紙の本
辺境生物から地球外生命の可能性を考える
2010/08/11 21:04
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:king - この投稿者のレビュー一覧を見る
「科学界のインディ・ジョーンズ」と呼ばれる生物学者長沼毅がSF小説家でサイエンスライターの藤崎慎吾と辺境生物についての本を出しているのを知って、これはと思いすぐに買った。
本書は400ページにも及ぶ大冊で、収録されている多数の写真はほぼ全てがカラーというつくりになっているのがまずすごい。長沼、藤崎両氏による対談を収録しているわけだけれど、ここで面白いのは場所。辺境生物(その多くは微生物)をテーマにしている通り、火山、地下、温泉、砂丘といった「辺境」で対談を行っている。しかし、どれも日本国内の場所だ。さすがに南極やサハラ砂漠、宇宙空間といった場所まで行って対談してくるのは無理なので、国内で似たような場所を見つけ、そこを極地と見立てて、辺境生物対談を行っている。この目次はつまり世界の極地のミニチュアなわけだ。
全部で8つの章に分かれ、「酒まつり」の町で微生物の話を語るプロローグからはじまり、低温室で南極生物を、江ノ島水族館で深海生物を、伽藍岳火口で高温に耐える極限環境微生物を、鳥取砂丘で乾燥に耐える微生物を、地下深くで圧倒的な量が存在するらしい地下生命圏を、エネルギー加速器の横で放射線が飛び交う宇宙空間と微生物の話を、天文台では惑星科学の専門家でTVチャンピオンの第六代ラーメン王の佐々木晶を交えて、宇宙と生命について熱く語る。章の間にはコラム対談、鼎談が10挿入されていて、補足やちょっと本題から外れた話も盛り込まれている。
そもそもなぜ、長沼氏が辺境生物にこだわり、それが宇宙の話にまで広がっていくのかというと、辺境生物、極限環境微生物を探ることで、生命の本質、生命の起源がわかるのではないか、と考えられるからだ。今現在の地球環境は生命誕生からずいぶんと時間が経過した姿であって、生命誕生のときの地球環境は想像を絶するほど荒々しいものだったと考えられている。その意味で極限環境というのは生命誕生の地球環境のアナロジーといえる。「深海生物学への招待」でも、深海の熱水噴出孔生物群集が、太陽光による生態系に依存せず、海中から吹き出す硫化水素やメタンを栄養源とした化学合成生態系の存在が、生命の起源の有力な仮説の土台となっていることが論じられ、さらに、太陽光なしの生態系の存在は、地球外生命の存在可能性の有力なヒントともなっていた。辺境生物を探ることは、生命の起源への旅でもあり、さらに、地球外生命の可能性への思索でもある。それが、宇宙飛行士の選抜試験を落ちたことで、地上をはい回ることになった長沼氏の大きなテーマだという。
一部の内容は長沼氏の著書ですでに既知の話ではあるけれど、対談形式でさまざまな(特に失敗した)エピソードを交えて語られる話はやはり非常に面白い。無人深海探査システム「ディープ・トウ」を牽引するロープがちぎれて紛失した話や、深海で餌にすぐさまカニが寄ってくるのは何故なのか結局分からなかった話、大西洋海中の海底火山TAGマウンドが宮崎駿の映画に倣って「ラピュタ」と呼ばれている話とか小ネタがいちいち興味深く、特にしんかい2000で移動しながらでもひとつしかないマニピュレーターでひょいひょいサンプルを採取していく名人がUFOキャッチャーで練習していたという話には、藤崎氏がかかわっている同じ光文社新書の「深海のパイロット」が是非読みたくなった。
そしてやはり興味深いのは後半の宇宙関連の話。生命の起源はどこか、エウロパやガニメデに生命の存在する可能性は、といった話が惑星科学の専門家を迎えて論じられる。生命が存在するには水が多すぎてもダメ、とか温度が500℃もあったらさすがに生命は無理だろうというような生命存在の条件についての話と、太陽系の天体ごとの特徴を語るところは面白い。この章では大胆な発言、放言がぽんぽん飛び出て妥当性はともかくかなりエキサイティングな展開になっていく。地質学的には生命はものを壊して風化を早める作用がある、という発言から、生命は宇宙の破壊者なのかもと議論が進むなど、「生命は宇宙を破壊する」と題された章にふさわしく、生命の存在論にも踏み込む。
