紙の本
この本自体が、著者から送られた「ひとひらの手紙」である。
2008/11/25 16:27
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投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「雪の結晶は、天から送られた手紙である。」という有名な言葉は、この本の最後のほうに出て来る。
1938年、岩波新書の最初の20冊の中の一冊である本書は、雪の結晶の形やでき方についての研究を一般向けに書いた本として長く読まれてきた。「専門的な内容を一般に向けてわかりやすく書く」という、ある意味「新書」のイメージを作り上げた一冊でもある。文庫版になったのは1994年。文庫版あとがきの樋口敬二さんも書いているように、今は「一般向け科学書」の古典になったと言ってよいと思う。
雪の結晶の観察、製作の話(第二 「雪の結晶」雑話、 第三 北海道における雪の研究の話、 第四 雪を作る話)はそれぞれ、今読んでも大変面白い。
微小な結晶を溶かさずに撮影する方法、立体的な結晶の側面をとるための固定方法、雪の体積の測定法など、は読んでみれば誰にでも思いつきそうなものである。そういう「日常からもう一歩」のアイデア・工夫で研究が進められているというのは、実は現在でもそれほど変わってはいないのではないだろうか。そんな風に思ってしまうのはやはり著者のわかりやすい文章の故でもあろう。
このような、研究・実験の話も面白いが、その中に織り込まれている描写には、心に残る美しい文章もたくさんある。
「真っ暗なヴェランダに出て懐中電灯を空に向けて見ると、底なしの暗い空の奥から、数知れぬ白い粉が後から後からと無限に続いて落ちて来る。それが大体きまった大きさの螺旋形を描きながら舞ってくるのである。P84」この文章などは、ここだけでも情景が自然と思い描かれるのではないだろうか。その上に、ここまでの「研究的視線」の文章を読んでくると「きまった大きさの螺旋」になるのはなにか空気抵抗などの理由があるはず、などと、ちょっと「研究者になった」気持もおこさせてくれる。
新書で読んだ頃の記憶は雪の科学面のことしか残っていなかったのだが、「第一 雪と人生」もなかなか味がある。昭和初期の雪国の生活記録にもなっているのである。木材の運び出しに使用した橇の工夫、バチバチというのは今はどうなっているのだろうか。小学校の雪おろしにかかった追加費用が八百円、という数字にも時代を感じる。
本書が「北越雪譜」の紹介から始まることもすっかり忘れていた。「北越雪譜」は江戸時代の雪国の素晴らしい記録である。江戸時代の雪、昭和初期の雪。温暖化はいいのか悪いのか、そんなことも考えつつ、これらの本を読むのも一考ではないだろうか。
新書版もそんなに厚いものではなかったが、文庫版はさらに薄く小さくなった気がする。まさに著者が雪のことを書いて送ってくれた「ひとひらの手紙」のような一編である。
紙の本
中谷宇吉郎博士の熱い語り。
2016/12/02 23:49
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投稿者:ももたろう - この投稿者のレビュー一覧を見る
1938年に岩波新書が発刊されたときに選ばれた20冊のうちの1冊。
古典的名著でありながら、一時絶版に近い状態にあったのを、読者からの熱い要望で復活された。
石川県加賀市という雪国に生まれ育った中谷が雪の研究をするのは必然だったのだろう。
雪国の暮しの中で、雪は大きな邪魔者だ。
しかし、一方では、雪は大きな恵みでもある。
人々の暮しに雪を上手に処理し、活かすためには、雪そのものを深く知る必要がある。
この本では、雪がいかにして自然の中で作られて空から降ってくるのか、そして、中谷がどのような実験をして、人工雪を作ったかが詳しく書かれてある。
まさしく、教養の書だ。
紙の本
美しい結晶
2018/09/25 19:25
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投稿者:岩波文庫愛好家 - この投稿者のレビュー一覧を見る
雪の結晶について、これほどよく根気よく調べた事に、まずは脱帽。やっぱり結晶って綺麗だ..。
理科的な実験にも言及していて大変興味深い内容。
一方で、文体自体は非常に平易で、また活字の大きさやかすれのなさといった点から、読みやすさ抜群である。
紙の本
「天から送られた手紙」とはよく言ったもので・・・
2021/06/01 17:00
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投稿者:719h - この投稿者のレビュー一覧を見る
雪の結晶の多様さと、
その美しさを教えてくれた本です。
この本を読んでから、雪景色を目にした時に
思い浮かぶ事柄に、幅と深みが出てきました。
紙の本
雪への愛情
2020/05/29 23:39
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投稿者:のび太君 - この投稿者のレビュー一覧を見る
