商品説明
あれから三年――。白石誓は、たった一人の日本人選手として、ツール・ド・フランスの舞台に立っていた。だが、すぐさま彼は、チームの存亡を掛けた駆け引きに巻き込まれ、外からは見えないプロスポーツの深淵を見る。そしてまた惨劇が……。大藪賞受賞、本屋大賞2位に輝いた傑作の続編が、新たな感動と共に満を持して刊行。
著者紹介
近藤史恵 (著)
- 略歴
- 1969年大阪府生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。93年「凍える島」で鮎川哲也賞を受賞し、デビュー。「サクリファイス」で大藪春彦賞を受賞。
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紙の本
彼はこのまま楽園にいられるのか(著者のイメージがガラリと変わった作品)
2010/05/06 09:53
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:カフェイン中毒 - この投稿者のレビュー一覧を見る
大藪春彦賞を受賞、本屋大賞の2位にも選ばれた『サクリファイス』の続編にあたります。
日本ではマイナーな、自転車ロードレースの世界に身を置く人たちの物語。
ツール・ド・フランスくらいしか知らない私が、文句なしに楽しめたので、
前作に続き、自転車に詳しくなくても支障はなさそうです。
私にとっての近藤史恵の作品は、軽いものを読みたいときに手に取る本で、
失礼ながら、カタルシスなんてものには無縁でした。
読書の楽しみとしては、もちろんそれで充分だったのですが、
それだけに、いつもの調子で読み始めた『サクリファイス』で、
著者に対する見方もガラッと変わったことを覚えています。
この人、こんな引き出しもあったんだ……と。
それは、自転車ロードレースの世界という引き出しを持っていたことにではなく、
生身の人間の苦悩や駆け引きを、息遣いまで感じるようなものが描ける人だったんだという驚きでした。
『サクリファイス』が刊行されたとき、密度の濃い話なのに、小説そのものはかなり短めだなと思いました。
不満なのではなく、感心したのです。
マイナースポーツなうえ、かなり複雑な競技であるらしいのに、
その説明が過不足なく、こちらの興味を惹きつけたままストーリー展開もこなす。
描く人によっては、グダグダになってしまいそうなものを、ミステリに仕立て、
しかも何度も胸を詰まらせるような物語にしてしまっていたのですから。
主人公である白石誓は、スペインのチームを経て、今回フランスのチームの一員として、
ツール・ド・フランスへの出場を控えています。
3週間の長丁場を戦い抜くあいだに、さまざまな問題が噴出します。
スポンサー撤退(チーム解散の危機)、それに伴う来季の身の振り方、
チーム内の不協和音、フランスの大型新人との出会い、ドラッグ疑惑。
心身ともにタフで、しかも戦略を練り、咄嗟の判断をとれるようになって、ようやく一人前の世界。
淡々と描かれる3週間あまりの主人公の生活が、退屈どころではなく、疲労と匂いまで伝わってくるようでした。
可能ならば、『サクリファイス』を読んでから、こちらを手に取ることをオススメします。
というのも、自転車ロードレースの中での役割分担や、その意義について、
そして主人公がどれだけのものを背負って海外のチームにいるのかなど、
前作が頭に入っているのとそうでないのとでは、まったく違ってくると思うのです。
ちなみに、『サクリファイス』のほうは、すでに文庫化されていて安価でもあります。
サクリファイス(犠牲)に、エデン(楽園)。
簡潔ながら、怖ろしいほどに的確なタイトルだなあと思わずにはいられません。
大きな(そしてたくさんの)犠牲の上に成り立ち、苦しみながら、それでも足を踏み入れたい楽園。
多くのプロスポーツがそうなのでしょうが、自転車ロードレースの過酷さを知った今、
タイトルの重みまでもが、読む前とは違ってくるような気がしました。
紙の本
この本を読んで、ツール・ド・フランスのテレビ放送を見ると、ああ、って納得いくところと、こんなに人が近くにいるところを走るなんて、小説には書いてなかったんじゃ? なんて、いろいろ楽しめます。相乗効果、ってえやつですか・・・
2010/10/21 20:20
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
先日、たまたま次女とテレビを見ていたら、2010年7月3日から7月25日までの日程で開催された第97回目の今年のツール・ド・フランスの様子を放送していました。私も次女も、『エデン』を読んだばかりだったので、マイヨ・ジョーヌは、この服のことか、とか、あれ、日本人も出てるじゃん、などと二人で盛り上がりました。ただ競技を見るだけではこの楽しさは味わえなかったはずで、相乗効果っていうのはこんなところにもあるんだ、と知った次第。
で、出版社のHPには、この本について
*
あの『サクリファイス』の続編、遂に登場。今度の舞台は、ツール・ド・フランス!
