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電子書籍
「人望」の研究
著者 著:小和田哲男
「人望」―この不思議に魅力的な言葉。これはいったい何だろうか?単なるリーダーシップでもなく、人気やカリスマとも違うようだ。また、わが国特有のものなのか、いつの時代にも要請...
商品説明
「人望」―この不思議に魅力的な言葉。これはいったい何だろうか?単なるリーダーシップでもなく、人気やカリスマとも違うようだ。また、わが国特有のものなのか、いつの時代にも要請されるものなのか?これまで、どの組織でも漠然と話題にされてきた「人望」について、日本史のなかから、あらゆる切り口によって、その本質を探ろうと試みるビジネスマン待望の一冊。
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紙の本
洛陽の紙価を低からしめる歴史漫談
2001/08/24 11:43
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投稿者:小田中直樹 - この投稿者のレビュー一覧を見る
僕は人望って言葉に弱い。人気とかカリスマって言葉にも弱い。どれも自分にはないものだからだ。当然どうすれば手に入れられるか知りたい。そんなわけで、『人望の研究』っていうこの本のタイトルを見て、ころりと買ってしまった。
著者の小和田さんは、人望は捉えどころのない表現だから、歴史を振り返りながら考えることが必要だって考えて、この本を書いた。具体的には、人望について、小和田さんは次の三つの問題を検討してる。第一、人望とは何か。それは、人気やカリスマとは違って、「あの人ならついていける、あるいは、あの人のためならがんばりたいと思わせる何かがそこにあるということ」(六六ページ)だ。第二、人望の要件は何か。それは、戦上手なこと(毛利元就など)、他人をその気にさせる能力(織田信長など)、教養(徳川家康など)、厳しさを備えたリーダーシップ(渋沢栄一など)、誉めること(上杉定上など)、泰然自若としてること(徳川家康など)、そして率先垂範すること(上杉鷹山など)だ。逆に、心遣いが足りない人(大友宗隣など)、粗暴な人(黒田清隆など)、さばけてない人(石田三成など)、天狗になった人(平清盛など)、優柔不断な人(足利尊氏など)、こんな人には人望はない。第三、現代人に求められてる人望は何か。それは、思いやりの心(北条早雲など)、将来構想力(徳川家康など)、そして冒険心と洞察力(本田宗一郎など)だ。
人望っていう徳性は大切だ。どんな人に人望があったかを求めて歴史をさかのぼる作業も大切だ。三〇〇人近くの人物を論じるこの本は、小和田さんの膨大な知識に裏づけられてるに違いない。でも、そのことと、この本が使えるか否かは、全く別の問題だ。僕にいわせると、この本は使えない。三点にわけて説明しておこう。
第一、上で挙げた人望の要件は、既にいわれてきたことだ。今は戦争しにくい世の中だから「戦上手」はあまり大切じゃないけど、他人をその気にさせる能力も、率先垂範することも、思いやりの心も、冒険心と洞察力も、指摘としては当たり前すぎる。この本を読み終わっても、人望について何も発見がない。これが「ビジネスマン待望の一冊」(表紙見返しだから、これは小和田さんの言葉じゃないだろうけど)だっていうのは無理がある。
第二、筋が通らない点があって、読むときにひっかかる。たとえば、源義経は統率力はあるけど人望はなかったのに対して、大石内蔵介は統率力があるから人望があったっていうなど、評価がぶれる。遠山金四郎は太っ腹で庶民派だったので人望があった「とみている」(二一ページ)とか、石田三成が関ヶ原で負けたのは「人望がなかったからだと思わざるをえない」(一二二ページ)とか、根拠を示さずに判断する。「一番大きな闘争力を持っている者が、もっとも強い支配者になれる」っていうザビエルの言葉から「闘争力の強弱が人望につながっていた」(三〇ページ)って結論するなど、論理が飛ぶ。
第三、なぜこうなるかっていうと、説明の手続きをちゃんと踏んでないからだ。小和田さんの説明のやり方を簡単にまとめると〈人物Aには人望があった。人物Aにはこんな長所があった。だからその長所は人望の要件だ。人望の要件を備えてるから人物Aには人望があった〉になる。問題点は二つ。まず、これは循環論法だ。〈Aの根拠はB、Bの根拠はA〉っていってるようなもので、説明にはならない。次に、人望の定義、人物Aの人望の存否の確定、人望の存在の判断根拠、これを全て小和田さんが決めてる。〈私がこう考えたからこうだ〉っていってるようなもので、これまた説明にはならない。発見はないし、筋は通らないし、手続きは踏んでないし、これじゃ漫談といわれても仕方ないだろう。[小田中直樹]