紙の本
橋本治のすごさ
2019/09/07 15:31
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投稿者:ひさ - この投稿者のレビュー一覧を見る
橋本治の小説のすごさは、登場人物のセリフにある。登場人物が思わずもらすセリフは、あまりにリアルで、一瞬、小説ということを忘れさせるほどである。彼は、なぜ、登場人物の気持ちがこんなに分かるのか。そんなの、小説を生み出した作家だから当然だろうという人もいるかもしれない。でも、そうだろうか。橋本作品を読めば、わかる。そこに、橋本の存在を感じないのである。作者の影を感じないのである。私は、橋本治以外にそんな作家を知らない。この本にも、その天才性が随所に表れている。
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短編集ですが、そのなかの「ふらんだーすの犬」
すごいです。
もしかしたら自分にもこうなる可能性はあるのか?
って思わせる、人の気持ちの奥にあるものを描くのの
天才です。。
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著者自身が自作解説で触れているように、「女にとって家とはどういうものなのか、女にとって母親とはどういうものなのか」がこの本のテーマであり、全ての主人公は女性である。(ただし、「ふらんだーすの犬」はちょっぴり例外ぽい)
「『蝶のゆくえ』と題される「女を主人公にした短篇集」を書くに際して、橋本は迷っていた。自分は女ではないので、「女のあり方」をそのまま肯定することが出来ない。−そして、その立場を容認してしまうと、女を断罪してしまうことにもなりかねない。」と留保しながらも、描かれた世界はリアリティに溢れている。私は橋本さんがこういう小説を書いてくれたことが、なんだか嬉しい。
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本を持たずに出てしまい、出先の古本屋で一冊購入。『仲よく貧しく美しく』も読んだし、久しぶりに橋本治の小説を選んでみる。巻末の橋本自身の自作解説をぱらぱらっと見たら、『生きる歓び』や『つばめの来る日』に続く3冊目の短編小説集とある。
あ~、あの「みかん」「あんぱん」とか、「ん」のつくタイトルの短編集の、続きの続きかと、ワンコインで買ってみる。
読んでみると…むかし読んだことのある短編集だった。が、せっかく買ったし再読。おぼえてる話と、おぼえてない話と。
巻頭の「ふらんだーすの犬」は、『We』で「ジソウのお仕事」を書いてる青山さんなんか、どう読むかなあと思う。
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女性心理を描いた6つの短編。いろんな年代の歪んだ、揺れるちょっと哀しい女性達が描かれている。最初の「ふらんだーすの犬」は子供の虐待を扱った内容でドキュメントのようなリアル感があってゾッとした。個人的には「ごはん」と「金魚」が好きかな。
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橋本治は、ああでもなくこうでもなくの、力の抜けて、かつ的確な時事評論で知ることになったのだが、これまで小説は読むことがあまりなかった。この2-3年、巡礼、リア家の人々、橋などの
オリジナルを書き下ろしているが、そのさきがけとなっているのが
この短編集である。
どの話も、短編の中に細部までの描写が張り巡らされており、この人のもつ、人に対する確かな洞察力に感服させられる。
児童虐待を扱った「ふらんだーすの犬」は、身勝手な親に捨てられ、虐げられるまでがリアルに描かれる。報道で見る児童虐待や、日常診療で犯人捜しに終始する野次馬的第三者目線ではなく、このような加害者・被害者目線での鋭い視線がこの作家の生命線である。
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限りなくリアルな虚構の世界。泣きたいのに泣けない。分かるようで腑に落ちない。男の人が書く普通の女の話。だけどなんだろう、音なのかリズムなのか色彩なのか、何かがおかしくて気味が悪い後味が悪い。でも嫌いではない。
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6小品から成る短編集。一番最初の虐待の話がインパクト大きくて、これが全編にわたるようなら物凄い出来かも!?と思ったけど、最終的にはそれ以上の出会いはありませんでした。作者の小説は初体験だったけど、いわゆる”小さい声”に注目されているような、なかなか焦点の当たりにくいところがテーマとして取り上げられているように感じたし、好感の持てる内容でした。
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最初の一編の、息ができなくなるような重さ。つらさ。酷さ。
他の短編も、最初のほどではないにせよ、生きることに向き合うからこそ、のしかかってくる悲しさや、どうしようもなく行き場のない苛立ちや、少しの滑稽さをこれでもかってくらいの表現で浴びさせられる。赤裸々すぎてつらいんだか、爽快なんだかわかんなくなってくる。
面白かった。
これからの時代を映しだす作品も、読みたかった。
ご冥福をお祈りします。
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老若の女性を主人公にした6作の短編小説集。収録最初の短編「ふらんだーすの犬」があまりに衝撃的で言葉を失う。
巷で繰り返される母親による子への虐待事件。報道を見るたびに思うのは、自分が生み育てた子をどんなきっかけで、なぜ虐待できるのかということ。それが本作品で少し理解できた。虐待までのプロセスが論理的で筋が通っている。加害者を許すことはできないけれど。
このリード作品のインパクトが強すぎて、残りの5作品も、何かとんでもなく不穏なことが起きることを期待して読んでしまう。が、描かれるのは日常の中のちょっとした非日常に戸惑いながら、再び日常を続ける女性たちだ。この展開こそが純文学作家の橋本治作品らしい。
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読書会課題本。柴田錬三郎賞作品。6人の様々な境涯におかれている女性たちを描いた短編集。表題作のようなものはなく、短編集全体を貫くテーマを表題にしたような感じである。その内容は、最後にある作者自身による解説で明らかにされている。各短編のストーリー設定のリアルさなどには感心したが、個人的にはあまり楽しめなかった。
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題名が小説ではありません。フランダースの犬が苦々しい強い印象の内容でしたのでそれ以外は淡々とした内容に思いましたが、ふとしたところがそういう思いもあったなと感じさせてくれるものでした。もしかして深いのかもしれない。
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短編6作品を収録しています。
「自作解説」には、本書に収められた作品のテーマは「女にとって、母とはいかなるものか。家とはいかなるものか」という問いであることが明かされていますが、いずれも女性たちの心のうちを冷徹に腑分けした小説になっています。とくに冒頭に置かれている「ふらんだーすの犬」は、児童虐待にいたった美加の心が鋭くえぐりだされていて、強い印象を受けました。
本書に登場する主人公たちは、もっとも若い「ふらんだーすの犬」の美加が23歳で、もっとも年上の「白菜」の孝子が57歳という設定になっています。「家」というテーマは近代日本文学の中心でしたが、著者はこのことを踏まえたうえで、本書では現代におけるそれぞれの世代の女性たちにとって「家」についての意識がどのような変遷をたどってきたのかということを、順番にえがいたのではないかという考えがふと心に浮かんできました。それがあたっているのかどうかはわかりませんが、主人公たちの意識のありかたをていねいに分析していく本書のスタイルは、著者のエッセイ作品のそれに近く、小説としてはやや生硬に感じられます。とりわけ「金魚」は、フランス文学の教授である父と、広告業界に身を置く息子、そしてこの二人の男性の妻の関係を、あらかじめそれぞれの人物が生きた時代のなかでの意識の形成過程を想定したうえで、著者が技巧的に配置しているような印象もあって、こうした話をしたいのだったら評論やエッセイでぞんぶんに展開してほしかったと、個人的には考えてしまいました。
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初めて橋本治さんの小説を読んだけれど結構好きだった。個性豊かな女性たちの内面への洞察力や理解力がすごい。内面の描写が巧みで日常風景を切り取った話なのに飽きずに読める。