紙の本
大御所なんだけど、知らなかったです。本格ミステリの巨匠とのことです。
2017/05/30 20:48
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投稿者:たけぞう - この投稿者のレビュー一覧を見る
三番館シリーズと呼ばれる作品群の一つ。
星影龍三シリーズ、鬼貫警部シリーズと並ぶ代表群とのことだ。
鮎川さんは新人育成に力を注いだ作家としても名前が通っている。
取っ掛かりは鮎川哲也と十三の謎という書き下ろし推理小説シリーズ
である。その中に北村薫さんのデビュー作、宮部みゆきさんと
有栖川有栖さんの単行本デビュー作があるのだから恐れ入る。
鮎川さん監修だが、そもそもどうやって集めたのか興味の湧く
ところである。
この取り組みを受け継いで鮎川哲也賞が設立され、そこからさらに
加納朋子さんと貫井徳郎さんが出ているのである。興味があれば
ネットで見て頂きたいが、知っている名前がもっとあるはずだ。
正直に言うと、実はこれらの受賞作品群を読んで、はて鮎川さん
とはいったいどんな作品を書いていたんだろうと思って手に取った。
恥ずかしながら、名前を知らなかったのである。
いつもであればデビュー作や代表作を選ぶのだが、いかんせん
本屋であまりお見かけしない。
えいやっと本書にしたのだが、存外に面白くてびっくりした。
本格ミステリという用語のイメージが湧いた。
本書は五つの中編からなる。
「春の驟雨」「新ファントムレディ」「竜王氏の不吉な旅」
「白い手黒い手」「太鼓叩きはなぜ笑う」
殺人事件が発生し、無実の人が罪をなすりつけられる。
警察は真犯人の罠に誘導されている。では無実の人はどうするか。
そこで私立探偵の登場となるわけである。
だいたいこのパターンだが、無実の罪を晴らすというのは
精神衛生上リラックスできてよろしい。
本作を読んで一番気に入った部分である。
ミステリというと、猟奇的なものやどす黒い犯人心理に翻弄される
ものもあるが、私の趣味ではない。
設定や人物像で驚かすのではなく、純粋にトリックで勝負している。
そこに鮮やかさと潔さを感じた。
私立探偵のサポート役であるバーテンダーも非常に良い。
推理・洞察力に秀でていて、普通だとこの人が物語の解決役になる。
その場合、往々にして「こんなこと分かって当然でしょ」的に
上から目線になりやすい。この物語はそこの処理が抜群にうまい。
安楽椅子探偵であるバーテンダーを徹頭徹尾下手に配置し、
助言者に徹しさせるのである。解決はあくまでも私立探偵。
この組み合わせに好感を持った。
本格ミステリと呼ばれる本書には長所と短所があり、人間ドラマの
部分が希薄に感じるのは否めなかった。
心理描写や登場人物の人間像が魅力的とは言い難いのである。
でもミステリとしての出来が極めて秀逸である。
総じて良品であると感じるので、物語の重点をそちらにおいている
ものとして読んだら、素直に楽しめた。
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主人公が私立探偵でん?と思ったけど内容は本格。鬼貫とか星影ほどではないにしても不思議な状況の事件と鮮やかな解決が見事。バーテンの一言で事件の形がはっきり見えてくるあたりが良かった。
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『春の驟雨』
スカートを切り裂かれたと女に訴えられた男。その女らしき人物が風呂場で死体で発見される。なぜ風呂場だったのか?
『新・ファントム・レディ』
ドンファンの殺人容疑。彼を強請ろうとした強請屋が殺害された。ドンファンのアリバイを握る消えた女の秘密。
『竜王氏の不吉な旅』
スーパーで殺された男。強請屋の男にゆすられた竜王氏のアリバイ。強請屋の知り合いのホステスの最後の言葉。
『白い手黒い手』
楽器のセールスマンが呼び出されたのは幕張。しかし顧客の家は見つからない。幕張で起きた殺人事件のアリバイがくなった男。
『太鼓叩きはなぜ笑う』
殺害された強請屋の探偵。探偵の強請相手のリストノートの1部が破り捨てられていた。容疑者になった男の無罪を証明するために捜査をおこなう探偵の「わたし」。三番館マスターの行った実験。訪問者が訪れた順番とウィスキーの量の謎。
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4-
全体的にとても面白かったのだが、「白い手黒い手」だけ妙に唐突な展開で、会話文も噛み合っておらず、謎もいまいちな上、筋立も強引に感じられる。特に「竜王氏の不吉な旅」の切れ味鮮やかなラストの後に読むと、かなり物足りない。単純に発表順に並べたのだろうと思われるが、5編中の4番目にこれがあるのはあまり印象は良くない。
「よろめき」という言葉が頻出するが、三島由紀夫など読んだこともないので、それが流行語だったとは知らなんだ。今では当時の意味ではほとんど耳にしないが、「不倫」以降は死語か。
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元刑事の私立探偵が巻き込まれた事件を行きつけのバーのマスターが解決していくという安楽椅子探偵の元祖っぽい短編集。
『謎解きは〜』とかはこういうところから派生したんだろうけど、こちらのほうが好感が持てるし、トリックもわかりやすく普通に楽しめる一冊。
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三番館シリーズ。
やっぱり三番館シリーズ大好きです。
特に「竜王氏の不吉な旅」はラストが最高!!
