紙の本
現代に通じる謀略の影、大国の論理についても考えさせられました。
2004/12/09 18:59
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投稿者:風(kaze) - この投稿者のレビュー一覧を見る
終戦後、米国の占領下にあった日本。昭和20年代に起きた怪事件の裏側にあったのは何か、公表された“記録”とは別の“真実”がそこにあったのではないかと、松本清張が検証、推理していく戦後昭和史ドキュメント。
下巻には、「征服者とダイヤモンド」「帝銀事件の謎」「鹿地亘(かじ わたる)事件」「推理・松川事件」「追放とレッド・パージ」「謀略朝鮮戦争」と、「なぜ『日本の黒い霧』を書いたか」が収められています。
関係者の証言や残された記録を手がかりにして事件の真相を探っていくと、どうも公表された事と違うのではないか、様々な不審の点がそこにはあるようだと論を展開していく清張の推理。実に説得力のあるものでした。「推理・松川事件」などは殊に、公表された“事実と称する記録”よりもよほど真相に迫っているのではないかと思った次第です。
戦後当初は日本の民主化を奨励、推進しながら、それが高じて共産主義の勢力と結びつく恐れがあると見るや、占領政策を方向転換し、日本を極東の対共産圏の防波堤となるべく誘導したGHQ。対共産主義の米国の戦略の中心となって動き、GHQ内部でGS(民政局)と激しい主導権争いを繰り広げていたG2(参謀部第二部・作戦部)。怪奇複雑な事件の背後には、このG2の工作や謀略が行われた可能性が強いのではないか。事件の“黒い霧”の中を探っていくと、どうしてもそういう謀略の影が見え隠れしてならないのだがと、清張かく語る訳です。
極東における米国の防衛ラインとしての日本の位置づけ、極東情勢の変化に伴うGHQの政策の大転換などが清張の推論によって浮かび上がってくるところ、その辺が強く印象に残りました。
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日本近代の闇
2019/05/19 06:18
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投稿者:七無齋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
松本清張の日本近代史に対する情熱がひしひしと伝わってくる。小説ではなく真実を追求する姿勢は著者の社会に対する訴えを明確にわからせてくれる。
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レッドパージの思い出
2017/08/04 22:09
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投稿者:キック - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦争直後のGHQ支配下における謎の怪事件に松本清張氏が鋭く切り込みます。
下巻では6事件(ダイヤ強奪、帝銀事件、鹿地亘事件、松川事件、レッドパージ、朝鮮戦争)の推理で、力作でした。上下巻を通じて、12の事件を扱っていますが、それぞれ点だった事件が朝鮮戦争で繋がるという圧巻の結末。
推理小説ではないので、まず朝鮮戦争の項および解説を読んで、最初に戻るという読み方も良いかもしれません。戦争に負けるとは、主権がないとはどういうことかが実感できました。学校で絶対に教わることのない戦後史の暗部が覗けます。
ところで、レッドパージには亡き父との思い出があります。実は、父が生前に「自分も危なかった」と話していて、まだ20歳そこそこだったくせに戯言を言ってるなあと思っていました。本書を読んで、パージに年齢は関係なかったことが分かり、もう少しきちんと聞いてあげれば良かったと後悔しました。また、赤旗を購読していた父に、「こんなもの取るなよ」と忠告しても頑として聞き入れなかったのに、定年後は購読を止めました。どんな心境の変化があったのか聞けば良かったです。
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考える力
2022/12/23 14:48
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投稿者:bar亭主 - この投稿者のレビュー一覧を見る
筆者の取材力や理論の組み立てには敬服せざる得ません。
筆者自身が先入観的な見解無しに執筆したと記しています。
しかし敢えて、先入観が作用しているから、
こういう表現や文章の組み立てになるのではないかな?
とかを考えながら読んでみるのも一つの方法だと思います。
人間や物事が理論通りにいかないという事は、
筆者の小説や現実世界を見渡せば周知のとおりです。
物事は多方面からの見方で変化します。
私が感じたのは、記録として一級品であり、
筆者がジャーナリスト会議賞を受賞したのは頷けます。
そして、読者は筆者を見習い、自分で考える能力を育てるべきだと思います。
ここで大切なのは、全ての情報を自分で精査して、自分で見極め考える。
そして、未来へと生きる術にしていくことが大切だと思います。
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下巻で取り上げているのは、日本軍が接収したダイヤモンドの話、
帝銀事件、松川事件、レッドパージ、そして朝鮮戦争など。
これは、あくまでもGHQ占領史を小説家松本清張が描いた
ルポタージュ。表面的な理解では、清張が自ら言うように、
「占領中の不思議な事件は、何もかもアメリカ占領軍の謀略であるという
一律の構成で片付けているような印象」を受ける。
それゆえに批判も受けたようだけれども、清張は「それぞれの
事件を追及してみて、帰納的にそういう結果になったにすぎないのである。」
と答えている。
歴史を学ぶ理由は、「歴史は流転する」からである。
この本で昭和史の一端を知ることが出来るのであるが、
これを現在に当てはめて考えてみるとどうだろうか。
結局、究極的には自国の利益しか考えていないアメリカ。
そのアメリカ一辺倒の外交姿勢の日本。
近隣のアジア諸国、中国や韓国との緊張感の高まり。
日本と中韓の緊張感が高まれば高まるほど極東の軍事力の
必要性が増し、米軍の存在理由がそこに生まれ、
日本が再び軍事大国としての道を歩みだす・・・。
深読みしすぎ?
