紙の本
国の犯罪と狡猾さ
2007/10/10 04:46
13人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:良泉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
30年以上続く国家による”嘘つき”犯罪事件に沖縄密約事件がある。国は今にいたるまで、”国家の嘘”を認めようとしない。
沖縄返還交渉の過程において、日本と米国の間でかわされた密約の事実は、現代では日米の公文書公開により明らかとなっている。また、当時の”嘘をついた側”当事者が明確に真実を証言している。それでいて、なお国は、”嘘”を認めようとしない。”嘘”は無かったと新たな”嘘”をつくことにより、二重三重に国家犯罪を積み重ねている。
そして、事件を側面から見る我々やマスコミも、ともすれば大きな勘違いをしがちである。いや、事件から30年以上たった今にいたるまで、多くの人やメディアがこの事件を過った視点から見ている。
この事件は、あくまで「沖縄密約事件」であって、断じて「外務省機密漏洩事件」ではない。ましてや、ジャーナリストと外務省事務官の個人的付き合いを問題とするような事件では全くない。
30数年前の国家による”眼くらまし”戦術は巧みであった。当初の沖縄密約事件暴露の衝撃は徐々に薄められた。ジャーナリストが女性事務官と「情を通じ」ることにより機密を漏洩させたという、極めて”下等な”ネタにマスコミも国民も興味を向けられた。それは、今もこの事件を見る視点を狂わせ続けている。
そもそも、ジャーナリストが女性事務官と「情を通じて」何が悪い。倫理感が何とか、と言ったところで、しょせん個人の問題である。例えば、米国の大統領が日本の首相を押し倒して”情を通じ”密約を取り付けたのなら(大笑)、それは大問題であろうが、ジャーナリストと事務官の関係は、沖縄密約とは全く関係ない。
本書は、その密約をすっぱ抜いたジャーナリスト本人による、国家に対する挑戦の書である。国家の巧みな罠により社会的に抹殺されたと言っても過言ではない老ジャーナリストの執念の書である。
30数年前に沖縄密約が交わされた当時の日米の思惑や裏事情まで含めて、洗いざらい、その背景を描き出している。
本書では、機密漏洩に関する一件には全く触れられていない。当たり前である。繰り返すようであるが、これは全く別問題なのだから。卑俗な興味本位で本書を手にすることはできない。
そして、本書によりあらためて思い知らされる衝撃の事実がある。
沖縄の問題は、現在にいたるまで続いている、という当たり前の事実である。
米軍に対する日本のいわゆる”思いやり予算”の問題や、普天間基地移設の問題。日本と米国の権力者間で交わされる”取り引き”や”駆け引き”の数々。沖縄や沖縄住民を、とことん”こけにする”その狡賢さをあらためて思い知らさせてくれる。
紙の本
拒否できない日本の原型ここにあり
2007/07/31 21:40
6人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:sheep - この投稿者のレビュー一覧を見る
ビデオニュース・ドットコムの無料番組で、外国特派員協会講演をみた。密約スクープに関する違法裁判に対する、謝罪・損害賠償要求を、地裁に「門前払い」請求棄却された後だ。西山氏が「全部書いた本をだします」というのを聞いて、刊行を待っていた。
我部教授が情報公開法を使って米側公文書を発見し、著者スクープが事実だったことが証明された。外務省アメリカ局長として対米交渉トップにいた吉野文六が、西山氏のスクープが事実であったと明言するまでに至っている。返還にまつわる土地復元経費を、根拠薄弱なつかみがねで、アメリカのいいなりに負担する密約、現実にあった。氏が真実を語っていて、日本の国益を損なっている政府、外務省、与党政治家連中が嘘を語っているのは明白でも、彼らは偽証を変えない。変えられないのだ。
