紙の本
「危機管理」(クライシス・マネジメント)の教科書・事例編
2012/03/26 14:41
8人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:サトケン - この投稿者のレビュー一覧を見る
最悪のシナリオとしては、「首都圏3,000万人避難」も政府は検討していたということが明らかになってきたいま、内閣官房参与として原発事故対策に取り組んだ直接の当事者によって、原発事故が徹底検証される意味はきわめて大きい。本書は、いろんな立場の人が読むべき本だと思うが、とくに企業経営者など組織のトップに立つ人こそが読むべき本である。しかも危機管理の観点から読むべき本である。
ここ数年の田坂氏の詩人のような書きぶりによる書き物は、正直いってわたしはずっと敬遠していたが、著者の田坂広志氏は、もともと「核燃料サイクルの環境安全研究」で工学博士号を取得した人である。核廃棄物の処理問題を専門に研究していた人なのである。本書で田坂氏は、「危機管理」の専門家として、科学者らしく包み隠すことなく誠実に問題について語っている。
今回の原発事故は、個人や企業や自治体レベルを越えた問題を日本全体だけでなく世界にもたらした。直接的なリスクやコストだけでなく、目に見えない社会心理的なものまで含めて今回引き起こされた「危機」の内容は多岐にわたる。国民目線にたったとき、原子力ビジョンは「計画的、段階的に脱原発依存を進め、将来的には、原発に依存しない社会を目指す」となると語っているのは好感がもてる。現実的な立場からみたらそのとおりだろう。
しかしもっとも重要なことは、田坂氏が指摘しているように、「問題はこれから」なのだ!
福島第一原発の廃炉は、通常の原発の廃炉よりも格段に難しい技術的問題を突きだしている。事故でメルトダウンした原子炉には、「大量のウランやプルトニウムなどの核燃料と、膨大な核分裂生成物が、原型を留めないほどに溶融した、極めて扱いにくい放射性廃棄物」がたまっているのである。
日本人が抱きがちな「根拠のない楽観」を避け、「真の危機はこれから始まる」という覚悟を、国民一人一人に訴えかけている田坂氏の発言に耳を傾けなければならない。この本は評論家の無責任な放言でも、特定の立場に立った政治的な発言でもない。当事者でなければ話せない内容のみが書かれた真摯な発言だ。ぜひ読んで考える材料としてほしい。
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原発にかぎらないリスクの指摘
2012/03/03 14:54
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Kana - この投稿者のレビュー一覧を見る
震災後,他の仕事をすべてキャンセルして官邸の参与となったという著者がみた原発事故処理の問題点が書かれている. 重要な指摘はいろいろあるが,そのなかから 2 つをあげると,まず,政府や専門家がおちいりやすいおとしあなとして,国民の不安をかきたてないために安全性を強調すると,自分も 「安全だ」 という暗示にかかってしまうという指摘がある. そういう暗示が 「根拠のない楽観的空気」 という最大のリスクにつながっているという. また,政府や専門家は国民の社会心理あるいは精神的な被害を軽視しているという指摘をしている. 「科学的」 であろうとするとおちいりやすいあやまちなのだろう.
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田坂さんは内閣官房参与として、福島原発対応について、菅総理を支えた人。
田坂さんが、原子力工学の専門とか、放射線医療の勉強もしたひとということは知らなかった。
書かれている事柄は、一つ一つ説得力がある。
しかし、かかれなかった大事な点がある。
(1)官邸や各省庁は法律によって定められた手続に従って、行政権を行使すること。特に、国民の利害に関わることは、法律による行政が必要なこと。
この点からいって、田坂さんは何も触れていないが、浜岡原発を止めさせたり、玄界原発の再稼働をとめさせたのは、総理、経済産業大臣に定められた法律の枠を越えているのではないか。
(2)田坂さんは、参加民主主義の大事さを説いており、それ自体は自分も賛成するが、その前に支障なく動いている原発をとめたり、新しいストレステストなる概念の基準を導入するのであれば、原子炉等規制法の改正案を国会に提出すべきではないか。
時間がないから、法律上の根拠もなく、事実上の強制力をもって、原発を止めた結果、国民は電力料金の負担を受けることになる。
このようなことを、官邸の中の少数の人の判断でやってはいけない。これは、戦前の勅令より悪い。
(3)もちろん、官邸は、設置法に根拠をもつ行政指導と言い訳するのだろうが、それであれば、各大臣の仕事で総理がでる幕はないし、仮に行政指導といいはっても電力料金が値上げされたら、それも利用者の同意がなければ支払わなくて善い行政指導値上げというのか?
