紙の本
主人公の蝦夷が藤原仲麻呂と対決する奈良時代後期の大作
2005/01/11 08:09
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
前作の立志篇から3年近く待たされてしまったが、ようやく文庫版の続編、大望篇が発刊された。期待に違わぬ出来である。時代は前編の続きである。放浪の聖武天皇が没して、光明皇后との娘であり立太子を済ませていた阿倍内親王が即位し、孝謙女帝となる。女帝を支える内裏は橘諸兄が実権を握るが、没した後の権力は混沌となり、諸兄の息子、橘奈良麻呂と藤原仲麻呂との争いとなるが、丸子(牡鹿)嶋足と坂上苅田麻呂の助成で仲麻呂の天下となった。
恵美押勝と改称して実権を握った仲麻呂であったが、身内を内裏に引き上げたりで、世は乱れるばかりであった。孝謙女帝は退位して大炊王(淳仁天皇)を即位させたが、押勝は大炊王を自邸に住まわせるなど政を私物化する。
一方で孝謙女帝は健康を害するが、その平癒に助力した怪僧、弓削道鏡が登場する。押勝に対抗する者として道鏡を選んだ蝦夷一派(物部天鈴、嶋足)であったが、予想外に道鏡が女帝に取り入って力を持つようになってしまった。
蝦夷を蛮人として扱い、内政が乱れると討伐で目を逸らせる内裏に対抗することを目的に工作を続けてきた天鈴一派であった。しかし、なかなか思い通りにはならない。とにかく、悪政の源である押勝の排除を目先の目標とするほかはなかった。
首尾よく押勝を計略によって排除し、嶋足と苅田麻呂はともに大出世を果たした。しかし、道鏡も太政大臣禅師となり、天鈴一派の先行きに再び暗雲が立ち込める。
このシリーズの面白さは、陸奥の蝦夷が内裏工作で自分に都合の良い政権を樹立しようとするが、自分たちが後押しした政権が前よりも悪くなることであろう。そして、蝦夷が陸奥で産出する黄金を武器に政界工作を行い、政変の黒幕になっていることでもあろうか。
政界工作を担う物部天鈴、官人である嶋足、そしてそれを取り巻く人間模様、さらに、武人として名高い坂上苅田麻呂との絡み、いとも簡単に黄金の力によって貴族の内部にまで工作ができる点などがいかにも小説的で面白い。
完結編である次の『天命篇』では、歴史上の出来事で見れば称徳女帝が没し、混乱の末誕生した光仁天皇が伊冶公鮮麻呂の乱によって退陣に追い込まれるという陸奥と内裏との係わり合いで言えば最大の事件が持ち上がるわけである。さらに、坂上苅田麻呂の息である坂上田村麻呂も本編に登場するが、失敗続きであった陸奥征伐に征夷大将軍として成功する。さらに、前九年の役、後三年の役と奥州に穏やかな日々が来るのはまだ先である。天命篇ではどこまでが描かれているのか楽しみである。
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2007年2月19日Amazonにて購入。
2014/5/16〜5/22
橘奈良麻呂を退けた藤原仲麻呂(恵美押勝)の隆盛と道鏡の台頭を描く第二巻。昔、日本史で名前だけは覚えた人達が、権謀術数を尽くして躍動する様は圧巻。そこに嶋足、天鈴ら蝦夷と苅田麻呂らが絡む。次は道鏡が主役の第三巻。楽しみである。
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<再読>おさらいその2。第二巻では、760年〜764年恵美押勝の絶頂から没落−恵美押勝の乱までを描く。立志篇では陸奥守になるべく、天鈴の策で奈良麻呂の乱において藤原仲麻呂(押勝)に力を貸して授刀衛の大志にまで昇進を果たした牡鹿嶋足。しかし押勝の息のかかった者が陸奥に赴任し、蝦夷はさらに苦しい立場に追いやられた。腐敗した押勝の権勢を打倒し、今度こそ陸奥に平穏をもたらすべく、天鈴たちは道鏡や吉備真備と手を組んで押勝を追いやるべく権謀術数する。この風の陣シリーズで面白いのは、京で起こる争乱がすべて天鈴の策謀と嶋足の活躍に集約されていること。もちろん小説であり、すべてが史実ではない。だが史実の裏に何があったのか、それを想像する楽しさが伝わる。
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「立志篇」に続く第2巻目。前巻で1番の悪役だった恵美押勝(藤原仲麻呂)の転落振りが凄いというかアッサリというか…。だだ更にたちの悪そうな弓削道鏡の登場でさらにストーリーに引き込まれてます。
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第二弾「大望篇」は奈良時代の朝廷内の様子が分かって興味深かったです。
恵美押勝(藤原仲麻呂)が実権を握ってから、討伐されるまでが描かれてます。
昨年、NHKドラマ「大仏開眼」で吉備真備と恵美押勝が取り上げられたましたが、この作品を読むとあのドラマがいかにも内容が浅かったんだなぁと思いました。
当時の朝廷において、吉備真備はある種の巨人だったんですね。
それと奈良時代の怪僧・道鏡が登場してきました。
次作以降は道鏡との闘いですかね。
どうなるんでしょうか、楽しみです。
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面白いけれど時代考証がしにくい。蝦夷は大丈夫なのだろうか、勢いがあり、そのもの語りの重厚さに感動した。
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奈良時代の大河小説第二弾。恵美押勝、道教、天皇、上皇と役者が動き出してストーリーが生き生きとしてきた感じだ。嶋足と天鈴の友情、活躍、戦い、戦略。激動の時代の中を生き抜いていく武者の活躍をさらに追いかけたくなる。
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2012-108
実権を取ってかわるだけで、民の生活の苦しさが変わらないのと押勝も道鏡も自分達のためだけに政治を行っているのは、今の政治と一緒。
何百年たっても結局は変わらないんだと思い知らされる。
そのなかで、変わらず蝦夷のために働く嶋足と天鈴はすごいと思う。
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道鏡の登場から恵美押勝の乱、そして道鏡の太政大臣昇進まで。
さすがの天鈴も年の功で道鏡に遅れをとったか。
多麻呂に「火怨」の飛良手に似た匂いを感じる!
