紙の本
江戸時代版プロジェクトX
2011/11/24 10:26
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ががんぼ - この投稿者のレビュー一覧を見る
痛快時代劇という言い方があるが、その実なかなか本当に痛快と思えるものはない。時代劇といっても生易しくはないのだ。その点本書は、かなりそれに近いものを達成しえたものだろうと思う。楽しい読書だった。
何とあの井伊直弼が、不遇だった若い頃がらみである姫に懸想、想いを遂げさせるべく腹心長野主膳が動いて、あり得ないような脱出困難な山上に、姫ともどもそも無辜なる郎党50余名を幽閉、この50名が誇りをかけて大脱走を試みるという話。奇想である。あとの展開はまさに安政のプロジェクトX。解説にもいうように映画の『大脱走』ほか、『パピヨン』とか『アルカトラズ』とか、不可能な脱出への挑戦、というのがモチーフになっている。
諸々の人物像も魅力的でかなり面白いが、あえて難を言えば、残念ながら終わりで画竜点睛を欠いた印象。この種の物語は結末が一番難しいわけで、もちろん趣向を凝らしてはあるのだが、途中までの迫力に比べてそれにふさわしい終わりを演出しきれなかったように感じた。
とはいえ十分水準以上。読んで損はないと思う。
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井伊直弼に見初められてしまった南津和野のお姫様。絶壁の山頂に幽閉され人質となった南津和野藩士51名が必死の大脱走計画を練る。
井伊直弼の若い頃の苦難のお話から始まるので、悪者側にも一分の共感を抱きながら読むのですが、いくら権力があっても、人の心は想い通りにはならない、無理は通らないという、素直に楽しめるお話でした。
2006/9/16
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2008/1/20 アシーネ ダイエー甲南店にて購入
2009/11/3~11/7
毎回違った趣向の作品で楽しませてくれる五十嵐氏であるが、今作は時代もの。大老井伊直弼が小藩の南津和野藩の姫、松井美雪を見初め、輿入れを要望するが断れらてしまう。どうしてもあきらめきれない直弼は、南津和野藩士51名に謀反の疑いをかけ、姫もろとも険しい山上に幽閉してしまう。姫が輿入れの要求を呑まなければ、51名の命が危うい。一計を案じる南津和野藩士であるが、果たして...
忠義にいきる武士達の奮闘を描く快作。美雪姫はほんとに魅力的である。いやあ読んでよかった。
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時代小説の形を取ったアクション小説(?)
いわれのない罪で山上の収容所に閉じ込められた武士達が脱出を図る物語
なんやけど、最後のどんでん返しは「なるほど」という感じ。
ただ、せっかくのどんでん返しが結構あっさりと描かれていて、爽快感が
あまり感じられなかったのが残念。
変に人情話にしてしまっているのも、個人的には余り好みではなかった。
もっと単純に楽しめる娯楽小説にしとけばいいのに・・・。
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この大脱走計画は気が遠くなる
それによくもまぁごまかせたものだと
姫の脱出劇には正直驚いた
2重の計画を用意するのは妥当だと思うけど
穴を掘るほうの計画があまりにも無謀すぎ
ま、姫が熱気球でっていうのも
危険性という意味では同等かも知れないけど
そしていつもどおりの感想になるが
なんだかなぁと思いつつも
すーっと読めてしまう著者の筆力には脱帽
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脱走計画途中までは絶対に失敗するだろう〜と思ってて、案の定失敗したらこの展開?という印象。
最後の脱走後のくだりは必要なかったかな・・・。
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安政五年、井伊直弼に謀られ、南津和野藩士五十一人と、美しく才気溢れる姫・美雪が脱出不可能な絖神岳山頂に幽閉された。直弼の要求は姫の「心」、与えられた時間は一カ月。刀を奪われ、逃げ道を塞がれた男達は、密かに穴を掘り始めたが、極限状態での作業は困難を極める...。恋、友情、誇りが胸を熱くする、痛快!驚愕!感動の娯楽大作。
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著者:五十嵐 貴久 幻冬舎文庫刊 平成17年4月30日初版刊行 720円
(この書評は、ネタバレ100%です!)
