紙の本
これまでのいじめ議論が吹っ飛びます
2007/06/24 08:20
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:宝船 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、いじめを分析した書物として、内藤朝雄の書物と並び、現在最高水準にあります。
内藤理論の紹介やスクールカーストという概念をいじめ分析に導入した点は著者の大きな功績ですが、それだけでなく「いじめという行動が合理的に選択されている」「いじめの傍観者に、いじめを止める行動をとらせるにはゲーム理論が応用できる」など、目からウロコの内容が満載です。
「いじめられている子どもは可哀想。今すぐ根絶しなければ」というレベルの類書に飽きた方は是非。
紙の本
「本気の大人」になりたくない人のための「いじめ学」入門
2007/07/29 17:24
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:後藤和智 - この投稿者のレビュー一覧を見る
あの日の喧噪を、我々はもう忘れつつある。「あの日」とは、平成18年10月頃、とある学校で「いじめ」を原因に自殺した人が出た、ということが報道されてから、多くの番組で「いじめ自殺」が採り上げられ、特番もたくさん組まれ、またかの悪名高き教育再生会議が、これまたお粗末な「緊急提言」を出して、多くの専門家、準専門家の失笑を買った(ちなみにこの「提言」は、本書でも嘲笑されている)。「いじめから子供を救おう!」と叫んだり、あるいは「現代のいじめはこんなにも酷くなった」と嘆いてみせたりする「本気の大人」たちの姿を、新聞、テレビ、雑誌などで見ない日はなかったほどだ。
それから数ヶ月経過した現在、もはや「いじめ自殺」を輝かしい目で語るものは誰一人いなくなった。青少年の自殺が微増した原因を「いじめ自殺」と安易に結びつけるような報道があったり、あるいは「いじめ」に関して安直な便乗本(そしてそれは疑似科学本でもある)を出すような自称学者がいたりするけれども、嵐は既に去った。そんな中上梓された本書は、まさに「本気の大人」たちの安易な言説とは一線を画し、「いじめ」を社会学、心理学的に捉えるための足がかりとして、極めて貴重な文献に仕上がっている。
本書は基本的に、前半と後半に分けることができるだろう。前半は、主として複数人の専門家による「いじめ」言説を、著者がある程度独自に組み替えるなどして、現代の「いじめ」を読み解こうという試みだ。援用されている学者は、藤田英典、内藤朝雄、森田洋司などで、彼らの議論を発展的に継承しつつ「いじめ」を論じようとする本書第2,3章は、まさに本書の白眉である。
もちろん、既存の議論に対し、最近話題となっている概念を適切に付加することも忘れていない。ここで付加されている概念が、平成19年頃より話題となった「スクールカースト」概念で、学校内や職場内の狭い社会において、学力というよりもコミュニケーション能力などの「総合的な能力」の高低によって地位の高低が決まってしまう、というもので(詳しく説明するのは難しいが、あいにくこの概念の説明に特化した本はない。なので、これの背景を述べたと思われる、本田由紀『多元化する「能力」と日本社会』(NTT出版)を参照されたし)、この概念を藤田英典の「いじめ」言説に結びつけることによって、よりフレキシブルに「いじめ」を説明できるようにしている。
このように、通常はなかなか世間に伝わりにくい概念を、ある程度簡略化、あるいは汎用化することによって、広く伝えることこそ、本書のもっとも大きな役割だと思う。ある自称を論じた言説に対し、それに学術的な概念でもって批判するということは、短絡的な言説の流行に水を差すと同時に、長期的な視座をも与えてくれる。
第4章は「いじめ」が隠蔽されるメカニズムを説明する。本章に限ったことではないが、若い教員に対する上司の嫌がらせ(特に日教組系の。ただ、これについては著者が日教組を批判するために意図的に偏った採り上げ方をしている可能性もあるので、割り引いて読む必要がある)の事例は、読んでいて気持ち悪くなる。第5章の「いじめ」言説への批判は痛快。「いじめ」を受けたことのある身としてこのようなしたり顔の言説に対する批判は実に頼もしい。ただ、最後のほうで藤原正彦やらTOSSやらを持ち上げているのは、個人的にはやや減点対象だが、本書全体のクオリティを落とすようなものではないだろう。まさに「いじめ学」の入門書といえる本書は、多くの人に読まれて然るべきものだ。
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いじめの構造をメカニズムを解析するように分析している。一般に語られているいじめ対策の方法がなぜ間違っているか、実際どうしたらいいのか書かれている。
最終的な結論としていじめは根絶できないし、また根絶すべきでないというスタンスも新鮮かつ共感が持てる。
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根本的な部分で、著者と私の間には、教育に対する哲学差みたいなものを感じます。しかし基本的な部分では大きく賛成できるものが多く、また現象を分析・検討する手法や理論的に考えていく部分などは見習いたいと思う部分でもあります。いじめに対して、これだけ明確に論を立て、すぱっと論じている本は珍しいと思います。しかも分かりやすくて値段も手ごろ。ぜひ。おすすめの一作です!
