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処世術は世阿弥に学べ!
著者 土屋恵一郎 (著)
能の大成者・世阿弥は、マーケティングの天才でもあった! 彼が残した『花伝書』は、「人気」「景気」など目には見えない「気」との戦いに生きる人間にとって、何が必要なのかを説い...
処世術は世阿弥に学べ!
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処世術は世阿弥に学べ! (岩波アクティブ新書)
商品説明
能の大成者・世阿弥は、マーケティングの天才でもあった! 彼が残した『花伝書』は、「人気」「景気」など目には見えない「気」との戦いに生きる人間にとって、何が必要なのかを説いた克明な戦術書であり、優れた人生論である。「男時・女時」「目前心後」「離見の見」などのキーワードから、現代にも通じる人生の智恵を伝授する。
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紙の本
力強い本・不思議な本
2002/03/24 16:00
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る
力強い本である。それは何も命令形で終わる書名の最後に付された記号のせいではない。一流の武芸者が立合でみせる気合いのようなものが叙述のそこかしこから立ちあがってくる。《世阿弥の時代、能は一つの勝負ごとであった。…世阿弥の時代には、能は、「立合」という形式でその芸を競った。…実にきびしい世界であった。》(18頁)
能の舞台はひとつの戦場であり、戦場には「いま」しかない。そこは人気や景気といった不安定なものに満ちた世界であり、役者はもう一つの不安定で変化していくもの、つまり身体ともむきあっている。戦場には戦略が必要である。世阿弥がいう「初心」とは、試練の時に臨んでこれを乗り越えていった戦略にほかならない。
以下、著者は「時節感当」「男時・女時」「秘すれば花」「離見の見」「衆人愛敬」等々と、世阿弥が残した言葉がもつ戦略性を説き明かしていく。これが第一章「世阿弥の人生戦略」で、続く第二章が「世阿弥の創造性」、第三章が「人生のシステム 世阿弥の人生論」(人間の人生を七歳頃から初めて七段階に分けた『花伝書』第一章「年来稽古条々」の現代版)。
私はこれらのうち第二章が一番面白かった。たとえば著者は世阿弥の能の最大の発見は「旅」であったという。世阿弥の能は、旅の僧がこの世の「境」を超えて異なる世界と出会う「旅行演劇」であり「ロードムービー」であったというのだ。
《世阿弥が発見したのは、このよく知られた物語[『源氏物語』『伊勢物語』『平家物語』など]を、現実に舞台に登場させるための「仕掛け」である。「旅」という仕掛けである。それを発見した時、能は、世界のどこにもない作品の生産力をもつこと[ママ]なった。…人々は、自分ができない旅の体験を、この舞台の上の旅の僧をとおして、実現することができる。舞台は、観客自身の夢のカプセルとなる。…ここに能の魅力はあった。映画も当然ない時代に、世阿弥とその周辺の能の作者は、この「旅」という方法を発見することで、今日の映画に通じる「夢」のカプセルに能はなったのだ。》(79-80頁)
世阿弥にとって、「夢」は過去の物語をよみがえらせるためのメディアであった。世阿弥は「夢の編集機能」に注目し、能の舞台を、自由に物語が変化する場面にすることができたのである。なんという、天才。
《「夢」というカプセルをひらけば、そこに世界がひらけていた。確かにそれは革命的な発見であった。能の研究者は、こうした世阿弥のスタイルを「複式夢幻能」ともいっているが、現実と夢のなかの物語とを、あわせ鏡のようにして見せたこのスタイルこそ、世界の演劇にかつてなく、現代の前衛演劇において可能となった、きわめて革新的なスタイルであったのだ。》(89頁)
──ほんのさわりだけ抜き出した。小冊子ながら、著者が叙述する「情報カプセル」としての能、情報編集者としての世阿弥の創造性(オリジナルを作らない創造性、人々の「物語」についての記憶のなかにオリジナルを求めていく創造性)はとてつもない広がりをもっている。不思議な人が書いた不思議な本。
紙の本
2002/04/08夕刊
2002/04/19 22:16
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投稿者:日本経済新聞 - この投稿者のレビュー一覧を見る
法哲学者で、能楽評論家でもある著者は、世阿弥を「日本最初のビジネスリーダー」と言う。世阿弥の著書「風姿花伝」をひもとき、試練を克服するための「初心」、ビジネスチャンスをつかむ「時節感当」など、現代人にとって有益な処世訓を読み取る。
(C) 日本経済新聞社 1997-2001