紙の本
言語芸術の豊饒
2008/01/02 09:09
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:けんいち - この投稿者のレビュー一覧を見る
ここには、言語芸術の豊饒がある。まず、そういっていいだろうし、今やなかなか読みにくい小島信夫の初期短篇が文庫で読めるようになった状況を喜びたい。戦場のすさんだ風景に、女の身体をなまめかしく描き出し、返す刀で戦場のかすかな狂気を照らし出す「小銃」、戦後日本文学の傑作『抱擁家族』へと展開していく確かな萌芽をたたえたファルスの名作「馬」といった名品をはじめとした収録作品群に加えて、表題作の「アメリカン・スクール」が何といっても素晴らしい。この小説は、芥川賞を受賞し、小島信夫の代表作の1つにも数えられているが、占領期としての「戦後」という主題を描いて、今日ますます輝きを増す、すごみのある短篇の1つといえる。すごみというのは他でもない、飄逸な文体、ステレオタイプ化されたキャラクター(設定)、物語的結構のゆるさ、といった作品の要を成す要素が、小説形式として現代的であるばかりでなく、そうした仕掛けによって描き出される「英語/米語/日本語」をめぐる日米の人々のアイデンティティの諸相が、今日ますますアクチュアルな主題と化しているからに他ならない。「小説に現実が追いついた」というべきか、いや、当時(1952)もアクチュアルな寓意性をもっていたに違いないのだから、「50年を超えるアクチュアリテーをもった小説が、時とともにその全貌を明らかにしつつある」というべきだろうか。何しろ、「アメリカン・スクール」は、年をまたいで政局の争点となっている給油問題、そこに根深く宿る非対称的な日米関係を戯画的に描き出した小説として、戦後日本のその時々の局面を諷してきたといってもよいのだ。我々は、この短編集をファルスとして読み、ファルスでしかない戦後日本に気づき、そしてそこでの自らのアイデンティティを問い直されるのだ。これを言語芸術の豊饒といわずして、何と称せようか。
紙の本
アメリカンスクールはツボにはまりました
2019/01/26 22:18
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
今年に入ってから「第三の新人」と呼ばれていた人たちの作品を読み進めている。どの作家にも独特の味があり、余韻がある。小島の作品の特徴は、あまりにも滑稽で、そばにいたらぶん殴ってやろうかと思えるくらいの、いや本当にぶん殴っているかも知れないほどのダメ人間の描写の巧みさである。阿川や吉行に登場するもてる男性には、男にもわかる理由があるのであるが、「アメリカン・スクール」に登場する伊佐には全くその要素は見受けられない。英語教師のくせに英語を話せない卑屈な男なのだが、なぜか女性からは無視できない存在なのだ。「汽車の中」ののろまな、かれも奥さんにとってはほっておけない存在なのだろう
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表題の芥川賞受賞作のほかにも、おもしろい短編がいくつもはいってる。小説は小説として、ただ単にフィクションとして楽しいから読むんだよってこと。そんないい本。
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初めて触れた小島作品。彼独特の言い回しや、言葉遣いに最初は戸惑うけれど、、読み進めるうちにどんどん嵌っていく。平仮名が多くて読みづらい。戦争を題材にしたものが多い様に感じる。勢いのある文章。『汽車の中』が一番面白かった。ブラックユーモア(?)みたいな話でした。
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表題の芥川賞受賞作を含めた8作品が収録されている短編集。
「燕京大学部隊」という話の中に「ホワイラ」という言葉が出てくる。
永年の謎であった「ノーテンホワイラ」が解明された。
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ドスさんの洗礼を受けた直後に読むのは、小島先生に申し訳なかったかもしれないです。
燕京大学部隊がポップで大好き。すごくいい。登場人物全員たまらん。
あとは小銃、微笑、、、ていうか全部いいな。
いいなっていうか、意味はわからないのだが精神の皺に入り込んでしまったので、
もうそれ以前の私ではないって言う、あの感じです。
戦争も、自分も、他人級に冷静です。冷静ゆえに肉感的だと思う。
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「馬」は馬なのか、それとも僕の「嫉妬からきた妄念」なのか。
狂気に満ちた生活で「狂人か否かを決定する尺度なんていうものはどこもない」とは云い切れない、不思議さ。
今まで読んだ本の中で最も疑義ある作品。
