紙の本
主人公の心
2011/06/25 18:20
11人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:佐伯洋一 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ついこの前、この不毛地帯もリメイクされ放映されていた。私としてはとても面白かったのだが、視聴率は振るわなかったらしい。昔、私の生まれる前であるが、放映されたときは人気だったようだから、なぜこの差が生じたのか興味深い。
山崎作品は本当に素晴らしいものばかりなわけであるが、本書もむろん例外ではなく、珠玉といっていい。「白い巨塔」の舞台が大阪大学であったことは明らかなように、この「不毛地帯」もモデルがある。主人公の壱岐正は、瀬島龍三という人物であり、つい最近(2007年?)まで生きていた人物である。そして、近畿商事は当然のごとく伊藤忠商事で、東京商事はおそらく日商岩井(現、双日)ということになる。本書の事件の類も、それに近いものはあったのではないかといわれている。それだけに、なぜか非常に迫力がある。
瀬島については、否定的評価と肯定的評価が分かれる。それはさておくとして、壱岐という人物は、総評としては素晴らしい男である。壱岐のような男が何人いるか。それにより国力が決まるであろう。テレビなどでは、「私は、少しは国の役に立てたのでしょうか・・」とシベリアに抑留され、死亡した戦友たちの墓に向かって述懐していたが、壱岐という人物とはそういう人物である。今の日本にこれほどの男がいるだろうか。いないから下り坂なのである。
これは瀬島が実際になされた史実であるが、シベリア抑留で最低でも34万人の日本人が、超極寒の地での強制労働で殺されている。国際法上何の正当性もない事象であることは当然である。
これはナチスに次ぐ大虐殺であって、ロシアにはドイツを非難する正当性など一分子も有りはしない。
不毛地帯の最初では、ロシア人に苛められる日本人の姿が鮮明に描かれている。10代さかのぼればみんな親戚という日本人の先輩たちが、ロシア人に拷問され、遊び半分に殺されていく様をみると、合掌したくなる気持ちになる。
壱岐は、そこの生き残りである。壱岐は大本営で作戦を立てていたにもかかわらず敗戦してしまったことから、強い責任を感じている。自分の半生は国家のためになることに尽くす。その決心が、壱岐の先ほどの述懐を生んだといっていいだろう。
壱岐のような男は、少なくとも戦前は珍しくなかった。誰もが天皇陛下を尊敬申し上げ、国と家族を第一に思い、ひたすらに己を磨く。そのような男が多ければ、政治の腐敗など有りえない。腐敗というのは、現在の日本をみれば誰でも理解できよう。
政治の腐敗とは、政治家が賄賂をとることではないし、言論を弾圧することでもない。政治の腐敗とは、政治家に愛国心がない状態である。政治とは、国民の幸福を最大化し、効率的に配分することが職責であり、それ以上のなにものでもない。そうだとすれば、政治家が何人愛人を持とうが、1兆円の賄賂をとろうが、それが国のためであるならば、政治の目的達成の上においては、何の支障もない。民主主義の観点からみても、無能で愛国心のない馬鹿(管直人や鳩山ブラザーズなど)より、愛人は何人もいるが有能で愛国心のある人物に政治を任せたいにきまっている。それにより、国民の税金は安くなるかもしれないし、間違いなく領土をかすめ取られたりなどは有りえないのだから。
壱岐という男は、目的の為ならば賄賂も贈るし、情報戦も辞さない。しかし、国の利益がぶつかる場面では、正論は通用しない。まともに倫理を語ろうとすれば、壱岐の行為は多く非難に値する。しかし、己のためだけに生きて我慾を貫く生き方よりも、遥かに崇高で輝く生き方といえるのではないか。
壱岐の、この生き方を、読者はどう見るか。いずれにせよ、その心は多くの読者の心を揺さぶるであろう。読後、読者の心に残る名作といえる所以である。主人公である壱岐の心は、読者も先を読まないと分からない場合が多い。その心をどう読み、手段を正当化できるか。出来るというのが私の結論だが、この問題は古典的なようで考えさせられる命題ではないだろうか。
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好きな作家のひとりである、山崎豊子氏の小説。
この小説は、シベリアに11年抑留された主人公が、戦後の新たな世界の中で、商社という、軍隊とは全く違ったフィールドでの葛藤を描いたもの。
