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紙の本
そろそろ方向転換してはどうか? 気になるストーリー展開
2007/12/24 23:32
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
チャイコフスキーの有名な作品に『イタリア奇想曲』というオーケストラものがあった。イタリア幻想曲とはそれを意識して命名したわけではなかろうが、随分派手なタイトルである。貴賓室の怪人というサブタイトルから、あの豪華客船『飛鳥』の続編だと想像がつく。
豪華客船はイタリアを訪れる。欧州には行ったことがなかったが、全編を通じてまるで観光旅行記録を読んでいるような気がしてきた。まさに、旅情ミステリーの面目躍如たるものがあると思った。
訪れる場所や事件の発生場所などもイタリアの観光地である。サービス精神満点ではないか。先日、テレビの美術番組で大理石の採石を取り上げていたが、そこも登場するなど、美術愛好家への気遣いもなかなかのものである。
この内田康夫の浅見シリーズで鼻についてきたのが、ストーリー展開である。登場人物、舞台となる場所、いずれも興趣をそそるのであるが、その解決がいかにもお仕着せと辻褄あわせで終わってしまっている。これだけの材料をそろえているのだからもう少し盛り上げても良いと思うのだが、如何にも時間切れでお仕舞いですといわんばかりのフィナーレである場合が多い。
もともと私は内田小説の論理性に面白みを感じたからこそ読み始めたのであるが、最近はそこに粗さを感じてしまう。よく内田氏が巻末の解説で語っているように、結末を考えずにストーリーを展開していくという。この手法は当然プラス面とマイナス面がある。プラス面は結末を考えないのだから、かなり型破りな展開もありうるので、波乱に富んだ予測ができない面白さが出てくる。一方でマイナス面は、かなり散らかし放題の展開を如何にまとめていくかだが、これが最近無理な収束の仕方になってはいないだろうか? 自然な流れからは離れてしまい、偶然やキーとなる人物が終末になってから唐突に登場したりする。どっちもうまくまとめるのはさすがの内田氏をしても無理が出てきている。
旅情ミステリーもいつもどおりに楽しめるのは、内田氏自身が手間をかけて現地に赴いて取材をしているからであろう。浅見家をはじめとする常連も読者に安心感を与えている。ここまで来ると、妙に変化をつけて全体が崩れるのを恐れる気持ちは分かるのだが、別のキャラクターもあるので、思い切った方向転換をしてもよいのではないか。
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