地球外生命についての発言で特に興味深いのは、地球内で地球外生命に遭遇する可能性を語った部分だ。地球の生命はとりあえずひとつの系統な訳だけれど、たとえばDNAの文字がATGCでない生物や遺伝情報がDNAでない生物、あるいは光学異性体、キラリティとかいうらしいのだけれど、左手型、右手型と呼ばれるアミノ酸の偏りがあり、地球生物は左手型なのだけれど、右手型生物を発見できたら、地球外生命を見つけたのと同じくらいの価値があるだろうと語り、つまりファーストコンタクトはアウタースペースではなく、地球内部という意味でのインナースペースで起こる可能性がある、と述べる部分はとてもロマンを感じさせるところだ。
宇宙も、そしてまた地球内部もまだまだ未知のエリアが広がっていることを実感させる。理論的な部分などは長沼氏の「深海生物学への招待」や「生命の星 エウロパ」の方を参照したほうがいいけれど、まだ読んでいないという人にはそれらへの入門としても、読んだ人でも裏話やその後の進展も含めて充分以上の楽しめるはず。
実はこの新書のうち、四章分はすでにネットで公開されている。
辺境生物探訪記
更新中断している状態だけど、新書に未収録の分はここで公開される可能性がある。
元記事
電子書籍
極限生物から宇宙の生命まで
2018/05/16 20:51
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ほんだこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
極限生物という、すごく熱いとか寒いとか、深海とかにすんでる生き物について、研究者のひとと作家さんが対談する本。
実は、地球でもっとも反映しているのは微生物だそうな…。
現地に近いところを巡りながら対談するんだけど、研究者の人が南極入ったり深海潜ったり、色んなところで経験した話をしてて、さらさらと読めてしまった。
6章にはいると、宇宙の生命の可能性に話が広がり、これまた夢があるというか、ワクワクする。
かなり面白かった。
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2011 1/9読了。Amazonで購入。
@sakstyleの書評(http://d.hatena.ne.jp/sakstyle/20101220/p1)を見てこれは面白そうだ、と思い購入。思った通り面白かった。いや、思った以上に面白かった。
基本的には微生物の話。詳しい内容については上記URL参照。
帯紙を見て、鳥取砂丘で砂漠向けの格好(コスプレ)をしている方が藤崎さん(作家・ライター)かと思ったら、長沼さん(研究者)だった。言動といい研究内容といい、面白すぎだろこの人。
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微生物についての話である。
辺境すなわち、極限環境で生きる微生物というのは、たとえば熱に強かったり、塩分に強かったり、放射線に強かったり、乾燥に強かったりと、その耐性の種類は様々だ。
しかし、その極限環境の厚みというか幅というか、その振幅量は実はそんなに多くない。たとえば、耐熱性の高い生物は現時点で122度の高温領域でも生きていられるが、およそ90度を下回ると活動できなくなってくる。
そんな話が面白かった。
他にも、定性的な話と定量的な話といったテーマや、ワンタイムのデータと連続レコードのデータといった話など、色々と思考の糧が増えた。
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宇宙の成り立ちを知るためには、地球からなるべく遠く離れたところを観測するのが効果的だ。光が有限速なので、離れれば離れるほど、そこで観測されるデータは過去のものとなる。今見える100億光年離れた天体の姿は、つまり、100億年前の姿なのだ。
生命起源の話もこれに近い。生命の起源を探るには、今の地上とかけはなれた環境に生息している生命を観察するのがいい。高温、低温、強酸、あるいは強い宇宙線にさらされているなど。
