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電子書籍
ルート66をゆく―アメリカの「保守」を訪ねて―(新潮新書)
著者 松尾理也 (著)
五大湖のほとりシカゴから西海岸サンタモニカまで全長三千九百キロ、米国の真ん中を横断する「ルート66」。イリノイ、ミズーリなど中西部を貫くこのルート上は、米国内の典型的「保...
ルート66をゆく―アメリカの「保守」を訪ねて―(新潮新書)
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ルート66をゆく アメリカの「保守」を訪ねて (新潮新書)
商品説明
五大湖のほとりシカゴから西海岸サンタモニカまで全長三千九百キロ、米国の真ん中を横断する「ルート66」。イリノイ、ミズーリなど中西部を貫くこのルート上は、米国内の典型的「保守」層が多く占める地である。進化論も否定するキリスト教原理主義、中絶や同性婚を忌み嫌い、子供は公立学校に通わせず、小さな政府を熱望する……。ニューヨークでもロスでもない、“敬虔で頑迷な彼ら”こそ大国の根幹を成す実像であった。
著者紹介
松尾理也 (著)
- 略歴
- 1965年兵庫県生まれ。慶応大学文学部卒業。産経新聞入社。大阪・東京両本社社会部を経て、外信部記者。米国サンフランシスコ州立大学大学院に留学した経験をもつ。
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紙の本
アメリカ「草の根保守」の複雑さを描いた注目すべきルポ
2006/06/03 11:30
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:越知 - この投稿者のレビュー一覧を見る
副題にあるように、アメリカの保守主義の実態を、主として中西部の住人たちに取材することにより明らかにしようとした本である。
アメリカに限らないが、外国の内実を把握するのは難しい。人間は物事を理解しようとするとき、複雑なものを単純化し図式化して捉えようとする。例えば、現在のアメリカなら、ブッシュ大統領を初めとするネオコンが支配権を握り、中東に軍隊を派遣すると同時に、いわゆるグローバル化によって世界の経済覇権をも握ろうとしている、などという理解がその最たるものだろう。しかし、現実はそれほど分かりやすくはない。
例えば宗教である。宗教原理主義というとイスラムを連想する人も多いだろうが、実はアメリカは先進諸国の中でも原理主義的な宗教の力が最も強い国なのである。毎週1回は教会に行く成人の比率は、英仏は20%台だが、アメリカは40%台に及ぶ。世論調査で宗教が「非常に重要」と答えた米国人は57%、「まあ重要」が28%で、合わせると85%に達するのだ。(本書は新書という制約もありこの点に深入りはしていないが、興味のある方は森孝一『宗教から読む「アメリカ」』〔講談社〕などを参照されたい。)
そうした宗教性は、進化論を学校で教えることの是非がいまだに論争の種になっているという驚くべき事実にもつながっている。ノーベル賞受賞者数や人工衛星を初めとする科学技術開発で世界に冠たるアメリカは、実は科学に対する抵抗の強さにおいても先進国に冠たる国なのである。
しかし、そうした蒙昧な米国人だからネオコンの政策や無神経なグローバル化に賛成するのだと考えると、間違えてしまう。むしろ事態が逆であるというところに、問題の複雑さがある。
保守かリベラルかは、社会政策と経済政策の二面から見て行かねばならない。社会政策においては弱者救済ならリベラル、自助努力を強調すれば保守だが、経済政策では地域重視が保守、グローバル化がリベラルとなる。この4つの要素の組み合わせは立場によって様々で、社会保守だから経済でも保守かというとそうではない。また、社会リベラルの立場がグローバル化を容認する経済リベラルと一致しないことは、日本人にも見やすいところだろう。アメリカ東部の高学歴エリートたちは、社会的にも経済的にもリベラル、つまり、グローバル化を支持している者が多いという。逆に中西部の「草の根保守」は、かつてはアメリカの伝統であったモンロー主義、つまり他国のことに介入しないとの立場から、グローバル化や中東への軍事介入にも反対する者が少なくない。ブッシュの政策を必ずしも支持してはいないのだ。
ではなぜブッシュは大統領選で勝利したのか。これは共和党と民主党の微妙な支持層の違いから、ということのようだ。民主党の社会リベラル的な主張は、自助努力を建前とする「草の根保守」にはどうしても容認できないので、消去法でブッシュに行った、ということらしい。今でも「草の根保守」が理想として尊敬するのはレーガンであり、ブッシュではないという記述には興味深いものがある。
「保守」や「リベラル」というレッテルは、ともすると価値判断に結びつきやすい。かつての日本では「リベラル=進歩的=善」という図式が通用しがちだった。だが本書を読めば分かるように、「保守」とは個々人の、それも社会的には必ずしもエリートではない一般人の生き方に関わる問題なのである。宗教性の強さもその表れだ。その意味で、本書は日本人の生き方を考える際にも大きなヒントを与えてくれるだろう。