商品説明
読み始めたら止まらないノンストップ・ノンフィクションの傑作。日本を崩壊寸前に追い込んだ福島第一原発事故。首都圏壊滅、3000万人避難の未曾有の危機に際して、官邸、東京電力、経産省、金融界では、いったい何が起きていたのか? 『ヒルズ黙示録』で鮮烈デビューした著者が、菅直人、勝俣東京電力会長、経産省官僚らキーパーソンのべ100人以上を取材してわかった驚愕の新事実の数々。
目次
- 第1部 悪夢の一週間
- 第1章 3月11日午後2時46分
- 第2章 全電源喪失
- 第3章 放射能放出
- 第4章 原発爆発
- 第5章 日本崩壊の瀬戸際
- 第6章 まだそこにある危機
- 第2部 覇者の救済
- 第7章 緊急融資
著者紹介
大鹿靖明 (著)
- 略歴
- 1965年東京都生まれ。早稲田大学卒業。朝日新聞社に入社。経済部記者を経て、出向社員(アエラ編集部勤務)。著書に「ヒルズ黙示録」「ヒルズ黙示録・最終章」「堕ちた翼」がある。
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紙の本
これを読まずして、原発の再起動の決定はりえない
2012/04/17 23:07
12人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:JOEL - この投稿者のレビュー一覧を見る
あっぱれ、大鹿記者。そう、唸ならざるを得なかった。筋金入りのジャーナリストではないだろうか。福島第一原発事故発生から、2011年8月30日の菅内閣総辞職までを徹底的に追求している。引き込まれるようにして読み進めた。
原発事故をめぐる不明な点の数々が、次々に明らかになっていく。その迫り方に興奮を抑えきれなかった。朝日新聞の記者だが、今はAERAに出向している。それがいっそうの取材の自由度と、思い切りのいい書きぶりを可能にしているのだろう。朝日新聞に在籍していては、ここまで書けなかったのではないか。
それにしても、東京電力はひどい企業である。その存在が許されてもいいのだろうか、とすら思えてくる。代替電力が開発され、その安定供給が確保されれば、今の東電の救済策など破棄して東電を法的整理をしていいくらいのひどさだ。
まるで人ごとのような態度をとり、記者会見には中間管理職ばかり立たせる。会長・社長・副社長といった幹部は本店にこもりきり、批判から逃げてばかり。それが東電の体質なのだ。これを許してきた行政と法律の仕組みにも問題があるが、あらゆる姑息な手段を講じて生き延びようとするさまは、おそろしく見苦しい。
東電の資産は可能な限り売却して賠償に回し、いつかは解体してしまってもよいという気持ちになる。体調不良を理由に入院していた清水社長が、その入院先から、自らパソコンを操作して、住宅ローンを一括返済している事実など、被災者の逆上を買わないはずがない。
また、経産省も実にひどい。こちらも原子力発電の温存のために暗躍する。彼らもまた、見えないところで、あらゆる手を回し、原子力政策を維持しようとする。
経産省は原子力政策を推進してきた責任の重い官庁だが、ただの一人も責任をとらないで済ませている。更迭されたかに見せかけて、事務次官以下3人の幹部は割り増し分を含めて退職金を6000〜7500万円も受け取っている。著者が、せめて割増分くらい返上してはどうかと問うても、「制度がそうなっていますから」と答えて、受け取っている。
繰り返しになるが、経産省は無傷のままである。これでは、この先、いくらでも巻き返す力を蓄えていると警戒すべきである。
おおよそ肯定しているのは菅政権の対応だ。事故直後の初動に依然不明な点があるとしながらも、要所で、東電や経産省のむしのいい動きを牽制し、押さえ込もうとした。一部の民主党政権に批判的なメディアのために、菅政権の失態であるかのように報道された件も、間違った対応ではなかったことが分かる。むしろ、そうそいた批判は菅政権を陥れる謀略だったりしたのだ。
菅首相は、唐突に脱原発を言い出したり、再生可能エネルギーを後押ししたりしたのか? そうではない。浜岡原発の停止も、突然言い出したかのように一部報道されたが、どれも伏線があったり、経産省の策略にあらがって打ち出したものだったりして、なかなか機転が利いている。
本書によれば、どうやら菅首相が起用したブレーンの知恵が働いているようだ。なかには粗製濫造になった内閣参与もいるが、有能なブレーンは、ここぞという場面で、知恵を貸し、難局を乗り切っている。
セカンドオピニオンやサードオピニオンを活用した菅首相の姿が垣間見える。もし、ほかの人が首相の地位にいたら、いまごろ全国各地の原発は再稼働されて、事故前とたいしてかわらない状況になっていたおそれがある。再稼働のハードルをあげるのに菅首相は一役買っている。
ただ、著者は菅首相を一方的に持ち上げるばかりではない。本書の終わりで、経産省に立ち向かうには、菅政権は力不足であったとしているのだ。郵政改革に反対する官僚を更迭した小泉首相のような果敢さが足りなかったと。ただ、これができなかった点は、著者の取材でも不明である。著者は、こうした不明な点がありながらも、できるだけ多くのことを記録しておくべきとして本書を書いた。
そのジャーナリストとしての志やあっぱれである。原発事故関連の本の中では、抜きんでた価値があると言ってよいだろう。保身と責任転嫁に逃れてしまう人間の悲しさも、本書にはしっかり描かれている。自分自身にもそんなところはないかと、結構考えさせてくれる本でもある。
一読する価値あり。いや、再読する価値がありの一冊。お勧めである。