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津村作品とらしいといえばそうなんだけど、ちょっとさっぱりしすぎていたような印象も。
でも、大雨の日の様子は鮮明にイメージできたし、登場人物たちの雰囲気も「きっとこういう感じだろうな」というのが目に浮かんだ。
特別に描写が丁寧というわけでもないのに、リアルな空気感が感じられるのは、やっぱり津村記久子だからこそ成せるワザなんだと思う。
今回は登場人物も多かったし、それぞれがまた別のストーリーに出てきても面白いかもしれない。
津村記久子の作品は、ありふれた日常のなかにあるちょっとしたスパイスに少しだけテンションが高くなる人々というのが毎回描かれていて、私だけが平凡な毎日なわけじゃないんだなぁと安心させてくれる部分がある。
この”温度”が、やっぱり津村作品の好き嫌いがわかれるところなんだろうなぁ。
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「とにかくうちに帰ります」はとてもリアルで、きっと津村さんが実際に大雨に遭ってどえらい思いをしはったんやろな~と感じたが、この小説でも!余程の出来事だったのだ。
ヒロシが同じ居残り組になったフジワラくんとのんびり話す場面が好き。
若い後輩になんなんホンマ!?ってなるのもよう分かるが、このりさちゃんはドイヒー。便所で出産って壮絶やな。
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津村さんの作品は好きだ。津村さんの働く女子が一番身近に感じる。身近に感じつつ、理想というか。
今回は、働く女子だけでは無く、大人な小学生、働く男子も登場。それだけではなくて彼等がいるビルの人々も魅力的だ。「ワーカーズダイジェスト」「とにかく家に帰ります」そしてこの作品。とても楽しかった。
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またこれもすばらしかった。嫌いなところがひとつもなかった。やっぱり津村さん大好きだ。
イヤな上司や厄介な同僚なんかに悩みながら忙しく働くOLとか、仕事がヒマなサラリーマンとか、勉強できないけど塾行かされてる小学生とか、さえない日々で、うんざりすることばっかあって、楽しいことなんてなくて、って人たちの話なんだけど、読んでてなにか心なごみ、すごく励まされる。みんな、前向きでもなく、日々に流されてるかもしれないけど、考え方がまっとうで、いい人で。すごく共感する。ほんのちょっとしたことを楽しみにしたり、励みにしたりするところがすごく好きで。いろんな場面でぐっとくる。こんなふうに生きていこうとか思えたりする。どんな人生もいいものだとか思ったりする。
小学生のヒロシくんみたいになりたい。小学生だけど精神的に大人。ああいう人になりたい。
「人間は血筋の頭数が減ったり、体が衰える恐怖を感じると、自動的に増殖したいと思うようにできているのだろうか」
登場人物が、両親の両親が全員他界したとき、むしょうに結婚したくなったって、思い出して考えたことなんだけど、すごく共感した。表現のしかたもすごく好き。
まあとにかく好きだ。近いうちに再読したい。
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この人の本は本当に好きだ。佐藤さんの話も好きだったけど,次を読むのが楽しみで仕方がなかった(細切れに読んでしまったけど一気に読んだらもっとよかったのではと後悔)。端々に笑いもあるし。フカボリが最後に会えるのはうますぎる気がするけど,それもどうでもよくなる読後感。しかし,この本のラストを「感動的」と表現する文芸時評は,津村記久子を本格的に分かっていないのではないか?
朝日文芸時評「同じビルに通うという意外に縁もゆかりもないのに,すれ違いながらゆるい絆で結びつき,他害を助け合う成り行きになってゆく三人の人物の造形がすばらしい。その三人が初めて一堂に会する感動的なラストシーンまで,津村氏の精度の高い文章に運ばれて,わたしは息を詰めるようにして一気に読んだ。
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毎日たくさんの人たちとすれ違うが、そういう人たち全部にそれぞれの日常があるってことを思い出す。今、隣り合っている知らない人とも、どこかでゆるく繋がっているかもしれないんだ。そういうわくわくと、唖然とするような、でもどこか間抜けな事件と、そういうのが煽らない語りで描かれていて、私はこの人の書くものが好きだなあと思う。
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このゆるさ加減、普通の人たちの普通のお話。
大事件が起こるわけでもなく、なんてことないんだけど。
いいのよね~。
ずっと読んでいられる感じ。
大人たちの話より、小5のヒロシくんの状況が
一番大変そうだったのが面白い。
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ポトスライムの舟の時よりも開けているような、しかしポトスライムの舟からの既視感……。好きな人にはいいのかもしれないけれど、どうにも、読んだあとに残るものがない。えらくさらさらしたスープみたいだ。
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小学生が登場したのはちょっと意外だったけど、それでも著者らしい作品だったと思う。なんでもないような、登場人物に関する小さなエピソードがちょこちょこ挟まれるところがまた"らしさ"に思えた。