この本はそうした環境下の生物について、その環境に近い場所(あるいは施設)で科学ライターと科学者とが語るというユニークなもの。そしてこの科学者の語りが学識が裏打ちした床の上を見事に飛び、跳ね回るもの。真摯でいて、学問的な軽さにめくるめく一冊。
P.S.ここには触れられていないが、生物好きなFマリノス・ファンは、ぜひ横須賀市自然人文博物館に足を運んで欲しい。もう、わくわくだったよ。
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[ 内容 ]
南極や北極などの極地、深海底、火山、砂漠、地底、宇宙空間…低温、高温、高圧、乾燥、無酸素、高放射能など、どんな過酷な環境にも生命は存在する!?辺境生物学者で、「科学界のインディ・ジョーンズ」の異名を持つ長沼毅と、『クリスタルサイレンス』『ハイドゥナン』などの小説で辺境を描いてきた藤崎慎吾が、地球の“極限環境”に生きる奇想天外な生物たちを訪ね、生命の謎や本質について語り合った。
生物学の最前線がわかり、科学の面白さが堪能できる一冊。
[ 目次 ]
プロローグ 辺境の生物を訪ねる旅へ
第1幕 南極は“しょっぱい大陸”
第2幕 深海で出会った生物の「大群」
第3幕 原始地球は温泉三昧
第4幕 乾燥と「高イオン強度」に耐える生物
第5幕 「スローな生物学」への挑戦
第6幕 宇宙空間で生き延びる方法
エピローグ 生命は宇宙を破壊する
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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極地、砂漠、海底、地中、果ては宇宙まで、あらゆる過酷な環境下での生命の限界を探る。軽妙な語り口で語られるその内容は科学の最先端であり、生命の謎を探る知的冒険である。好奇心が刺激され続け、読み終わるのが勿体ない。読んだことを人に話したくなる。そんな数少ない一冊。
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科学界のインディー・ジョーンズこと長沼毅博士と環境SF『ハイドゥナン』の藤崎慎吾氏が辺境をキーワードに地球内外での生命について縦横に語り尽くす対談集。新書にも関わらず千四百円&四百頁超の価格とボリュームには少し怯むが心配御無用!藤崎氏の生真面目なツッコミと長沼氏の理学博士とは思えない大陸的な受け答えが絶妙のハーモニーを醸し出す。テーマがテーマだけに一読理解できない場合もあるが、そんな些細なことは忘れてどんどん読み進めよう!苦労も多かった筈だが長沼博士の話にはロマンを感じる。次は『生命の星エウロパ』だ^^/
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ふか~い海の底から宇宙の果てまで、極限で生息する微生物のお話がメインの
対談集である。
対談って妙に専門的だったり、上滑りだったりするのだが本書はリード役の藤崎氏の
話の引き出し方が絶妙だ。世界の極地で研究を続ける長沼氏の知識を巧みにコント
ロールしている。
南極や北極の寒冷地、砂漠のような乾燥地帯、高熱である火山の噴火口付近、
暗い地底。そこどこにも微生物は存在する。人間であればとても耐えることが
出来ない環境であっても。
話の行きつく先は宇宙となるのだが、地球以外の惑星にも生物の痕跡があり、
地球の生命の誕生は他の惑星からかも…なんて仮説は楽しい。
対談場所は予算の関係(?)で日本国内の温泉だったり、鳥取砂丘だったりなの
だが、どこかお金のある出版社が本当に南極やサハラ砂漠での対談を実現して
くれないだろうか。辺境での辺境生物対談こそ、実感を伴うと思うのだが。笑。
サイエンス入門書としていいかもしれぬ。カラー写真も豊富に掲載されている
ので、写真を眺めるだけでも面白い。
個人的には解明されていないズワイガニの生態に興味津津である。なんで、餌
の周りにワサワサと大量に集まってくるのだろう。これを狙って密漁出来ない
かなぁ…なんて悪いことを考えてみる。
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著者たちの狙い通り,ワクワクさせられることしきりだった.この分野,あまりに知らないことが多すぎて,新書にしては分厚いが読むのが苦にはならない.
