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紙の本
読者により生み出されたジャンル
2011/02/27 01:02
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
修士論文をベースにしたライトノベルの来歴に関する分析本。主に90年代の黎明期、00年代前半の爆発期、00年代後半の越境・拡大期について、新聞、雑誌、評論などの記事をベースに、いかにしてライトノベルが一般化するに至ったのかをひも解いている。
大まかな論旨は次の様になろう。
90年代にゲーム・アニメなどにおけるファンタジーの基本設定を前提とした作品群が、SF・ファンタジー・ジュヴナイルなどのジャンルに散見されるようになる。これを受けて、各ジャンルのコミュニティを作る読者たちは、それまでの文脈で語れない前述作品群を切り分け、名付けようとする。このときの候補のひとつとして登場したのがライトノベルだ。そして出版社は、ここに潜在的な市場があることを嗅ぎ付け、様々な作品を出版していく。
これらの名前のないジャンルの作品を愛読書として育った人々が、00年代前半に作家としてデビューし始める。彼らはそれまでの流れを受け継ぎ、独自のスタイルを確立していく。彼らは当然このジャンルに対して肯定的であるため、このジャンルを宣伝していく。その時に定着したのがライトノベルという表現だった。そしてこれを出版社が後押しして、どんどん拡大していく。
00年代後半、ライトノベルで育った作者たちの中には、一般文芸の方向へ進出していくものも現れ始める。そして、一般文芸における文学賞を獲得するものも現れる。いわゆる越境作家と呼ばれる人々だ。出版社は彼らを前面に押し出し、これまで限られた市場だったライトノベルを、一般文芸の読者たちにも売り込み始める。
ここには活字離れと言われ読み手を失いつつあった一般文芸も、読者を連れた新たな書き手を喜び、文学は芸術だと言う純文学的見地からの葛藤を孕みながらも、大筋で受け入れていくようになる。そしてさらに新たな市場を求める出版社は、ライトノベルを児童文学方面に回帰させるようにもなる。
時代時代の切抜きを列挙し、そこから当時の空気を汲み取っていく試みは面白いと思う。ただ、書き方として、「おわりに」に書かれているような内容を「はじめに」で示して欲しかった。学術論文は、最初に結論がないとその後の内容が分かりにくい。結論が初めにあるからといって続きを読まないようなことはないので、出し惜しみのあらすじみたいな書き方はやめて欲しかった。
また、盛んに”力学”という単語が使われるが、著者が感じるほどの力学は感じなかった。どちらかというと、ライトノベルは読者の違和感から発し、その読者が作家になることによってジャンルとして確立していったのであって、出版社はその後を追ったに過ぎないという印象を受けた。もし、著者が力学の構図を重視するのであれば、その構図を図示するなど、分かりやすい表現をしていただければありがたかったと思う。
紙の本
ライトノベル史の参考文献集
2011/02/21 18:26
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:エリック@ - この投稿者のレビュー一覧を見る
いわゆるライトノベルのこれまでの歴史と、同ジャンルに「ライトノベル」という呼称が定着するまでの過程について詳細な解説が収録された書籍。
著者後書きにある「大学院の修士論文が本作の元となった」という記述のとおり、作品は全編論文調であり、各種引用・出典記載に関しても様式面で大変統一感のある内容となっている。
普段論文を読みなれている人には、ニヤリとする仕様と言えるだろう。
このライトノベルというジャンルは、かつては書店業界ではジュニアノベルと呼ばれていたり、出版社によってはティーンズノベルと呼ばれていたり、はたまた、それらは呼称が異なる同一ジャンルかと思いきや、よくよく見ると微妙に対象範囲が異なっていたりと、定義付けするには、実のところ難しいジャンルとなっている。
作中の引用を用いれば、『人によっては日本最古ライトノベルは源氏物語だ』、という「極論」も出てくる始末であり、しかも、その「極論」と言ってのけるだけの証拠が実は誰の手元にもない状況が続いている。
実際のところ、本作における著者のコメントにもあるが「ライトノベルとは何か」という疑問に対しては完全回答が今なお存在していない。
本作は、普段何気なく手に取っている、一般にライトノベルという言葉に網羅されているジャンルの書籍についての一考察を示している作品だ。
内容としては、知識として既に我々が持ち合わせているものもあれば、通常は目にすることのない所から話を引用され、新たなる発見があったりと、思索を深めるに参考となる要素が多々あった。
正直なところ、個人の趣味レベルでは、ライトノベル周辺の雑誌はともかく、各種新聞媒体の記事やジャンル外の専門誌までは拾って目を通すことなど不可能であるため、大衆紙に見る一般的な目線としての「ライトノベルの扱いと変遷」が見て取れる本作は、興味深い。
敢えて苦言を述べるとすれば、書籍タイトルが「ライトノベルよ、どこへいく」ということで、著者の考える方向性や持論が後半展開されるのかと思いきや、最後の最後に読者に対して疑問を呈するだけで終わっており、結論が全くないことについてだろう。
論旨は明確に『(前略)「ライトノベルはどこからきて、どこへいこうとしているのか」を検討する必要があるだろう。本書が目指しているのはまさにそこなのだ。(本編P9より一部抜粋)』とされているものの、それに対応する結論が『さあ、ライトノベルよ、どこへいく。(本編P159より抜粋』では、論文として読むには画竜点睛を欠いていると言わざるを得ない。
もっとも、後書きを読んだ中で、その点は著者自身も反省要素として自覚している様子もうかがえるが、しいて挙げればその点だけが気になった。
評するに、「ライトノベルを面白く読む」ための材料としては優れた作品。注意点は、本作自体は「面白いライトノベル」ではないため、面白く読める本を求めているのであれば、本著以外を当たったほうが無難だろう。
ジャンルに対しての理解を深めたいということであれば、一つの手がかりを与えてくれることは間違いない。
興味のある人は是非。
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