緊急時にこそ、きちんと国会つまり国民の負託を受けた国会の定めた枠内で行政は行動すべきだし、それが不可能な場合の規定が必要であれば、ドイツのように憲法の緊急事態規定をおくことを議論すべき。
法律を無視しておいて、参加民主主義を唱える資格はない。
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原子力の専門家であり、このたびの原発事故の対応では内閣官房参与として官邸の中枢にいた、田坂広志氏による最新刊。
田坂氏いわく、今回の事故は「首都圏3000万人の避難」という最悪の可能性さえもあったという。さらに田坂氏は、今回の原発事故は「パンドラの箱」を開けてしまったという。
反原発派、脱原発派、原発(なぜか相変わらず)推進派、原発(利権があって)推進派・・・等、いずれの方にもお読みいただきたい著です。
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官邸から見た原発事故の真実と書いてあるが、内容は原発事故を受けて筆者が考える原子力の問題点について。
別の官邸に居たからといって筆者しか知りえないような特別な事は書いていません。
原子力事故を受けて今後の原子力に求められるのことは「信頼」であると述べる。この考え方には賛成するが、筆者の解決策は原子力行政の徹底的な改革と工程表の作成であるという。前者の行政の徹底的なあり方については原子力安全庁に期待したいと述べているが、具体的な現況は全くない。問題は、「信頼」を得るためにはどのようなアクションが必要になるのかではないだろうか。原子力行政の徹底的な改革の一言で済ますような簡単な問題ではない。しかも、このような問題意識は過去数十年ずっと電気事業者は持っているのだ。今回の事故を受けて認識したわけではない。
また、筆者は原子力の安全について、高レベル放射性廃棄物が最終的に問題となると述べている点はよくわからない。
これも過去ずっといわれてきていることである。そしてこれは安全、不安全にかかわらず発電を行なっていると必然的に発生するものであるので、今回の原発事故を受けてどうのこうのという問題ではないように感じる。
また、原子力コストについて社会的コストを含めて計算するべきであるとというよくわからないコストを持ちだしてくるし。
だったら、火力発電所にも「二酸化炭素で世界中の人が迷惑しているでしょう税」という社会的コストを含めて計算してもらいたいものです。。。
最後にこれだけは納得できないと思った記述は、今回の事故は首都圏三千万人が緊急避難しなくてはならない可能性があり、それを回避できたのは「運が良かった」(p.252)と記載されているところである。
あなたは、原子力の専門家でしょう。
当時、原子力発電所にいた人たちは昼夜を問わず死ぬかもしれないという覚悟のもとで危険な場所に行って、復旧活動をやっていたのですよ。
首都圏三千万人が避難するような事象にならなかったのは、運が良かったわけでは決して無い。
彼ら、彼女らが献身的に仕事をした結果、最悪の最悪は防げたわけでしょう?
筆者は、官邸にずっといて現場の大変さも伝わってきたでしょう?
筆者が、彼ら、彼女らの努力を讃えずして誰が讃えることができるのか。
もう少し、現場の苦労もわかってほしいと思うのです。筆者のように当時、そこにいた人たちにしか伝えることができないのだから。
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政府が答えるべき「国民の七つの疑問」
1 原子力発電所の安全性への疑問
2 使用済み燃料の長期保管への疑問
3 放射性廃棄物の最終処分への疑問
4 核燃料サイクルの実現性への疑問
5 環境中放射能の長期的影響への疑問
6 社会心理的な影響への疑問
7 原子力発電のコストへの疑問
「最大のリスク」何か?
「根拠のない楽観的空気」(p20)
「福島原発事故は、幸運に恵まれた」(p32)
現在、政府が語っている「冷温停止状態」とは、世界の専門家の常識的な定義からすれば、本当は、「冷温停止」ではないのです。(p34)
信頼を回復するために政府が行うべきことは何か?
「身を正す」「先を読む」(p44)
「原子力発電」という技術体系が宿命的に背負っている「究極の問題」とは何か?
「高レベル放射性廃棄物」の問題です。(p49)
なぜ、高レベル放射性廃棄物の最終処分問題は、「技術的な問題」ではないのか?
