紙の本
太平洋戦争開戦前夜、大本営を震撼させた緊迫のドキュメント作品です!
2016/08/10 09:09
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、吉村昭氏の名作の一つです。昭和16年12月1日の午後5時過ぎ、大本営はDC3型旅客機「上海号」が行方不明になったとの連絡を受けて、大混乱に陥りました。機内には12月8日回線を指令した極秘命令が積まれており、空路から判断して敵地中国に不時着遭難した可能性が大会のです。もし、その命令書が敵軍に渡れば、大変なことになります。国運を賭した一大奇襲作戦が水泡に帰するかもしれない、太平洋戦争開戦前夜の大本営を震撼させた作品です。
紙の本
知られざる太平洋戦争開戦の秘話
2008/10/07 23:06
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
吉村昭が得意とする戦史秘話の一つである。昭和16年12月8日といえば、真珠湾攻撃の日である。しかし、奇襲を中心に据えていたために、この日付は秘中の秘であった。攻撃の直前に宣戦布告をする手筈であった。ここまではよく知られていた話である。問題はそれ以外である。否、大本営はそれを含めて12月8日に全てを賭けていた。
昭和16年のもう年の瀬になろうとしているときに、台湾の台北からの民間旅客機が中国本土に向かう途上、行方不明となってしまった。飛行機が行方不明となれば、いつまでも飛んでいられないから不時着したとしか考えられない。それならば、単なる遭難であるが、乗客の中に日本陸軍の将校が搭乗していた。しかも、その将校は軍事機密書類を抱えていた。
吉村のルポはそこから始まる。陸軍は血眼になってその将校の安否を探る。端的に言えば、将校は意識があってその機密書類を安全に処分したか。あるいは、意識がなく、機密書類は中国軍に奪われて内容が漏洩してしまったのかを知りたいわけである。
太平洋戦争が開戦するまでの日本軍は、中国奥深く進駐していた。蒋介石の国民党政権が重慶に首都を構えて抗戦していたのである。太平洋戦争の開戦は、広く知られているように日本軍の真珠湾攻撃に端を発しているのだが、軍部の作戦は真珠湾攻撃だけではなかったのだ。
奇襲を作戦の要諦に据えるとすれば、真珠湾攻撃も、その他の地点での攻撃も奇襲でなければならない。さて、その他の攻撃地点とはどこであったか。読者はぐいぐいと話の展開に引き込まれていく。
この同時複数地点での奇襲作戦を成功させる必要に迫られた大本営は、これを阻害する事件や事故に敏感にならざるを得なかった。本書でも吉村は丹念に事実を追いかけて行ったという。調査時点で生存されている証人はわずかであったが、労を惜しまず訪ね歩き、ヒアリングを重ねたそうである。
大本営は事件、事故のニュースが飛び込む度に、一喜一憂していたようだ。作戦全体が情報露見のリスクにさらされていたことがよく分かる。このときの大本営を覆った憂色が震えたという表現でタイトルになっている。今考えると、相当無謀な作戦に見えてしまう。いつもながらの吉村調のドキュメンタリーで、将に知られざる戦史といえよう。
投稿元:
レビューを見る
親父から貰った本。
「太平洋戦争のことって、よく知らないんだよな~。」という思いが、
手に取った動機です。
本書にて描かれている時期は、
奇襲作戦等の機密情報を載せた日本民間機、「上海号」の失踪から、
マレー半島上陸/真珠湾攻撃に至るまで。
内容は、情報収集/作戦隠蔽に関わる人々の行動と事実、といったところでしょうか。
作戦隠蔽に苦心した、大本営の苦慮がヒシヒシと伝わる作品です。
「上海号」にて見つかった大量の中国政府の偽札。
「タイ軍人に変装して奇襲する」といった作戦。
それぞれのエピソードからは、なりふり構わず戦争に勝とうとする、
日本軍の必死さが伝わってきます。
敗戦という結末を知っているからでしょうか。
読んだ後には、虚しさだけが残りました。
投稿元:
レビューを見る
おもしろい!読み応えありました!!