1巻では、主にシベリア抑留についての描写が大半でしたが、そのあまりの凄惨さ、非人道的なまでの仕打ちに戦慄を覚えるほどの衝撃でした。
人間追い詰めようと思えば、どこまででも人を追い詰めることができ、また逆に人は極限状態の中ではどれほど卑屈になれるか、また、
力強い信念が、どれほど人間を人間たらしめているか、生々しいシベリア抑留の描写の中でありありと浮かんできました。
人間とは、信念とはを考えさせられる内容でした。
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フジテレビ50周年ドラマで力入っています。
唐沢寿明主演で他キャスト豪勢。
「沈まぬ太陽」「さまよう刃」「坂の上の雲」「龍馬伝」と、
ぶ厚めの傾向が続くようですが、
それぞれ展開は大きくしていく必要あり。
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不毛地帯(1)−(5)
「商社マンになるものとして、絶対に読まなければいけない書。」
と言われたために読んだ本。
まず言えることは山崎豊子のすごさである。
数々の名作を生み出しているだけあって、読んでいて止まらない。
分厚い5冊を一週間余りで読破してしまった。
内容としては、世界を股にかけ、一見華麗に思われがちな1人の商社マンの苦悩を描いている。
その仕事ぶりについて、人によっては色々な評価をするのだろうが、自分にとっては
”利益をあげるためには何をしてもいいのか。”
というテーマが非常に胸に迫ってくる。
企業で勤める限りには永遠に悩まされるだろうが、壱岐正のように、常に清廉な心をもったまま人を相手に正々堂々ビジネスをしていきたい。
コメント堅っ!!笑
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なんか古臭いのかなと思って読まず嫌いだった山崎豊子を、妹が買ってきたので借りて読んだらすごくおもしろかった。ひとつひとつのエピソードをもっと深く書いてもいいんじゃないかなとも思ったけど、適度に軽くさらっと進むほうがスピード感があっていいのかもと、読み終わって思った。
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凄惨なシベリア抑留の描写が生々しい。
それに比べればわれわれの今の生活はなんと満ち足りていることか!
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ドラマが始まる前までには読み終わろうかと思っていましたが、そんな甘くなかった(笑)
1巻が500ページ近くあるので、読み終わるのに時間かかるかかる。
5巻あるので、家や電車の中また空いた時間を見つけては読もうと努力しました
ただ、出来なかった。
見通しが甘かった。
沈まぬ太陽も挑戦したいですが、少し休憩させて下さい(笑)
内容としては、前半シベリア抑留、後半は商社としての人生が描かれています。
シベリア時代は壮絶そのものでした。
命を落としても仕方ない状況にも関わらず、壱岐は生き延びた。
くじけそうなときは多々ありましたが、それにも負けない心を感じました。
商社で第二の人生を歩み始めた壱岐も凄かった。
中途入社にも関わらず、どんどん昇進していきます
昇進していくのは、先を見る力が人一倍あったからではと僕は思います
最後のシーンでは特に感じました。
僕がいる業界も厳しいですが、商社も商社でキツい業界ということを知りました。
政界との繋がりもあるので、コワい描写も出てきます
ただ、僕はこの壱岐という主人公からいろんなことを教わりました。
分野は違えども仕事に対する考え方は共通する所もあるので、今後参考になります
やはり日頃の努力、積み重ねがものを言うのかなと思います
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主人公の壱岐正は、伊藤忠商事の瀬島龍三がモデルとされている。
2009年10月よりフジテレビで連続ドラマ化(唐沢寿明主演)。
壱岐正は陸軍中佐で大本営参謀。終戦の詔に対し、参謀総長の命令書が出されていない以上武装解除に応じる必要がないと解する関東軍部隊の説得に努めた。日ソ中立条約を犯して侵攻してきたソ連軍に拘置され、重労働の刑(25年)を宣告されシベリアに送られる。そこで11年の抑留生活をおくることになる。帰国後参謀としての経歴を買われ商社の近畿商事に入社。