「未来予測の限界」「世代間の倫理」の問題だから(p59)
第一の疑問「原子力発電所の安全性」への疑問
原子力事故の大半が、「技術的要因」ではなく、「人的、組織的、制度的、文化的要因」によって起こっている(p72)
安全思想
「Fail Safe」人間が操作を失敗しても安全が確保される
「Safety in Depth」一つの安全装置が作動しなくとも、他に幾重もの安全装置が施されている
(p74)
「想定外」→「確率論」「経済性」という3つの落とし穴(p75)
今回の原発事故への緊急対策における問題
「縦割り行政の硬直化」「行政機構の組織的無責任」(p82)
「経済優先の思想」こそが、今回の原発事故を引き起こしたのではないか?(p94)
原発再稼働に向けて、何を行うべきか?
「暫定的な解決策」――「ストレステストの実施」「原子力安全庁の設置」(p99)
「本質的な解決策」――
「たとえ可能性が低くとも、万一のときの被害が受容できるレベルを超える甚大なリスクをどう考えるか」という問題(p109)
「確率論的安全評価の思想」の限界
「確率値の恣意的評価」という落とし穴(p117)
第二の疑問「使用済み燃料の長期保管」への疑問
「原子力発電所の安全性」とは、「原子炉の安全性」だけではなく、「使用済み燃料プールの安全性」も含む(p123)
「テロ対策」という新たな問題(p133)
「プールの貯蔵容量」の問題(p136)
六ヶ所村再処理工場の問題点
技術的問題と社会的受容の問題
第三の疑問「放射性廃棄物の最終処分」への疑問
「地中処分」「地層処分」の問題点
「安全審査」の問題、「処分場選定」の問題(p144)
NIMBY:Not in My Backyard:私の裏庭には捨てないでくれ(p146)
「低レベル放射性廃棄物」でも、最終処分をする場所が見つからないという問題に直面する(p152)
福島廃炉計画の30年から40年というの���かなり楽観的な数字(p160)
第四の疑問「核燃料サイクルの実現性」への疑問
「ミラージュ(蜃気楼)計画」との揶揄(p162)
もんじゅの問題は「技術的な問題」と「行政的な問題」に分けて考える(p166)
第五の疑問「環境中放射能の長期的影響」への疑問(p172)
除染について理解しておくべき3つのこと
「除染とは放射能がなくなることではない」
「すべての環境を除染できるわけではない」
「除染の効果があったかどうかは、わからない」(p177)
なぜ除染を行うのか?
リスクマネジメントの原則にのっとるため
周辺住民の「安心」を確保するため(p182)
リスクマネジメントの三原則
「最も厳しい仮説に立つ」
「最悪を考えて万全の対策をとる」
「空振りの損失コストは覚悟する」(p183)
ビキニでの原水爆実験の結果、魚介類の汚染が確認されたのは、半年以上たってからであり、海水の汚染が数年後に魚介類の汚染になって現れたという研究報告もある(p189)
環境モニタリングの2つの目的
「早期発見モニタリング」「安全確認モニタリング」(p191)
第六の疑問「社会心理的な影響」への疑問(p192)
「物理的な復興」や「経済的な復興」も重要だが、「精神的な復興」こそが最も重要(p193)
放射能の社会心理への影響が大きい3つの理由
不幸な歴史的経緯:広島、長崎、ビキニ
検出限界が極めて低い:検出されやすい
極めて厳しい保守的な仮定をとる(p197)
「社会心理的リスク」から「社会心理的コスト」へ(p203)
そして、「社会的費用」となる
第七の疑問「原子力発電のコスト」への疑問(p210)
「高レベル放射性廃棄物処分コスト」が反映されない理由
最終処分の方法が決まっていない
「長期貯蔵」の期間とコストが不明(p212)
政府の立場でエネルギー政策を考えるとき、最も大切なことは、
「いかなる状況の変化にも備える」(p228)
四つの挑戦
原子力エネルギーの「安全性」への挑戦
自然エネルギーの「基幹性」への挑戦
化石エネルギーの「環境性」への挑戦
省エネルギーの「可能性」への挑戦(p230)
民主主義社会においては、「国民の選択」という言葉がよく使われますが、実際に「現実的な選択肢」のない状況で、国民に選択を問うのは、ある種の欺瞞になってしまう(p233)
国民投票の前提条件
「現実的な選択肢を広げる」こと
「国民的な議論を尽くす」こと(p236)
まだ日本における民主主義は、本当の熟成の段階を迎えていない
真の原因は、「自分以外の誰かが、この国を変えてくれる」という「依存の病」(p241)
ファシズムが台頭した本当の原因は、「自由に伴う責任の重さから逃れたい」との無意識があり、その責任を肩代わりしてくれる強力なリーダーを求める社会心理が生まれたことこそが本当の原因であった『自由からの逃走』エーリッヒ・フロム(p242)
「英雄のいない国は不幸だ」
「そうではない。英雄を必要とす��国が不幸なのだ」『ガリレイの生涯』ブレヒト(p242)
自然エネルギーは、「国民参加型エネルギー」であるとともに、「地域分散型エネルギー」である(p248)
何を為すべきか?
