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固く緻密な狂気を当初感じていたのだが、読後色々と思い返しているうちに、奥底で眠っていた自分の中の狂気が覚醒し、徐々に荒ぶってくるような感覚に陥った。でもそういう内容じゃない。
で、表題作「ヴァージニア」でmake loveという言葉が頻繁に使われていて(しかも英語表記)、薄ら笑いを浮かべた叶姉妹(特に姉・恭子)の顔がチラつき、大変なショックを受けた。自分の中の狂気が覚醒しはじめているのは、脳内に突如現れる叶姉妹のせいかもしれない。
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まず表紙がとてもいい。
話としては、表題作よりも長い夢路の方が好き。
人間の生と死、そして愛への執着についてを、理知的で、堅い文章で描いています。
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倉橋由美子の作品の中で、ひとつのターニングポイントになっているお話。鈴木大拙のLiving by Zenの記述がある(p.34)。これの翻訳が春秋社から出ているのでチェックチェック。
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太宰カフェで何故か買ってしまいました。現在絶版だし、うん。
表題作ヴァージニアよりも他の二篇のほうがすきでした。
死に至る過程って考えたこともなかったけど、日本的で面白かった。能の台詞が度々出るのもよいですね。あの謡い方を頭のなかで再生するとよい気分になれます。
霊魂になったとき気分を考えるのも楽しい。
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(1973.05.30読了)(1973.05.26購入)
*解説目録より*
ボーイフレンドたちに肉体を与え続ける女子学生ヴァージニアの奇妙な孤独感を描いた表題作。死の床で愛と性の妄執にとらわれる歯科医の意識を掘り下げた「長い夢路」。婚約者の死霊との愛の交歓をエロティックな幻想の中に捉えた「霊魂」。荒涼たる死と性の深淵を明晰な知性とロマネスクな筆致に託した三編。
☆関連図書(既読)
「聖少女」倉橋由美子著、新潮社、1965.09.05
「妖女のように」倉橋由美子著、冬樹社、1966.01.20
「スミヤキストQの冒険」倉橋由美子著、講談社、1969.04.24
「婚約」倉橋由美子著、新潮文庫、1971.06.21
「暗い旅」倉橋由美子著、新潮文庫、1971.11.30
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三篇の短編集。これくらいの薄さ・軽さはとても持ちやすい。
「ヴァージニア」
裏表紙の説明から、『聖少女』のようなクレイジーな女の子の話かと思いきや、
きちんと分別もある大人の女性の話だった。
精神の飢餓。
「長い夢路」
これがすごい小説。
死にゆく歯科医の内省。
夢の中で、卵白状の半透明の嚢に包まれた肉塊を切り裂くと、頭がなく手足もなく、女の裂け目だけ……という悪夢、
非常に印象深い。
「霊魂」
恋人の霊との交歓、そして飽き。
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初期の短編三編、久々~の再読。
■ヴァージニア
著者アメリカ留学時にアイオワ大学で親しくなった
スウェーデン人女性との交流について述べた作品だが、
エッセイという生(ナマ)な感じはしない。
心の隙間を埋めるために複数の男性と性的関係を結ぶヴァージニアの生活ぶりは、
当人の知性レベルと矛盾しているようで、
人間ってのはつくづく不可解な生き物だな、といったところ。
体(たい)を表さない(笑)なんとも皮肉な名前だが、
彼女は本当にVirginiaという名だったのか、それとも著者による「改変」なのか。
■長い夢路
病臥し夢現に死を待つ歯科医の父と、死に目に遭うべく外遊先から帰った長女、
それぞれの心情。
父の夢は謡曲や娘から聞いたギリシア神話の筋をなぞった内容になっている。
著者が歯科衛生士であったこと、著者の父が歯科医であったことが反映されてか、
患者の「抜去歯牙」を自宅の庭に埋めるという、夢想の中の情景が不気味。
■霊魂
婚約者が予言どおり、死後、霊として男の許を訪れる話。
無力だった女が肉体を失った後、文字通り身軽になり、
しかも、媚びと傲慢さを露わにする。
初期の倉橋作品によくあるパターンの、
キャラクターの名がK,Mというアルファベット表記の小説。
ちなみに「ヴァージニア」の中では、それについて、
「Kは小説をdevelopするための独立変数」
「MはSを愛するような女」と述べており、Mが愛するSというのは
「social animalで(中略)self-advertisementの本能を持った男」なのだそうだ。
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表題作は何だかメタっぽい語り方でむつかしかったんだが、あとのふたつは境界をうろうろしている雰囲気がとてもよかった。
あと、この人は母娘の執着とかそういうのもよく描く人なんだろうか。何か鬼気迫る感じだった。
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文章が綺麗でほぅ…ってため息をついた。本自体古くて字が小さいから読むのをやめようか考えるんだけれど、独特の美しい言い回し、流れるような文体に魅せられてつい読んでしまう。
表題作である「ヴァージニア」よりも次の「長い夢路」、それよりもさらに「霊魂」が好きだけれど、ヴァージニアという名を冠していながら処女性の欠片もないヴァージニアにはすがすがしさを感じる。安易に美少女にしないところも好き。淀みの表現が上手くて、こんな陳腐な感想しか書けないのが申し訳なくなるほどに素敵な文章だった。
「霊魂」は淫靡で甘美でとろけるような読み心地。捧げられるものならすべてを、のいじらしさに切なくなって、ラストは少し恐ろしくて、でも希望に満ちている。残されるもののことなど考えない身勝手さが若くてまぶしい。
娯楽を求めて好きな小説読み漁るのもいいけど、たまにこういう作品を読むとなんだか自分が洗われたような気分になる。いい読書をした。