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「格差」ではなく「貧困」が問題だ
2007/08/13 23:55
14人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:king - この投稿者のレビュー一覧を見る
貧困というとなんだか古い話のようだが、著者はデータを提示して、貧困が現在非常に拡大しつつある状況を示し、貧困に陥った人々に対する保障がきわめて薄い現代日本の問題点を指摘している。
最近格差社会論が活発だが、いわば個々人の生き方の問題とも言える格差、ではなく、社会がその是正を行わなければならないもの、最低限の生活の維持が危うくなる「貧困」が問題なのだという。
では、貧困とはどういう状況か、ということについてから説明が始められ、貧困調査の基礎知識などが解説されなかなか面白いのだが、それは措いておく。
メディアでは誰もが貧困に陥る可能性があるということを強調するが、そうではなく、現代日本で貧困に陥るのは、特定の人びとだという。それはある不利な状況にある人びとで、現代では格差の進行により、そうした人びとが貧困から抜け出せなくなり、固定化している。そこで強い関連があるのが学歴で、大卒、高卒、それ以下、できわめて大きな差ができている。これには、高等教育を受けさせるだけの富裕な家庭でなかった、という状況が考えられ、格差固定の一例を示している。
そして、貧困という状況下では、経済的な困窮のため、安定した労働が行えないという不安要素が増大する。そうしたストレスのかかる状況で、病気になりやすくなったり、自殺してしまったりするという問題がある。特に、自殺の要因の三割は生活、経済問題が占めており、近年の中高年男性の自殺の増加ともあわせて大きな問題といえる。
貧困は社会不安を増大させる大きな要因であり、社会問題のかなりの部分は貧困を視野に入れなければ解決できないものがあると著者は指摘している。
さらに、著者は日本の保障の問題を指摘する。
「日本の福祉国家の仕組みは、高学歴かつ正規雇用者で資産も家族もある人々には「やさしい」一方で、低学歴で未婚もしくは離婚経験があって非正規雇用で転職も多く、資産も家族もない人には「やさしくない」と見ることができる」189
OECDによる国際比較で、日本の低所得層が再配分によって得た所得のシェアは、先進諸国19ヶ国中下から二番目だという。税や社会保障による所得の再配分がかなり低機能だ。
また、シングルマザーやホームレスといった人々にとって必要であろう住宅手当や失業扶助といったたいていの先進国にある保障制度がない。住所がなければ生活保護や職安の対象にすらなれないホームレスの存在を考えるとこれは致命的な問題だろう。
少子化と騒がれている割には、政府は子供を持つ親に対してはきわめて冷たい態度を取っている。ネオリベ的な企業に優しい改革をする一方、非正規雇用やシングルマザーらを批判する連中の多いこと。自分たちがすすめた改革の生み出したものを、人ごとのように批判しているようにしか見えないが。
著者は、社会保障の充実は低所得層の人権ばかりを配慮したものなのではなく、社会の安定と統合のためにも必要とされるのだと言う。
「福祉国家の歴史が証明しているように、国家が貧困対策に乗り出す大きな理由の一つは、社会統合機能や連帯の確保にあった。階級や階層ごとに分裂した社会を、暴力や脅しによってではなく福祉機能によって融和と安定に導いていくことは、国家それ自体の存在証明にもなることであった」207
ワーキングプアはじめ、生活が困難になりつつある労働者が増える一方で、企業は景気が良いらしい。低所得層の増加と不安定労働の拡大という社会の不安要素をいたずらに増大させる政策が何に帰結するのか、政府は考えているのだろうか。
以下に詳細
Close to the Wall
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社会学的な貧困研究のコンパクトな入門書になっていると思う。『希望格差社会』以降の格差問題がブームになって、ネオコン的経済動向が「新しく」貧困を作り出しているように捕らえがちだが、それがある種虚構であることを鋭く突いている。貧困はバブル期にだってあったのだ。逆にそういう時期「もう貧困はない」ということで社会統計的にも学術的にも空白になり、世間でも貧困問題を不可視にしていたことがよくわかる。いわゆる絶対的貧困は、こんなことありえないし許せない、というラインを「社会が」決めて対策を講じるときに必要な概念だが、そういうものを、格差という「常にあるもの」に置き換えることで、仕方ないことにしてしまわないように、この本のような要点整理は重要。で、今の日本の貧困は、社会的なありかたの組み合わせで(能力とか努力とかじゃなく)起こりやすくなる、という実証研究をわかりやすく説明してくれている。たとえば、女性で独身でこどもあり、とか、男女ともに有期雇用で寮に住む、とかの貧困リスクは高い。オッズの表があって、すげーインパクトだ。
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格差問題が取り上げられているが、現代社会での貧困の実態はどうなっているか。さまざまなデータや聞き込みを元に、貧困の実態をいろいろなパターンをあげて解説している。
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「貧困」の定義や意味について、ロジカルに整理されていた。
新書の軽い話を期待していたのだが、意外と重かった。しかし読み応えがあった。