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戦争に関する話しはそこまでグッとこなかったけど、評判の「馬」はすごいひきつけられた。主人公の弱さと対比となす他社の強さ。だけど、それが単純な強弱の関係にみえない。この人の作品って読みやすいなぁ
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浦野所有。
おもしろそうな芥川賞作品ないかな~と思って見つけたのが、この作品。恥ずかしながら著者名も初めて知りました。
短編集となっている新潮文庫版では、表題作のほか「汽車の中」「馬」がおもしろかったです。ほとんどの作品で主人公となっているのが、弱気で妄想癖のある男。「アメリカン・スクール」は、トラウマのため外国人を前に英語が喋れない英語教諭のお話です。その教師が、「外国人学校でデモ授業をやろう」という勝気な同僚を相手に、一人勝手に精神戦を展開するというものでした。
「汽車の中」「馬」でも似たようなタイプの男が、直感と本能のままに行動し、何を考えているのかわからない動物的な女を相手に、知らずのうちにピエロを演じてしまうという滑稽な構図でした。
ほとんどの作品が、それほど長くない時間内のできごとを扱っていて、その間に刻々と変化する主人公の葛藤や悩みを浮き彫りにするというもので、「これぞ短編」というものでした。いわゆる「石原慎太郎以前」の古い芥川賞作品ですが、なかなか読みやすくて楽しめましたよ。
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小島信夫の小説はいつも僕を混乱させる。しかし、同時にそれは心地よい体験でもある。
小島信夫を含め第三の新人の時代は、一部の例外を除いて極上の作家が集まった日本文学にとって重要な時期だったのね。
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少し時間がかかったけど、
ようやく読了。
読んでいて胸苦しくなるような感覚を覚える。。
恥だとか嫉妬だとか、卑屈だとか、
本来なら、蓋をして必死に押さえつけておきたい感情が
悪夢と呼ぶにはあまりにも艶かしい物語の中で、
むしろいきいきと蠢いている。
同年代の作家、島尾敏雄氏ともどこか共通する感覚。
「馬」や、「アメリカン・スクール」の読み物としての純粋な面白さと、風刺的滑稽・悪夢的闇の同居はどこか
御伽噺の様でもある。
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「アメリカン・スクール」
半分上の空で読んでしまったからかもしれないけれど、何が何だかわからないうちに終わってしまいました。
戦後、日本人英語教師がアメリカン・スクールに参観に行く話。タイトルから想像していたのとかなり違う内容でした。
敗戦国の日本がアメリカ指導で復興していく。日本人にとっては屈辱的なことでもあり、主人公は英語教師であるが英語を話すことにためらいがあります。自分が自分でなくなってしまうような感じがするというのです。一方で、英語を話すことを苦としない女性教師。英語だと、何でも気兼ねなく話せてしまう。
そのあたりの対比が要点なのかなぁと思います。終戦後の日米関係がポイントかと!
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小島信夫の作品は最近はどうも流行っていないのか、あまり本屋でお見かけする事は出来ません。むしろお高くなっているのではないでしょうか。このなかに収められている「馬」という短編が村上春樹の短編案内で紹介されていて、ぜひ読んでみたいと思った。なのでこの本を手に取ったのです。馬については奇妙な想い出が(個人的にか)多く、ひとつは昔のアルバイト先でそこの古狸的なおばさん(自称霊能力者)に、マンションの階段を夜中に上がり下りする馬の幽霊の話を聞いたこと(塩を撒いたら死んだらしい)、それから井上ひさしの遠野物語に出てくる幾つかの獣姦話に馬の話があったこと、『ゴッドファーザー』に朝起きたら馬の首が布団の中に転がっていたシーンを観たときの記憶、ボルヘスの怪奇譚に同じく馬の首の話があったことなど、数多であり、どうも馬には隅に置けない何かがあるのか、あるいはないのか。ううん、よもやま話は尽きませんね。
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村上春樹さんのオススメなので
即 読んでみることに 。
「馬」が印象的やった 。
独特の世界観・視点 。
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いまだかってこのような作風には出会ったことがない。ひとつひとつの作品の意味を追いかけても掴みきれない。それゆえ、読んでいてある種苛立ちを覚えるのであるが、じゃあ、途中で放り出してしまうのかと云えば、最後まで読まないと気が済まない。それで最後の一行まで読んで何か結論めいたものが分かったのかといえば、否といわざるを得ない。でも、次の作品を読んでみたいという不思議な魅力を感じる。いや、感じようとしているだけで、ちっとも何も気づいていないのかもしれない。