あれから三年――。白石誓は、たった一人の日本人選手として、ツール・ド・フランスの舞台に立っていた。だが、すぐさま彼は、チームの存亡を掛けた駆け引きに巻き込まれ、外からは見えないプロスポーツの深淵を見る。そしてまた惨劇が……。大藪賞受賞、本屋大賞2位に輝いた傑作の続編が、新たな感動と共に満を持して刊行。
*
とあります。前作を楽しんだ我が家としては、期待して手にした一冊でしたが、中身は良かったものの、ブックデザインが、というかカバーデザインで躓きました。アフロが提供する写真を使ったカバーが新潮社装幀室の選択としては、珍しく陳腐なんです。使っている色やタイトルの字なんかは悪くないのに、センスが感じられません。この手のデザインでは早川書房のスキルに遠く及ばない感じで残念でした。
カバー関連で早川書房に触れて気付いたんです、要するにこのシリーズって、日本版ディック・フランシスかな、って。無論、ミステリ味は薄いです。『サクリファイス』はまだミステリしていましたが、今回は完全にスポコン、競輪版『ダイブ!!』、って言っても構わないくらいです。でも、競技としてのツール・ド・フランスの描き方、駆け引きも含めてその世界をきちんと書く姿勢はフランシスに近いんです。
フランシスを読んで競馬を見れば、競馬をしってフランシス作品を読めば、双方を一層深く知り楽しむことができます。む、そういえば高斎正の自動車レースシリーズもそれに近かったなあ、『ホンダがレースに復帰する時』『ロータリーがインディーに吼える時』『ニッサンがルマンを制覇する時』『ランサーがモンテを目指す時』『トヨタが北米を席捲する時』『レオーネが荒野を駆ける時』なんて、今、もう一度読み返されるべきじゃないか、なんて思います。
競技の難しさ、危険性、チーム同士の、チーム内での駆け引き、転戦、スポンサー、人気、それは競馬よりもカーレースの方がもっと近い。でも、テレビを見ていて、小説では伝わらなかったことがあるので書いておきます。とも書く観客が多いんです。街中ならわかりますが、郊外でもかなり人がいます。問題は山中の村のようなところ。道が狭いのに両側に人が溢れている。
箱根駅伝の箱根の山道、あの両側にびっちり人がいて、それが興奮して走りまわり、走路にはみ出し、選手に触れんばかりになる。駅伝でも「手ー、出すな馬鹿!」って思いますが、自転車はもっと危険なわけです。パリ・ダカールラリーやモナコ・グランプリを見ていれば、自動車相手だと怖いものだから、観客も規則を守るんですが、人や自転車が相手となるとバカにする。見ているコッチがハラハラします。
閑話休題。『サクリファイス』もそうでしたが、これも最近のミステリにしては短い。一気に読めるので、内容説明はしません。唯一つ、勉強になったのはヨーロッパにはママチャリというものが存在しないんだそうです。10万円の輸入自転車なんて見ると、高いなあ、やはり競技用だからな、なんて思いますが、そうじゃないんだそうです。自転車は、ヨーロッパでは贅沢品。お金持ちが使う。だから始めから高価なんだそうです。
ふーむ、彼らから見れば日本や中国、アジアのような自転車大国の存在の方が不思議なんだ。ママチャリがない、だから映画で町の風景を見ると自転車屋さんが無いんだ・・・とまあ、文化的な相違を知った次第。しかしです、この本を読んで、実際のツール・ド・フランスをみると、マイヨ・ジョーヌを巡る争いの熾烈さ、なかなか優勝できない地元フランス、そして新旧交代といったことがそのまま現実のものであることが良く分かります。最後は目次のタイトルと簡単な人物紹介。
第一章 前夜
第二章 一日目
第三章 四日目
第四章 タイムトライアル
第五章 ピレネー
第六章 暗雲
第七章 包囲網
第八章 王者
第九章 魔物
第十章 パレード
主な登場人物
白石誓:チカ、27歳。昨年までは格下のスペインのチームでそれなりの活躍をしてきたが、フランスのチーム、バート・ピカルディにきて、アシスト以外に活躍できないでいる選手。登りが得意なので山岳コースでミッコのアシストをする。契約は二年で、まだ一年半残っているのに、チーム解散の噂に戸惑っている。2年前、25歳の時ミッコに出会う。今年のツール・ド・フランス、唯一の日本人選手。
ミッコ・コルホネン:チカのチームメイトのフィンランド人、29歳。チームのエースで、昨年、ツール・ド・フランスで総合五位になったオールラウンダー。
マルセル:今期でスポンサーの撤退が決まったチーム、バート・ピカルディの監督、39歳。
モッテルリーニ:去年のツール・ド・フランスの総合優勝者。チームはアレジオ・ネーロ。
アンダーセン:去年のツール・ド・フランスの第二位。チームはバンク・ペイ・バ。
プチ・ニコラ:ニコラ・ラフォン。今年プロに入ったばかりの若手選手、24歳。ツール・ド・スイスで総合優勝した。ツール・ド・フランスでは20年以上、フランス人の総合優勝がないため、フランス期待の星といわれる。身長170cmに満たないことから、プチ、のあだ名がつく。チームはクレディ・ブルターニュ。
ドニ・ローラン:ニコラの幼馴染でチームメイト。ニコラのライバルでもある。
只野美雪:もうじき三十歳になる自称フォトグラファー。
初出 「新潮ケータイ文庫DX」2009年1月29日~2009年10月8日連載
電子書籍
テーマは普遍
2015/11/21 16:21
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:どや - この投稿者のレビュー一覧を見る
自転車ロードレースの最高峰グランツール、
自転車競技に見に置くものにとっての楽園には
入るのも難しいが、居続けるのはさらに難しい
エースとアシスト
先輩と後輩
成長と老衰
栄光と挫折
正当な勝利と麻薬の誘惑
生と死
プロの苦悩の一端を垣間見た気がする