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東日本大震災により失われた日常と、得るべき希望。再生の物語全9編。「あの日」を描かない連作短編集。
震災の日の午前、前日、前々日の被災地での人々の普通の暮らしが、地震と津波を境に突然奪われた。
被災し肉親を亡くした人たちが、希望を見つけようと前を向く。
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そこにあるのは「圧倒的な日常」。
年度末だから移動があったり母親が退院したり、兄妹は両親から離婚を告げられたり、人生の契機と言えなくもないが長い人生から見れば「そんなこともあったね」で済むようなこの日と繋がった翌日があるはずだった。
教員として赴任した経験のある著者が震災直後の気仙沼を訪れて「もはや物語は書けない」と思ったのち、旅先で手にした佐藤泰志の「海炭市叙景」にインスパイアされて標したのが本著である。
気仙沼をモデルとした架空の街「仙河海市」を舞台にした、今活きる人々の物語である。
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1948年宮城県生まれ、気仙沼市の中学校で教員をされて、作家に、現在は仙台市に在住です。今回、気仙沼市をモデルにした仙河海(せんがうみ)市における様々な家族の生き方を描いた作品を出されました。2016.3発行「仙河海叙景」です。短編・連作9話、1~7話が震災・津波前、8~9話が震災・津波後の話です。リアスのランナー、早坂希(のぞみ)が悲しみを超え、希望に向かって走り出します!
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仙河海の人間模様。
ラッツォクの灯には息を呑んだ。こんな家族のすべて亡くしたような例は実際にもある事を想像すると。
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ラッツォクの灯、まさかそういうことだとは思わなかった。2人の子を持つ親として、高校生の主人公、翔平の、足元が崩れ落ちそうな心細さを思うと涙が止まらない。
震災は受けてみないとわからない。東日本大震災が起きた時は、日々、ニュースに心を痛めたけど、実際、自分の故郷が大地震に見舞われて、見慣れた風景が一変することの意味を初めて理解した。
翔平くんが心安らかに前を向いて歩くことができますように。小説なんだから実在しないだろうとわかっていても、そう願わずにはいられなかった。
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「リアスの子」以来の熊谷作品です。
仙台に暮らし続けるからこそ、描ける情景。
あれから、もう五年の歳月が流れた。
よほど意識しておかなければ、かの地の「今」は
かの地以外の人には、なかなか伝わりにくいことになっているような気がする。
そんなときだからこそ
読まれ続けてほしい作品である。
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副題「仙河海叙景(せんがうみ・じょけい)」と付いているのに後で気が付いたけど,ここでフリガナを付けておいて,迷った時は表紙を見させようということだろう~希は実業団で駅伝の選手をしていたが,怪我で引退し,生まれて出て行って小3から高校まで過ごした仙河海の南部で戻ってきたが,35才の今も朝のジョギングは欠かさない。今は膠原病で入退院を繰り返す母に代わって,スナックを切り盛りしているが,できればショットバーにしたい。客は知り合いばかりだが,高校時代にバージンを捧げた水産加工業の十歳上の元カレの遼ちゃんを見ると恋心が蘇る。明日は母が退院してくるから寿司でも食べよう。冷蔵庫と呼ばれる冷凍庫で働く悟志はスナック「リオ」の客だが,リストラされそうになって相談した相手は中古車屋の社長美樹だが,すぐに奥さんに打ち明けろと言われて,帰ってそうしたら,DVを受けてアパートを追い出され,謝りに来た女房と公園でセックスして仲直りはいつものこと。中学校の教員同士である両親に離婚を打ち明けられた優人は,中3の妹・幸子とこれからどうするか相談するため,シアトルスタイルのカフェで待ち合わせ,妹は父とも母とも暮らさず,仙台の私立高校に行って,寮生活を始めたいと言う。兄にも大学は仙台を選ぶように言うが,遼次さんをモデルにした写真で賞を偶然貰ったため写真家への希望も捨てられない。希の同級生である真哉は,市役所で苦情係だ。自然に生えているタラの芽を食べられないためにカモシカを駆除しろと言ってきた酔っぱらいのじぃさんに慇懃な口調のせいで罵られながら,陳情書を渡して引き取って貰った。残業していると母親から電話が掛かってきて日曜に見舞いだと命令された。ずっと希が好きだったのだ。外で食事をしようと誘いたいのだが,タイミングが掴めない。明日の金曜は絶対伝えよう。悟志の黒マジェの爆音に驚かされた清子は,出版社に勤め始める予定の玲奈が来ると聞いて「あざら」を作るために白菜の古漬け調達に気が向いた。知り合いの家に取りに行こうとすると,私のことを「真知子さん」と呼ぶ夫が認知症で入所しているグループホームから脱走したと連絡があった。近所を探しなら携帯番号を教えて歩き,夫と新婚生活を営んだ古い家の前に佇む夫を見つけ,「あざら」を食べないかと誘うと,夫は妻を「清子」と認識した。ヨシキモーターズの息子・昂樹は小4にしてミニ四駆改造の達人ではあるが,体格の良いいじめっ子の瑛士から嫌がらせを更に,マシンの部品を盗まれている。家に来られないように逃げ帰ったところを追いつかれ,絞め技でなく殴る蹴るの暴行を受けた。そこを同級で気になる女子・瑞希と葉月に見られてしまい,瑞希が放っておけない理由が昂樹の事を好きだと知った。放課後,みんなの前で嫌がらせをやめてくれと宣言することに決めた。幸子の中学の学年主任は幸子の父の高校時代の親友であり,公立に行かないと聞いて,理由を糺しに行くと,親の離婚だと淡々と告げられる。