紙の本
江戸時代の商売と、経済のはなし
2013/11/26 15:48
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひろし - この投稿者のレビュー一覧を見る
毎度江戸の風情と文化とを、スカっと胸空く物語で読ませてくれる山本作品。今回の作品は、簡単に言うと「商売」と「経済」の話し。しかし読んでいて、もう何度もうなずかされてしまった。もしかしたら現代人の多くが忘れかけている、商売の基本、経済の基本がそこには描かれていました。改めて、商売の基本は人と人、そして経済はマクロにもミクロにも見て行かなければ成り立たないのだと、感じさせられました。
特選堂という高級食材を扱う大店の次男坊が独立し、普請場(建設現場)にお弁当を配る仕事を思い付きます。邪魔が入ったりアイデアを盗まれそうになったり、紆余曲折はある物の、心を込めた商売は段々と広がって行くのですが。時を同じくして、江戸の街を襲った「棄捐令」。武家へお金を貸していた札差し(お金貸し)の、借金を全て帳消しにするというトンでもない政策が打ち出されてしまいます。百万両以上のお金が消えてしまった札差たちは、お金を使う事をしなくなってしまいます。そこから起きる、江戸の不景気。その経済対策とは。先の弁当売りと、この「棄捐令」から勃発する江戸の不景気とが絡み合って、物語は大きく広がって行くのですが。
私的にこの作品中の読みどころは、二つの掛け合いではないかと思っています。一つは大店特選堂の主人と、江戸の「てきや」の大親分との掛け合い。特選堂のしくじりを、どう落とし前をつけるのか。お互い立場は違えども、大きな組織の上に立つ者同士。自分の理だけではなく、相手の理も、そして社会の理も考えて、しかし最小限の言葉でやりとりは進みます。20ページにも渡るこの掛け合いには、とても興味深く読み、胸にぐっと来る物がありました。もう一つは物語の終盤に老中「松平定信」と北町奉行「初鹿野河内之守」との間で交わされる掛け合い。棄捐令を取り決めた定信に、それを実際発布した河内之守。河内之守がそれこそ命がけで、定信に江戸の庶民の苦しみと、今後の経済政策を話すシーンは手に汗握りました。
何しろ、商売の基本は「人」と「人」。正直に、誠実に。本当の意味で、相手を思いやる事。今まだ不景気にあえぐ日本に、とても大きなヒントをくれる一作なのではないかと、そう感じました。
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安心して読める時代物。
悪い人も出てくるけど、最後はやっつけられて一件落着。
良い人がいい人すぎる気がするけどお約束ということで。
今の商売人にも通じるものがあるような気がします。儲け第一じゃないのが気持ちいい。
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面白かったのだが、宅配弁当屋の成長の話なのか、それを取り巻く制度に重きをおいた話なのか、話の軸がなんとなく一定しない感があった。人の人情をすごく魅力的に描く方なので.そっちで攻めこんで欲しかった。
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お兄さんと弟の、凛としただけど愛に満ちあふれた兄弟愛にほろり。主人公の姑たる男の職人気質にくらり。そして、彼らの作る握り飯の描写にゴクリ・・・食いたい!その握り飯食いたい!!
ただ、登場人物が多過ぎて話しがやや発散している気がするのと(物覚え悪くて、登場人物の名前が全部覚えられないわ・・)、あんな弁当で経済効果が上がるのだろうか・・メシ代に金が必要になるんだし、他の買い物控えたりするんじゃないの?とか。まあ、「アベノミクスを奨励してるんじゃないの?」なんて、うがった見方しちゃたからかもしれませんが。
「経済は生き物」ということは、ちゃんと実感出来る書き方だったと思います。
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父が大好きなのだが私は初めての山本一力。帯の文句についつい惹かれて買った安くてうまい江戸の経済小説。
松平定信によって棄損令が交付された江戸が舞台。武士の金策相手たる札差が一斉に貸し渋りを始めたことで一気に景気が冷え込んだ時期、妻と二人家を出た有力廻船問屋の次男坊・裕次郎が江戸の職人相手の弁当販売業を始めるというお話。
食べ物メインの話かと思っていたが、成長する弁当販売業の拡大戦略とそれに関わる人々の姿を中心に描かれる。
登場人物達がいちいち格好いい信念を持っており、彼らが対峙するシーンは剣の交わりに劣らぬ緊張感がある。またタイトルから察していただけるであろうメッセージ性も良く、筋の通った中に温かみを感じる作品だった。
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経済時代小説って言っていいのだろうか?
