電子書籍
高野秀行ならではのブータン
2015/12/29 13:18
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投稿者:boot_cool_ace - この投稿者のレビュー一覧を見る
2012年の発売直後に一見し、先日再読。発売から約4年経っているので、現状とは多少異なる部分もあるかもしれませんが、それでも生き生きと色鮮やかに高野氏ならではの目線から語られるブータン。ぐいぐい引き込まれて、一気に読み上げてしまいました(2回目ですが…)。
ブータンはGDH(国民総幸福度)が世界1であることで知られていますが、なぜそうなのかがよく分かる一冊です。政府高官(日本でいうところの国家公務員キャリア)ですら、純粋な目をして国王に信頼を寄せている、そんな国、なかなかないと思います。また、荒れ果てた荒野が一夜にして雪に包まれて桃源郷の様を見える描写にとても心惹かれました。
生物多様性という考えについても本書では割と深く触れられており、自然をそのままの状態で残すことがどれだけ大切で、どれだけ大変なのかについても学ぶことができました。
高野秀行氏が好きな方だけでなく、多くの方に読んでいただきたい一冊です。現在ではブータンについてドラッグ汚染が激しいと報道されることがありますので、今一度高野氏にはブータンへ足を運んでいただき、最新版ブータンの情報を記していただきたいです。
紙の本
GNHの意外な裏側
2012/06/11 13:08
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:インザギコ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ブータン好き(行ったことないけど)必読! と思い、読んでみた。
高野の強みは体当たり取材。自分の目で見て、自分の耳で聞いたことを咀嚼して文章にする。だから主観もかなり入る。高野の主目的は雪男を探すこと。なんてったってブータンの公務員が「わが国には未知の動物はいません。でも雪男はいますよ」と堂々と言い放つのである。雪男は未知の動物じゃないんだ(笑)。
雪男に出会うべく、知人からブータンの現地調査を委託してもらった高野、さっそくブータンのエリート官僚など旅のお供もつけてもらい、ブータンのフィールドワークに適した場所を見つけるとうお題目の許、雪男を探す旅を始める。
高野はブータン政府の許可が下りているから、かなり自由に各地を訪れることができた。が、事前にかなり詳細なスケジュールを提出しなければならず、予定より長く滞在するのは基本的にNG。要所要所で関所があって、そこを通過しなければならないのである。ひとつの国とは思えない。
最後のほうで高野は、実はブータンには自由がないのではないか、と疑問を呈する。政府がすべて決めてくれるが、それが(とりあえず)国民の意思と利益にかなっているので、自由がなくても不自由しない。むしろ自由がないほうが楽なのだ。皮肉にも、それが「世界でいちばん幸せな国」たる理由なのではないか、と。民主主義が成熟してくると、選択肢が増える。選択肢が増えるというのは、ときには害でもある。最善の選択肢を選び取るには、選び取る側の人間の成熟度が大きく左右する。それに、自分で選んだら、自分で責任を負わなければならない。幸せになるのも自分のおかげなら、不幸になるのも自分のせい。民主主義もなかなかしんどい。
そういう意味で、ブータンが半鎖国政策をとって環境を維持しつつ、発展をどう遂げていくのか、興味津津だ。雪男のみならず、ロバのような不思議な生き物を目撃した、という人がまだたくさん実在するような国である。発展とともにこういう民話がなくならないことを切に祈る。これも大切な文化なのだから。
絶大な人気を誇る王様は、高野曰く「日本で言うならジャニーズ事務所所属の全タレントと高倉健とイチローと村上春樹を合わせたくらいのスーパーアイドル」。ジャニーズタレント以外はアイドルかどうか疑問符がつくが(笑)、イケメン国王の人気はたしかに高い。個人的には猪木に似ていると思っているのだが、この猪木国王は全国行脚して土地の境界線なんかの裁定もしてくれるんだそうだ。そこまで国王がするの!? とびっくり。前代の国王も賢王だった。頼れる理想の指導者のひとつの例だろう。
とりあえず、日本から直行便が出ないかな~。
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今、最も旬な国といえばブータン。その国をタイトルにした本が溢れているが。そこに敢然と殴りこみをかけたのが「幻獣ムベンベ」等でお馴染みの高野秀行だ。
と、言うことで当然高野が書くのだから類書にあるような直球のブータン礼賛であるわけが無い。だが、何と彼は、ブータン政府と生物多様性プロジェクトを行う友人の会社の特別顧問としてプロジェクトの先遣隊を仰せ使い、そこでブータンの伝統知識=TK(Toraditional Knowledge)調査に出かけたのだ。つまり政府公賓扱いなのだ。
それだけを聞くと「あれっ、何時もの高野と違う」と思うだろうが、実はTK調査と言いつつ興味の対象は雪男なのだ。ブータンの生物多様性センターの受入れ側担当の主任研究者が「雪男なら居ますよ。私の遅々が若い頃に雪男を捕まえた経験がある」と云うのだ。主任は英国バーミンガム大学へも留学した経験のあるエリート科学者なのだ。これは凄いではないか。
そう高野のTKとはブータンの生物多様性研究を隠れ蓑に、ブータンの奥地まで旅が出来ることを利用してブータンの雪男を探そうというものなのだ。やはりこうでなくては高野じゃない。
まさかブータン政府も生物多様性のプロジェクトで訪問した人間が帰国後雪男で本を書くとは思いもしなかっただろう。と、思ったら実はブータンの受入れ側のトップである農業大臣は高野のことを「アマゾンに行ったりした作家だろ」と看過していたというのだからブータン恐るべしかもしれない。
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ブータンの国王はすごいですね。全国各地を自らの足で歩き回り区画整理をしたり徴税の特例免除を決めたりと・・・。
そして環境立国と文化保護の政策もダライ・ラマの理想を追求する形で独自の発展を遂げて成功している。
だてに世界一幸福な国といわれているわけではありませんね。
高野さんのこういった未確認生物(本作では雪男)を追いかけながらも世界の辺境各地を描写してくれる旅行記は最高ですね!
