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文化・風土を濃密に伝えてくれる、笑える一冊
2020/05/31 16:19
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投稿者:あられ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「私は酒飲みである。休肝日はまだない」を標語とする筆者が、カタール、パキスタン&アフガニスタン、チュニジア、イラン、マレーシア、トルコ、シリア、ソマリランド、バングラデシュと、イスラム教の国々を、現地の人々と和気あいあいと楽しみたいと願いながら酒を求め、酒を探し旅した結果、見たものは……という、いかにも雑誌連載調で読みやすいルポ本。たまたま映画『ラム・ダイアリー』を見たあとで読んだので、こういうのをハンター・S・トンプソン流の「ゴンゾー・ジャーナリズム」と呼ぶのかなと思いました。
「酒が好きで好きでたまらない、どうしようもないおっさん」っぷりをかなりしつこく強調する筆致の裏に、ジャングル迷彩をほどこしたかのように、鋭い知性が鈍く光っています。酒、酒、また酒というドタバタを描く端々に織り込まれている洞察はかなり深いです。実際、筆者がなぜそこまで酒にはまったのかも本編でさらっと明かされますが、それって、体は大丈夫なんですかねと本気で心配になってしまいます。
とはいえ、筆者の高野氏、この本でも訪れているソマリランドについての著作でも知られる通り、かなり破天荒なアドベンチャー野郎で、筆致は喜劇調ですから、全編、笑わせてくれます。特に一方的なイメージがありすぎるイランと、逆に何もイメージできないチュニジアは興味深かったです。タイミングとしても、2000年代の初め、2011年のいわゆる「アラブの春」の前の取材(「あとがき」にある日付が2011年5月で、取材はその前の何年かで行われている)ですから、時代の空気みたいなものとしても貴重な記録なのではないでしょうか。特にシリアは切ない気持ちにさせられます。イスラム主義勢力の支配下に置かれた町にもキリスト教徒は暮らしていたのだし、「ガットバーン」はあったことでしょう。
この本に書かれていることが、「知られざる一面」であることは確かです。ただし、というか、だからこそ、というべきか、この本を読んで「イスラム」を知った気にならないこともまた重要だろうと思います。「イスラム」というより、その土地の文化・風土を濃密に伝えてくれる一冊です。旅行ができないときに読んで旅気分にひたるにはぴったりです。
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紀行文と呼ばれるジャンルには、古くから名作が多い。その土地その土地の鮮やかな情景もさることながら、旅先で出会う人物や、料理も、魅力的な小道具となる。とりわけ酒をめぐるエピソードは、言語を超越したコミュニケーションとして描かれ、旅の記述をより一層魅力的なものへと昇華する。
本書もそういった紀行文に属するものなのだが、そのテーマは一風変わっている。おそらく世界で初めての、イスラム圏における飲酒事情を描いたルポなのだ。著者は、誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書くということが人生の目標であるという人物。その人となりは、ほとんどの章が、「私は酒のみである。休肝日はまだない。」という書き出しで始まっていることから察して欲しい。
◆本書の目次
ドーハの悲劇・飲酒篇 ~序章にかえて
第一章 紛争地帯で酒を求めて ― パキスタンからアフガニスタンへ
第二章 酔っ払い砂漠のオアシス ― チュニジア
第三章 秘密警察と酒とチョウザメ ― イラン
第四章 「モザイク国家」でも飲めない!? ― マレーシア
第五章 イスタンブールのゴールデン街 ― トルコ・イスタンブール
第六章 ムスリムの造る幻の銘酒を求めて ― シリア
第七章 認められない国で認められない酒を飲む ― ソマリアランド
第八章 ハッピーランドの大いなる謎 ― バングラディシュ
