紙の本
巻末年表を使って何度も読み返す
2006/06/14 11:43
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投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ナポレオン戦争を描いたトルストイの不朽の大作の新訳、第三巻は第二部の後半3,4,5篇を収める。フランスとの講和条約が結ばれ、表向きは友好関係が結ばれている時期である。物語としても平和な部分であろうか、登場人物たちの恋、結婚の話が展開する一巻である。
若者たちはパーティなどで自由に好みの相手に近づくことはできるものの、いざ結婚となるとそれほど自由ではない。この巻のコラムにもなっているが、このころのロシア貴族たちは経済的に苦しく、多くの持参金をあてにできる相手との結婚を親がのぞむことも多かったからであろう。そういった制約もある中、「恋に恋する」ようなナターシャの若い心に影響し、影響される男たち。華やかな舞踏会や劇場の情景、田舎での狩や、クリスマスのお祭り騒ぎなどの情景が鮮やかに描かれる中に、登場人物たちの心の動きもきめ細やかに書き込まれている。
この第三巻まで、巻末にはその巻までの年表がつけられている。登場人物の節目的な出来事と、関連するヨーロッパでの歴史的出来事の年表である。どのできごとあたりまでが第一部なのか、さらには親切に文庫の各巻がどこからはじまるのかが記されているので、これまでを振り返るのにも便利である。寛政の改革、歌麿死去などの日本の出来事もちょこっと入っていて、「そのころ日本は・・」と想像をつないでくれるのもちょっとしたおまけとして面白い。
最終巻まで進めば、この年表だけであらすじを読んだ気になる・・・かもしれないが、現在進行形で進む心の変化、描写の味わいは、本文を読まないと伝わらない。何度も何度も読み返して味わうために、年表でその場所を探し出して再訪して読み返したい。
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(2016.04.05読了)(2016.03.27借入)(2008.07.04・第3刷)
全6巻の第3巻を読み終わったので、これで半分読了です。予想した以上に読みやすいし、面白い物語です。
1907年の6月にナポレオンとロシア皇帝アレクサンドル1世との間に講和条約が結ばれたので、この巻は、とりあえず平和な状態の1912年末までが描かれています。巻末では、嵐の予感がほのめかされていますが。
アンドレイ、ナターシャ、ニコライ、ソーニャ、ボリス、アナトール、多くの若者たちの恋愛、結婚、等が描かれるとともに、貴族たちの財政事情やパーティ、ダンスパーティ、オオカミ狩り、クリスマス祭の仮装での訪問、オペラ鑑賞、等の生活ぶりが描かれています。
結婚は、貧乏人同士は、望ましくなく、財産や家柄を目当てにというのは、やむを得ないことなのでしょう。財産目当てとはいっても、相手の器量もいいに越したことはないので、その辺に目をつぶるかどうかは、当事者の考え方次第でしょう。
エレンは美貌でピエールを射止め、パーティを主催して、満足のいく生活を送っているといえるでしょう。ピエールは、妻の奔放ぶりに手を焼いていることでしょう。
ボリスは、ジュリーを射止めました。実利をとったということでしょう。ニコライもジュリーを勧められたけど、愛をとって、ソーニャを選びましたが今後どう展開するのでしょうか。
アンドレイは、ナターシャにおぼれかけますが、父親が、結婚まで一年待ちなさいといったがために、もうすぐ一年というところで、アナトールとナターシャの駆け落ち事件に出会うことになってしまいました。アンドレイの父親は、アンドレイとナターシャの恋の行方を予測していたのでしょうか。ナターシャは、アンドレイとよりを戻すことができるのでしょうか。
今後の展開がいろいろと気になるところです。
第二部第三篇
自分の領地に戻って、自分のことだけにこもったはずのアンドレイが、宮仕えの仕事に戻って意欲的に働き始めたと思ったら、思うように行かず、舞踏会で出会った、ナターシャと恋に落ちます。婚約して、一年後に結婚ということなのですが……。
第二部第四篇
ニコライとナターシャの兄妹の章になっています。
狩猟犬を100頭以上も使ったオオカミ狩りが描かれたり、クリスマス祭での仮装集団が描かれたりしているので、ロシア貴族の生活の一端がわかります。
お金がないので、ニコライには、金持ちと結婚してほしいと母親は願っているのですが、ニコライは納得できません。
ニコライは、以前から気に入っていたソーニャとの結婚を決めます。