研究対象としてだけではない雪への愛情が感じられる名著である。古い本だが文章も一部を除いて読みやすいと思った。
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不思議から科学へ。これを読むと科学の研究とは、なんて楽しそうなんだろうと思う。特にパイオニアの研究は面白いだろう。雪についての基本的な知識も得られる。
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雪博士・中谷宇吉郎先生の雪に対する熱き想いが綴られた一冊。中谷先生の文体はお人柄がでていてとてもわかりやすいです。
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2009/2/5読了
『雪は天から送られた手紙である』というフレーズを読む為だけに、再読してもいいと思った。
中学生ぐらいだったら、充分に理解できる内容だと思う。
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「この本は雪の結晶について私が北海道で行った研究の過程およびその結果をなるべくわかりやすく書いたものである。...ただ、自然の色々な現象について正当な理解を持ちたいと思っておられる人々に、すこしでも自然現象に対する興味を喚起する機縁になれば有難いと思って書いたものである。」このまえがきの通り、雪の研究の歴史、雪の種類、雪の生成過程、雪を作る実験について、専門的な内容を、やさしい言葉で書いてある。彼の研究の恩恵を私たちは今も受けているのだろう。
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(2007.07.27読了)(2007.07.22購入)
岩波新書版「雪」の出版されたのは、1938年11月20日ということです。約70年前です。
読みたかったのですが、なかなか見つかりませんでした。1994年に文庫が出ていました。
やっと入手して、早速読んでみました。
雪の結晶を見て不思議に思った経験があるでしょう。雪の結晶を撮影した写真を見ると、どうしてこんなにいろいろな形があるんだろうと思うでしょう。
上空の気象条件によって結晶が変わるということです。
雪の結晶は、きれいなもの以外に、結構つまらないものもあるようです。そんなのは、研究者でもない限り、掲載してもしょうがないので、載らないということです。
●雪の結晶は、天から送られた手紙(162頁)
雪は高層において、まず中心部が出来それが地表まで降って来る間、各層においてそれぞれ異なる成長をして、複雑な形になって、地表へ達すると考えねばならない。それで雪の結晶形及び模様が如何なる条件で出来たかということが分かれば、結晶の顕微鏡写真を見れば、上層から地表までの大気の構造を知ることが出来るはずである。そのためには雪の結晶を人工的に作ってみて、天然に見られる雪の全種類を作ることが出来れば、その実験室内の測定値から、今度は逆にその形の雪が降ったときの上層の気象の状態を類推することが出来るはずである。
●雪の結晶の形(47頁)
平面的で、かつ六次の対称をしているような結晶以外に、沢山の複雑な形の雪が存在する、立体的の構造のもの、あるいは不規則な形のもの、あるいは無定形に近いようなもの、すなわち見た目には汚い形のものが非常に多いのである。
●雪(59頁)
水蒸気が非常に気温の低いところで凝縮する場合、水の状態を飛び越して固体、すなわち氷になるのである。雪は水蒸気が直接に氷になったものである。
●霜柱(78頁)
霜柱は霜とは成因の全く異なったものである。あれは土の中の水が凍ったものであって、普通水から凍った氷は結晶にならぬ。霜柱の時は例外であって、土の性質によるものである。霜柱は関東地方の赤土にもっとも顕著にできやすいもので、外国ではあまり出来ない。
著者 中谷宇吉郎
1900年 石川県生まれ
東京帝国大学物理学科卒業
1928年 イギリスに留学
1930年 帰国、北海道大学に赴任
1962年 死去
(2007年9月4日・記)
内容紹介(amazon)
天然雪の研究から出発し,やがて世界に先駆けて人工雪の実験に成功して雪の結晶の生成条件を明らかにするまでを懇切に語る.その語り口には,科学の研究とはどんなものかを知って欲しいという「雪博士」中谷の熱い想いがみなぎっている.岩波新書創刊いらいのロングセラーを岩波文庫の一冊としておとどけする. (解説 樋口敬二)
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この本の読みやすさの1つは中谷博士の実験がある意味でとても原始的な方法によっていることにもあるような気がします。 とかく最先端の理系の研究を表した書物は「専門家でなければ理解できない複雑な理論や関数」に溢れ、実験装置も高額で技術の粋を極め(≒ 素人にはその装置の構造そのものが理解できない)、実験手法も素人には複雑怪奇に過ぎて完璧にお手上げ状態・・・・となってしまうものが多いのに対し、昭和10年代という時代・・・・ということもあるのでしょうけれど、中谷博士のこの研究はある意味で素人にもイメージしやすいものだと思うんですよね。 考えの進め方(≒ 理論構築)に関しても難しい部分を廃して書かれているということもあるのでしょうけれど、あまり俗世からかけ離れすぎた理屈ではないがために「なるほど、なるほど。 ふんふん♪ へぇ~、そうか! そういう風に考えていくんだ!」とスンナリついていける気にさせてくれちゃっているところがあるように思います。