本来「政府の重大な裏切り」スクープという画期的な仕事だったはずが、外務省職員から「情を通じて」入手した話題へと歪曲され、「密約」は闇に葬られ、氏は有罪となった。巧妙なプロパガンダ。なお女性の側をめぐっては、沢地久枝「外務省機密漏洩事件」、女性ならではの厳しい筆致で読ませる。
「一事が万事」。「沖縄密約」は日米の宗主国・属国関係の象徴だ。真実から目を背けてもアメリカの支配は変わらない。著者は沖縄密約から連なる現代日米関係の動きを解きあかしている。日本丸ごと「不沈空母」と化し、とうとう宗主国司令部まで首都圏にやってくる。守備範囲は無限大。「米軍再編」どころではない、「日米主従軍一体化」。
返還後の沖縄を表現する?フレーズ「核抜き本土並み」があった。実は本土の「核持ち込み沖縄並み」だったろう。佐藤首相の兄が、A級戦犯になる所を救われ、後に「安保改訂」をした岸は現首相の祖父。孫は家系の伝統にのっとり、日本人の財産土地のみならず、生命までもアメリカに供出すべく、「壊憲」を主張している。だが、傀儡政治家一族の行動様式は、それを指令する宗主アメリカの政策の反映であると同時に、「長いものにまかれろ」という有史以来の多数国民の哲学をも表している。人生を賭けて戦っている著者、時折マスコミ、野党、国民を非難する口調になるところが散見されるのも無理はあるまい。
民主党は、本件で政府を追求していない。それもそのはず。西山記者の得た情報を使って、国会で政府を追い詰めたのは、当時社会党の横路孝弘衆院議員。今、民主党議員。「女性事務官をホテルに誘ってひそかに情を通じ、これを利用し」という文句を案出し、国策捜査で、話題を巧みに「沖縄密約」から、男女スキャンダルに転換させたのは、当時東京地検の検察官佐藤道夫。引退するとはいえ民主党議員。どういう論理で、仇敵二人が同じ党にいるのか、素人には理解しかねる。湾岸戦争当時、つかみがねで、アメリカに135億ドルも拠出した与党幹事長は、民主党の小沢一郎党代表。小選挙区制も彼の案。「与野党逆転」という茶番劇の舞台裏で両党幹部ほくそ笑んでいるのではないか。
著者、巻末で若手マスコミ人に謝意を表している。「長いものにまかれない」ミニコミには会見記事もある。ビデオニュースの無料放送で、小林よしのりが、沖縄論の本は、本土では全く売れないと語っている。無関心という共謀。西山氏のご健闘を祈るばかり。
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沖縄返還に関しての外務省秘密漏洩事件で有名な当事者である著者が、あの事件の全貌と、その背景、そして今も続いている沖縄をめぐる日米の隠された事実について書かれている。
この問題となっている事件やその時代の政治権力の知識があると、より深く楽しめる。
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メディアリテラシー学習3部作その3。仕上げ〜。コンテンツ産業の市場開放・規制緩和はダイナミックに行うべきでしょう。しかし、西山氏のこの本の内容をおさらいしただけでも「表現・報道の自由」は担保されなければ、との想いは一層強くなる。後半の米軍再編・集団的自衛権に結びつける展開は、現在では、ひとつの見解として受け止めるべきものなのでしょう。
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西山太吉『沖縄密約』(岩波新書,2007)を読みました。本書では,西山事件の当事者が,沖縄返還にさいする日米両政府間の密約を検証しています。
