癒する過程で細菌感染をおこしたのではなかろうか。発疹がなおってくるとかさぶたが痒くなる。孝明天皇も、かさぶたを爪で引っ掻くうちに化膿をおこし、これが二次感染に移行して重態におちいった可能性が高い。(中略)病状急変は医学的にみて不審であるとは必ずしもいいきれない」そうだ。
巻末に神武天皇から今上天皇までの“カルテ”がついている。
紙の本
歴代の天皇の末期の様子をリアルに伝える
2006/08/05 00:28
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ブルース - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は、医師という職業を生かして、これまでにも『モナリザは高脂血症であった』『徳川将軍家十五代のカルテ』など歴史上の人物の病歴を論じたユニークな著作を発表している。今回刊行された著作では、歴代の天皇の死因や臨終の様子が論じられている。勿論、歴代の天皇といっても、全てを対象とするのではなくて、史料から病歴が推定できるか病歴が確実に解明出来るケースが選ばれている。
まず、飛鳥・白鳳時代の天皇が取り上げられているが、古代は史料が乏しく残された断片から死因を推測することしか出来ないようで、例えば、持統天皇については、その「気丈で闊達な性格からすると、ふだんから交感神経の働きが盛んでアドレナミンの活性が高まり次第に高血圧を来たし、心筋梗塞か脳卒中を起こして死去した」のではないかと著者は述べている。いかに時代を画した女帝と言えども、記録に制約がある古代では、このような生前の行動や性格から死因を推測するしかないのは止むを得ないであろう。
中世ともなると、各種の史料が残されており、著者は貴族や女官の日記や官製の史書、肖像画などから幾人かの天皇の死因を探っている。この中でも、まだ歳若い堀河天皇が肺疾患によって悶え苦しみながら亡くなったことを述べている箇所では、その病苦が史料の的確な引用によってありありと伝わって来て、震撼させられる。
しかし、本書の中で圧巻なのは明治・大正・昭和の各天皇を論じた近現代の章であろう。とりわけ、明治天皇の病歴とその末期を論じたところは、その感を深くする。
明治に入ると、西洋医学の導入が急速に進められ、それに伴って病状の記述も詳細で信頼の置けるようになって来る。各種記録によると、明治天皇は、もともと体力にも恵まれ若い時から壮健であったと言われている。ところが、若い頃から、数々の政治的な試練にさらされてストレスを発散するためか、天皇は年若くして酒を嗜むようになり、酒量も並ではなかったと伝えられている。壮健の頃は、その影響もさほど出なかったようであるが、長年の飲酒の害は徐々に体を蝕み、晩年には重い糖尿病に苦しめられている。天皇の末期の様子を著者は、日毎に追っているが、かっては壮健であった姿はもはや窺えるすべもなく、生命の火を少しずつ失っていく状況がその詳細な記述から痛々しいまでに浮かび上がって来る。
本書は、このように歴代の天皇の病と臨終の様子をリアルに伝えている。その叙述からは、雲上人というよりも一人の人間として病に悶え苦しみ死に至る経緯が伝わって来て、病むことや死について考えさせられる衝撃に満ちている。その意味で、この書物は、異色の日本史であるとともに、ありきたりな死生学関係の書を超えるものとなっている。
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