真珠湾攻撃前夜の物語。
海軍・陸軍・諜報部その全てが危ない綱渡りをした上での奇跡のような成功だったことがよく分かる。暗号解読が遅れて宣戦布告が間に合わなかったその1点だけが失敗だったんだなと。
戦争を賛美するわけではなく、日本人が世界相手に凄いことやったのはよくわかる。(つか今の日本も政治家がこんだけ死ぬ気でやればもっとましな国になるんでね?)
どの章もスリルとサスペンスで全編山場です。
というかほんと吉村先生凄すぎる!!
投稿元:
レビューを見る
本当に真珠湾作戦が連合国側に傍受されていなかったのか?
本書にもハル長官の「最初に日本から軍事行動を起こさせたい」という発言がある。
日本〜ハワイの超長距離を大船団が発見されずに辿り着いたというのも奇跡以上のものが。
事実はどちらか?
投稿元:
レビューを見る
昭和16年12月1日、台北から飛び立った旅客機(上海号)が仙頭上空で通信を絶つ。これには開戦の指示書が持ち込まれており、敵に渡れば今後の戦局に大きく揺るがすものとなる。大本営は必死に捜索するが敵に渡ったかどうか判明しない。同時にハワイ奇襲攻撃の艦隊も千島列島の択捉島、単冠湾に大艦隊が集結。これも秘密裏にハワイ、真珠湾を目指す。またマレー半島を落とすべく陸上舞台はも秘密裏にマレー半島を目指す。いずれも薄氷を履むが如く進んでいく。日本に先に手を出させるべく、アメリカも日本を追い詰めてくる。
投稿元:
レビューを見る
大本営。よく聞くようで、よく知らない言葉。調べると、天皇直属の最高機関のことで、陸軍や海軍もその下部組織になるとのこと。
昭和16年12月8日、日本はアメリカと開戦を決意する。その始まりの真珠湾奇襲のために、日本大本営は多くの極秘工作をすすめていた。
まだ戦争をしないことをアピールするために、開戦直前に豪華客船「竜田丸」をアメリカに向けて出発させたり、日本艦隊が未だ日本にあるようなニセ無線を流す。軍隊がタイ国を通過する許可を開戦日前日の23時に交渉する。真珠湾へ向かう艦隊が発見されないような航路の開拓。等々。それらの作戦は綿密で、12月8日に向けて必須な積み上げだ。でも、細部については運任せ、現場任せな部分が多い。しかも、個々の作戦はどれも成功するという前提。深刻な立案のようで、かなり楽観的。さらに、開戦という大目標が極秘なので、これら小作戦の目的や目標を全員にはっきりと示すことができない。現代のビジネス本なら意思統一のできていない最悪の組織だとバッサリ切り捨てるだろう。でも、これが世界戦争を直前に控えた日本大本営なのだ。
なんとなく、暗闇で般若心経を米粒に書いている職人をイメージする。吹けば飛ぶような米粒に必死の形相で情熱を込めていたニッポン。いかにも緻密な作業好きな日本人らしい。でも、悲しいかな世界戦争は芸術ではなく、物量が焦点なんだよな・・・。
投稿元:
レビューを見る
太平洋戦争開戦直前の情報秘匿。というかよくバレなかったものだ。
日本軍の戦記ものは、どうしても負け戦になってグダグダになったものが多いが、これはいわば、ちゃんと動いている日本軍である。
大したものだという気もするし、空恐ろしい官僚機構でもあるし、暗号書簡で情報伝達して、万一の時はそれの秘匿のために死ねって、戦国時代の隠密じゃないんだしさ・・・ とも思う。
投稿元:
レビューを見る