西山事件とは,1972年沖縄返還の直前に,外務省の機密情報が流出したことに端を発する事件です。当時,沖縄返還実現を政権の看板に掲げていた佐藤栄作総理大臣は,「沖縄は核抜き本土並みでタダで返ってくる」という意味の「きれいごと」をつねづね語っていました。にもかかわらず,日本政府は米国に国際法にそぐわないウラ金を支払う密約を交していて,それを国民に隠しているとして,衆議院予算委員会で社会党(楢崎弥之助,横路孝弘)がそのことを裏づける外務省の電信を暴露しました。その電信を入手したのは,『毎日新聞』の西山記者であり,入手先は安川壮外務審議官のオフィスでした。密約の存在は佐藤内閣を揺るがす大事になりかねませんでしたが,その後,事態は思わぬ進展を見せます。西山記者が安川審議官の女性秘書と「ひそかに情を通じ」て電信を盗ませたことが明らかになると,この事件はジャーナリストの性的スキャンダルと化しました。結果,西山記者は,国家公務員法111条(秘密漏洩をそそのかす罪)で有罪が確定し,新聞社を退社して家業を継ぎました。そして,いつのまにか,密約はなかったことになりました。
日米両政府間にどのくらいの数の密約があるか,ぼくはよく知りません。沖縄返還にさいしての密約にかぎっても,西山氏がスクープした金銭的な密約,若泉敬氏が明らかにした核兵器持ちこみについての密約など,性質の異なる密約があちこちで交されたようです。あちこちで,という感じがするのはなぜだろうとぼくは不思議だったのですが,西山氏の『沖縄密約』によれば,沖縄返還の交渉チャンネルはよっつあったんだそうです。そのよっつのチャンネルの日本側エージェントは,
1. 日本政府の外務省。これは,米国政府の国務省と交渉していた,いわば正規の窓口です。実務責任者であるアメリカ局長は,はじめ東郷文彦氏,のちに吉野文六氏でした。
2. 日本政府の大蔵省。返還にあたって予算措置が必要だからというのが交渉に加わった口実だったようですが,西山氏の『沖縄密約』によれば,次期総理を狙っていた福田赳夫大蔵大臣が存在感を示したかったようです(現実には,佐藤以後の総理は,田中角栄,三木武夫と続き,福田は「三木おろし」を経てようやく総理に就任しました)。大蔵省は,交渉の過程を自国の外務省に逐一報告していなかったようで,あとで外務省にそのツケを負わせることになりました。ウラ金についての密約は,大蔵省が交渉した合意内容を,外務省が書簡(吉野アメリカ局長がイニシャルでサイン)のかたちで担保したようです。
3. 高瀬保氏。彼は,官職に就いていたわけでなく,いわば佐藤首相の個人的な「密使」として働いていました。
4. 若泉敬氏。彼もまた,官職に就いていない,佐藤首相の個人的な「密使」でした。若泉氏は,ホワイトハウスの複数の大統領補佐官と秘密交渉を行いました。最終的に,若泉氏はヘンリー・キッシンジャー補佐官とのあいだで,沖縄返還後の米軍による核兵器持ちこみについて交渉���ました。沖縄返還後も米軍が沖縄に核兵器を持ちこむことがありうる旨の密約は,佐藤首相とニクソン大統領とのあいだで(日本政府の外務省を排してホワイトハウスにおいて)交されました(若泉・キッシンジャー間の交渉では両国首脳がイニシャルで署名することになっていたのに,佐藤が,ニクソンとふたりきりになったとき,よく分からないままフル・ネームで署名したようです)。
佐藤総理は,「人事の佐藤」といわれたもので(それ以外に評価すべき点がなかったともいえるのですが),右手のしていることを左手に知らせずたがいを競わせました。その結果,密約がいくつあるのかよく分からなくなってしまいました。佐藤が,相応の緊張感をもって密約交渉を指揮していたとは考えられません。というのは,佐藤は,ホワイトハウスで上述の 4.の密約を交した直後に,日本記者団にたいして,
「ニクソン大統領との間には,トップ・シークレットがある。ここで,それをいうわけにはいかない」(西山『沖縄密約』 p48)
と発言しているからです。冗談のような本当の話です。キッシンジャーは気絶しそうになったのではないでしょうか。佐藤は,国益を考えて密約交渉を行ったというより,「核抜き本土並みタダで返還」を実現したと自分がエエかっこしたかったので,都合の悪いことを密約で処理したのだろうとぼくは思っています。
