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うつから帰って参りました
著者 一色伸幸 (著)
映画「彼女が水着にきがえたら」「病院へ行こう」などのヒット作で、若くして売れっ子脚本家になった著者。時代はバブル真っ盛り。ハイ状態で仕事をこなす日々。しかしその一方で、漠...
うつから帰って参りました
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うつから帰って参りました (文春文庫)
商品説明
映画「彼女が水着にきがえたら」「病院へ行こう」などのヒット作で、若くして売れっ子脚本家になった著者。時代はバブル真っ盛り。ハイ状態で仕事をこなす日々。しかしその一方で、漠然とした不安や締切のプレッシャーから精神的に追いつめられ、市販薬の過剰摂取で気分を紛らわす方法を思いつく。薬物依存は次第にエスカレート。生活が荒み、奇行が目立ちはじめ…医者が下した診断は<うつ病>。発症から克服までをユーモラスに描く、笑いと涙のうつ病生還エッセイ!
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紙の本
帰る場所はあるのか
2009/11/09 15:28
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:arayotto - この投稿者のレビュー一覧を見る
ちょうど社会人として働き始めた80年代の終わりから90年半ば、一色伸幸さんの書くドラマには楽しませてもらいました。「私をスキーに連れてって」を始めとするホイチョイ3部作や、「病院に行こう」「僕らはみんな生きている」などの、バブル時代ならではの能天気さやおちゃらけさに、仕事の辛さを忘れたものです。
2000年前後になってそういえば最近一色伸幸のクレジットを見ないなと思っていたら、うつ病で薬に溺れていたんですね。(薬といっても違法なものではなく、市販薬や処方薬の過剰摂取)
このエッセイは、シナリオが書けなくなり、薬に頼らざるを得なかった自身・一色伸幸さんのうつ病回顧録です。
私のように平凡に毎日を生きている人間は、その平凡さゆえに、メジャーな世界で華々しく活躍する人に深く憧れます。
一時期自分もシナリオライターを目指したこともあり、著者・一色伸幸や、同時代の野島伸司、坂元裕二に憧れ、嫉妬を抱いたものです。
でもこの本を読むと、負け惜しみかもしれませんが、平凡で良かったとさえ思ってしまいます。
注目され期待され締め切りに終われライバルに恐れ虚勢をはり、それでも書き続けるには自分の才能以外のもの(たとえば薬)にすがりつかざるを得なくなってしまうという「弱さ」。
この本はその弱さを克服するための薬依存や自らのうつ状態を、自身の脚本からダイアローグを挟み込みながら、赤裸裸に綴っています。
うつじゃない人、特に豪快に我が道を突き進んできた人たちは、うつ的精神状態の人に出会うと、「頑張れ」「息抜きしたら」「人間、気の持ちようだ」などと、今の(健康である)自分自身を基準に励ましてしまいます。その励ましがうつ患者にとってまったく意味のないことで、むしろ逆に傷つけてしまうことだなんて想像すらできません。
ほんの少し前までうつに関する知識のあまりなかった私も、「うつ」という精神状態がどうしても理解できませんでした。
でもこうした本を読んだり、有名人・知名人の自殺に触れたりするごとに、徐々にですが、「うつ」という病気がたしかにあるんだ、と認識せざるを得なくなってきました。
幸いにも今の自分には「うつ」的兆候はありませんが、いつ自分が罹っても不思議ではないでしょう。
そんな時自分は再び「今の」状態に戻って来れるのかしら、とこの本を読んでいて不安に感じてしまいました。
この本のタイトルは「うつから帰って参りました」
そう、一色さんは帰ってきた。帰ってこれた。
行ったきり帰ってこれない人も多くいるなか、どうやってうつから帰ってこれたのか。
一色さんには、シナリオという自分を表現できる才能と技術があった、発表の場があった、温かく見守る家族がいた、仲間もいた。そうした帰る場所がきちんと用意されていたから帰ってこられた。
健康な状態であれ、そうでない状態であれ、人にとって必要なのは「帰れる場所」「迎える人」が確実にある、いるということなんじゃないだろうか。
今多くの「うつ」から生還した体験の本が出版されています。この本のようなエッセイ、マンガ、ブログ(日記)から生まれたものなど様々です。
まだ今の自分には縁遠い世界の物語かもしれませんが、こうした実体験や事例のいくつかに多く触れることで、「うつ」への正しい知識や対処を予習しておくことができます。
そしてそれは同時に自分を見つめ直すきっかけにもなります。
今の自分には「帰れる場所」はあるのか、「迎えてくれる人」はいるのか。
いつ襲ってくるかもしれない「うつ」について考えることは、自分の存在理由を見つめ直すことなのです。