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新・平家物語(一)
著者 吉川英治
12世紀の初め、藤原政権の退廃は、武門の両統“源平”の擡頭をもたらした。しかし、強者は倶に天を戴かず。その争覇興亡が古典平家の世界である。『新・平家物語』も源平抗争の歴史...
新・平家物語(一)
新・平家物語 1 (吉川英治歴史時代文庫)
商品説明
12世紀の初め、藤原政権の退廃は、武門の両統“源平”の擡頭をもたらした。しかし、強者は倶に天を戴かず。その争覇興亡が古典平家の世界である。『新・平家物語』も源平抗争の歴史を描くが、単なる現代訳でなく、古典のふくらんだ虚像を正し、従来無視された庶民の相(すがた)にも力点を置く。――100年の人間世界の興亡、流転、愛憎を主題に、7年の歳月を傾けた、著書鏤骨の超大作。
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紙の本
諸行無常と永遠のかがやきと
2012/02/28 09:52
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コーチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
大河ドラマでふたたび脚光を浴びている平清盛。私が清盛に魅せられたきっかけは、この『新平家物語』だった。吉川英治はいろいろと読んだが、やはりそのスケールの大きさ、そこに描かれた喜怒哀楽の豊かさの点で、全16巻からなる本作品に勝るものはないだろう。
保元・平治の乱を通じて権力の座に登りつめる平清盛と平氏一族。その権勢は貴族からも武士からも恨みをかい、一族の没落の一因となった。しかし、この物語に描かれた姿を見るかぎり、清盛自身は、何のおごりもない、まじめな人間である。少年時代、わが家の苦しい生活にみじめな思いをしながらも父忠盛を支える、純朴でけなげな姿。成長してからは、神威をかさに朝廷に横暴なふるまいをする僧兵らにひとり対峙し、彼らのかかげる神木に矢を放つ勇ましい姿。そして、これはのちに彼自身に災いをもたらすもととなるのだが、平治の乱後、敵将源義朝の遺児である頼朝、義経らの命を助ける情の厚さ。どれをとっても、人間としてまがったところのない、やさしさと強さにあふれた英傑である。
平氏一族の個性豊かな面々にもひきつけられる。中には宗盛のように弱く、卑屈な者もいるが、清盛の長男重盛をはじめとして、みなおごりとは無縁の高潔の士であった。特に印象深いのは、一の谷の戦いで源氏にとらえられた清盛の五男、平重衡である。彼が源頼朝と対面する場面(第11巻)では、その人格のけだかさが頼朝との比較でいちだんときわだっている。
平家の公達に劣らぬ魅力を放つのが、源義経である。ひたすら兄頼朝の期待にこたえんがために戦ういじらしさと、その兄に裏切られた絶望、そして悲劇的な最期...どれも日本人のよく知る物語とはいえ、吉川の描く義経像には改めて胸を打たれる。
一方、頼朝は清盛とは異なり、新興勢力である武士の要望によくこたえ、義経のように朝廷に籠絡されることなく、新しい時代の支配者となった。しかし、成功者である彼の運命とて決して明るくはない。木曽義仲の息子義高を殺害したことで、その幼き恋の相手である愛娘、大姫の心をめちゃくちゃにしたことは、終生彼の心を悩ませる。そして、彼自身の早すぎる死、のちにその息子たちを次々と襲う悲劇と北条一族の繁栄...歴史はもちろんその後も続くが、諸行無常、盛者必衰は登場人物すべての運命である。
壮大なる人間歴史ドラマは、物語のはじめから登場する医師、麻鳥がうららかな春の一日を妻と語らう場面で終わる。無常に流れゆく歴史の一瞬が永遠のかがやきを放つかのような美しい描写で、最初に原稿を推敲する吉川英治の妻が、最終ページを前に長い間動かなかった(おそらくは涙にくれて)というのもうなずかれる感動のフィナーレである。
紙の本
吉川英治の代表作。
2015/09/20 15:23
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:historian - この投稿者のレビュー一覧を見る
平家物語と題名にはあるが、内容は平清盛の青春時代から始まり、保元物語や平治物語・義経記といった軍記物から玉葉などの信頼おける史料の範囲も含む壮大な大河小説となっており、正に作者の代表作と言っていい。これはその第一巻なわけだが、清盛の青春時代から保元の乱直前までを描く。淫乱な母を持ってしまったせいで自分の真の父親が誰か分からず荒れていた清盛の描写(それを乗り越えて成長していくところも)なんかは秀逸だし、文覚や西行といった友人たちもいい味を出していた。重盛が時子との間の子供にされてしまっているのは、史実に反するし良くないと思うが。