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紙の本
大胆な仮説に研究社の熱が感じられる
2006/05/30 14:13
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
脳の機能の全体像を説明しようと、研究者が「予想脳」という仮説を提唱する一冊。
昨今の研究は細分化の傾向がかなりすすみ、個々の部分での知識は多様で膨大になってきている。著者の専門の脳の研究においてもそのとおりであるようで、多様化した膨大な知識をなんとかまとめられないか、と著者はこの仮説を考え出したという。
「予想脳」とはどんなものか、詳しくは本書を読んでいただくとして、「ヒトの脳は予測をし、実際におこったことと比較するもの」と考えてみると様々な現象が確かにわかりやすくなるかもしれない。仮説の話であるので、「であろう」という推測の言葉が多いのであるが、著者は実際にこれまでに取得されているデータとすり合わせる試みををこの本でも忘れていない。これまでの仮説では説明できなかった現象が説明できるとしたら、新しい仮説がより正しい可能性があるわけである。
あとがきに書かれているとおり、この本で展開される議論は「鉈で大木から仏像を削りだす作業」のようにたいへんおおざっぱである。であるからこそ、一般人も読んでわかる部分があるのであろう。また、こういう議論がもっとあってもよいと感じさせる、研究者のエネルギーがある。とかく日本人研究者は論文を書く場合も堅実なことに終始し、大胆に仮定を書き込む外国の研究者にアイデアのプライオリティを取られてしまう、ということが多かったように思う。こういう大胆な(しかし、地に足はしっかりついている)仮説をどんどんだして、専門外の眼にも触れさせてほしいものである。もっとも、専門外の読み手も、読むための知識を試されることになろうが。
門外漢の感想としては、「予測とのずれが少ないと快感、誤差が大きいと不快」というだけで行動を説明することにははまだ少し無理を感じた。これだけでは予測とずれのない、変化のない状態が最良と感じられると予測されるが、実際は変化のない生活に耐えられない、余計に刺激を求める、というのが現実の人間ではないだろうか。このような部分も考慮に入れ、さらに磨いていただきたいと思う。
神経ネットワークが脳をつくっていることのアナロジーで、脳のネットワークが社会をつくっているとの考えはさして新しくはないかもしれない。だが、脳の中の神経細胞の階層の延長として脳を、社会を捉えるということから、何か概念のブレークスルーがあれば面白いだろうと思わせる。いささかSF的ではあるが、「神経のネットワークが脳=個人」とするなら、「脳のネットワーク社会」であるヒト社会、あるいは地球が一つ上の階層の個人(のようなもの)であり、さらにそれがネットワークとなれば宇宙がさらに上の階層の個人(のようなもの)と考えられるのか?と発想(妄想かもしれないが)は広がっていく。そんな想像の楽しみも与えてくれたようである。
岩波科学ライブラリーシリーズには、中堅や若手の研究社が目をひくようなタイトルで執筆をしているものが結構ある。少々気負いが先行して、一般向けには難しい記述、論理が先走るところも感じられるが、それがかえって「熱」を感じさせることもあり、次にどんなのがでてくるのだろう、と期待させるシリーズである。若い仮説を、大胆に一般の人にもぶつけて欲しい。世の中も大胆な仮説を許容するゆとりがあれば、安易に急いでデータを捏造し業績をあせる事件などおこらなくてもよくなるのではないかと思う。そして一般人もむやみに感心するだけでない、理解する知識の力を持ちたいものである。
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