紙の本
どう創り、どう使い、どう制御するか。
2011/07/17 13:24
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投稿者:kc1027 - この投稿者のレビュー一覧を見る
人間が生きていくということは、どういう営みであるのか。
日々の生活も、経済成長も、これからの未来も、エネルギーをどう創り出し、どう使って、コントロールしていくかが最重要課題であることが、東日本大震災を機に露わになったわけだが、より根源的な問いは、わたしたちにとって必要なエネルギーとはどんなものなのか、であって、復興後の姿もその地点に立つ事によって見えてくる。
「目の前にある現実は問題ではなくて、答えである」と、養老先生は本書で語っている。自然にあるものは、太陽と土と水の中で、自らの生存に必要な要素を日々取り込むために、「最適化」をしている。適者生存の答えは、目の前に生えている木々の姿そのもので、都会の地中にもそんな生物はまだまだいる。自然の生物のスマートさに比べ、太陽光パネルはなんとも融通の利かなそうな、不細工な格好をしている、と池田先生も嘆く。
生態学の世界では、多少の撹乱要素があった方が生物の多様性は増し、生態系は豊かになると見られているらしい。地震や津波、台風や火山の爆発などの自然に組み込まれた撹乱要素は、人間ごときの力では制御できるものでもない。ましてや人命は地球より重いわけでもない。その謙虚な人間観に基づいた上で、日本列島での人間の日々の営みに必要なエネルギーは何キロワットぐらいで、それを中長期的にまかなうには、どんな地理的用件をおさえ、どんなプラントを創り稼動させて制御していけばいいのか。
だからほんとうの復興とは、わたしたちの今の科学的知識と経済的現実と生物学的体力を搾り出して、これからの世代に必要な日々の生活の仕組みを再構築する計画を立てて実行を始めることで、そのために課された時間的猶予は、きっと現在の衆院の任期切れまでも、ない。
果たして日本列島に住む人間は、自らのエネルギー最適化を達成できるのか。江戸という先行事例を仰ぎ見ながらも、複雑な神経細胞のように密集して脳化した都会を抱え、居心地のいい場所を見つけられるのか。それはわたしたち自身のカラダから沸き起こる人間エネルギーを、どう創りだし、どう使い、どう制御するかにかかっている。
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著者献本感謝です。養老先生のほうが池田先生より10歳年上なのですね。「池田くん」という呼び名はなんかおかしい。
とにかく復興の議論は右肩上がりの社会に、そういう世界観にしがみついているひととそこから自由な人に二分されている。何かの世界観に支配されている人は、それ以上の発想は絶対に出てこないのだけどね。
池田先生は以前の石炭使用論を撤回して地熱、バイオマス、メタンハイドレートの3つに将来の展望を絞ったようである。もちろん、前言撤回は少しも悪い事ではない。自然科学の世界では新しい知見を得たら見解を変えるのが「常識」だからだ。内田樹さんが揶揄する「常に絶対に正しい」社会科学者ではいけないのである。
其れにしてもお二人とも博覧強記ですね〜
僕も(今回も)ちょこっと出てます。
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11/07/01。
「『ああすればこうなる』式で物事を考えて進める人というのは助からなかったタイプなのではないかなあ。」池田先生。
これ、真実。津波や自然災害だけの話ではない。
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一市民としての意見を集めたという印象。批評家としていくつか重要な視点を提示してはいるが、「ではあなたはそれに対してどんな貢献をするつもりなのか?」と聞きたくなる。自分が住む世界に対して何か行動を起こせることって、難しいけど大切なことだと思う。
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まさしく養老先生と池田先生の仰る通り。
内容も話し方も面白く、あっという間に読める。
原発と原発立地地域の市町村合併問題の話は、実は簡単なことなのだが言われてみればと言う感じで新たな発見だった。
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帯裏
●地震・津波
マクロに見るならば、天災はある程度の確率でいつか遭うものとして社会に組み込まれている。-池田清彦
人が日本列島に住み着いてから、たかだか十万年もたっていない。人は自然という釈迦の掌に乗っていることを思うべきであろう。-養老孟司
●原発事故
人工的なシステムの特徴は、必ず壊れるということ。それは人工的なシステムの定義といってもよい。-池田清彦
問題を「政治化」したことが、逆に安全性自体への軽視を生まなかったか。問題は原発の安全性そのものであって、それについての政治的言論ではない。-養老孟司