(もしかりに,「拉致被害者の全員救出を!」と国内向けに訴える一方で,北朝鮮に「密使」を送ってウラ金交渉を行い,拉致被害者の帰国をもって自分の政権を長期化する材料にしようと狙っている総理大臣がいるとするならば,そいつはきっと佐藤の親戚でしょう。)
日本政府は,今日に至るまで密約の存在をいっさい認めていません。一方,米国のアーカイヴでは密約を裏づける文書が続々と公開され,日本側でも,上述の若泉氏,吉野氏が,それぞれ,密約交渉を行ったこと,密約を交したことを証言しています(政府によれば,密約は「ない」ので,自分が密約を交したと主張している吉野氏は公務員の守秘義務に違反していることにならないのだそうです)。
米国が「思いやり予算」とか海兵隊のグァム移転費といったワケのわからんカネを日本に要求しているのは(そして日本政府がそれに応じているのは),沖縄返還のさいのウラ金が発端となっていると,西山氏は言います。多分に納得できる意見です。
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先日、ブログで書いた「運命の人」を読み終えてすぐに購入した本。小説の最後で主人公・弓成は言う。「沖縄を知れば知るほど、この国の歪みが見えてくる」。これは一体何を意味するのか。返還以降、対米関係において日本が置かれている状況とは何なのか。弓成のモデルとなった元毎日新聞記者・西山太吉さんが書いた本書は、それらの疑問に多くの示唆を与えてくれた。
著者は、沖縄密約は返還全体を包み隠す虚構だといい、国家による「情報犯罪」と断じる。そして、返還交渉を検証することなく、これまで政府がとってきた道は(宣伝文句に使う)沖縄の負担軽減でも、(他国からの侵略に対する)抑止力の維持でもない。真相は「新たなる負担の追加」と「世界戦略への参画」という。
そもそもなぜ密約が必要だったのか。その理由を、日米交渉を支配する1つの法則「米側がまず交渉の主導権を握り、その上で自らの利益貫徹のため、各種の戦術を巧みに駆使しながら日本側の譲歩をかちとっていく構図」に見出す。そして「対米コミットと国内説明の絶対的な矛盾の中で、吉野(※吉野文六・元外務省アメリカ局長)が指摘したように最大限の『きれいごと』を求めようとすれば、落ち着く先は、やはりそのような犯罪になる」とする。国民には「“核抜き本土並み”の返還」を謳いあげ、アメリカには巨額支出と基地の自由使用を容認。相反する約束をしておきながら、“きれいごと”を求めた必然の結果として政府は、密約に行き着いたということだ。
交渉もずさんだった。政権の総決算を任期までに行いたい佐藤栄作首相。次期総裁を狙うために最大限の貢献を果たそうとする当時の大蔵相・福田赳夫の思惑などが交錯。日本側の交渉は首相の任期が切れる“72年”返還という目標ありきで進み、外相・大蔵相・密使の3者によって各自バラバラで行われたという。
一方のアメリカは、「72年返還」というカードを有効に使って系統だった計画的な方法をとり、財政面と軍事面双方で大きな果実を得た。そして果実をその後、有効に発展させてもいく。アメリカは始めから返還交渉を出発点と位置づけ、今後に大きな実をつける果実の「種まき作業」とみていたのだろう。
例えば財政面では、返還時の米資産買取り分として積算根拠(いわゆる“つかみ金”)の乏しい3億2000万㌦を日本に認めさせた。またそれ以外に密約枠として、日米地位協定上、原則米側負担だった基地の移転・改良費用を日本に負担させた。「6500万㌦(当時の234億円)の“基地施設改善費”(米密約文書)こそが、返還時点での一時金ではなく後年度負担として受け継がれ、それどころか、年々肥大していった現在の“思いやり予算”の原型となったもの」。同予算は右肩上がりに急上昇を続け、94年度には2756億円にもなっている。