この作者と出会ったのは、デビュー作の「リカ」。
いや〜。怖かった。
望月峯太郎の「座敷女」の小説版だぁ!と思ったけれど、
ちょうどネット犯罪が世間を騒がせていた頃、タイムリー
に出版されたため、作者の目の付け所が良いなあ、と
感心したことを覚えている。
ただ、その後は他の怒涛のように溢れかえる活字の海に
飲み込まれるように、作者のことは失念していた。
それから幾年。
新聞の書評で、時代劇なのに脱走ものという、中々稀有な
設定の作品がある、というものを読んだ。
とても興味を引かれたくせに、そのとき作品名をメモして
おくことを忘れたがために、長らくその作品のタイトルが
何なのかも判らずに、色々検索してみたものの、これという
引っかかりも無く、悶々としていた或る日のこと。
ふとしたことから、ようやく出会えた本。
僕にとっては、実に感慨深い一冊が、この「安政五年の
大脱走」なのである。
#何のことは無い。気になる本が有れば、すぐにタイトルを
メモする習性が身についてさえいれば、すんなりと終わった
話ではある(笑)。
でもまぁそんな思いも、このブログを開設する原動力の
一つになっていると思えば、まあいいか。
さて。
本書である。
色々有って、読了してから数ヶ月経っているために、些か
記憶が確かでない部分も有るが、その分饒舌にならなくて
いいか、と、読み直しもせずにレビューを書き起こすこと
にした(一応、手元に本は用意したけれどね)。
本書を読んで、まず感じたことは、「余りにも情け無いぞ!
井伊直弼!!」であった。
もう一度読み返せば印象は変わるのかもしれないが、少なく
とも自身が不遇の出自と若年時代を過ごした井伊が、長じて
他人に対して同じ行為をするようになるとは!
確かに、家庭内暴力を受けた子供が、成長して自分の子供に
やはり暴力を振るうという負の連鎖が有ることは認めよう。
だが、青年期。その無常な処遇に悔し涙を飲み込みながらも、
周囲への思いやりを忘れなかった井伊が、権力を手にして
しまうと、なぜこうまでにも我執の虜になってしまうのか…。
その落差に、今一納得がいかなかったのだ。
いっそのこと、冒頭の井伊の青年期の話が無い方が、一方的
かつシンプルな敵役としての井伊しか登場せず、理解がしや
すかったことは想像に難くない。
だが、おそらく作者が描きたかったものは、変節してしまった
井伊と、逆境にあっても変わることが無かった津和野藩の面々
という対比であれば、冒頭の一節を抜く訳には行かない。
が、しかし、その変化に説得力が無いと、肝心の対比が活きて
こないのが惜しい。
井伊以外の登場人物は、
悪役嫌われ役憎まれ役の名を一身に背負った、長野主膳。
正統派主人公のオーラを纏った桜庭や鮫島。
いい味を出していた犬塚外記と塩入清乃進のロートル二人組。
脇役ながら光るものを持った本作に無くてはならない黒鍬衆。
少々キャラの造詣があざといが、憎めない藤原栄達。
そして、なかなか食わせ物でいい女の松井美雪…。
と、皆しっかりと軸を持ってキャラ立ちしていただけに、
余計に残念である。
後、本書で残念だったのが、そのクライマックスである脱走
方法である。
確かに、どのような逆境にあろうとも不撓不屈の精神で問題を
克服し、最後まで意思を貫くという男を描くためには、あの
ラストも致し方なかっただろう。
それは、認める。
認めるがしかし、認めたくは無いのだ。
なぜ、そこまで頑なに認めることを拒むのかといえば、一重に
黒鍬衆があまりにも哀れだからである。
誇り、プライド、存在理由、どんな表現でもいい。
あそこまで、己の全てを賭けて黒鍬衆が掘り進めたトンネルが
全くの見せ玉で終わってしまうなんて!