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あとがきでも述べられているように、深い議論には踏み込まず、「貧困論」を中心として全体的に広く・浅くまとめられていると思います。貧困について学ぶ上では、入門書の役割を果たしてくれるのではないでしょうか。
あえて言えば、正論が多すぎて、どことなく胡散臭さが漂っているような気がします。岩田正美なんて、超大御所で厚生労働省の委員会の委員長もやっているぐらいの人ですから、あまり下手なことは言えないのかもしれませんが。
ただ、現在の生活保護における住宅扶助を制度そのものから切り離し、独立した制度にするという制度はなかなか面白いのではないかと思います。今握っている権力で、ぜひ実行に移していただきたいです。
本書でも述べられているように、今後の日本の貧困ラインがどうなるのか。この本は1つの啓発にもなるのではないかと思います。
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「貧困」をボーダーライン設定基準の揺れから捉えていく。解決策として挙げられるのは、貧困の形態個々に合ったものが簡単に挙げられている。「新しい貧困」を再び見つけた現代で、我々はそれをどう受け止めるべきなのか、もう一度考えたい。
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格差社会の果てにワーキングプアや生活保護世帯が急増中と言われるが、バブルの時代にも貧困問題はあった。貧困問題をどう捉えるか、その実態はどうなっているのか。現代日本の現状を明らかにし、その処方箋を示す。(TRC MARCより)
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うすうすとは感じていながら、何が悪いのかはよく分からなかった。
それがスッキリしたという感じです。
少ないながらも資料をもとにじっくりと書かれています。
読むのに少し時間がかかったのですが、
それでも作者はたぶん書き足りなかったのだろうなあというのが読み取れます。
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●未読
「週刊ダイヤモンド」2009.03.21号 「あなたの知らない貧困」p.40〜41「貧困本」×16冊 1-1
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「格差」とは単なる状態を示す言葉
「貧困」とは社会が解決するべきだっていう価値判断を伴う言葉
社会的排除は大問題
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なぜ結婚をしていないとホームレスになる確率が上がるのだろう。未婚がワーキングプアにつながってゆく道筋は複雑です。
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[ 内容 ]
格差社会の果てにワーキングプアや生活保護世帯が急増中、と言われる。
しかし本当にそうか?
バブルの時代にも貧困問題はあった。
ただそれを、この国は「ない」ことにしてきたのだ。
そもそも、貧困をめぐる多様な議論が存在することも、あまり知られていない。
貧困問題をどう捉えるか、その実態はどうなっているのか。
ある特定の人たちばかりが貧困に苦しみ、そこから抜け出せずにいる現状を明らかにし、その処方箋を示す。
[ 目次 ]
1章 格差論から貧困論へ
2章 貧困の境界
3章 現代日本の「貧困の経験」
4章 ホームレスと社会的排除
5章 不利な人々
6章 貧困は貧困だけで終わらない
7章 どうしたらよいか
[ POP ]
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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(「BOOK」データベースより)
格差社会の果てにワーキングプアや生活保護世帯が急増中、と言われる。しかし本当にそうか?バブルの時代にも貧困問題はあった。ただそれを、この国は「ない」ことにしてきたのだ。そもそも、貧困をめぐる多様な議論が存在することも、あまり知られていない。貧困問題をどう捉えるか、その実態はどうなっているのか。ある特定の人たちばかりが貧困に苦しみ、そこから抜け出せずにいる現状を明らかにし、その処方箋を示す。
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「格差」ではなく、「貧困」という言葉を用いているのがミソ。
つまり、社会情勢などで誰もがその立場に陥る可能性があるのではなく、社会的に不利な立場におかれる人が一定数存在する、自己責任と切り捨てるのではなく社会全体が保障しなければならない層が存在する、という。
単に不安を煽る(?)だけでなく、きわめて真面目に「貧困」と向き合い、分析した一冊。面白かった。
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現代社会の貧困について、豊富なデータを元に解説した本。
小泉政権のせいでこんなに格差が!びっくりするほど生活が大変!
と危機感をあおるような本ではなく、むしろ奇をてらわずに、日本にある貧困について再認識させてくれる。
どうしてもニュースなどでは、貧困というと中産階級の転落とか、社会福祉なんか無駄だといいたくなるような横暴なDQNとかを扱いがちなのだけれど、むしろ経済的にも人間関係的にも不安定で、不況などで割をくいやすい、よりリアルな貧困層について再認識することが出来た。
貧困を他人事みたいに書いてますけど、僕だってお金があるわけじゃないんだよねぇ・・・