全体的に文章も読みやすいしトリックも秀逸。
昭和感の滲む文章が、今読むとまた素敵なんですよね。
無性にバイオレットフィーズとギムレットを飲みたくなる作品です。
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私立探偵の足を使う捜査パートと微妙なへっぽこ具合とバーテンによる謎の解明という物語の構成のコテコテ感が良かった。クライマックスで犯人へビシっと証拠を叩きつける春の驟雨と竜王の不吉な旅と中華料理知識が楽しい新ファントム・レディが好き。
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意外性 ★☆☆☆✩
熱中度 ★★☆☆☆
読後感 ★★☆☆☆
印象深さ ★★☆☆☆
キャラクター ★★★☆☆
入手困難 ★★★☆☆
トータル ★★☆☆☆
会員制バー「参番館」のバーのマスターによる安楽椅子探偵シリーズの第1集。5つの短篇からなる。
○ 春の驟雨
デパートでカミソリ魔扱いを受けた須藤正樹の殺人の冤罪をはらすという事件。刑事弁護士から依頼を受けた私立探偵の「わたし」が,須藤正樹のアリバイを見つけ,被害者の亭主が真犯人であることを明かす。
参番館のバーテンは,ペンキの色と被害者がなぜ濡れていたかという謎について真相を明かす。ペンキは青く塗られていたのではなく,二度塗りされ別の色になっていたのであり,被害者が濡れていたのは,屋外で殺害され,雨で濡れたのを隠すためだった。シンプルな構造。
○ 新ファントム・レディ
「幻の女」をベースとした作品。殺人容疑を受けている増田謙介は,ナンパをし,中華料理屋にいたと証言するが,その中華料理屋には,そのようなカップルはいなかったと店員やほかの客が証言する。
参番館のバーテンは,ピンタンフールーという中華料理のデザートが串に3本しか刺さってなかったというところから,増田が本当にいた店を見つける。
○ 龍王氏ぼ不吉な旅
アリバイ崩し。古き良き時代の時刻表トリックという雰囲気。参番館のバーテンは,容疑者が電車内の騒ぎを録音しておき,聞いていたという真相を暴く。被害者の名前で犯人がキャバレーに通っていたことを最後でさらりと明かすちょっとした叙述トリックが隠し味。
○ 白い手黒い手
画家が妻を殺すにあたり,楽器店のエリートを罠にはめるというプロット。参番館のバーテンは,画家の両手がパレットを持っていたことから,日焼けの状態が違っていることを見つけ,画家のひとり二役のトリックを暴く。
○ 太鼓叩きはなぜ笑う
フーダニット。ゆすりやの財部を殺害したのは誰か。参番館のバーテンは,財部のいえの様子が分かるレストランの存在を見つけ,そのレストランを利用していた松崎というデスクジョッキーが真犯人であるという真相を見抜く。
第一集ということもあり,最初のあたりの作品は安楽椅子探偵という構成が生かしきれていないように思うが,「太鼓叩きはなぜ笑う」は,アイザック・アシモフの「黒後家蜘蛛の会」のような軽いミステリに仕上がっている。私立探偵の「わたし」と,各作品の登場人物のキャラクターが,ユーモアもありなかなかいい。鮎川哲也の作品の雰囲気は嫌いではない。ただし,トリック,プロットはそこまで面白いというほどでもなく…トータルでは☆2で。
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3番館シリーズの初編。
大体どれも1972年前後の作品なので、今では死語となっている表現がたまーにあるが十分楽しめた。言われてみればそんな表現あったな、と思える年齢の私なので、懐古主義的なのかも。若い世代の人には古すぎるのかもね。
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探偵の話を聞いたバーテンが真相を喝破するというアームチェア・ディテクティブもの。アリバイ崩しがメインで、多少の突っ込みどころはあるものの(「新ファントム・レディ」とか)、トリックそのものはどれもさすがというレベル。ただ、おじさん向けのユーモアミステリでもあるので、風俗描写やユーモアセンスの風化が激しい。今の感覚で言えば、不快でしかない描写が、ユーモアのつもりで延々続く。さすがにきつい。昭和のおじさんはみんなこうだったから、しょーがないんだけども。