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【東日本大震災関連・その⑲】
(2011.08.05読了)(2011.07.28借入)
解剖学者の養老孟司さんと生物学者の池田清彦さんが、東日本大震災について自由な立場からあれこれと語り合った本です。
お二人とも、地震・津波・原発・行政・精神医学・流通・経済・いずれの専門家でもありませんので、雑談を聞くような感じで、気軽に読める本です。
章立ては、以下の通りです。
Ⅰ、自然とわれわれ 養老孟司
Ⅱ、大地震・大津波・原発事故から見えたこと 池田清彦×養老孟司
一、天災と日本人
二、原発事故という人災を引き起こしたもの
三、大震災後の世界
Ⅲ、エネルギーが未来を決める 池田清彦
●目の前にあるのは「解答」(20頁)
人生の解答とは、自分の人生そのものであって、それはなにか複雑な、ややこしい問題への解答なのである。どうしてこう言う解答になったんだ、問題は何だったのだ。それこそが人生が投げかける問題である。人生は何のためかという問いに、昔から解答がないのは、問いと答えが逆転しているからであろう。わからないのは問題のほうであって、人生のほうではない。(養老)
●青ヶ島(42頁)
江戸時代に伊豆諸島の南にある青ヶ島が大噴火して(1785年)、大半の島民が八丈島に避難した。後年、島民は最終的に青ヶ島へ帰って行った。その顛末を題材に作家の高田宏が『島焼け』という小説を書いている。(池田)
●関東大震災(68頁)
僕は、日本が曲がって行ったのは関東大震災の後からではないかと考えているんです。大正デモクラシーがなぜ、軍国主義に変わってしまったのか。そこには震災の影響が非常に大きかったのではないか。(養老)
●官僚は無謬(75頁)
官僚は無謬だといっている。無謬だというのは、間違いを認めないというだけの話だろう。(池田)
●審査を通った設計図(77頁)
かつて、武田邦彦さんが原子炉の設計図を見ていてたまたま配管か何かの間違いを発見したのでそれを指摘したんだって。すると、指摘された担当者は、「もう国の審査を通っている設計図だから、いまさら直せない」と言ったんだそうです。(池田)
●電力源の比率(153頁)
日本の発電量に占める電力源の割合は2008年度時点で、天然ガス28.3%、石炭25.2%、石油10.3%、原子力26.0%、水力7.8%、その他(地熱、太陽光、風力など)2.4%である。(池田)
☆養老孟司の本(既読)
「唯脳論」養老孟司著、青土社、1989.09.25
「解剖学教室へようこそ」養老孟司著、筑摩書房、1993.06.25
「考えるヒト」養老孟司著、筑摩書房、1996.07.10
「解剖学個人授業」養老孟司・南伸坊著、新潮文庫、2001.04.01
「虫眼とアニ眼」養老孟司・宮崎駿著、徳間書店、2002.07.31
「バカの壁」養老孟司著、新潮新書、2003.04.10
☆池田清彦の本(既読)
「38億年生物進化の旅」池田清彦著、新潮社、2010.02.25
「「進化論」を書き換える」池田清彦著、新潮社、2011.03.25
(2011年8月6日・記)
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【読書リスト2】池田清彦・養老孟司『ほんとうの復興』新潮社。「ひとつになるな日本」という帯の言葉が気になり読了。注目したのは統一化やシステム化のもろさや、皆ががんばらなければという雰囲気の危うさを論じていた点。多様性(ダイバーシティ)の尊重に向かう福祉の原点がここにもありました。
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チャレンジャーにそんな話があったとは。
想定外なんてないよね。
誰かは何かを知ってるよね。
止めても止められなくて
問題になってから周りが騒いで
でも、そんなのわかってたことだってなる。
たくさんの人が、ほとんどの人がそれを経験してると思う。
どうして権限のある人しか止められないんだろう。
どうして権限を持ったら通してしまおうとするんだろう。
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2011年9月に岩手県陸前高田市に、ボランティアに行きました。その時、移動中に読もうと思った本です。
やっと読み終わるw 内容は非常に興味深いのですが、難しいです。生物学者、早稲田大学国際教養学部教授池田清彦さんと、元東大医学部教授養老孟司さんの二人が震災復興について談話を一冊の本にまとめています。
二人とも非常に博学で、話は原発から生態系まで多岐にわたります。本文は170ページなので、行の電車(新幹線)で読み終わる予定だったのですが、、、、今までかかりましたw なぜって、僕には内容が難しくって、読んでると眠くなるのです。
原発事故を引き起こしてしまった日本社会、そして世界を痛烈批判されています。批判ばかりなので、時々、読んでてイライラしました。でも、やっぱり、日本社会は変わらないといけない。こういう批判も受け入れなければならないと思います。