軍事面でもアメリカが当初描いた戦略が実現する。①沖縄返還を起点として、②周辺事態法(新ガイドライン、99年5月成立)、③日米軍事再編(06年5月1日採択)。著者は、それぞれの過程でアメリカの要求に従う政府の態度を説明し、「日米安保は、基地使用の弾力化と基地関係支出の日��側への転嫁(①)、そして基地使用の対象領域拡大と自衛隊の後方支援(②)、さらに日米双方の軍事力一体化・共同化(③)という形で変質を遂げてきた」と分析する。
“買戻し”反対の世論に対抗した佐藤首相の「沖縄はタダで返ってくる。こんないいことはない」発言。沖縄返還は、国民に知らされていない形の実態があり、いまも多大な負担が積み重なっていた。1度ついた嘘は必ずほころびをみせ、また新たな嘘をつく。だからこそ早期に公開して検証を行い、“失政の芽”を断つ -。“国家の嘘”を掴んだ西山さんはそんな義務感にかられ、国家と闘い、敗れてもなお歯を食いしばって立ち上がったのだと思う。本書は全体的に論理的な説明がなされているが、文書の端々から西山さんの怒りが伝わってくる。
くしくもいま、鳩山首相は苦境に立たされている。普天間移設を「5月までに決着させる」「腹案がある」と答弁したが徳之島案は米側に拒否され、5月決着は実現不可能な情勢。当然その状況はアメリカにみられている。また付け込まれる余地は十分ある。注視していきたい。
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西山太吉『沖縄密約ー「情報犯罪」と日米同盟』を読む。
読んでいくうちに1972年の西山事件と2010年の一色事件の
共通性に気づく。いずれも国家公務員法違反に問われた。
僕はふと疑問に思う。
僕たちは主権者として選挙のたびに投票を通じて
政党、政治家に権限を託す。
しかし、選挙と選挙の間に託した権力がどう運営されているか、
国民が監視する仕組みは充分なのだろうか。
沖縄返還にあたって日本がアメリカと密約と結び、
税金の使い方を隠蔽し、責任者たちが国会でも偽証する。
対中関係で領土が侵犯されている現実を示した映像資料を
突然「国家機密」として一部国会議員以外には公開しない。
国の未来を憂い、それらの情報を自己責任で公開した人間に
社会的制裁を与える。
一方でそもそもの国家運営について
どこまでの情報を国民に公開するかについては議論を深めず
仕組みも整備しない。
その役割を期待されるメディアの機能も決して充分とは言えない。
記者クラブでの限定された情報を
限られたメディアが使用していることは再三再四指摘されている。
民主党に政権交代しても期待したほどの変化は見られない。
西山事件では情報を提供した外務事務官と記者の男女関係、
一色事件ではインターネット時代の情報漏洩問題と犯人捜し。
いずれも、短期間に情報を売るためによりセンセーショナルに、
より扇情的に加工し、誘導する。
人々が過剰な情報を消費し疲れ飽きるうちに、
事件の本質はぼやけ次の事件に焦点がずらされ、
すべてが忘却の彼方に追いやられる。
国家を逆に揺さぶるメディアとしてWikiLeaksが現れた。
WikiLeaksが出現する背景には
国家、メディア、個人のパワーバランスの再修正を
テクノロジーの進化によって果たそうとする意志があるように
僕には思える。個人でなく集合的無意識の意志である。
道徳倫理の善悪ではなく、パワーバランスである。
日米関係について別の視点からも見てみよう。
リチャード・L・アーミテージ、ジョセフ・S・ナイ Jr、春原剛
『日米同盟 vs 中国・北朝鮮 アーミテージ・ナイ緊急提言』(2010)
を読む。
そもそも日米同盟なしに、日本の安全は保障されるのか。
中国、北朝鮮、ロシアの動きを見てみろ、
とアーミテージ、ナイは言う。
二人はアメリカ政界では、日本シンパと呼んでもいいだろう。
中国より日本との関係をアメリカが重視する必要があると
主張している。