原子力行政と原子力産業の徹底的な改革。
原子力政策とエネルギー政策の抜本的な転換。(p253)
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僕のバイブルである「仕事の報酬とは何か」の著者で、
原子力工学を学び、現在はシンクタンク代表を務める田坂広志さん。
原子力、危機管理の専門家として内閣官房参与となった田坂さんが居なければ管政権は何もできなかったであろうことがよく分かる。
ただ、田坂さんのような専門家を招聘できるのも一つの力ではあるが。。。
福島第一原発で起こったこと、それを受けて官邸が下した判断、
そしてこれから人類が背負う宿命を分かりやすく学びました。
脱原発or原発推進という二択ではなく、現実と向き合って、
未来を切り開かなければならない。
冷静に現状認識できる良書です。
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福島原発事故の問題を、技術的にも社会的にも的確に解説し、これからの社会に必要なことを示した、最良の書。それにしても、何冊も本を読んでいながら、田坂さんが原子力工学の出身とは知りませんでした。
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根拠のない楽観的空気が最大のリスクである。
原子力の問題を語る際、安全、安心が重要であるとされるが、原子力の問題で最も大切なものは、【信頼】である。
福島原発事故が起きた後で、政府は今後のエネルギー政策を慎重に考えなければならない。
【いかなる状況にも備える】
4つの挑戦
①原子力エネルギーの安全性への挑戦
②自然エネルギーの基幹性への挑戦
③化石エネルギーの環境性への挑戦
④省エネルギーの可能性への挑戦
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原子力推進派の著書が、今のままでの原子力利用に警笛を鳴らす。
国民誰もが感じている、福島原発事故の徹底的原因追求がないままの
原発再稼働の危うさ。
技術的な見地からは当然だが、政治的、構造的、原子力産業、
エネルギー政策の抜本的に改革なくして、同じ事の繰り返しになってしまって、
福島原発事故を教訓に活かすこともできないこと。
日本人全員が、目の前の問題にとらわれるのではなく、
子孫たちのことを考えた、日本のあり方を考えていかなければいけない。
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■原発
1.現在、わが国の指導層の間に、「原発事故は収束に向かっている。だから他の原発、安全性を確認したら再稼働しよう」といった「根拠のない楽観的空気」が広がっている。だが今回の事故は、最悪の場合、首都圏まで避難区域になる可能性があった。それほど深刻な事故であったということを、国の針路で定める立場の人は理解しておく必要がある。
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(2012.03.29読了)(2012.03.22借入)
【東日本大震災関連・その67】
著者の名前を見て、似た名前で経営関係の本を書いている人がいて、昔何冊か読んだことがあるけど、まさか同じ人じゃないよな、と思ったのですが。同じ人でした。
経歴を見ると、工学部原子力工学科を卒業して、医学部放射線健康管理学教室研究生を経て、核燃料サイクルの環境安全研究で、工学博士になっています。
その後、青森県六ケ所村核燃料サイクル施設安全審査プロジェクトに参画もしています。
原子力委員会専門部会委員も務めていたということですので、2011年3月11日の東日本大震災に伴う、福島第一原発事故に対応するための内閣官房参与として、2011年3月29日~9月2日の間、関わったということです。
内閣官房参与をやめた後、福島第一原発を含めて、原子力発電所について、今後どのようなことが問題になり、どのようなことを解決していかないといけないのかについて、インタビューに答えたものをまとめたものです。
原子力発電を続けるにしても、止めるにしても、核廃棄物の処理をどうするのかということが残ってくるし、核廃棄物が無害になるまでの時間が10万年とかいうことですので、未来の人類に対する負債となるということです。