中谷博士がヨーロッパ留学を終え、現在の北大の助教授として赴任される際に、恩師である寺田博士に
「君、新しい所へ行っても、研究費が足りないから研究ができないということと、雑用が多くて仕事ができないということは決して言わないようにしたまえ。」
と諭され、それまで研究されていたテーマを北大で引き続き追求するのが環境的に困難だったので、ある意味手慰みに始めたのがこの「雪の研究」だったという経緯があるらしいのですが、まさにその研究者にとってはある種のマイナス面だったところが、かえってこの本にとっつきやすさを与えているのは面白いことだなぁ・・・・と思うんですよね。 まあ、往々にしてどんな分野でもそのパイオニアの考えることは案外親しみやすい発想から出ているものだとは思うんですけど・・・・・。
(全文はブログにて)
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中谷さんは、1900年生まれの物理学者。世界に先駆けて人工雪を作ってしまった人。
この、岩波文庫の名著『雪』では雪の被害に始まり、生成条件を解き明かし、雪の正体をつかまえるために人工雪を作る過程が描かれています。
科学のお話なので、一般人にわかりやすく書かれたものではあるけれど、わたしには少々難しい箇所もありました。
それでも「へえ~」「へえ~」の連続で面白かった!
こんなことを研究されている方がおられるんだなぁ…。文章もとても読みやすくて、確かに名著。
と思ったら、なんと中谷さんは寺田寅彦のお弟子さんなんだとか。エッセイも山ほど書き残しておられる。
『雪』にはベントレーのことも出てきた。もちろんこの写真集のことも。
彼は科学的素養をもたず、美しい雪の写真を撮ることを楽しみとしていた人だから、倍率や降った時期の記載が全然ないのが惜しまれるとしたうえで、こんなふうに書いている。
雪の結晶について多くの人の人々の関心と興味とを喚起した。この点においてウイルソン・ベントレーなるアメリカの一老人は偉大なる功績を残したということもできる。厳密にいってそれは科学的研究の産物とはいえないかもしれないが、その一生を通じて自然に対する純真な興味を失わず、うまずたゆまず成し遂げた彼の事業に対しては、われわれは尊敬を払わなければならないであろう。
でもね、こう書いたあとで、雪の結晶というのはほんとはベントレーの写真集に並んでいるような美しい結晶ばかりではないので、一般に雪の結晶というものがベントレーの写真集のようなものだと思わせたことは注意する必要がある、とも書いておられます。
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実家にいたら、本棚に増やしたかもしれない。文章がいい。科学的思考をしていらっしゃり、かつ一般の人にわかりやすく伝える言葉選び、筋立てをされている。それでいて、雪の日は実験、晴れた日はスキーと、長閑な時代がうかがえるのもいい。雪に、自然科学に興味がなくても読めてしまう本。岩波文庫の緑になるだけある。「如何に自然の秘められたる工は深く、人智によるその認識が遅々としているか」など、好きだなあと思うフレーズも多々。
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人口雪の研究をすすめた博士は、雪の結晶から空の上層の気象の状態を類推することが出来ると語られます。“雪の結晶は天から送られた手紙でありその中の文句は結晶の形及び模様という暗号で書かれている その暗号を読みとく仕事が即ち 人口雪の研究である ということもできる”科学者さんとはロマンチックだなあ と感じました。 厳冬の地北海道で雪の結晶を観察するため顕微鏡をのぞきこまれる姿、降る雪を見上げていると、自分がまるで天に昇ってゆくような錯覚を覚えると書かれた文章。読んでいてとても静かな、おごそかな気持ちになりました。 暗号で書かれた多くの手紙がわたくしのまわりにもあふれているのかも。気づかれないままに。
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自然が織りなす美の不思議に惹かれて雪の研究にすすみ、1936年世界で初めて人工雪を作り出すことに成功した「雪博士」こと中谷宇吉郎博士の自然科学書。
北国の雪害に関する話にはじまって、雪が空から地上に降ってくるまでの生成過程を雪の形状から解きあかし、研究の進め方と実験結果をグラフと図表をまじえて解説していく、とてもシンプルな内容の本。
しかし、読み終わったあと、静かな感動に包まれること間違いなし