オオカミ狩りの場面では、ニコライかナターシャのどちらかによからぬことが起こるのじゃないかと、ドキドキしながら読みました。
第二部第五篇
結婚準備のためにモスクワにやってきたナターシャとその父親は、アンドレイの父親と妹のマリアさんのところに挨拶に行きますが、父親にはあってもらえず、マリアさんにも快く思われていないことがわかりました。マリアさんは、心映えのいい人のように描かれていたけど。
ナターシャは、ピエールの妻のエレンの兄であるアナトールの魅力にとらわれ夢中になり結婚を約束していたアンドレイに別れの手紙を書き、アナトールと駆け落ちしようとしますが、未然に阻止され、失意のどん底に落ちます。
恋に夢中になるというのは、こんな感じなのでしょうね。アンドレイは、なぜ6か月もナターシャを放っておいたのでしょうね。まるでこうなるのがわかっていたような感じがなくもないのですが。
【目次】
『戦争と平和』系図
主要人物紹介
第二巻のあらすじと第三巻の展望
第二部
第三篇
第四篇
第五篇
『戦争と平和』年表
●人生は終わった(20頁)
自分は何ひとつ始める必要はない、自分は悪をなさず、悩まず、何ひとつ望まずに、自分の余生を過ごすべきなのだという結論だった。(アンドレイ)
●フリーメーソンの三つの目的(63頁)
第一に、神秘の保持と認識、第二に、神秘を受容するための自己の浄化と矯正、第三に、その浄化を目指すことを通じての人類の矯正。
●学問(74頁)
人間の学問はすべてを細分する―理解するためにだ、すべてを殺してしまう―よく見るためにだ。
●三元素(74頁)
三元素―物の三つの根元―は硫黄、水銀、塩だ。
●すんでしまった(272頁)
「こんな気がすることあるかしら、これから先は何も―何ひとつありゃしない、いいことはみんな、もうすんでしまった、そして、うんざりするっていうより、侘しくなることが?」(ナターシャ)
●現実逃避(320頁)
ピエールには、すべての人が現実から逃れようとしている兵士のように思えた。ある者は名誉欲で、ある者はカードで、ある者は法律の作成で、ある者は女で、ある者はおもちゃで、ある者は馬で、ある者は政治で、ある者は狩猟で、ある者は酒で、ある者は国政で。
●アンドレイとアナトール(419頁)
彼女は以前とまったく同じ強さで、アンドレイに対する自分の愛を思い起こしたが、それと同時にアナトールをも愛しているのを感じるのだった。(ナターシャ)
≪どうしてこれが両方一緒になれないんだろう?≫
☆関連図書(既読)
「光りあるうちに光の中を歩め」トルストイ著・米川正夫訳、岩波文庫、1928.10.10
「イヴァンの馬鹿」トルストイ著・米川正夫訳、角川文庫、1955.08.05
「トルストイ『戦争と平和』」川端香男里著、NHK出版、2013.06.01
「戦争と平和(一)」トルストイ著・藤沼貴訳、岩波文庫、2006.01.17
「戦争と平和(二)」トルストイ著・藤沼貴訳、岩波文庫、2006.02.16
(2016年4月9日・記)
(「BOOK」データベースより)amazon
妻の死後、田舎に隠棲する傷心のアンドレイを甦らせたのはナターシャだった。だが若さゆえの過ちから少女は誘惑者の手に。苦境を救おうと奔走するピエールが冬空に見たのは、ナポレオンとの再対決を予感させる、巨大な一八一二年の彗星だった…。
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ナターシャはトルストイが“全力をこめて創造した魅力的なロシア女性像”らしい。
だけど、おバカさんにしか見えない。そこが面白いんだろうな。
いろんな恋愛の形が書かれている。
レビューは最終巻で。
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1、2巻を読んでいた時は、ピエールの良さがあまりわからなく、アンドレイやボルコンスキー公爵が何故彼を気に入ってるのか不思議だった。
鈍いし単細胞ではあるけれど、誠実であることは確かだ。アンドレイとナターシャの婚約を知って自分の気持ちに気づき、ナターシャとアナトールの駆け落ち騒動を鎮めながら心が揺れる。
ピエール以外にも登場人物の心の動きがありありと描かれ、やはり名作だと思う。
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大戦争の合間での貴族同士の華やかで打算的(一部直情的)な恋愛劇。いかにも共感するところ無さそうな設定なのにぐいぐい読めた。後半戦が楽しみだ。、
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本巻はついに恋愛小説編に突入!
