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紙の本
江戸幕府の政治制度を学ぶ
2010/08/01 21:41
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
上田秀人が描く江戸幕府勘定吟味役異聞シリーズの最終回である。これまで主役の水城聡四郎を取り巻く情勢が一気に展開し、物語を終わるのが本書である。八代将軍徳川吉宗は享保の改革を成し遂げ、名将軍として評価されている。
その将軍吉宗誕生の秘話を水城を主役に描いている。これまでのシリーズでも、大奥、老中などの幕閣などの御用部屋、吉原、大商人紀伊国屋文左衛門、それらに加えて、六代将軍綱吉の側用人として名を馳せた柳沢吉保、七代将軍家宣の側用人として権勢をふるった間部詮房など、登場人物に過不足はない。
これらの各勢力の間諜を務めるのが忍びの者達である。伊賀、甲賀、根来などが登場して、賑やかである。忍びの者の系譜についてもかなり詳しく述べられている。小説とはいえ興味深いものがある。
この時代になると徳川幕府も平穏で、戦はもはや過去のものとなっている。それだけに武力が衰えて、財力を持つものが天下を治めることになりつつある。しかし、町人が天下を取ることはない。かえって、徳川家のたがが緩み、後継将軍争いの暗闘が始まる。
尾張、紀州、水戸の御三家はそもそも後継将軍の予備として設立されたものであったが、かえってそれが後継争いの醜い暗闘の元となっているようだ。本シリーズを読んでいると、徳川幕府の構造が現在の権力構造とは全く異なることに気付かされる。
作者があとがきで述べているように、徳川幕府は基本的には直轄領のみを管轄している。それ以外の領地は各藩に任せていて、税すら徴収していなかったという。参勤交代などでひたすら財力を浪費させたり、様々な規定を作ってそれに反する行為を行うと、改易、転封などで取り締まっていただけで、幕府への謀反を抑えようとするだけであったのだ。
江戸時代の政治制度にはまったく関心がなかったのだが、これは意外な面を発見した思いであった。
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