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紙の本
100年以上前の地下鉄の生い立ちを描く
2015/03/08 21:34
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
地下鉄が誕生して100年以上がたつ。東京での大量公共輸送機関は、当時市電しかなく、市電はつねに満員で、しかも輸送力が貧弱であった。そのために交通事情は今とはひかくにならないほどひどかったようだ。その惨状を見て早川徳次は地下鉄を走らせることを思い立ったのである。
東京地下鉄道という会社を作り、浅草と上野の間で開業し、好評を博してさらに新橋を経由して品川まで走らせる計画であった。本書ではその辺りの苦労を描いているのだが、事実は事実でも、細かい点においては著者の想像が含まれている。
早川は政治家を志して、東京市長だった後藤新平をたより、門下に入って修行を積んだが、鉄道の事業を手伝ったことが契機となり、わが国初めての地下鉄事業を創業した。新橋までは様々な苦労、すなわち、地下鉄敷設の工事での苦難、市電やバスとの競争など事業上の苦労を乗り越えて、何とか新橋まで開業した。
ここで難敵五島慶太が登場する。あまり知られていないが、五島は、現在の京王、小田急、東急、京浜急行の全ての株主で、それらの私鉄線の山手線内への乗り入れを悲願としていた。その絶好の機会が地下鉄開業であった。東京高速鉄道という会社を作り、早川に対抗した。
早川の計画に割り込むように、新橋で相互乗り入れを迫ったのである。本書はその経緯を物語風に分かりやすく描いている。100年も前に現在の銀座線で激しい攻防があったことはもう誰も知らない。本書を読むと、現在我々が日々利用している地下鉄がどのように出来上がってきたかがよく理解できる。何事もパイオニアの苦労は並大抵ではないことも分かるのである。鉄道ファンならずとも是非一読することをおすすめしたいものだ。
ちなみに、東京メトロ銀座駅の丸ノ内線と銀座線をつなぐコンコースに、早川徳次の胸像が設置されている。コンコースを行く100年後の我々はそれが誰の胸像かは分からず歩いている。地下鉄の歩む道は今後も大きな変化があるかも知れない。100年後の東京と地下鉄の姿を想像するのもまた一興であろう。
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