幸子と付き合っている瑞希の兄である翔平は震災で両親を失い,バイトで食いつなぎ,妹の面倒を見ているが,瑞希からお盆に迎え火・送り火であるラッツォクを焚こうと言われる。幸子は震災で両親の離婚話が飛び,今はNPO活動に熱中しているが,翔平からはちょっと違う気がしてならず,喧嘩してしまった。祭りが再開されると聞いても,瑞希も行きたがらず,幸子にも連絡を取りづらい。瓦礫処理のトラックの交通整理のバイトもお盆でなくなるが,元のバイト先のコンビニで仕事をさせて貰うことになり,元の家が会った場所でラッツォクを焚くと,送り火に乗って瑞希も父母と同じ場所に帰っていった。震災で母と店を失った希は仮設に移っても引き籠もったままだ。見かねた遼次がナイキでウェアとシューズを揃え,誕生日に持ってきてくれた。走り出してみると,息が切れて駄目かと諦めかけたが,元のタイムから2秒しか落ちてない。まだやれる!~文壇デビューが最近だったので,まだ若い人だと思っていたのだが,1958年生まれで,気仙沼で中学校の先生をしていて,今は仙台に住んでいるのだった。勿論,学校の先生なんて辞めているが,教員の世界の話にリアリティーがあるのはそういう訳だったのね。表紙の絵は木の枝と太陽のせいでプロペラが回っている飛行機の先頭部分かと思った。初出は「小説すばる」が殆どで,震災後の「ラッツォクの灯」だけは「小説新潮」。その下に「本書は,気仙沼市をモデルとしたフィクションです。」と書いてあって,『ああ,なるほど』と,それから舞台となる仙河海を「せんがうみ」と読めるようになった…カレンダーの紙をカバーして読んでいたからね。そして…震災前日の話であること,最後の二話は1年半後であることが残り30ページで明らかになる…。昼前に着いていた筈の清子の孫娘・玲奈はどうなった??? 第8章の展開が巧い!!
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連作短編集。
東北の港町、仙河海(気仙沼がモデル)が舞台。スナックを経営する親子、両親の離婚に悩む女子中学生、認知症の夫を持つ老女、苛めにあう小学生、中学教師などの日々の暮らしを、震災前2編、震災後7編の全9編で綴る。
登場人物があちらこちらにリンクすることで、街の様子が目に浮かぶ。
個人的には「永久なる湊」が良かった。
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震災に遭った気仙沼市をモデルに、架空の市の仙河海市に暮らす人々を描いたシリーズの5番めの上梓。震災1日前までを扱った7篇の短編と震災後を扱った2篇の短編から為る。題名に初めて「仙河海叙景」という言葉を使った。作者本人が佐藤泰志の『海炭市叙景』を読んで言葉を失っていた自分が「書けるかもしれない」と思ってシリーズを始めた、と告白している。よって、今迄5冊シリーズを読んできて、この短編集が1番力が入っていたと思う。反対にいえば、他のシリーズが、ここから派生した説明版にさえ思える。実際は書いた順番から言っても違うのだろうけど。この後「揺らぐ街」を上梓して、明治時代まで時間軸を遡る。何処かで「10冊まで書けば何か意味のある仕事になっているかも」と言っていたらしいから、それも予定に入っているのだろう。
人物は100人以上に登るらしい。実際そのぐらいまでいかないと、ひとつの街は描けないだろう。
この本だけでも登場人物は多い。よって覚書。登場人物の名前と年齢を記していないと、過去と未来において、どのような関係があるかわからなくなる。年齢は2011年3月段階の歳(推測もあるので間違いはあるかもしれない)。
早坂希(35)早坂めぐみ(希の母)遠藤遼司(45)昆野笑子(35)佐藤真哉(35)結衣(若い)小野悟志(29)小野香苗(29)小野瑠維(子)小野隆志(35)村上美樹(35)菅原優人(高2)匠(高2)小野寺靖行(35)菅原幸子(中3)菅原貴之(50)菅原多香子(53)吉大(33)マスター(元文学青年)小川啓道(33)俊也(33)晴樹(31)菊田清子(81)菊田守一(86)菊田守(長男)美砂子(次女)菊田玲奈(23)真知子(守一の訳あり)村上昴樹(小4)瑛士(小4)侑実(先生)瑞希(小4)尚毅(小4)潤(小4)葉月(小4)村岡倫敏(50)小山千尋(26)村岡陸(25)渉(中3)村岡の父(81)祖父(農業・海苔)村岡晃子(53)晃子の父(仙台市役所職員)晃子の祖父(石巻で牡蠣養殖)村岡ひなた(19)翔平(中3 瑞希の兄)川島聡太(35)上村奈津子(35)
2018年4月読了
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最初は ん?という感じだった。
震災前と震災後。その落差に驚愕。日常が、これほどまでに劇的に変わってしまったのか。
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震災の話をかわいそうとか悲劇だけではない描き方で心にずんと来ました。
これまで読んだ熊谷達也の小説の登場人物の2011年3月11日前後の日常が描かれた短編集で特に印象的だったのは「鮪立の海」の守一の最期だった。あれだけ精悍で男らしい守一の晩年の姿はちょっとイメージと違ったが、清子と幸せな一生を送っていたんだということがわかり嬉しくもありました。また切なかったのはほんの少し前までは、いじめにあった少年を励ました少女が亡くなってしまい、一人残された兄を心配するあまり幽霊となって傍らで居続ける話は短編集の中で最も哀しかった。
最後の編は「希」という名前の通り、希望に向かって走り出す女性の話だが人間って強くて愛おしいと感じた。
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震災後の東北・港町を生きる善良な人々の群像劇。
家族を津波で喪った者が、それでも地元を心の拠り所にして再起していこうとする。
映画「マグノリア」を彷彿とさせるが、食い足りなさも残る。ラノベタッチの描写も飽きを生む。