原発問題の根本は、人類の人口が多過ぎる、そして、使えるエネルギーをもっともっと作ろうとする姿勢です。今後の地球のために持続可能なエネルギーと私たちの生活の在り方を考えなければならないと思います。
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さくっと読めて勉強になった。
・地球の歴史を一年とすれば、人類の歴史は大晦日の除夜の鐘が鳴るころ
・東北、関東、中部、近畿、中国という道州制の区分は、じつは本州が複数の島に分かれていた、二千年くらい前の地質時代の反映である。これらの「州」は、四国や九州と同じように、それぞれが別の島だった。(省略)人は自然という釈迦の掌に乗っていることを思うべきであろう。
・目の前にあるのは「解答」である。
・われわれは自然を見ることによって、複雑な問いへの美しい解答を見る。じつは解答だけを見ているのであって、問題自体をしばしば考えない。
・人生の解答とは、自分の人生そのものであって、それはなにか複雑な、ややこしい問題への解答なのである。(省略)わからないのは問題の方であって、人生のほうではない。
・「参勤交代」のススメ 養老さん
・原発事故による放射能汚染は、戦後日本の自然破壊の総決算である。
・池田「若い人たちの中には、それまでの生活にもともと閉塞感を持っていて、なんとなく気持ちが行き詰っていて、そこから抜け出すために、どこかですべてをチャラにしてリセットしたいと思っていたのもいたと思うよ」
・池田「これだけの大震災に遭っても日本人が冷静に行動しているように見えるのは、日本の集団主義のようなこととある程度関係がありますよね」「そんな整然としたところが他国の人たちから称賛されたりもしたわけだけれど、それは何も、日本人が他国の人に比べてずっと倫理的で道徳的であるというわけではかならずしもないと思うよ」
・池田「リスクを分散することがセキュリティになる」
・養老「関東大震災から九十年になる。大きな地震は、いつ来てもおかしくないです」
・養老「僕は、以前から、「参勤交代」をしよう、とも言ってきた。当会の人は田舎へ、田舎の人は都会へ、です。(省略)東京から避難民が出る事態になったら、それをいっぺんに受け入れる場所なんてありませんよ」
・養老「日本は輸出入を活発にしなければならないという考えは、ほとんどノイローゼに近いと思う。このノイローゼの根本にあるのは、やっぱりエネルギーですよ。石油を買わなければいけないという強迫観念があるからです」
・池田「人間だって、タガがはずれちゃった人間と、それじゃない人間がいるでしょう。グローバリゼーションを進めているやつというのは、タガがはずれちゃっている人間ですよ。それなのに、タガがはずれちゃったほうがスタンダードになってしまったというのは、おかしな話だね。だけど、多くの人はそれがおかしいと思っていない」
・池田「福島の双葉町の辺りの地図を見るとわかるけど、町(自治体)が細かくわかれているでしょう。(省略)国は、市町村合併をどんどん進めて、へんてこな名前の市とかをいっぱい作っておきながら、一方で、原発がある町については合併させない。そのほうがコントロールしやすいからだよね」「原子力施設を受け入れた自治体というのはカネ浸けになっている。ちなみに、青森県で一人当たりの年間所得が最も高いのは、日本原燃の核燃料リサイクル施設がある六ヶ所村で、なんと一千三百万円を超えている」
・養老「文科省は最大のガンです」
・養老「えねんるぎーを使えばそれだけ楽になるに決まっている。当たり前のことなんだけれど、そのことを普通の現代人がどのくらい理解しているか。やっぱり、生き方そのものを考え直さないといけないんじゃないか。いかに健全に縮小するかを考えた方がいいのではないか」
・日本の潜在資源として期待できるのは地熱、バイオマス(藻類)、メタンハイドレートの三つであり、さしあたってはこの三つの資源開発に全力を注ぐべきと思われる。
(感想)
ばっさりを物を言うお二人の話は、迷いがなくて気持ちよく入ってきた。しっかりとした知見に基づいた上での意見なので、なるほどと思わされること多々。お二人の哲学にも共感できた。自分も「自然をコントロールする側」の一現代人として日々を過ごしているなと気づかされた。
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原発をバーチャルや政治優先で考えたから、事故が起きた。自動車の危険と原発の危険は土台が違う。現実を見ていないという点では原発も入試(携帯電話でカンニングが可能な内容ですましている)も同じだと。
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復興するときにどうするかについては、金だけ出して口は出さないというのが見識だ リスクを分散させるこtがセキュリティになる 現代社会の前提として、エネルギーの増加と経済の成長は完全に相関している
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震災から1年半。これまでの復興対策について今一度考えさせられたし、今後どういう風に進められていくのか、しっかりと見つめていかなければいけない。