妻を亡くしたアンドレイ・ボルコンスキー公爵(31)とロストフ伯爵家の次女ナターシャ(16)との恋愛、そして同じくナターシャの兄のニコライといとこのソーニャ(18)との恋愛がメインで語られている。
この時代の貴族の結婚というのは、財産目当てというか、いわゆる政略結婚が大きなウエイトを占めている。特に、貴族の男性にとっては持参金をたくさん持ってくる金持ちの貴族の娘と結婚することが一番の幸せだと言われていたんだね。
ロストフ伯爵家は財政が火の車なので、長男のニコライにはぜひ金持ちの貴族の娘と結婚して欲しいと両親は思っているのだけど、当のニコライは無一文(これは言い過ぎか)の娘であるソーニャと両思い。う~ん。どうなるんだろう。
それにしても、本巻で描かれる16歳のナターシャと18歳のソーニャの可愛らしさ、美しさは文章から溢れんばかり。男性読者にとっては眼福ですね。
「文章だから見えるはずないだろ」って突っ込みが来そうだけど(笑)。
見えないけど、頭の中でありありとイメージされるんですよ!凄まじく美しく可憐な美少女が!
このあたりの描写の素晴らしさは、「さすがレフ君やるじゃん!」って感じです(ロシアが誇る大文豪トルストイをレフ君呼ばわりする大馬鹿者がここにいます←)。
という訳で、やっとこの超大作『戦争と平和』も各巻約500ページ(しかも細かい文字がページびっしり)の3冊を読み終え、全体の半分が終わりました・・・。
よし、この調子でサクサク読んでいこう!(白目)
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私が読んだのは、新しい「藤沼 貴訳」の方です。
どうして、みんな、ナターシャが良いのでしょう。どうも、私は、世間知らずなわがまま娘のような気がして、イヤですね。
マリアやソーニャには、けっこう感情移入して読んでしまいます。マリアは、一生を老いた父と、母のいない甥の世話ために捧げてしまうのでしょうか。ソーニャは、やっぱりニコライとは結婚できないのでしょうか。
それにしても、アナトールとエレンの兄妹は、本当にイヤなやつです。ピエールとエレンとの結婚生活は、今後、どのようになるのでしょう?
そして、時代背景的には、ナポレオンのフランス軍とロシア軍との対決が避けられなくなる状況です。4巻は、きっと、この長い物語の起承転結の「転」にあたる部分に入るのではないか、と思います。
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第二部第五篇まで。
ナターシャを中心に物語が展開。
ナターシャとアンドレイ。
駆け落ち事件と破局。
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ピエールがフリーメイソンに入信し、愛や美徳の探求を始めるも、どこか方向違いで自堕落な様子が滑稽に思えた。
対して、親友のアンドレイが多くの真理的なものを心得ていていながらも、世界に絶望感を抱いている様子が対照的な存在としての二人を如実に感じさせた。
ナターシャが多くの男性から求愛を受ける魅力的な女性として描かれているが、どのような意味を持つのか、奔放さ、無垢さ、溢れ出る生といった事柄が人間の上級の価値だと作者が言っているのだろうかと考えた。
それにしても、アナトールの誘惑に負けて破滅してしまう運命はやるせない。
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ナターシャみたいな若い派手な人には、一年アンドレイを待つことができなかったんだろう。それは愛じゃないと思うけどな。ソーニャみたいに静かに待てる人がニコライと婚約できてよかった。最初の、アンドレイがナターシャに出会う前と後で古木のナラの木の見え方が変わる場面は授業で昔読んだ気がする。
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ここ(3巻)まで来ないとこの本の良さが理解できなかった。1巻の時にさんざんに酷評したことを反省しているが、あの時点ではこんなに引き込まれることになるとは思っていなかった。この本は単なる小説ではなく、トルストイが考える戦争というものを表現している本だとやっとで理解した。ナポレオン戦争はナポレオンの英雄的な天才性によって勝ち進んだものではなく、戦争の中で一人の人間が担える役割や与える影響はたとえそれが皇帝であろうとも極わずかどころか皆無であり、人間の集団性とその中の個々人の動きの総和によってすべてが左右されるというトルストインの戦争観に全く賛成である。途中に入る訳者の解説も大変的を得ていて、本当に面白い。