その二人が、安全は政治的そして軍事的責任を
果たすことなしには得られない、現実を見よ、
と日本人に警告する。
「日本人は、安全と水は無料で手に入ると思いこんでいる」。
イザヤ・ベンダサン(山本七平)の至言が頭に浮かぶ。
国家、メディア、個人。安全と平和の代償。
簡単には結論が引き出せない問題であることを真摯に受け止め、
自分の頭で考え抜くことを続けてみたい。
問題から目をそむけることで
平和も安全も手に入らないことだけは確実なのだ。
(文中敬称略)
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[ 内容 ]
日米の思惑が交錯した沖縄返還には様々な「密約」が存在したことが、近年相次いで公開された米公文書や交渉当事者の証言で明らかになってきた。
核の持込み、日本側の巨額負担…。
かつてその一角を暴きながら「機密漏洩」に問われた著者が、豊富な資料を基に「返還」の全貌を描き、今日に続く歪んだ日米関係を考察する。
[ 目次 ]
第1章 「沖縄返還」問題の登場―その背景と日米の思惑(池田から佐藤へ ベトナム戦争と沖縄返還 ジョンソンからニクソンへ)
第2章 核持込みと基地の自由使用―交渉とその帰結(1)(明かされた核密約 基地の自由使用と事前協議の空洞化)
第3章 財政負担の虚構―交渉とその帰結(2)(米資産買取りの内幕 闇の主役と秘密合意 つかみ金、二億ドルの使途 追加された二つの密約)
第4章 変質する日米同盟(安保共同宣言と新ガイドライン 日米軍事再編)
第5章 情報操作から情報犯罪へ(密約を生む土壌 秘密体質の形成 情報犯罪は続いている)
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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沖縄問題にあたって密約問題は重要である。
一部の政治家の思惑に、沖縄がつかわれてるのはきわめて不快であった。
またアメリカのしたたかさもこの本から学べる。
世界はニコニコ表面上は笑いながらも、その心の中では国益のためのいろいろな戦略が飛び交っているのだ。
外交力というのはこのような戦略をとり勝つことだと思う。
日本にはそのような外交力がなかったためこのような結果を招いてしまったといえる。
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沖縄密約についての「真実」が書かれている。メディアのステレオタイプ化,民衆の政治的無関心によって,政府の隠蔽体質が成立し,密約のような「情報犯罪」が成立しうる。
生まれる前のことで難しい部分が多かったが,僕ら一般市民や,メディア,政府が学ぶべき事が多く書かれてある一冊でした。
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沖縄返還とベトナム戦争の絡み。
戦争に負けるということは、こういうことなんだなと思わせられる密約の内容。
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2007年刊行。◆山崎豊子の小説でも馴染み深い「外務省機密漏洩事件」の被告人(機密漏洩の幇助)が、沖縄返還交渉の内幕、日米密約など日本の外交交渉の問題点を明らかにする。◆国民の外交・安保への無関心、報道のありようなど著者の問題意識は、体験に裏打ちされたものである。その中でも、外交交渉における米国の計画性に対し、省庁間の未調整のみならず、情報交換すらしない問題を俎上に載せる。さらに、国益ではなく自分の利益・保身のため外交交渉の足枷を作り上げた政治家(佐藤栄作、福田赳夫、田中角栄)の有りようには暗然。
なお、本書のいうように、思いやり予算の使われ方が追いかけられず、結局判然としない点は、さらに気を配るべきか?