繰り返し書くが、その落差があればあるほど、ラストのどんでん
返しが活きてくるということは、認めよう。
だが、やはり500ページ近いこの物語の大半を占めるトンネル
堀の労苦を考えたとき、黒鍬衆に己の行為が報われた達成感を
心の底から味わわせて挙げたかった。
それは、読者の達成感にも繋がるのだから…。
そうそう。
もう一つ、不満があった。
鮫島の扱いである。
彼も、あの終わり方では死んでも死に切れまいに。
そりゃあ世の中すべからく、喧嘩していた親友が仲直りし、
殴りあった挙句の友情を感じあってハッピーになるような
終わりが是、とは言わない。
それでも、本作品の狙いが、カタルシスにあるのであれば、
敢えてその臭さを追求しても良かったのでは、と思うから
である…。
とまあ、不平不満を並べ立てたが、本作品が好きなことに疑いは
ない。
それは、一つのことをやり抜こう、守り抜こうとする男達の意地と
汗と涙が、冷たく硬い絖神岳の地面をも穿つ様が、克明に描かれて
いるからである。
そして、どんでん返しの仕掛けはともかくとして。
ラストの展開。お約束ではあるがしかし、ああ、良かったなぁと
思わせる仕込みをしてくれていた作者の意気に感じるからである。
(この稿、了)
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五十嵐作品、初対面からは印象の良い出会い、のあとここんとこ2冊続けて「なんか違う。。」感を味わったので、もうこれが合わなければ私別れる、この恋あきらめるわ。。くらいの棘の分かれ道だったんですが、この作品はキタねー。これはぞっくぞくした。「リカ」なんかよりよっぽど、人間というものの怖さと強さを思い知る。1章の終わり、 「何も無い部屋の真ん中に、藍色の菖蒲が一花活けてある。その濃い青が、鉄之介の瞳を染めた。」ここは痺れた。やっぱりこの作者さんはどえらい創作の泉を内に持ってる。この一文は私が高校国語教師なら、後の井伊直弼である鉄之介の心情とともに解釈を書かせる授業をするね。深い失意と恨みと諦念が襲うこの場面、瞳を青に染めたのは涙なのか心を覆った闇なのか。でもそのあとの話も、五十嵐さんの完全な創作なのかこれに近いことがあったのかは知らないのだけれど、最後まで息をつかせず読み進めなければ心落ち着かない、すごい魔力がありました。カンタンに言ってしまうと桜田門外の変で有名な井伊直弼が引き金になる物語。でも主人公は彼じゃぁないんだなぁ。究極の脱走劇です。パピヨンやショーシャンクより。章タイトルは井伊直弼の恋、桜庭敬吾の岳、堀江竹人の土、亀井美雪の空、犬塚外記の忠、その後のこと。津和野藩、学びの藩、今の島根県かな。行ってみたくなったな。武士の道というのはこういう形もあるんだなぁ。これを映像化してしまうと、どうしても不衛生な不快感の伴う映像になってしまいそうだからこの作品は本で出会うのがきっと一番いい。2章、一転して権力者となった直弼へ献上されたさまざまな品を外記がいろいろ手にとり殿にお見せする、そこにさらっと出てきたとあるひと品、これがなんという伏線。。!!バテレンのヒントにも気付けなかった、そうか、そういうことなのか、とわかったときには全身鳥肌が立った。藩士の“命”を守るために身を差し出すのはたやすい、でも藩士の“誇り”を守るためには自分は逃げなくてはならない。美雪の英断も胸を打ちます。最高にクレバーなヒロイン。津和野の侍の魂を再確認する場面も良かったなぁ。「わしらは津和野の侍にござりまするぞ。なぜもっと早く言ってくださらなんだか」もう涙、涙。徹底して人間味のない長野主膳もだからこそキイパーソンだった。真の誇りが打ち勝つときの爽快感は、逆にいえば彼の存在が引き立ててくれるから。忠のために死を厭わず、それも武士の道、だけど誇りのためにどんな屈辱にも苦境にも耐えて生き抜く、それも武士の道。ラストの終わり方がいいなぁ。明記せずにこうもハッピーエンドを確信させるやり方は何て憎らしい。やっぱり好きだ、この作者さん。これは手元に置いて何度も読みたいし息子たちにもいずれ読んでほしい。甘えが出た自分が情けなくなったときにまた読みたい。これは名作だとおもいます。綾織りのようにひとりひとりが誰かのために、極限の条件下で知恵と勇気を支えあい、細い糸が重なっていつしか強い輝く羽根になっていくようなこの物語の美しさ、あなたの心にもきっと残るはずです。