一力ワールドが楽しめる作品に間違いはないです。
江戸の札差たちを苦しめた借金棒引き令・棄捐令 どん底の江戸経済を立ちなおすために・・・。
デフレ後の今のこの国、平成の安倍政権にチョット近いですよ。
安倍さん、消費税の税率どうします。
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内容(「BOOK」データベースより)
未曾有の不景気に見舞われた寛政の江戸。大店「特撰堂」の次男・裕治郎は実家を離れ、美味くて安い弁当屋を始める。客を思い、取引相手に真を尽くす裕治郎の商いは普請場の職人の評判をとり、火消しを走らせ、武家と町人を結び、やがて途方もなく大きく育ってゆく―経済は人情が動かす!傑作時代長編。
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池波正太郎が好きなので、たまに時代小説も手を出してます。
今回読んだ本は、購入後知ったのですが、日経新聞の夕刊に連載されていたそうです。
【内容】
賄賂が横行した田沼時代の乱れた世を正そうと、老中・松平定信は借金苦の徳川家直参家臣を救うため、
武家の禄米を担保に高利でカネを貸し付け、贅沢な暮らしをきわめる札差に、棄捐令(借金棒引き)を発布した。
川上から川下へ、カネの流れは滞り、人々の身も懐も寒さが厳しさを増すなか、大店の次男が始めた小さな志高き商いが火消しを走らせ、そして…。
という、江戸っぽい感じがむんむんするなぁと思いながら読み始めたら、それよりもむしろ「半沢直樹」。池井戸小説に近い。
時代が違うだけで、人と人の駆け引きなどが秀逸。お茶の出し方、作法で相手の状況を読み取り、
言葉無く想いを感じる心というのは日本人ならではなんだろうなと。
なんだかんだいいながら、江戸っ子気質で大団円。勧善懲悪とは言わないまでも、気持ちよく読み終われます。
リーマンショック後の夕刊に掲載されていた小説だからこその、日本を取り巻く空気感というのは小説内での棄捐令時代と変わらない。そんな時代を変えるという心意気が感じられます。
時代小説はちょっと。。。と毛嫌いされている方も是非に。
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未曾有の不景気に見舞われた寛政の江戸。大店「特撰堂」の次男・裕治郎は実家を離れ、美味くて安い弁当屋を始める。客を思い、取引相手に真を尽くす裕治郎の商いは普請場の職人の評判をとり、火消しを走らせ、武家と町人を結び、やがて途方もなく大きく育ってゆく―経済は人情が動かす!傑作時代長編。
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時代小説ではあるんだけど、実質はビジネス・経済系の小説。『ザ・ゴール』とか『もしドラ』なんかに近い雰囲気。
不景気の時代に起業で社会を変えていく話なので、今の時代だからこそ学ぶことが多い内容だった。
並行する話が多いため内容が散漫になってしまう点と、主人公が自動的に成功していくように見える点がやや不満ではある。
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【失政で沈む江戸経済を救うのは町人のアイデア。傑作長編】賄賂の横行、札差たちを震撼させた借金棒引き令。どん底に落ちた江戸経済を救うのはある志高き商人! 一級経済エンタテインメント
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本作は、何となく“経済”が判る、それを考える材料になるというような感で興味深く、悪辣なことをする敵役達との対決の行方も面白いのだが…他方で、与えられた役目を果たしている者同士、互いに敬意を表しながらも、肩を寄せ合って生きているというような本作の劇中人物達の風情…何となく心温まる…
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L
大店の次男が主人公だか、光るのは大店の長男と、次男の義父。次男の行動がもてはやされるように書かれているが一番人間ができてるのはお兄ちゃんだよ。大店の主人としての矜持や弟への愛情、奉公人への態度などお兄ちゃんが一番良かった。途中、札差の話や蔵宿師の話が入って非常につまんなくなったけれど後ろに続く布石なので耐えて読むべし。お金の話がメインなので、今も昔も同じだなと。持ってる人が出し惜しみせず使わないと経済は回らないのだよ。
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28年5月19日読了。
江戸幕府が出した棄捐令。それまでは湯水のごとく金を使っていた札差達は、一斉に金を出し渋り、江戸の町は大不況におちいる。そんな中、職人相手に安くて美味い弁当を 売りに出そうと考えた裕治郎。彼を中心に 大店の主人、小料理屋の料理人、火消し、テキ屋の元締め、瓦版屋、蔵宿師、対談屋、奉行、様々な職業の人々が入り乱れる。裕治郎を助けようとする人、貶めようとする人。江戸に生きる人々の人情、心意気。山本一力の描く人々のなんと爽やかなことか。なかでも、お茶を飲む描写が、たまらない。
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長編の本作は、江戸の高級食材を扱う老舗大店の兄弟を主人公に大店を守る長男と、大人になり袂を分けて仕出し弁当店を開業して事業を営む次男の話ですが、棄損令に伴い世間の景気が悪くなったにも関わらず大店を守り抜く兄と、そんな世を逆手に順調に商いを伸ばす次男が、それぞれに志を持ちながら商いをすることで、それぞれを支える人たちとの絆や兄弟愛が、やがて商売仇を討ち払い、天下も動かすというところが良かったです!
「おたふく」というタイトルに込められた万民に福が来る世というのが深いですね!