宗教と酒との関係は、その戒律によって両極端に分かれる。ユダヤ教やキリスト教にとってワインは重要な意味を持ち、なかでもキリスト教にとってはイエス・キリストの血を象徴するものである。イスラムにおいて酒は原則禁止だが、コーランのある個所では「酒に酔ってお祈りしてはいけない」と記されており、「何が何でもいかん!」というほどの迫力ではないそうだ。意外なのは仏教で、その戒律においてはるかに厳しく酒を禁止しているそうである。
著者の経験によると、個人レベルで中東で最も酒のみ率が高い気配は感じたのはイランだという。世界で唯一イスラム法学者が最高権威とされる「神の国」であり、国家レベルでは飲酒厳禁のはずの国である。これはイランが、現在はイスラム圏に属するが、いまだにイスラムがやってくる前の土着の収監を残しているということによるものである。その長い歴史において、革命も酒の禁止も、つい最近のことでしかないのだ。伝統的に、華やかで繊細な文化をもち、著者をして「中東の京都」と言わしめるイラン。日本の京都と同様に、本音と建前の落差も多きいのである。
また、シリアでの話も興味深い。シリアの地酒を求めた著者は、キリスト教徒が造っている地元のワインに遭遇する。これがむちゃくちゃ美味しかったそうである。中東の多くの地域では国民もムスリムが多数派だが、少数のクリスチャンは以外によい待遇を与えられていることが多いという。旧イラクにおいてもサダム・フセイン大王の下で、外交を一手に引き受けていたアジズ外務大臣はクリスチャンであった。異教徒も、歴史的にイスラムのコミュニティにおいての不可欠な要素として、社会の大きな役割を担ってきたのである。
��見水と油のような関係にある、イスラムと酒。著者はその二つを追い求めることによって、結果的に双方を魅力たっぷりに描いている。じつに、お見事な一冊。
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宗教上飲酒が禁止されている様々なイスラム国家で酒を飲むための手引き。及びそれに至る人間模様。「私は酒飲みである。休肝日はまだない。」の書き出しで始まる各章。宗教的な建前をくぐりぬけ、実は酒好きのムスリム達と内緒の酒を酌み交わす筆者が痛快。
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高野さん、一生懸命否定してるけど、やっぱりほとんどアル中だと思います(笑)
イスラム圏に取材旅行に行きながら、必死でお酒を探すという高野さんらしいといえばとても「らしい」作品。結果的に現地で色々画策する様子を描くという、高野さんカラーも存分に発揮されてて、面白かったです。
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冒頭から、「私は酒飲みである。休肝日はまだない。」ときた。「なぜ私のことを」と思いましたが、これは著者自身のことで、この本のほとんどの章でのオープニングを飾るフレーズです。
酒が禁止あるいは制限されているカタール・ドーハ、パキスタンからアフガニスタン、チュニジア、イラン、マレーシア、トルコ・イスタンブール、シリア、ソマリランド、バングラデッシュ等イスラム圏で辺境作家である著者が酒を飲もうと悪戦苦闘する記録、同じ酒飲みとして気持ちが良く分かるだけに読みながら著者の幸運を祈る自分がいたりいます。無事現地の人と地酒で杯を交わせたときの大きな喜びはまるで自分の喜びののように思え、読みながら思わず祝杯を挙げてしまいました。
酒飲みが読むとドキドキワクワクな一冊です。まぁ、あまり役に立つ本ではありませんが、少しだけ役に立つと言えば、酒を出さないイスラム系の航空会社の見分け方というのがあり、それはキャビンアテンダントで見分けるとのこと、全員男あるいは女性でもベールかスカーフを被っていれば機内では酒がでないそうです。ちなみにその航空会社は、イラン航空、パキスタン航空だそうです。
もっとも普通に酒を出す航空会社でもあまり何度も酒のお代わりをすると、CAさんに「お客様は普段はお酒がお強いと思いますが、航空機内では気圧の関係でうんぬん…」と説教される場合がありますが。。。
では、そろそろ飲みたいと思います。カンパーイ^^/U
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イスラム圏の国での飲酒体験をもとにしたエッセイ。
酒好きなら筆者の気持ちに共感できるはず。
私もラクを飲んでみたい!
