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麦屋町昼下がり
著者 藤沢周平 (著)
「お助けくださいまし」と夜道を走ってきた女をかばい、片桐敬助は、抜き身の刀をもった男を斬った。かわせば女が斬られ、受ければ自身が手傷を負ったにちがいない。しかしその男は、...
麦屋町昼下がり
麦屋町昼下がり
麦屋町昼下がり (文春文庫)
商品説明
「お助けくださいまし」と夜道を走ってきた女をかばい、片桐敬助は、抜き身の刀をもった男を斬った。かわせば女が斬られ、受ければ自身が手傷を負ったにちがいない。しかしその男は、藩内随一、とうたわれる剣の遣い手・弓削新次郎の父だった……。片桐と弓削、男の闘いの一部始終を、緊密な構成・乾いた抒情で描きだす表題作のほか、「三ノ丸広場下城どき」「山姥橋夜五ツ」「榎屋敷宵の春月」と円熟期の名品を収録。時代小説の味わいを堪能できる贅沢な1冊!
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紙の本
災い転じて福と成す。身に降りかかる火の粉を振り払って訪れる幸せを描いた武家物四編。
2010/06/26 10:25
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
主人公の身に降りかかるさまざまな災難と、それを乗り越えて訪れる幸せを描いた武家物四編が収録されている。
災い転じて福と成す、災難を乗り越えた安堵感とともにやってくる心地よい幸福感が魅力の作品ばかりである。
【麦屋町昼下がり】
片桐敬助は、五ツ過ぎに上司で御蔵奉行の草刈甚左衛門から寺崎家との縁談話を受けた。そしてその帰り、抜身刀の男と逃げる女に遭遇した。
女を庇う敬助といきなり斬りかかってきた男。斬りむすんだのち敬助が斬った男は、奇行で知られる天才剣士・弓削新次郎の父で、庇った女は新次郎の妻女だった。
やがて、弓削新次郎との騒動が噂される敬助に訪れたのは、寺崎家からの破談の知らせだった。
一度も勝ったことのない弓削新次郎との対決が迫る緊張感と、四面楚歌で酒に溺れ落ちぶれた剣士・大塚七十郎に頼るしかない絶望感を描いている。
緊迫する物語の中で、破談になりながらも見え隠れする寺崎の娘の姿が、仄かな暖かさを感じさせ、本書中、一番心地よい作品となっている。
【三ノ丸広場下城どき】
失態があって近習組から御馬役に左遷されていた粒来重兵衛に、密書を預かる使者の護衛を新宮中老から命じられた。
しかし、そこには藩政を壟断する次席家老臼井内蔵助の、使者もろとも重兵衛を亡き者とする企みがあった。
使者を斬られたものの、辛くも逃げおおせた重兵衛は、かつて剣と女で争った臼井内蔵助の悪意に気づくのだった。
かつて坂巻与七郎といった臼井家老の悪意が重兵衛を襲う。重兵衛の左遷事件にまで話が遡るサスペンスが魅力。
妻を亡くした重兵衛の元に、手伝いとして来ている、出戻りで怪力の茂登のエピソードがユーモラスである。
【山姥橋夜五ツ】
柘植孫四郎は、息子の俊吾が道場で荒れていると、右筆で道場の次席野々村新蔵から聞いた。
理由は分かっている。不義の噂が立った妻の離縁を納得していないのだ。
その夜、親友の塚本半之丞が腹を切った。半之丞は、孫四郎に、前藩主は毒殺という真相と後を頼むという遺書を残していた。
半之丞の遺書によって、前藩主の毒殺という真相と、家禄を削られるもとになった出来事が結びついたときに始まる、孫四郎の闘いが読みどころ。
妻の不義の真相にまで及ぶ壮大なサスペンスに息もつかせない。
【榎屋敷宵の春月】
寺井織之助の妻・田鶴は、宗方惣兵衛に嫁いだ三弥と、夫の執政入りを巡って密かに争っている。
かつての親友に負けたくない気持ちは、家の対面というだけでなく、兄を裏切り死に追いやったであろう三弥の行動からきていた。
田鶴は、その三弥と理江の三人で、行儀見習いの旧交を温めた帰途、家の前で武士の斬り合いに遭遇した。
夫の執政入りを巡る妻の争いと、襲われていた武士を助けたことから関わっていく、新執政の後任人事を委ねられた平岐筆頭家老にまつわる藩争、という二つの田鶴の闘いを描いた作品。
特に、したたかな三弥と正義を貫く田鶴が対照的で、印象に残る。
この作品は、瀬戸朝香と酒井美紀が出演する「花の誇り」としてTVドラマ化された。
あらすじは原作に近いものの、二人の心理的関係はちょっと違っているので、本作品とは印象が異なる。
夫の出世を望む三弥はあくまでもしたたかな女性である原作に対し、TVドラマでは、三弥は田鶴を困らせることで彼女の気を引く女性。
夫の執政入りを巡る争いや、兄に近づき裏切ったことすらも、実は田鶴を困らせて気を引こうとしているのではないかと思わせる、小悪魔的な三弥と、真っ直ぐで正義を重んじる田鶴がいる。
花とは田鶴と三弥。田鶴の正義にかける誇りと、三弥の女の友情にかける誇りの交錯を描いた作品だと感じた。
それゆえラストシーンから感じられるものは原作とかなり異なる。