ブータンのいい面だけを取り上げて悪い面はあまり書かずに隠しているのかもしれませんが、それでも是非ブータンに一度足を踏み入れてみたくなりました。
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ブータン…。未知の国であり、憧れの国。素朴で柔和、しかし、外からのものを受け入れないところもある。ますます行ってみたくなった。
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高野さんがなんだか久しぶりに一つの旅を取り上げた一冊を出した気がします。やっぱり新しい経験をベースにした本は面白いですね。最近流行りのブータンですが、GDHって一体どんなものなのか、一体どんな国なのか、幸福を掲げられたときになんとなく感じた違和感みたいなものが解けて行ったような気もします。もちろん笑いも忘れず楽しく読める一冊でした。
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ムベンベ、イスラム飲酒紀行の高野さんのブータン紀行。ブータン政府の公式プロジェクトである生物多様性調査、という名目で雪男を探しに行くのです。
その活動を通じて、ブータンという国がどういう風になりたっているのか、そこにどんな人達がどう暮らしているのかを、なんだかとってもうらやましい感じで描く。
守ろうとするもの、発展しようとするものを、みんながわかっている印象です。豊かさとは選択の多用性だという話がありましたが、逆にブータンは選択肢のなさから幸福を見出しているようです。僕らの価値観では、それは幸福に見えないかもしれないけれど、ブータンはそれを「選んだ」国だと。あれ、雪男の話がどっかに行っちゃった…。
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われらが高野さんがあのブータンに行く。面白くないわけがない。目的がイマイチよくわからないところがちょっと不満だけど(依頼された調査って具体的に何をするの?「雪男」はどうなったの?)、高野さんが見て感じて伝えてくれるリアルなブータンの姿が説得力十分で、ま、それはどうでもいいかという気になる。
少し前から話題のブータン。あの国王夫妻も非常に鮮烈な印象だった。懐が深そうで実にきれいな合掌と礼拝をする若き国王と、凛としたまなざしの夫人の姿に、静かな威厳と温かさを感じた。
しかし、マスコミの「幸福大国ブータン」という取り上げ方にはすごく違和感がある。「物質文明を知らない素朴な人たち」というステロタイプな見方以上のものが感じられない。「私たちの忘れていたものがここにある」的な視線は不遜じゃないかと思う。
高野さんが描くブータンはそういうイメージからは遠く離れている。現在の姿は、中国とインドという強大な国に飲み込まれずになんとか生き残ろうと、知力を尽くして構築されたものだということを見出していくのだ。英明な前国王が定めた方針を官僚(という言葉はそぐわないなあ。お役人って感じ?)が血の通った施策で実にうまく機能させていることを、高野さんは村を回る中で実感していく。多様な環境を守っていくという点では、日本など足元にも及ばないほど進んでいて、それは決して「素朴な実践」などではなく、文明観に基づいた自覚的なものだというのだ。
ブータンが敬虔な仏教国であることと、国の規模がとても小さいことが、こうしたことを可能にしていると高野さんは考える。仏教とロハスは相性がいい。国王自らが辺境の村を歩いて回れる(これには驚いた!)ほどの国土である。言語の違う多民族を、仏教の教えと国王への崇敬の念で束ね、押し寄せる物質文明と対峙している国、というブータン像が浮かんでくる。
そもそもブータンが半鎖国状態にあることもわたしは知らなかった。そのやり方はしたたかだ。学校は無料で、英語で教育を行い、優秀な若者をどんどん海外に送り出す。そうやって科学文明の良い部分を取り入れつつ、外国の人や物が流入することは厳しく制限している。日本をはじめアジア・アフリカのほとんどの国が圧倒的な西欧文化に屈して同化していった、その轍を踏むまいという強い国家的意志があり、それがエリート層を中心に国民に共有されている。
高野さんは「エリート達の純朴な笑顔」に驚く、と繰り返し書いている。どこの国でもエリートになればなるほど、国を憂い、批判し、皮肉で不機嫌になるものなのに、と。そして、ブータン国民の幸福感の源は、実は「選択がないこと」ではないかと書いている。これには唸った。心の拠り所は仏の教えであり、そこに迷いはない。国土は小さく手にできるものには限りがある。つまり精神的にも物質的にも「不自由」であり、選べないから葛藤もない。うーん…。「選べる」私たちはどこまで行っても十全な幸福感とは無縁なのだな。そのことをあらためて感じた。