1巻では、壮絶なシベリア拘留生活と慣れない商社生活が描かれている。
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この分厚い本のほとんどが主人公・壱岐のシベリア抑留に関する記述であり、人によっては全く面白くないと感じたりもするだろう。だが本の帯に「戦後の日本を活写する記念碑的作品」とあるとおり、こういった部分も含めて「不毛地帯」だと思う。
最後の方で僅かながら商社マンとしてのシーンが描かれるが、一気に躍動感が増す。一気に引き込まれる。
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「何を云うんだ、私のような者を懇望して下さった会社だ、それに軍人であった私が、それ以外の仕事に携わる時、一から苦労するのが当たり前じゃないないか」
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テレビ放映中というのもあったが、主人公壱岐正がシベリア抑留帰還後に商社に入った歳が46歳と、小生と同じことで、この著名な大作を読み始める。文庫本全5巻、原稿用紙5千枚の迫真の歴史・ビジネスドラマ大作であった。終戦、シベリア抑留、帰還後の商社を舞台にした壮絶なビジネスと社内闘争。モデルとなった伊藤忠商事殿との付き合い浅からぬものがあるので、商社の行動、社内の人間模様にはとても興味深かった。この競争心、バイタリティが良くも悪くも戦後日本の高度成長をドライブしたと思わせるに十二分の迫力であった。
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戦争の話なので、あまりいい気持で見ることはできなかったけど、とても面白かったです。ドラマで知り、小説もみると、主人公がどれほどすごい人間なのかがわかりました。強制労働25年の刑になっても、あきらめずに頑張っているところがとても感動しました。
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現在、フジテレビで放送されている。人気ドラマであり、また、私の父もいま、「不毛地帯」を観ているので。
ドラマよりも想像以上も人気が上昇している。
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この本はどうも…相性が悪かった。1巻だけ読んだ感想↓
(1)主人公の元陸軍参謀のソ連捕虜時代の回想がやたらと長く、飽きる。1巻の7割以上がシベリアでの話。
(2)軍人時代のエピソードがないため、主人公の能力が伝わってこない。
(3)なのに、大商社の社長に就職を請われているのが腑に落ちない。
(4)食うや食わずの最悪の環境にあるのに、捕虜仲間の助けを変なプライドで断ったりして、その浮世離れ感にカチン。(重労働から洗濯係に回してくれようとした人がいたのに「軍人が他人の汚れ物を洗うだなんて」と拒絶。そんな恩知らずは勝手にくたばってしまえ)
(5)再就職先で、シベリア時代の11年間を埋めるために図書館に通って空白の間の新聞の縮刷版を読ませて欲しいとリクエスト。一見勉強熱心な人っぽいが、そんなことは日本に引き上げてきてからフラフラしてた2年間の間にやっておくべきことじゃないのか?
(6商社の用語から何もわからない、と若手の男性社員に世話をかけまくっているが、よくよく読んでみると面接から入社まで2ヶ月と書いてある。どうしてその間に最低限の商売用語くらい調べなかったのか?会社をナメるなよ!
などなど、挙げ始めるとキリがない、イラっとポイントがたくさん。これまで読んだ2作品はとっても面白かったのになぁ、、、この本は1巻で挫折してしまいました。残念。
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ビジネスに役立つ一冊。
この本との出会いがなかったら、今の自分はないと思います。
参謀として部下や仲間を大事にする壱岐正の姿は1巻目から4巻まで変わらない。精神的に極限を超えたシベリア抑留中でも正しい心を持ち続けた。新設された自衛隊に幹部として戻らず、商社マンとしての道を選んだ彼の男としての道、
ビジネスマンとしての道すべて参考になります。
欲の皮が張った上司や、現場のことがわからない上司とどう向き合うべきか、壱岐正に教えてもらいました。そのへんのビジネス書を読むより、勉強になりました。すごい本でした。