昭和16年12月。戦争を決意してから、ハワイ、マレー作戦を秘密裏に進める日本軍。中国に墜落した飛行機の「作戦計画」回収物語。真珠湾に向かう秘密部隊。マレー半島への輸送船。奇襲に全てを賭けた日本の手に汗を握る緊迫の日々。大本営が震える危機の連続だったようです。日本軍部の薄氷を踏む思いでの開戦を迎える様子がよく分かります。実に詳細な調査の成果です。
投稿元:
レビューを見る
12月8日、太平洋戦争開始時の米英への奇襲攻撃までの日本の苦闘。奇襲を記した作戦命令書を乗せた旅客機が中国国内に墜落したことを背景に、マレー作戦、真珠湾攻撃までの道のりを描く。実際の奇襲当日の描写がほとんどないのが、非常に印象的。
もし、この時、奇襲攻撃が他国に知れていたら、と考えると不思議な感覚を受ける。それにしても、かなり博打的要素で戦争が始まったことがよくわかり、寒くなった。
投稿元:
レビューを見る
難解。でも読み応えのある一冊。
70年も前のことだし、戦争なんて勢いで始まって勢いで終わるものだと思っていた。でも違ったようだ。
衛星中継もインターネットもない時代でも、人と人との化かし合い、情報戦から戦いは始まっている。それがよく分かる。
ミッドウェーを境に転落を続け、貧すれば鈍するで精神論が先行して破滅の一途を辿ったことは周知のとおりだが、少なくとも開戦に至るまでの過程は多分に運に依拠する部分もあれど緻密に練り上げた一大作戦が実を結んだ戦史上でも空前の出来事だということは伝わった。
ついでに、解説で引用されていた一文にも妙に納得。
「日本の一般市民はそれまで戦争を特に悪いことと考えていなかった。維新以来日清戦争を始めとして絶えず戦っていたし、負けたことがなかったから」と。
たしかに、戦後に生まれた世代とは置かれた環境が違いすぎる。良い悪いの問題ではなく、価値観の相違も当然なのかもしれない。
投稿元:
レビューを見る
youtubeで真珠湾攻撃のラジオを聞いたことがあったのがだ、いかに当時情報が隠され、驚いたかがわかった。
開戦の内容をアメリカに渡すというのが私が見たのとは違う。どっちが本当だろうか。
投稿元:
レビューを見る
開戦直前の1ヶ月。秘密裡に戦争へ突入した。ほんの一握りの人が決断し、大きなリスクを負って奇襲作戦を進めた。成功しても英雄とは言えない。2015.9.6
投稿元:
レビューを見る
この小説は、1941年12月1日の御前会議から12月8日の米英蘭に対する奇襲作戦を行うに至るまでの話である。秘密裏に準備が進められたこの一週間の間に起こった予期せぬ事態に軍部がどのように動いたかを細い取材の元に綴られた史実なのである。それは、墜落する上海号という双発機に暗号書と開戦指令書を持ち込んだ兵士の命をかけた逃走と人間を虫ケラのように扱う軍部の動きを対象にして描かれていく。吉村昭が描く戦史小説に一貫して通じるテーマがそこにある。小説の結びには、陸海軍人230万人、一般人80万人のおびただしい死者を飲み込んだ恐るべき太平洋戦争は、こんなふうにしてはじまった。しかも、それは、庶民の知らぬうちに密かに企画され、そして、発生したのだ。と締め括られている。
投稿元:
レビューを見る
太平洋戦争開戦前夜の緊張感が伝わる。真珠湾攻撃に際し敵軍の発見を恐れ北上海路を取り進むのだが、敵軍に発見されれば奇襲攻撃は失敗する。同時に東南アジアに展開している日本軍がタイ国に侵攻、同国に協力を求めるが成立しない。はじめから薄氷を踏む作戦であったことが分かる。真珠湾奇襲作戦は成功するが、この戦争の破綻は目にめいていた。