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連載であることもあるからか、けっこう読み口が、前半、中盤、後半で変化していく。ヒロシの成長ともリンクするかもしれない。前半に入るヒロシの幻想的な物語には妙な迫力がある。著者はどこまでも凝った描写ができるのだろうけど、敢えてしてないんだなあ、と感じさせる。妙な迫力は現実感の無さであって、全体の淡白な閉塞感は現実感かもしれない。何の話なの、と読み進め、最後まで読めばすべてが繋がっているのが不思議。みんなひどくひとりぼっちであり、べたべたした連帯を忌避していながらも、それとは異なったところで、社会的な関わりを得ていて、でもそういうのが孤独を癒すことはない。日の差すなかに佇む重機と、伸びる三人の影は、関係性に餓える絆根性とは一線を画している。狭いとか広いとかではなく、そうであるということ、現状肯定でもない。あくまで若者の話であり、それ以上ではないとも思う。青春小説、というか、ポスト青春小説。著者は等身大の風景を描き、安っぽい偶像は提示しない。そこをどう考えるかが津村記久子さんの評価の分かれ目かもしれない。つまり、おとなとこどもをいったり来たり、しかし、それよりさらに上のおとなは出てこない。60とかになったときの津村さんの話がどうなるかすごく気になる。そんな一作。
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津村さんのお仕事小説、好きです。立ち退きになりそうなビルで働く主人公の事務員とそのビルの中学受験塾に通う小学生と20代の会社員がビルの一室で物々交換をはじめるストーリー。ファンタジックなストーリーだけどとても現実的。小さな世界で小さな事件が起こだけだけどやめられない面白さでした。そしていつも文房具が出てくるところも好き。今回はチープなデスクペンだけどカートリッジを入れ替える時の爽快感がうまく表現されていてたまらなかったです。ヒロシの消しゴムはんこも見てみたいです。
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職場の雑事に追われる事務職のOL・ネゴロ、単調な毎日を送る平凡な20代サラリーマン・フカボリ、進学塾に通う母子家庭の小学生・ヒロシ。職場、将来、成績と、それぞれに思いわずらう三人が、取り壊しの噂もある椿ビルディング西棟の物置き場で、互いの顔も知らぬまま物々交換を始める。ビルの隙間で一息つく日々のなか、隠し部屋の三人には、次から次へと不思議な災難が降りかかる。そして彼らは、図らずも西棟最大の危機に立ち向かうことに…。
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想像していたのとは全く違う物語だった。ゆるく生ぬるく始まったネゴロ、フカボリ、ヒロシの、なんの接点もない椿ビルディングでの日々の物語は、それぞれが別の目的で逃避場にしていたビルの隅の物置場を介して、ある日を境に、じわじわと少しずつ緊張感をはらんだものになっていくのだった。自分以外に――姿が見えない――誰かがいるかもしれないということが、張り合いとか期待とか名づけられるほどではないが、微かな心持ちの変化を生むのだった。それは読者にとっても同じで、いつどんな風にそれぞれに素性が明らかになり、交流が始まる――あるいは途切れる――のだろうか、と興味を惹かれながら読むことになる。物置場での見えない交流とは別に、ゆるくて生ぬるいと見えた日常は、実は椿ビルディングを生活の場にしている万人に降りかかる危機の序章だったのだ。ひとつを乗り越えると、そこにはまた新たな危機が立ちはだかり、途方にくれながらもなんとか解決策を手探りするのだが、彼らになんとなく緊迫感がないような気がするのは、椿ビルディングという建物の属性によるものだろうか。どうなることかといちばん気を揉んでいるのは読者かもしれない、とふと思う。ラストまでゆるいが、屋上のユンボが動かなくてよかったと、ほっと胸をなでおろした一冊である。
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何か違うけど、どうしたらいいものか。同じビルで漠然と日々を過ごすOLと塾通いの小学生と、サラリーマンが物置きスペースと豪雨をきっかけに、すこしずつ変化していく。
すこしずつすこしずつ、じわりじわりと進むストーリーと、至って普通な人々。津村さんの得意とするタッチが堪能できる。
個人的にはもっとダメな人々も好きなんだけども。
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廃線地下の長いトンネルを抜けたところにある椿ビルディング。
設計会社で働くOLネゴロ、小学生のヒロシ、会社員のフカボリの3人を主人公に椿ビルディングで起こった出来事を綴る長編。
タイトルのウエストウイングは椿ビルディング東棟のことで、
ネゴロたち3人は同じ空き部屋で時間を潰していたが、
ひょんなことから手紙を介しての交流がはじまる。
大人ふたりは会社や仕事や生活に不満と倦怠感を抱え、
学習障害の特徴が濃く出ているヒロシは塾が嫌いで母の存在が面倒で創作の世界に入り浸っている。
だいたい半分はこうした3人の描写で、
それをだらだらしていると読むか考えさせられると共感するかは人それぞれ、私としては冗長だった。
それでも、ネゴロの後輩が問題を起こしたり、
幽霊騒動が巻き起こったり、
大雨でトンネルが浸水したせいでビルに閉じ込められたりと、
いろいろ事件は起きる。
文房具屋のお姉さんや喫茶店のママ、占い師などビルに入居する人々も出てくるので、動きはある。
ただ、長いなあ、と読んでいて何度も思った。
たぶんこの平坦さ平凡さが人生の殆どで、それを許容しながら生きているということを描きたいのだろうけど、途中でもういいよ、と思ってしまった。
時間の余裕があるときにゆっくり読むのがいいのかもしれない。
勢いはないけど、それでもなんとなく読み続けられるという点では優れているのか。
ただ毎日ちょこちょこ読んだら飽きると思う。
感じとしては「とにかくうちに帰ります」に似ている。雨のシーンとか、登場人物の構成とか。
せめて250ページ程度だったらよかった。
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じわじわと後からきいてくる小説だった。
この小説に出てくる人たちはどちらかといえば目立たず人の影でひっそり生きている感じなんだけど、でも、しっかり生きている。
それがいい。