まじめに取り組めば、もっと短い期間で解決しそうな、国の財政赤字でさえ、容易に解決策が見いだせない中で、たいへんな問題です。
【目次】
はじめに
第一部 官邸から見た原発事故の真実
第二部 政府が答えるべき「国民の七つの疑問」
第一の疑問 原子力発電所の安全性への疑問
第二の疑問 使用済み燃料の長期保管への疑問
第三の疑問 放射性廃棄物の最終処分への疑問
第四の疑問 核燃料サイクルの実現性への疑問
第五の疑問 環境中放射能の長期的影響への疑問
第六の疑問 社会心理的な影響への疑問
第七の疑問 原子力発電のコストへの疑問
第三部 新たなエネルギー社会と参加型民主主義
謝辞
著者略歴・著書紹介
●避難勧告(27頁)
首都圏に福島原発からの放射能プルーム(雲)が飛来したと言われる3月15日。
あちこちに、何組もの外国人の家族連れが新幹線で西に向かうため、列車を待っていました。
●アメリカが首都圏避難を勧告しなかった理由(30頁)
「首都圏九万人のアメリカ人に避難勧告を出すと、日本人を含めた首都圏全体がパニックになる」
●国民からの信頼の喪失(40頁)
政府に進言する原子力の専門家が「水素爆発は起こらない」との予測をした直後に、その水素爆発が起こったこと、「メルトダウンは、まだ起こっていない」との推測をしたにもかかわらず、一号機では、かなり早期に全面的なメルトダウンが起こっていたことなど、政府の専門家の予測がしばしば裏目に出ている
放射能の拡散を予測するシミュレーション・システム「SPEEDI」の予測結果が迅速に活用されなかったこと、事故直後に適切な環境モニタリングデータが収集・活用されなかったこと
●トイレ無きマンション(54頁)
以下に「安全な原発」が開発されても、必ず、放射���廃棄物は発生します。従って、放射性廃棄物の「安全な最終処分方法」が確立されなければ、その原発もまた、「トイレ無きマンション」の状態になり、操業を続けることができなくなってしまう
●十万年以上(56頁)
高レベル放射性廃棄物は、その中に、プルトニウムやネプツニウム、アメリシウムなどの、極めて長寿命の放射性物質が含まれているため、それらお放射性物質が時間とともに減衰して十分な低レベルになるまでに「十万年以上」かかるのです。
●信頼回復のために政府がすべきこと(65頁)
「原子力行政の徹底的な改革」を行うことと、「原子力事故対策と原子力政策の長期的な展望」を国民に対して示すことです。
●原子力事故の要因(72頁)
これまで世界で起こった原子力事故の大半が、「技術的要因」ではなく、「人的、組織的、制度的、文化的要因」によって起こっているのです。
●SPEEDIの活用(83頁)
SPEEDIでの放射能拡散予測そのものは、原子力安全センターが、事故直後、すぐに行っていました。しかし、事故を起こした原発四基から放出された放射能について正確なデータが無かったため、仮定の数値を入れて予測計算をせざるをえませんでした。
●公表の判断(84頁)
放射能放出量や住民被曝線量が不正確な値しか予測できなくとも、風向、風速のデータは分かっていたのではないか。その風向、風速データを使えば、どの方向にどの程度の速度で放射能プルーム(雲)が流れ、どの地域が危険な地域になるかは分かっていたのではないか。そして、それを迅速に公表すれば、北西方向にある村などの住民の無用の被曝は避けられたのではないか。なぜ、行政全体として、その判断ができなかったのか
●環境モニタリング(86頁)
国民の立場からすれば、環境中に放出された放射能、飲料水や食品に含まれている放射能など、すべての放射能情報を収集、分析、評価することを政府に期待している
農地、林野、牧草については農水省、食品や水道については厚労省、環境については文科省と環境省という形で、環境放射能をモニタリングする責任主体が別々になっており、それを統括する主体組織が無かった
●金融工学(117頁)
サブプライムローンという金融商品の背景には「金融工学」と呼ばれる確率論を用いた「リスク最小化の手法」があるのですが「最先端の金融工学を用いてリスクを最小化した商品」という売り文句の商品が、世界全体に最大のリスクを発生させたわけです。
リスクを発生させた原因の一つが「ローンが返済不能になる確率」を過小評価したことです。これなどは「恣意的評価」の典型的なものでしょう。
●「廃炉」へ(158頁)
メルトダウンの事故を起こした原発の場合は、この極めて高放射能のロウソク(核燃料)が、完全に溶けて床と一緒になってしまっているのです。すなわち、核燃料が圧力容器の底部と融合してしまっている状況なのです。