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2011.8.17読了。
私もお酒は好きな方だが、そこまでの手間をかけて、危険を冒してまで酒を入手しようとするのが本当の酒飲みだと思った。イスラム各国の酒事情だけでなく、国としての立ち位置についての情報も得られ、それなりに有用な知識が得られる本であると思う。特にソマリランドについては興味深く拝読した。
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禁酒の国へ行き、酒を探して飲むという相変わらずおバカな挑戦をする高野サンだ。自分自身は下戸なので何も苦しさを感じなかったが、仕事で行った多くのイスラムの国では確かに飲酒文化があると聞いていた。特に英国植民地時代を記憶する中年以上の世代はその当時日常的にビールを飲んでいたという話を聴くとなるほど、という感じだ。高野さんが苦労していたパキスタンではホテルにチェックインする際にパスポートを提示して「Non-Muslim Certificate」を発行して貰うとルームサービスで普通に「地元産」ビールやウイスキーが買えたことも思い出した。
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スキなんだ。高野さんの本が。いつもいつも、UMAを探しに行ったり、アヘン王国に潜入したり、とんでもない紀行を見せてくれる。今回は、飲酒ご法度のイスラム圏内でいかに酒を飲むかという旅。とにかく「まずはビール」スピリッツ。酒が(カンタンに)飲めないと知るや、酒を求めてカタコトで地元の人とも仲良くなるし、怪しげな裏路地にもズカズカ入っていくし…。そしてついに酒にありつく。 更には地元のみなさんとガハハと酒を酌み交わす。とにかくその突破力が気持ちいい。ついつい酒を飲みたくなる傑作紀行本だ。
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たぶんそうじゃないかな、と思っていたけど、高野はやはり酒飲みだった。それも半端じゃなく・・・・・・。
イスラムの国で酒を飲む、タブ―を犯すのではなく、ただの酒好きが酒を探し求めて、実際にありついていく・・・・という話である。
旅は楽しいし、酒を求める過程も旅そのものだし、酒は当然美味しい。そもそも宗教が酒を禁じなければならないのは、酒には勝てないからだろう。酒は人を幸福に「しすぎる」から。
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イスラム国家といえば飲酒はしない、飲酒は禁止というのが僕の今までの考え。
でも高野さんはそんなの関係なく飲もう(呑もう)と一直線、周りも呆れるアル中?っぷり爆発!
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実に面白い。
イスラムの世界でいかにして酒を飲むかを考え
求めているところが自虐的な雰囲気をかもし出している。
酒を飲む人はかなり気持ちが分かる
酒を飲まない人は・・・なんでこんなにと思うかもしれない。
なにせ一回目を通せば楽しい世界。
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ただでさえ酒が絡むといろいろ面倒なことがあるのに、イスラム圏が舞台だっていうんだもん。
高野さん、最高。
しかも相棒の森氏、下戸。
美しい写真もたっぷり見応えあって、これ肴に酒が進む進む。
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高野さんの新しくでた本がイスラム飲酒紀行だと家内に言うと、家内は「あの人は飲兵衛だから、イスラム圏には行かないとおもっていた」という。そんな家内の安易な予想を簡単に覆してくれた本。
おまけにいつの間にやら結婚されていて、夫婦で酒好きの様子。
でも現地の人と交わって飲みたいという基本姿勢で貫かれているため、アウトサイダーなんだけどどんどんインサイダーよりに視点がうつっていく。まるでおんぶお化けのような人だ。
様々なイスラム圏での飲酒までの苦労話をまとめた本なので1話が短くて少し残念。自分では高野さんのような行動力や語学力や無茶する勇気がない高野さんを愛する読者諸兄にはやはりおススメ。
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うん。おもろい。
イスラムでもこれだけ呑めるんだね。
でも、下戸の森さん、僕と一緒に呑んだ時は女性に囲まれていい気になって真っ赤になりながら呑んでたけどなあ。。