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2007年9月3日
語り口:説明的(やや熱)
これはいい本だ、と思った。いじめられた人の心を癒すのではなく、起こっている現象を解析している。スクールカースト、という概念はよく現状を表していると思う。
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いじめに関する本はたくさんあるが、この本はきちんといじめについて分析している。学校内で生活したことがある人なら分かる学校内のカースト制度をもとにいじめを捉えている点がおもしろく納得できる。
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参考文献として読んでみた。さくさくっと読めて結構面白い。
社会学の本だったみたいです。
『規範の内面化』と『いじめ免疫』。いじめを賤しいものだという意識が広まれば、いじめは減るというもの。気持ち悪いいじめ論がマスコミに流布しているのを叩いてくれるのも心地よかった。
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なぜいじめが起こるのか、どのようないじめが起こるのか、いじめが「隠蔽される」のはなぜか、どのようにいじめに対処すれば良いか、といった点について、著者なりに整理し、提言している。いじめについて様々な議論が世間で飛び交っているが、それらはほとんど「妄言」として批判し、いじめの構造を「スクールカースト」という概念を中心に説明しようとしている。「いじめは撲滅できない」「校内犯罪と非犯罪いじめに区別すべき」「やたらと『人権』という言葉を使うな」など、いくつか共感できる点があるとともに、「スクールカースト」という概念も(その用語はともかく)極めて納得がいく。ただ「冷静に」と言いつつどことなく冷静さを失っているような表現も見受けられるし、やや唐突な感じで日教組や「武士道」が出て来る点は気に入らなかった。「いじめ」について知り、考える入門書としては良い1冊だと思う。(2008/01/20)
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色んな人間を一か所にムギュと集めて「ハイ仲良くしてね」
な仕組みに問題があるという点に納得感があった。
凄惨ないじめの内容や、
いじめる側の心理の描写を読むと
だんだん絶望的な気分になってくるが、
それが教育制度というシステムからの
アプローチによって改善できる、とあるので少しほっとした。
いじめを完全になくすことは不可能だと私は考えるが、
「最悪の事態」を避けるための努力は惜しむべきではないと思う。
それにしても、いわゆる上からお仕着せの「道徳教育」が
いかに意味がないか分かった気がする。
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今、小学校高学年から中学生くらいの子供を持つ親たちに二つの命題が突きつけられている。
「わが子がいじめられたらどうするか?」と
「わが子がいじめをしていたらどうするか?」である。
「学校に相談する」親もいれば、「子を殴る」親もいるだろう。
この本は、テレビなどでいじめが討論される際にでてくる「傍観者も加害者」「いじめっ子も被害者」「いじめられっ子に原因はない」といった言葉を妄言であるとばっさりと切り落とし、いじめの分類・解析をした上で、具体的ないじめ対処法を明示している。
その対処法は学校への警察介入を伴うものであり、学校側はかなり眉をひそめる内容だろう。しかし自殺者も多くでている現状では仕方ないことだし、逆に言えばいじめられている子を持つ親にとっては学校と対話をする中で警察の介入は武器にもなりうる。
教師たちはこの本をぜひ読んで欲しい。そして親も読んでおくべきだと思う。
少なくとも二つの命題のうち「わが子がいじめられたらどうするか?」には明確な答えが得られるはずだ。
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ちょっと辛口の本なんだけど、それが面白い。論理的に説明しているから、納得出来る部分も多い。しかし、「学校にいじめは必要」という著者の主張には完全に納得することは出来なかった。この本に100%共感する人はかなり少ないと思う。それだけ独特で、キツめの本なのだ。著者にはこれからも、そんな本を書き続けて欲しい。
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オリジナリティ、語り口の粗雑さという面で、書物として読む価値があるかどうかは、微妙。
ブログでやれば、受けると思う。
飲み屋で親父と闘わすいじめ論、という感じ。
久々に、自分の中で賛否が分かれる記述が多い本だと思った。
*賛成の部分
1.内藤モデルの限界点
2.見て見ぬふりをするものも加害者、という妄言
3.方便と事実の峻別の必要性
*否定の部分
1.スクールカースト(クラス内ステイタス)の概念の導入。これでいじめ現象を説明できない場合も多いから。
2.いじめ必要悪論
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100%納得、というわけにはいかないけれど、今までのいじめ論に比べれば随分建設的だと思う。最も大切なのは、現場で実践していくことだけれど。
いじめについては道徳論、精神論に行き着いてしまうことが多いけれど、もっとメカニズムというのを解明するという考え方が必要なのはそのとおりだと思う。いじめをする、という選択をするしくみみたいなものがあるだろうし。
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いじめについての本によくあるような「きれいごと」がなく、
冷静に分析されていて、とても良かった。
だから、うなずけるところも多かった。
「(スクール)カースト」とか実際に高校生の頃、友達との間で使っていましたからね。
でも、最後の方に行くにつれて、「ん?」と思うところがあった。
もっと勉強したらまた読んで、考えてみたいと思う。
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人の善性に信頼を寄せるあまり、物事が見えなくなることは往々にしてあると思う。
そんな軟弱な理想じゃ、酷薄な現実をすくい取れない。
そこでこの先生は感情論とか理想論とかを妄言と言い放ち、理論というナイフで切った貼ったの大立ち回り。
いじめとなるとナイーブになりがちな論者とは対極的でおもしろかった。