●放射性廃棄物の地層処分計画(170頁)
国際的な枠組みで高レベル放射性廃棄物の地層処分を実現する
モンゴル政府とアメリカ政府との間で検討されてきた「包括的核燃料供給サービス」と呼ばれる、モンゴルでの高レベル放射性廃棄物の地層処分計画です。
●政府の責任(176頁)
原発事故において、政府��責任は、第一に、周辺住民の緊急時被曝を最小にすることであり、第二に、放射能汚染した環境による住民の長期的被曝と健康被害を最小にすることなのです。
☆関連図書(既読)
「私たちにとって原子力は・・・」むつ市奥内小学校二股分校、朔人社、1975.08.03
「原子力戦争」田原総一朗著、筑摩書房、1976.07.25
「日本の原発地帯」鎌田慧著、潮出版社、1982.04.01
「六ケ所村の記録 上」鎌田慧著、岩波書店、1991.03.28
「六ケ所村の記録 下」鎌田慧著、岩波書店、1991.04.26
「食卓にあがった死の灰」高木仁三郎・渡辺美紀子著、講談社現代新書、1990.02.20
「原子力神話からの解放」高木仁三郎著、光文社、2000.08.30
「原発事故はなぜくりかえすのか」高木仁三郎著、岩波新書、2000.12.20
「私のエネルギー論」池内了著、文春新書、2000.11.20
「ぼくとチェルノブイリのこどもたちの5年間」菅谷昭著、ポプラ社、2001.05.
「原発列島を行く」鎌田慧著、集英社新書、2001.11.21
「朽ちていった命」岩本裕著、新潮文庫、2006.10.01
「原発と日本の未来」吉岡斉著、岩波ブックレット、2011.02.08
「緊急解説!福島第一原発事故と放射線」水野倫之・山崎淑行・藤原淳登著、NHK出版新書、2011.06.10
「津波と原発」佐野眞一著、講談社、2011.06.18
「ルポ下北核半島-原発と基地と人々-」鎌田慧・斉藤光政著、岩波書店、2011.08.30
「亡国の宰相-官邸機能停止の180日-」読売新聞政治部、新潮社、2011.09.15
「災害論-安全性工学への疑問-」加藤尚武著、世界思想社、2011.11.10
「見捨てられた命を救え!」星広志著、社会批評社、2012.02.05
☆田坂広志の本(既読)
「イントラネット経営」田坂広志著、経営生産性出版、1996.06.20
「日本型エレクトロニックコマース」田坂広志著、経営生産性出版、1996.11.26
「複雑系の経営」田坂広志著、東洋経済新報社、1997.02.17
「創発型ミドルの時代」田坂広志著、日本経済新聞社、1997.07.14
「なぜ日本企業では情報共有が進まないのか」田坂広志著、東洋経済新報社、1999.02.10
「これから日本市場で何が起こるのか」田坂広志著、東洋経済新報社、1999.12.23
「日本型IT革命新たな戦略」田坂広志・石黒憲彦著、PHP研究所、2000.09.28
(2012年4月3日・記)
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こういった問題は、感情が先行して語ってはいけないんだろうなとの思いから読みました。
原子力の専門家で推進派だった方の著作です。
便所の無い高級マンション
これが今の日本の、世界の状態だそうです。
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原子力の専門で、内閣官房参与としてあのときに対応にあたったヒトのなかで実は情報をここまでつまびらかにしているケースは少ないと思うので、貴重な発言の数々だと思う。このヒトの本はわかりやすい本が多いが、難しい内容をこうしてわかりやすく説明する技術は一級だと思う。この疑問に原発推進の方々はこたえないといけない。とくにバックエンドの問題は、次世代に先送らずになんとかせねばと思う。
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p.252
「我々は、運が良かった」
著者のこの一言が、すべてを言い表していると思う。
そして、根拠のない楽観的空気に厳しい警鐘を鳴らす。
だから、僕は言い続けようと思う。
原発は、いらない。
たとえ、自分の使える電気が少なくなっても、街がちょっと暗くなっても、職場が多少暑くても、我慢しよう。実際、去年の夏はそれで乗り切ったではないか。
自分の子供を、放射能まみれにだけはしたくない。