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脱走というと牢屋から脱け出すイメージが強かったが、この脱走は地味ながらも根気強く、この時代だからこその気迫と忠誠心に溢れている部分に読んでいて引き引き込まれた。ちょっとあり得ないと笑ってしまうけど綺麗な文章で読みやすかった。
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あの崖 登っていけないでしょう普通・・・・・。内容は面白いが、ありえない展開満載で突っ込みどころ満載。
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油断させておいていきなり暑くなるのだから人が悪い。おかげでやらなければならない台本作りが全く進まない。いらいらするだけなので、ある種の感覚をつかみたくて本を読む。
いやあ、うまいね。本当にうまい。時代劇の形をとっているけど、ありがちな陰謀の話に流れない。脱走不可能な場所に五十人を閉じこめ、そこからどうやって脱走するのかってことに、単純化しているところがすごい。
単純化と言っても、最後のどんでん返しや、伏線のはりかた、主人公たちを次々とおそうトラブルやその切り抜け方など、そこいらの冒険小説以上だと思うし、なによりもこういうあたりで「時代劇」であるって事が意味を持ってくるのがすごいと思う。これから読む人に申し訳ないから、細かいことは書かないけど。
いやあ、まいった。これじゃ、また台本が書けなくなる。
2006/7/25
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書店員さん有志がプッシュして隠れた名作をヒット作に押し上げた、という話はまま聞いていたけども、そのまさにプッシュしている現場を目撃(Twitter)してしまいました。ならばこのムーブメントに乗らない手はないでしょう。
ハッシュタグは#ansei5
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ストーリーの設定は大変強引。
井伊直弼が宇和島藩の姫の側室話を断られた腹いせに、津和野藩士51人を拘束し、姫を脅して妾にしようと企む。その津和野藩士が台形の絶壁に閉じ込められなんとか姫のために脱出をしよう!という展開。ストーリーは強引だが、脱出のための手段・努力・意気込みなどは楽しくストーリ展開もわくわくハラハラして読める。最後に藩士と姫が結ばれてアメリカで医者を開業なんハッピーエンドで終わるのも後味がよい。
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ときは幕末。
無実の罪で陥れられた美しく聡明な姫と南津和野藩士五十一人が、四方を崖と海に隔てられた山頂に幽閉された。
解放の条件は「姫の心」。
つまり「姫を側室に差し出せ」。
猶予は一ヵ月。
武器を取り上げられ、寒さと飢えの極限状態に置かれた男たちが出した結論は、「逃げること」だった。
武器もない。
食料も満足にない。
冬が近いというのに板の間で満足に寒さも防げない。
病的なまでに厳重な警戒をされたうえに二重三重の柵や竹矢来で囲われ、鉄砲で完全武装した兵に睨まれている。もしそこを越えられたとしても、絶壁と海とに囲まれたすり鉢状の山頂に往来する道は険しい山道が一本あるだけの天然の要害が待っている。
この脱出不可能の山頂に、男たちが挑む!
敬愛する姫を逃がすため、男たちの、静かで熾烈な戦いが始まるのだ。
熱いッ!
本気で熱い時代小説である。
インターネットを検索するとあちこちで話の筋が出てくるのだけれど、本書はまず、予備知識をなにも入れずに読んでほしい。
息が詰まるほどすごいんだから。
僕ぁ美雪姫の聡明さに参った。
ただ美人なだけじゃなく、頭の良い姫ってのは僕のハートにぎゅんぎゅんくるのだ。
http://loplos.mo-blog.jp/kaburaki/2011/01/post_c524.html