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西山太吉『沖縄密約』岩波新書 読了。運命の人はもちろんだが、当人はいかなる人間か興味があったので。沖縄米軍基地問題が今なお混迷を深める根底には、佐藤政権時代の外交政策のまずさがあるのだとまざまざと突き付けられる。我が花道を最優先させた佐藤元総理の政治判断に対して憤りたくもなるな。
2012/02/22
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1972年の沖縄返還における密約取材を巡り、外務省の女性事務官から機密文書を漏洩させたとして有罪となった毎日新聞記者、西山太吉の本。
密約が存在したことは、佐藤総理の密使として暗躍した若泉敬氏の自戒本や、外務省元局長の吉野氏の告白、さらにはアメリカ側の情報公開で明らかになっている。そうした密約がなぜ締結されるにいたったのかを分析していて、非常におもしろく読めた。
当時のアメリカとの優劣関係、国際・国内情勢から、政府が密約によっていろいろと取り繕ったのはわからないでもない。金銭的な密約は、官房機密費でも出したのかと思ったが、しっかり国会では総額としては通している。その内訳に実際には「払わない」といっていたものが含まれていたということ。
ただ、最後の方に書いているが、いろいろな証拠が出てきている中でも、頑なにそれを否定するという姿勢はいただけないと思う。交渉の相手方も、そして当事者も「ある」と言っているものを、今になっても「ない」というのは疑念しか産まないのではないか。当時の国際情勢、社会情勢上そうすることが正しかった、しかし嘘をついたのは申し訳ない、と言う方がいいのではないだろうか。
それから、思いやり予算がこの交渉から始まったということは初めて知った。金銭的交渉でいいようにやられて、さすがに国会通過が難しいというところを後年度負担という形で決着し、それが「思いやり予算」として雪だるま式に増えていったという。非常に、いやらしい話だなという印象。
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権力とは恐ろしい。使い方を間違えれば現在のようなウクライナ戦争も起こるし、北朝鮮のように国民が飢えてでも核ミサイルを飛ばそうとするなど、世間一般には間違っていると断言して出来ることが世界中で頻繁に発生する。
我が国の権力の頂点と言えば、民主主義国家だから原則的には国民にあるのだが、その代表たる国会そして内閣総理大臣が実務上の最高権限となる。政治家たるもの誰しも最終的に目指すのは総理の地位であろうし、それを手にするためであれば汚い手、禁じ手を使う。
本書前半は池田総理から佐藤栄作へと権力の移り変わりに際して「利用された」と言っても過言ではない沖縄変換問題、沖縄密約の発生経緯を辿っていく。当然、沖縄を返還してほしい日本と基地として失いたくないアメリカの間の外交問題だから機密事項も多いのはわかるが、後に日本がアメリカに支払った(実質的に沖縄を金で買ったと言われる)表向きな金額とは別に、アメリカに支払った金がある。筆者はその存在に気づき国家を相手にした結果、逮捕されるという悲劇に見舞われる(執行猶予付き)。ここでも国家という強大な権力には1人の人間が立ち向かえないのが現実にあった。
なお、機密費問題に関してはその後に外務省の当事者が当時を告白したこと、アメリカ側では譲歩公開がされたことから、周知の真実として白日のもとに晒されるわけだが、それでも歴代外相はそれを認めない態度を続ける。しかし本書が言いたいのはそこではなく、沖縄という土地やそこに住まう住民たちの意思とは関係なく、国会議員の権力闘争に巻き込まれる事実についてである。
現在の政治を見ていても、日本は外交が弱いと言われる一昔、二昔前から大きく進歩しているようには見えない。寧ろ外務大臣の海外訪問のニュースからは行った国と誰と会ったかだけに注目が集まり、中身よりも外見しか見ていないのは昔も今も変わらない。だから秘密も容易に作られてしまうし国民の監視も甘い。そして中身のわからない日本の外交は弱腰とも取られる。
この弱腰傾向は太平洋戦争に負けてアメリカ占領下にあったのだから仕方ないと言えばそうかもしれないが、戦後も続く日米関係を見てわかる通り、余りにもアメリカに対して逆らえない状況は続く。確かに極東の不安定さにはアメリカの軍事力はよく効いているし、日本もそれが無ければどうなるか判らない。残念ながらそれを解決出来るのも外交力しかない。だから根本的には対外的に強い(最低でも対等に渡り合える)外交力=国力が必要だ。
現状を見れば少子化と超高齢化が続き、人口もじきに1億人を割る。若者は働く意欲を失い定職に就かないばかりか結婚もしない。地方の過疎化は益々進み空き家だらけで廃墟だらけのゴーストタウンと化していく。我が国だけが課題山積にも見えるが、それを解決している北欧の国々もある。
まずは国民が目を覚まし、自分たちの国の現状をしっかり見つめ、今後10年、30年先を見て何をするべきか真剣に考える必要がある。
話は飛んだが、国家権力に立ち向かう筆者の姿には勇気を貰える。