著者紹介
渋井哲也 (著)
- 略歴
- 1969年栃木県生まれ。東洋大学大学院文学研究科教育学専攻博士前期課程修了。フリーランスライター、ジャーナリスト。少年犯罪、サブカルチャー等の分野で取材、執筆、発言を続けている。
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紙の本
ネットの樹海の中、細い糸をたぐりよせる。
2007/06/13 22:02
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Living Yellow - この投稿者のレビュー一覧を見る
最近、私的な外出のときはなるべくJRを避ける。「人身事故」のアナウンスにいらだつ人々を見るのが不快だから。お互い忙しいけど、人が死んだんだよ。本書では「人身事故」=「飛び込み自殺」のケースはない。
本書は、著者が2000年からおそらく5年以上、自ら、足を使い、ネットも駆使して取材を重ねた、10代後半から30代までの、5人の自殺者・8人の自殺未遂者の記録とその考察である。
自殺者と書いた5人は第2章「自殺した若者たち」を構成する5人の女性たち。ネット・自助グループを通して、リストカット・摂食障害・自傷癖・薬物依存などと闘っていた彼女たちを、著者は見守っていたのだが、突然、彼女たちの死をネットなどを介して間接的に知ることになる。あとがきで著者自身が吐露しているように、多くが女性である取材対象との関係において、冷静さを保つため、適切な距離を保つことにしている著者にとって、彼女たちの死を止められなかった痛みは深いものだろう。
しかし、彼自身が取材を通して認識しているように「深い関係」の存在が自殺を止めることができるわけではない。例えば第2章に登場している自殺した女性は、信頼できる彼氏を得たことで、かえって「いつか見捨てられるのではないか」という不安にさいなまれ、自分を追い込んでしまった。あるいは自分の所属するサイト・自助グループの中などで「話して(カキコして)すっきりしたら」、そのグループのなかで、「私の方がもっと苦しい」などと負の競争が起きてしまって、事態を一層悪化させてしまう例も挙げられている。
第1章「若者たちはなぜ自殺するのか」で「いじめ自殺」を競って報じるマスコミなどの姿勢に疑問を呈し、ネットと自殺・自傷行為の関係や自殺の原因を個人の人格に求める「心理主義」など、現代の若者の自殺を総合的に分析している。そこに浮かびがってくるのは、この社会に蔓延する「生きづらさ」の意識である。
最終章「試行錯誤と(人間関係の)選び直し」は、主に当事者を念頭に置いて書かれたのだろう。色々試みて、どうしてもだめだったら、親も教師も捨てて、「人間関係」を選び直すことを、著者は提起する。
第2章と第3章「自殺したい若者たち」で登場する13人のケースはさまざまだ。いじめられ経験、性的虐待・児童虐待の経験、親の過剰な管理、学校社会での過剰な競争など、共通することが多い要素もある。しかし。スカウトされてすぐ死んでしまう少女、ゴスロリ少女、剣道少女、フーゾク嬢。失恋青年、マッチョな公務員。優等生。ラフィン・ノーズが好きだった女性。それぞれを、外見でくくれる共通点はない。みんなきちんと演じていたから。表であれ裏であれ、社会がそれぞれに求める役割を。
あとがきで、著者が述べているように、また本書を通読しても感じたことだが、自殺の原因でもっとも多いのは、やはり経済問題である。「生きづらい」社会構造とリンクした集団・家族の構造の問題もきりはなせない。当事者への単純な「呼びかけ」で減らせることはないだろう。
著者は、多くの死に接しながら、本書の最後まで、上から自殺を禁じる「神」の視点に立とうとはしない。その姿勢に深い感銘を受けた。