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風の陣、2巻目。前作で橘奈良麻呂を葬り、権力のトップに立った恵美押勝(藤原仲麻呂)。今作では、権力を思いのままに操る押勝を、嶋足、天鈴らが智略を尽くして討伐するまでを描く。
押勝を権力の座から引き摺り下ろすために手を組む相手として、弓削道鏡が登場。策士としての力を発揮する天鈴だけれど、それを超える道鏡の策士ぶりがえげつないというか見事というか。道鏡に翻弄される天鈴を見ていると、「火怨」の頃と比べてやっぱり若いなぁと思う。一応、この巻で押勝が見事討伐されるのだが、蝦夷に対して険しい将来が今後待ち構えているのを知っているだけに、これからどういう紆余曲折があるのか気になる。
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読書期間:5/9-5/22(14日間)
内容:橘奈良麻呂の乱が平定され、三年半が過ぎた天平宝字四年(760)秋--。奈良麻呂を葬った藤原仲麻呂は、恵美押勝と名を変え、新帝を操って強大な権勢をふるっていた。黄金を狙い、陸奥支配の野望を抱く押勝に対し、牡鹿嶋足、物部天鈴らの智略を尽くした戦いが始まる!平城京の激しい権力闘争の渦中にあって、蝦夷の平和を守るべく奮闘する若き英傑たちを活写した歴史大河ロマン第二弾。
感想:さて…1巻とだいたい感想は同じです。歴史の流れとしては面白いが、ところどころ、ストーリーは陳腐感があるかな~。偉そうに言えば。
でもとりあえず、3巻に続く!
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奈良時代の歴史上の人物、牡鹿嶋足を主人公とする歴史物語シリーズ2巻目。
中央での権力闘争を蝦夷の視点で描いた物語は、なかなかに骨太で、歴史物語としては面白かった。
ただ、エンタメとしてはちょっと物足らないかな。
なんというか、ワクワク感が足らないんだよなあ。
その原因の一番は、主人公嶋足の活躍が少なすぎること。
さらに、性格が律儀すぎて状況に流されることが多く、自分から物語を動かす力に欠けている。
これでは主人公としては役不足と言わざるを得ない。
たぶん、天鈴を主人公にしたほうがずっと面白い物語になったんじゃないだろうか。
二つ目は、その天鈴と嶋足のやり取りがしばしばけんか腰になって、読んでるこっちの気分が悪くなったこと。
傍若無人さも相手を思いやってこそだと思うのだけど、そこの描き方がもう一つだなあ。
そして三つ目は、ロマンスがたらなすぎること。
まあ、歴史物語ではままあることだけど、女性とのロマンスももう少し必要だと思う。
折角、二人も美女が登場してきたのに、全く活かされてない。
次巻以降、嶋足がもう少し主人公らしくなることを期待したい。
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陸奥支配の野望を抱く恵美押勝に対し、牡鹿嶋足、物部天鈴らの知略を尽くした戦いが始まる歴史大河ロマン第2弾。
歴史の学習で少し記憶に残っている奈良時代の人物たちが生き生きと描かれ、改めてこの時代の権力闘争の激しさが伝わってきました。
同時に、貴族を中心とした都から見た蝦夷たちへの差別の辛さを感じました。
果たして陸奥に真の平和が訪れる日がいつ来るのか、大長編の作品ですが、1ページも気を抜くことができずにページをめくる手が止まりませんでした。
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2巻に入っても相変わらず内裏での権謀術数三昧。栄枯盛衰は世の常なれど、あれほど権勢を誇った押勝すらあっけなく退場を余儀なくされてしまった。権力者の最期をごく簡潔にしか表現しないのは炎立つにも共通するところがあるので、これも高橋流なのかな。
蝦夷の立場から正義の味方のように書かれている天鈴も、反対側から見れば金の力にあかせて政治を操るフィクサーであり、善悪の基準は紙一重だとしみじみ思う。
そんなドロドロした中で嶋足が見せるもどかしいまでの純粋さが、物語に爽やかな印象を与えています。
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1巻に引き続き、臨場感たっぷりの舞台展開。名前しか知らなかった歴史上の人物が物語の中で鮮やかに踊ります。よくぞここまで詳しく丁寧に調べ上げ、物語まで昇華なさったなと尊敬です。
余談ですが、天皇まで人間の感情を持って行動する姿が印象的で好ましい。