どうなんだろう。
ちょっと読むのに疲れたけど、考えさせられる1冊でした。
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戦後の日本における実質未解決事件の真相推理、後編。1974年発行。終戦後の怪奇な事件郡を知りたい方は、一読されてみてはどうでしょう。概観は掴めると思います。
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~内容(「BOOK」データベースより)~
戦後日本で起きた怪事件の背後に何が存在したのか。米国・GHQの恐るべき謀略に肉薄した昭和史に残る名作の続編。戦後の混乱を生々しく伝え、今日の日本を考える貴重な資料である。日本中を震撼させた「帝銀事件の謎」、被告の冤罪を主張する「推理・松川事件」、横暴な権力への静かな怒りに満ちた「追放とレッド・パージ」など。
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上巻に続き、帝銀事件やレッドパージについて書かれており、最後は朝鮮戦争に関する文章でまとめている。
終始一貫して、これらの事件のうらにはGHQが絡んでおり、そのため事件が解明されることがなかったとまとめられている。
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11月5日読了。戦後GHQの占領下に置かれた日本に発生した数々の疑惑・怪事件の真実を断片的な事実から著者が推理する書、下巻。推理の切れ味は上巻の「下川総裁事件」に及ばないが、帝銀事件において警察がぶつかった壁や、レッドパージにおいて追放を受けた人々の境遇への怒りに著者のモチベーション・正義感をうかがい知ることができる。著者自身や半藤一利による後書きを読むと、「陰謀史観」「結論ありきの推理」「小説でも歴史でもない半端もの」などと当時は随分と批判もされたことがわかる・・・。まあ、その分熱狂的な支持も受けたのだと思うが。
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前作みたく今まで一切知らなかった事件ばっかりの推理よりも朝鮮戦争が絡んでそこはおもしろかったかな。
ダイヤモンド、帝銀事件、鹿地事件、松川事件、公職追放、そしてそれら事件が最終的に繋がる場所として朝鮮戦争の推理。
あとがきや解説でああして擁護されなきゃならないほど「陰謀論」としていわれのない叩きを受けてたのかと思う。確かにどの事件も米軍絡みな上にどことなく共産チャイナ・ソ連・日本のアカ寄りな感じのする記述を見てるとその批判も受けちゃうのわかるけど。
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半藤一利解説にもあるように「あまりにも意図的である」「反米的でありすぎる」との
この作品に対する批判は確かに分からないでもないが、これも解説で言うように
当時これだけのものを書いた作者はさすがとも思う。
陰謀史観は好きではないが当時の?「アメリカならこれくらいは平気でやったろう」
と言う感じはするし(笑)
戦中~GHQ占領期は良くも悪くも現在の体制の基礎になっているのかなあ?
司馬さんが旧陸軍に恨みがあるように(笑)清張さんも旧軍やアメリカに対する恨みがこういう作品を書かせたのではないかと・・・。
適当な考えですが(^^ゞ
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内容(「BOOK」データベースより)
戦後日本で起きた怪事件の背後に何が存在したのか。米国・GHQの恐るべき謀略に肉薄した昭和史に残る名作の続編。戦後の混乱を生々しく伝え、今日の日本を考える貴重な資料である。日本中を震撼させた「帝銀事件の謎」、被告の冤罪を主張する「推理・松川事件」、横暴な権力への静かな怒りに満ちた「追放とレッド・パージ」など。
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上巻の勢いが若干落ちたような気がする点がもったいない。それは、戦後史における転換点に段々迫ってくるにつれ、歴史叙述に近づいているからかもしれない。しかし、ノンフィクションとしては第一級品であるという評価は、変わらず。
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勝浩1958
戦後のどさくさに紛れて、莫大な金品を掠め取ってぼろ儲けした輩が日米共にいたようだ。そのような人間が財閥を密かに支えたり、または政商となって暗躍し続けてきたのだろう。
また、歴史に疎い私は「謀略朝鮮戦争」でほんの少しだけこの戦争のことを知ったのだが、要はアメリカが朝鮮を足がかりにして、ソ連と中国の分断を図ろうとしたことらしい。より深く知るために、今後、朝鮮戦争に関連した書物を読んでみようと思う。
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きっかけは昨年の11月のことだったと思う。リカさんと飯田橋で待ち合わせをしていたところ遅れるというので、俺は近くの本屋で立ち読みをしていた。そのとき目にとまったのが松本清張の推理事件史「日本の黒い霧」だった。俺はそれを20ページほど読み進めたが、リカさんから連絡が入ったため、その時は買えずに店を出た。俺は普段本を全く読まない。しかし、その本は非常に読みやすく、読んでるうちに、いつの間にか自分が敗戦直後の混沌とした日本にいるような錯覚に陥っていたのを覚えている。
後日俺は「日本の黒い霧」を上下巻とも買い、少しずつ読み始めた。とはいえ、年の暮れのイベントだらけの毎日、その小難しい文献をまとめて読み進めるような時間はなかった。そのため、電車での移動中に少しずつ読むことにした。しかし、1月中旬までは電車の中でも論文を読んでいた。年が明けてしばらくして、電車にもゆっくり座って読めるようになった。ここで、ある問題が発覚した。電車の中で本を読んでいるとすぐに眠ってしまうのだ。そんなわけで毎日本を開くのだが、読み進むページは10~20ページだった。
その「日本の黒い霧」を遂に読み終えた。非常に満足感があった。それはその時代を同じ時間を生きたような不思議な感覚だった。本を読んでいる時、俺は敗戦後の日本に生き、占領軍も交えて知能戦を繰り広げたそんなどこかの日本人達を傍らで見守っていた。いや、まさに戦いを繰り広げていた当人であったかもしれなかった。その日々が終わり、新しい日本が始まる。その日本の行く末を見つめていたのかもしれない。