終わりの方で、著者はある懸念を書いている。ブータンはテレビを一般に導入しようとしているというのだ。テレビによって都会���憧れ「仕事のある田舎から仕事のない都会に出て行く」アジアの若者を見てきた高野さんは、テレビがこれまでのブータンの有り様を大きく変えるのではないかと危惧している。その気持ちはよくわかる。山また山、徒歩で何日もかかる村々の家にテレビがあって、ニューヨークの街かなんかが映し出される…なんともシュールな現実だ。
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表向きは生物多様性の調査、実は雪男がいる、というちょっと不純な裏の動機を秘め、ブータンへ乗り込んだ著者が、村々をめぐり珍道中を繰り広げながら人々にインタビューをしていく。
現代に生きるブータンの人々の暮らしぶりが、おもしろおかしく生々しく伝えられる。
語り口は軽妙で読みやすく、さらっと読めます。
ブータンは世界の国々とは、別の進化をしている「未来国家」なのではないか、
でも、私たちはいくら時間を費やしてもブータンには追いつけない、あるいは戻れない、
という示唆には考えさせられる
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最初は、高野さんは本当にいつでもバカだなぁ・・・と笑っていたけれど、意外にもかなりマジメな本だった。
特に、同行していたお役人の若い衆の、素晴らしい気の利かせようにはぐっときた。こういう人たちが国の将来を真剣に考えて、自分の利益より国の行く末を優先してモノを考えてるとか、まさに桃源郷。汚れた国に住んでる身としては、なんかの冗談かと思ってしまうほど。
そして、日本でも大フィーバーを起こした、あのハンサムな王様は、ブータンでもものすごい人気なのだそう。。。やはり。。。王様とお妃様の崇高さにしても、本当にこんなに素晴らしい人がいるのかというような気がしたものだ。
ブータン、行ってみたい気がしてきた。
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258ページの
高野秀行がこれまで見た
アジア・アフリカの国の道筋と
自由に苦しまない幸せの国ブータンの比較が
高野秀行の実体験からの考察がなされており
すばらしい
ブータンが手放しにいいかというと
そうではないかもしれない
でもそんな国があるというのが
なんだか幸せじゃないか
二村さんにどんな報告をしたのか
気になるが
今回は未知の生物ものとは
一線を画すエンタメノンフ
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やっぱり高野さんの本は、なんだか優しい。
今回は、GNH世界最高の国家ブータン。
また秘境にズンズン分け入って、現地の人たちとグイグイ酒を飲む。
その行動力には毎回驚かさせるんだけれど、もっとすごいのは毎回その土地の言葉をしゃべれるようになってしまう事。
一緒になって酒を飲めるくらいにはマスターしてしまう。
一体何か国語しゃべれるんだろう。
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話題のブータン秘境見聞記。私は雪男にあまり興味がない。しかし読むほどに幻の生物探求に引き込まれる。
のろのろ亀さんが、気がついたら一回りしてきた私たち(?)のような汚染された先進国の一歩前にいて、説得力あるそのパワーに近寄りたい・・というか知りたい・・という気分の昨今、ぴったりの本である。
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バイオベンチャーの代表、二村氏からブータンの生物資源探索のミッションを受けた高野氏。最初はあまり乗り気ではなかったが、ブータンにはイエティ(雪男)というUMAがいるとの情報で色めき立つ。
ノープランで現地に入り、道中、おばちゃんの猛烈なお酒の接待に二日酔い。高山病で死にかけるが、ブータンのあまりの桃源郷さに天国を感じ、死を受け入れ始める。
これほどブータン人に世話になる人はいないのだろうが、これこそ高野氏の為せる術。
インドと中国に境を接しながら、未だに半鎖国的国家なるブータン。
西洋医学と伝統療法。国家主導の経済発展と鎖国的体制。ダブルバインドな要素を持つ国家でありながら、登場するブータン人は皆とても幸せなのだ。
これまでのUMA探索本とはやや趣を変え、辺境ハンターならではの国家観や、比較文化論が語られ、興味深い。新たなテーマになるのだろうか。
中尾佐助「秘境ブータン」(岩波現代文庫)も読みたい。
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あいかわらず楽しげにバカだなぁ~
2012.8.21