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紙の本
「無数の人間の営みの総和が歴史をつくる」。歴史を、人間を感じる大作だが、「全部通して読まなくても良い」と著者は言ったそうである。
2006/11/22 11:54
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ナポレオン戦争を描いたトルストイの不朽の大作の新訳、全六巻の最終巻である。押し寄せた高波が去ってしまったかのように、疲弊したロシアの地にそれでも、静かな時間が訪れる。大きな歴史の流れから切り取られた、一つの戦争の物語。長い作品なのだが、歴史の中では一瞬でしかない時間、しかしその一瞬には多くの人の、さまざまな生きざまがあることを感じさせる、長くて短い、短くて長い物語である。
本編全四部の後には、さらにエピローグの1,2があり、エピローグ1では12年後の登場人物の姿が、エピローグ2では著者の歴史論がまとめられている。12年後の、戦争前とあまり変わらないかのように見える彼らの毎日は、「戦争がないことが平和なのだ」と語っているようである。しかし世界情勢はまだ動いていて、その数年後に起きるデカブリスト事件を予感させる情景も挿入されている。デカブリスト事件は作者がこの作品を書く契機となったと言われている。その関連性を示すためにも、このエピローグは必要だったのだろう。
「戦争と平和」という作品には、作者の歴史への想い、その中で生きる人間への想いが詰っている。それぞれの場面での情景や心理描写、著者の歴史や人生に対する考えなど、個別にとってもすばらしいものがあるのはもちろんであるが、それらがギュウギュウに詰めこまれてもまだ、微妙なバランスでまとまっている。完成した時に作者は41歳。熱も力もこめて書かれた作品であったと想像することは難しくない。 さまざまな場面での細かで鮮やかな描写を思い出すと、「無数の人間の営みの総和が歴史をつくる」というトルストイの歴史観がそこにあらためて実感されるのである。
この新訳には、登場人物の名称を簡略化・統一して表記するなどの幾つかの試みがなされていた。最終巻でも、あとがき・解説をQ&Aの形にし、ミニ写真アルバムを載せるなどの工夫がある。解りやすく、楽しく、この作品だけでなく、トルストイの全体像を与えてくれるものになっていると思う。特に「戦争と平和」執筆当時の肖像の眼光の鋭さは、当時の著者の意欲の強さを伝えているようで、ここに載せるのにふさわしく感じられた。
あとがきがわりのQ&Aで知ったのだが、トルストイはこの作品を「それぞれの部分に独立した価値があるから、全部を通読する必要はない」と言ったとか。新訳の力をかり、通読をしたのだが、そういう気楽な取りかかりかたもいいだろう。いろいろな読み方ができる、やはり大作である。
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