・岩石内生物.
・ハロモナス:寒いところも乾燥も塩分もオッケー.
・ハロモナスは硫黄酸化して独立栄養する.
・ウランとか鉱物資源が鉱床をつくるのに微生物が関わっている可能性が高い.
・スローバイオロジー.100年に1回分裂する生物など
・我々は地球の磁場と太陽の磁場に守られている.
・植物が環境を守るなんて嘘っぽい.
・生物が地球側に作用したのは,たぶん,酸素の発生ぐらい.あとは生物側が全部受け身.
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極限環境と呼ばれるような環境下に生息する生物について、対話形式で解説された一冊。専門、専門外関わらず、そういった生物に対する興味を引き出してくれる。地下生命などのとても代謝の遅い生物や、シングルセルバイオロジーについて、この本で初めて知った。
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2012.6.10 推薦者:みるく(http://ayatsumugi.blog52.fc2.com/blog-entry-140.html)
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この生物学者の長沼さんという方は知らなかったのだが、
全方位的な知識とすごい行動力で、とにかく愉快で面白かった。
深海、地中、宇宙といった辺境(彼らからすると僕らが辺境なのだが)に棲む生物の面白さ。
おおよそ常識的な生物観の枠外にある仕様。
メタンを分解して生きる奴や、超高温で生きる奴や、カーボンベースのボディでない奴など、
地球がどんな環境になろうが、必ず生き残る生物はいると確信できる。
約400ページの分厚い本だが、面白いのでどんどん読んでしまう。
生き物好きにはおすすめです。
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あちこち話題飛びますが、長沼さん、ほんと面白い。
深海展のショップで見つけて思わず買いましたが、買って正解。
地下のほうが地上よりも生物量が多いとか、強力な放射線下でも耐えられる生物とか、ほんと知らない世界がこの1冊に詰まってました。
「非常に少ない例から大局的な考え方をつくっているけれど、多分、例をもっとたくさん集めれば違ったモデルができてくるはず。今はあまりにも例を知らなすぎる。」
制度設計、組織設計にも、言えるかもしれない。設計者があまりに例を知らなすぎる(勉強不足)だと、、、こういうとすぐに他社の事例なんて、真似したってという人がいるけど、真似するわけでもなく、よりよい適合するモデルを考えるためにも他社事例の収集、分析は重要でしょう。単に勉強してないことの言い訳にしか聞こえない。
あと、これは逆にリスク過敏、過剰反応しないように注意しないとなーと、長沼さんのように、かるーくテキトーい捉える余裕も持たないとなと思った。
「過去に前例のないものに対して、過剰な予防措置を講じるのも、あまり現実的じゃない」
ま、これは地下細菌の中に、病原菌が出る可能性についてのお話だけど。地下に放射性物質を貯蔵していく際の研究も行われているけど、そこで漏れでたときの影響で病原菌が発生してしまう確率とかの話。
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南極、深海、砂漠、地底、地球外といった辺境やそこに存在する生き物を通して、生物の不可思議さをめぐる旅を味わう本書。科学界のインディージョーンズこと長沼毅氏の辺境探索話を中心に、実際に、日本国内の各所を旅しながら、対談が進められるため、辺境の紀行文としても楽しむことができる。酸素とケイ素が多く、炭素が少ない地球で、我々人間を含む、炭素ベースの生物が多数の中、ケイ素をベースにした珪藻が2億年前に生まれ、現在地球で大繁栄している。生物の次のステージはケイ素ベースになることも考えられるとのこと。そういえば、最近身体にシリコンいれる人増えたよなあと変な関心をした 笑